これの続き




最近、俺はまともにウェインさんと目を合わせられない。

「ナマエ、おやすみ」
「おやすみ、なさい」

あのキス事件(?)以降、寝る間際にウェインさんが俺にキスをするようになった。
その場所は頬だったり、額だったり、鼻の先だったり、髪だったり色々だ。ちなみに昨日は頬だった。そんなこんなで色んな場所にキスをされるが、あの時以降、決して口にされることはない。一体なんなのか。

「(なんて、考えても仕方ないか。ウェインさんだし)」

最初は、最初こそもしかしてそういう対象として見られているのではと思ったが、ウェインさんはプレイボーイだと聞くし、その前に俺は男で、俺なんかは相手にしないだろうとその線は一瞬で消えた。とすればやはりこれはアレか?親が子供におやすみのキスをするみたいなアレか?いやきっとそうだ、だとしたら俺は………ウェインさんに子供だと思われてる?いやまあ、だいぶ年は離れてるはずだし、ウェインさん的には俺なんて子供なんだろうけど…俺一応、成人してるんだけどな…。
なんてベッドの中で悶々と考える。ウェインさんと話すたびにそのことが頭をよぎって会話に集中できないから早く解決したいのだけど、中々そうはいかない。
ちらりと時計を見れば、もうすぐ12時を越えようとしていた。そういえば、今日は帰ってこないのだろうか。アルフレッドから「今日は遅くなるようですが、ナマエ様がお休みになられるまでには帰ってこられますよ」と聞いたのだけど。
…って、こんなの、俺がまるでウェインさんからのキスを期待してるみたいじゃないか。ああだめだ、考えるのやめよう。早く寝て忘れよう。
ふう、と息をついてシーツを被る。いつも思うがふかふかのベッドが気持ちいい。

「………………。………だめだ」

そうして体勢を整えて目をつむって見たはいいものの、全く眠くなる気配がしない。なんとなくベッドサイドのチェストに置いていた携帯を取って、なんとなく携帯を弄ってみる。あ、バリーからメールが来てる。返さなきゃと、メールの文章を考え始めたところで、ドアがノックされる音が聞こえた。突然でそれに返事ができなくて固まっていたままでいると、やがてドアが開く音がした。別にやましいことをしているわけではないのだが、咄嗟に携帯をシーツの中に隠して目を閉じ寝たふりをしてしまう。
ゆっくりと近づく靴音を聞いて分かった。これはウェインさんだ。
靴音が止まって、ウェインさんがベッドサイドに座る感覚がする。ふわりとウェインさんの匂いがした。
寝ていると思ったのだろう(まあ寝たふりをしていたのだが)、俺の髪を優しく撫でたかと思うと、ウェインさんは、ちゅう、とかわいい音を立てて、俺の額に口付けた。
待って、うわ、

「(でこちゅーされたあああああ)」

まさかそんなことをされるとは思ってもなくて、じわじわと顔が熱くなっていく。だってキスは寝る前だけだと思ってたのに!寝てる間にもされるとか、こんなの聞いてない!やばい、口がむずむずしてきたぞ。あああどうしよう、恥ずかしくて今すぐ顔を覆ってしまいたい!けどできない!なぜなら俺は今寝たふりをしているから!!
どうかウェインさんにバレませんように!
とか必死にそう願っていたのだが、まあウェインさんだ、気づかれないわけがない。

「…………ナマエ、起きてるだろう」
「ううう…………おきてないです…」

バレました!!ええ!!バレましたとも!
英語で言うことなんて忘れて日本語でそう呟きながら、顔を隠したくてシーツを頭の上まで被った。

「…ふ、」
「なんで笑ってるんですか…」
「…いや、かわいいなと思ってね」

シーツ越しに笑みを含んだ声が聞こえてきた。俺男なんですけど…。かわいいって何だよ……。シーツから顔半分だけ出して、文句を含んだ目線を向ければウェインさんは口元を緩めて俺の頭を撫でた。やっぱりこの人俺のこと子供扱いしてるな!

「ウェインさ、」

なにかしら文句を言おうと名前を呼ぼうとしたらShhh、と遮られた。なんで遮られたのか、その意図を数秒考えてから察する。そうだ、名前だ。吃りながらブルース、と名前を呼び直せば、彼は満足げに微笑む。その微笑みがいつもの険しい表情とは違うとても優しいものだから、思わず見惚れてしまった。

「今日はどうだった」
「え、あ、良い一日、でした」
「そうか」

俺の答えにそれだけ返して黙ってしまったウェインさんは、じ、と俺を見つめて口を開く。

「明日から数日留守にする」
「…え、」

二、三日で帰ってくるよ、とウェインさんは付け足した。バットマン絡みのことだろうか。最近ウェインさんはそれで忙しい、みたいだし。聞きたいけれど、そのことを聞くのはあまり良くないだろう、いやでも気になるし、と視線をあちこちに動かしていると、ウェインさんは俺の名前を呼んで頬を撫でた。
俺の思っていることはお見通しらしい、ウェインさんは心配するなと微笑う。そしてまた、あの力強いブラウンの瞳で見つめられた。

「(あの時の表情だ。俺がウェインさんにキスされた時の、)」

その時のことを思い出して、かああ、と顔が熱くなっていく。なんとなく身を引こうとして、ウェインさんに触れようとした手が行き場を失って空気を掴んでしまうが、それをウェインさんが捕まえて俺の手を包み込んだ。大きくて無骨な指が俺の手の平や指をなぞる。擽ったような、気持ちいいような、その今まで感じたことのない感覚に思わず身を震わせた。
キスされると分かっているのに、ああだめだ、何も考えられない。
そしてウェインさんはナマエ、と名前を呼んで、俺の唇に、自分のそれを重ねた。

「っん、ン」

キスをしながらウェインさんが更に耳や首筋をなぞってくるものだから、それがこそばゆくてたまらない。それに、この前のキスは一度だけ、触れられるだけのものだったのに、今回のは違う。何度も唇を合わせられ、唇を軽く食まれたり吸われたりする。ウェインさんにされるがままの俺は緊張で息を止めてしまって、その苦しさで思わずウェインさんのスーツの襟を掴んでしまう。

「ナマエ、鼻で息をしろ」
「は、…ん、ふ」

キスをしながらそう言われて、ただでさえキスされるので精一杯なのにそんな器用なことできるわけないだろ!と思いつつもなんとか鼻で息をしてみる。ちゃんとできているのかGood, とウェインさんは笑ってまた俺に口付けた。
なんでこんなにキスをされているのか分からない。けれどウェインさんのキスは気持ちよくて、何も考えられなくなる。唇が離される頃には、力が入らずに火照った顔でただウェインさんを見つめることしかできなかった。

「全く、君には参ったな…。どんどん深みに嵌りそうだ」

俺の額を撫でてウェインさんが俺になにやら言ってるが何言ってるかさっぱり分からない。いっぱいいっぱいになりすぎて俺の言語野が言語変換することを諦めている。せめてもっと簡単な言葉で言ってほしい。

「ナマエ」

ウェインさんの親指が俺の唇をなぞる。この前みたいに、手袋はしていなかった。

「次は、俺が帰って来たときにとっておこう」

すごい色っぽい表情をされて、終いにはそんな感じのことを言われた。
この、遊び人!!!!と叫びたくなった。無理だった。








20170324

ブルースとキスとそれから



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