100,000hit 企画
「バッキー、」
「ナマエ」
待ち合わせ場所に既に着いていたバッキーを見つけて早足で彼の元に向かう。そして自然な流れでハグをして、バッキーは俺の髪にキスを落とした。彼に会う時必ずと言っていいほどされるそのハグとキスには未だに慣れない。
「ごめん、待ったよな」
「いーや、そんな待ってない」
軽く言葉を交わして2人で歩き出す。向かうのはバッキーの家だ。お互いの休日が偶然重なっていたので、急遽仕事終わりの夜に彼の家に泊まって、休日を2人で過ごすことになったのだ。その方がお前と長く一緒にいれるだろ?と微笑みながら言ったバッキーが眩しかった。イケメンすぎて。
「今日久しぶりにスティーブに会ってさ」
「ああ、そういやあいつ長期任務だったな」
「うん、久しぶりだったから嬉しくて、そのままご飯一緒に食べて来たんだ。だから遅くなって」
他愛のないそんな会話を続けていればあっという間にアパートに着く。ポケットから鍵を取り出して部屋のドアを開け、after you.と言ってくれたバッキーにthank you.と返して部屋に入った。彼の部屋に来るのはこれで何度目だろうかと、ぼんやりと考える。
「そういや晩飯は何食ったんだ?」
「中華。俺が映画に出てるような白い箱のやつ食べたいって言ったらスティーブが美味しいところに連れてってくれたんだ」
「へーえ、あいつも通になったもんだな」
「サムから聞いたって言ってたよ」
荷物を置いてふかふかのソファに座る。何か飲むか?と聞かれてジュース、と答えると子供だなと笑いながら持ってきてくれた。笑ったくせにきっちり冷蔵庫に俺の好みのジュースが入っていて、自分も俺と同じ飲み物をコップに入れて持って来るあたりアレだけど。
そして今日の夕食を皮切りに始まった会話は穏やかなものだったが、何故か話しているうちに、次第にバッキーの口数が減っていき、ついにはむすっと口を引き結んで黙ってしまった。
「………」
「……バッキー?」
どうしたの、口にすれば、バッキーははあ、と小さく溜息を吐く。
「…スティーブスティーブって、お前さっきからスティーブの話ばっかりだぞ。スティーブ大好きかよ」
「え?うん、スティーブのことは好きだ、…けど」
「………」
そこまで言ったところで、変わらずむすりとした顔で俺を見つめるバッキーに、あ、ええと、と言葉が詰まる。バッキーがこんな表情をしている理由をようやく察した。
「(…これは、ヤキモチを焼いてくれている…のだろうか)」
今日バッキーと会ってから、ずっと親友のスティーブの話をしていたから?
ちら、とバッキーの表情を伺うと、彼は腕を組んでん?どうなんだ?とでも言いたげな表情だった。
「……(えーと、)」
多分、いやきっとそうだ。どうしよう、こういう時なんて言えばいいのか分からないから口を中途半端に開けたまま何も言えなくなってしまった。でもヤキモチを焼いてくれたのは嬉しいというか…、とそこまで考えたところでニヤニヤと口が緩みそうだったので引き締めた。今は弁解を考えないといけない。慎重に言葉を探して、俺はゆっくりと口を開く。
「…あの、でも、スティーブはそういうんじゃないよ、そういうのは、バッキーだけだから」
「……ほう」
考えに考え抜いた末出した答えがめちゃくちゃぼんやりしたものになってしまった。いやいやそういうのってなんだよと思わずセルフツッコミしそうになった。案の定俺の言葉にすう、と目を細めるバッキー。これは絶対に納得してない顔だ。ですよね!
「そういうのって何?」
「そ、そういうのは、そういうのだよ」
「例えばどんなそういうのだ?」
「え」
不意にそう聞かれて言葉に詰まってしまう。
どんなそういうのって、そんなの、
「………き、キスしたり、とか」
「キスとか?」
思わず声が小さくなった俺の言葉を繰り返したと思ったら、バッキーは顔を近付け俺にちゅう、と口付けた。いきなりされて心の準備が出来ていなかったのと、わざと音を立ててされたそれが恥ずかしくて、瞬く間に顔が熱くなる。更にそれから?という表情のバッキーに、俺は口をもごもごとさせる。ああもう、意地が悪い!
「キス、とか、……それ以上のこと、とか」
「それ以上のことねえ」
声に出して言うのが気恥ずかしくて、ますます声がしぼんでいく。俺の更に小さくなった言葉を反芻したバッキーは俺の肩を抱いて、自分の方へと引き寄せた。バッキーの匂いと服越しに触れている手に、どうしても心拍数が上がってしまう。顔を見れなくて俯いた。
「う、……」
「例えば、」
心臓がばくばくとうるさく音を立てている。それに構わず耳元で囁かれる声と共に、俺の頬を撫でたバッキーの手が、首へ、胸へ、腰へと降りていく。太腿をするりと撫でられて、その感覚にぞわりと背中に甘い痺れが走った。
「こういうこととか、」
耳元で低い声で囁かれて、そこから一気に熱が広がっていく。恥ずかしさから逃げたくて身動ぐが離してはくれず、次の瞬間顎を掬われ唇を塞がれた。
「んっ、ふ」
最初のとは違う、ねっとりとしたキスだ。舌を差し込まれる、深いキス。俺がまだ慣れないそのキスにいっぱいいっぱいになっているのに対してバッキーは余裕で、俺の太腿に置いていた手をそろりと動かし始める。太腿の内側を撫でられて、びくり身体が跳ねてしまった。
「っん、ひ、ぅう」
「なあ、ナマエ、」
「バッキー、それ、っあ、んう」
一度キスをやめて俺を見つめてきたバッキーにやめて、と言おうとしたのにそれを許してくれない。また唇を塞がれて、太腿の内側の、更に際どいところを行ったり来たりし始めたバッキーの大きな手にぞわぞわと甘い痺れが脊髄を走った。引きつった変な高い声が出てしまったのがなおさら恥ずかしくてぶわりと顔が熱くなっていく。
「っ、う、」
俺が苦しいと肩を叩いてようやく唇は離されたけれど(名残惜しそうに唇を舐められた)、それでもバッキーの手は動くのをやめない。キスが止まったと思ったら今度は耳を甘噛みされ、腰を抱かれて身体の線をなぞられる。立て続けに来る快楽に唇から声が漏れ出てしまうのが嫌で、必死に口を結んでバッキーの首元に顔を埋めた。もどかしくて少しくすぐったくて気持ち良くて、思わず内股になってバッキーの手を挟んでしまったら、自分の手が挟まれたのを感じてバッキーがふ、と息を漏らして笑った。気持ち良さを耐えるために縋るようにバッキーの服を掴むと、服じゃなくてこっち、と柔らかい声で言われてするりとその手を絡め取られる。銀色の手は俺の熱い体温とは相まって、ひんやりと冷たい。
「な、ナマエ」
「ぅ、…」
不意に耳元で低い、甘い声で囁かれて、ぴくりと身体が反応してしまう。勘弁してくれと半分涙目でバッキーに目を向ければ、彼はニヤニヤとそれは意地の悪い顔で笑っていた。
「そういうのって、こういうことするってこと?」
「………っ」
こいつ、本当になんて意地の悪い!!!
ムカついたのでその答えには答えないで結構な力で腹を殴ってやったのに、バッキーは全然痛くなさそうにへらへら笑って、しまいにはかわいいなあなんて丸め込まれぎゅっと抱きしめられた。悔しいが、身体面でスーパーソルジャーに勝てるわけがないのだ。
「(くそう…自分の非力さが辛い…)」
「ナマエ」
「何だよ…」
不意に名前を呼ばれてジト目のままバッキーの方に顔を向けると、彼はふ、と柔らかく笑った。
「俺、本当にお前が好きだよ、大好きだ」
「………」
そう微笑んで俺にキスを落とすバッキーの表情があまりにも甘ったるくて、そして愛おしそうに俺を見つめるので、なんだかきゅう、と心臓が音を立てた。
ああ、そんなの、俺だって、
「………バッキー」
「ん?」
だから、俺も、とポツリとそう返した。そうしたらバッキーは幸せそうに笑って、もう一度俺をぎゅう、と抱きしめる。俺もそれに応えてゆっくりと背中に腕を回した。
なんだかんだ言って、俺はこの人のことが大好きなのだ。
けれどその後バッキーがまた脚やら尻やらをそういう意味で触り始めたので、今度は全力で殴ってやった。
20170719