Thor: Ragnarok後です。そんなにないですがネタバレを含んでいるのでご注意ください。
ソーとロキとくっつきそうでくっついてない、そんなifです。
ああ、柔らかい…、柔らかいし暖かい。規則正しくとくとくと聞こえる鼓動が心地良い。ふわふわとした微睡みが気持ちよくて、それにずっと浸っていたくて、その心地良さを与えてくれている何かに顔を押し付ける。
「……、ん」
ふ、と頭上で息の漏れる音がした。笑っているのだろうか。そして優しく髪を梳かれる。誰だろう。どうやら心地良さの正体は何かではなくて人らしかった。
重い瞼を上げる。そうすると視界に入ってきたのは、
「………ぁ…?」
「ああ、起こしてしまったか」
以前の美しい、長い金髪から随分と短くなってしまった髪、黒い眼帯で覆われた片目と、綺麗な青い瞳。
おはよう、ナマエ。形の良い唇から紡がれた言葉の後に、ちゅう、と音を立てて額に落とされる触れるだけのキス。
「………えーと、」
「ん、どうした」
まだ寝足りないか?と微笑みながら続ける目の前の男。もといアスガルドの王子、ソー。いや、父であるオーディンが亡くなった今、そしてラグナロクの一件後、アスガルドの新たな王と言っても過言ではないだろう。
…いやいや、別にソーについての説明をしたいわけじゃないのだ。それに寝足りないわけではない。というか完全に目が覚めてしまった。
「なんで俺、」
「なんで?」
なんで俺、ソーと一緒に寝てるんだ…………?!昨日ちゃんと1人で寝たと思うんだけど、あれ?ていうかなんで半裸なの?ああそういえばソーっていつも上半身裸で寝てたわ…ということは俺が寝ぼけて顔をぐりぐり押し付けたのはソーの胸だったのか?そうだよな?道理で柔らかいと思ったらそういうことだったのか…ってそういうことじゃない。落ち着け俺。
「なんで、俺」
「ああ」
「ソー、と、一緒に、」
あまりにも動揺して片言になってしまったが(そして大事なところは言えてない)、ソーは分かってくれたらしい、にこにこと笑顔で口を開いた。
「何故って約束しただろう?昨日は俺と一緒に寝ると」
「やくそく」
「ああ。そうだ、今日はロキと寝るのだろう」
「…………」
待て。今日はロキと?そんな約束したっけか、と記憶をほじくり返しているうちに、ぼんやりとだが昨晩の出来事が蘇る。そうだ、あれは昨日の夜のことだった。ソーに用があるからと部屋に入ったらソーとロキがお酒を飲んでいて、あれやこれやという間に上機嫌のソーに言いくるめられ、一緒にお酒を飲むことになってしまったんだった。
「なあナマエ、今日は一緒に寝ないか?」
「え?」
「子供の頃よくそうしてくれていただろう?…あ、いや、レニーとしてじゃなくてだな、ナマエと一緒に寝たいんだ。ダメか?」
「えと、」
「兄上、ナマエの独り占めはやめてくれないか?私もナマエと一夜を共にしたいんだが」
「ろ、ロキ?」
「なら皆で一緒に寝るか?」
「…何故そうなる!」
ああ、そうだ。これだ。そうしてなんだかんだでその日はソーと、そして次の日はロキと一緒に寝ることになったんだった。俺一言もいいよなんて言ってないのに…。いやまあいいんだけどさ…。
「思い出したか?」
「…うん…」
「それは良かった」
そう言ってソーは俺の頬を撫でる。それが存外優しくて、なんだかぞわりとした。ていうかなんだか肌寒い。ソーはともかく、なんで俺まで服を着てないんだ?いつも服着て寝てるのに、………。
「……は??!!」
「今度は何だ?」
「なんで俺服着てないの?!」
「何でって寝るときに暑いとか言って自分で脱いでただろ」
「な?!」
ああくそ、それ絶対酔ってたからだ!!ああ本当に、自分の酒癖が本当に恥ずかしい!かあああと一気に身体が熱くなるのを感じてシーツで顔を隠したら、ソーにくつくつと笑われた。なんでだよ!
「俺は良かったぞ、ナマエの肌に思う存分触れられたしな」
「なんでだよ…なんでそういう事言うんだよ…」
言い方がなんか怪しいんですけど!そんなことにはなってないと思うけどなんか怪しいんだけど!
「ナマエ、さっきから何でばっかりだな」
「だってああもう、混乱して…。ソー、俺昨日酔ってたから、変なことしてたら、本当に、ごめん」
シーツから目だけを覗かせてソーを見遣る。俺の言葉に彼はキョトンとして俺を見て、それからにい、と悪戯っぽく笑った。
「別に変なことはしてないと思うぞ。ただ、いつもより、たくさん俺を求めてくれたが」
「はっ??!!」
たくさん求めるって何?!俺何したの??!!ソーの言い方が変にイヤラシいせいで変な想像しか出来なくて、更に顔が熱くなる。最早泣きそうである。
「お、俺、そんな、」
色々な感情からテンパって泣きそうで言葉が出てこず詰まっていると、ソーはそんな俺を見兼ねてか、ナマエ、と優しく名前を呼んでぎゅう、と抱き締める。
「ごめん、俺、ソーに変なこと、」
「あー、本当にしてないから、安心しろ。お前はただ『抱きしめて欲しい』と言っただけだ」
「へ…」
「ああ、『ぎゅってして、お願い』だ」
「………それだけ?」
「ああ、それだけだ。すまん、少し意地が悪かったな」
身体を離されそう言われる。良かった、本当に良かった。変なことしてなくて…。ドキドキしていた心臓がすっと収まっていく。
「そ、っか、…良かった」
「そうか?」
「え?」
「いいや、なんでも」
見つめられ、髪をさらりと撫でられた。頸から後頭部にかけてソーの大きな手が当てられる。俺はソーのこの仕草が好きだった。ロキや俺にしてくれるこれが、心地良くて、安心する。ソーを見上げると、彼は微笑んで、そして髪にキスが落ちてきた。
「…それにしても、言い方が悪いよ、ソー」
「何だ、いつもよりたくさん求めてきたのは間違いないだろう?酔っていたとはいえ、お前が自分からそう言ってくることは殆どないからな。嬉しかったんだ」
ソーが嬉しそうに笑うので、う、と声が出てしまう。俺はそんなに控えめだっただろうか。そんな思いが顔に出ていたらしい、ソーは控えめだな、とうんうんと頷く。
「もう少し積極的になってくれてもいいんだぞ?」
こう、ハグとかキスとかな!とにこりと笑って続けるソー。ううん、そんな良い笑顔で言われると頑張るしかないじゃないか…。自分からというのは中々、というかかなり照れるというのに。ハグはまだアレだがキスは絶対に無理だ。だけど、とりあえずハグから練習してみよう…、と慣れるまでの遠いであろう道のりに若干遠い目をしていると、不意にソーがよし、と呟いた。
「ソー?、っうわ、」
ぐい、と手を引かれて白いシーツの海に引き込まれる。腰を抱かれ、ぴたりと身体が触れ合った。別にそういうことをしているわけじゃないのに、お互いの素肌が触れる感触にどきりと心臓が高鳴る。
「そ、ソー?」
「まだしばらくこうしていたい」
駄目か?と俺の頬を撫でながらそう言うソーにぐ、と唸る。ずるい。あざとい。嫌だなんて言えるわけなかった。
「う、ん」
頷くと、ソーは嬉しそうに笑って俺の頭を柔らかく抱き締める。ソーのたくましい身体に顔を埋めながら俺はおずおずとソーの背中に手を回した。積極的になってくれていいんだぞ、そう彼が言ったのだから、これぐらいは許されるはずだ。
するり、とソーの背中を上になぞっていくと、随分と短くなった髪の毛に辿り着く。今では美しい金髪は見る影もない。
「…短くなっちゃったね」
「長い方が良かったか?」
「…ううん、こっちの方が好き」
「そうか」
優しい声音が耳を転がす。やっぱりソーの心音は心地良い。鍛え抜かれていて吸い付くような柔らかい肌も、ソーの匂いにも、安心する。
「眠くなってきたのか?」
「うん…、」
「二度寝するか」
「ん、」
陽だまりのように暖かい身体に擦り寄る。再び重くなってきた瞼を閉じると、ソーの俺の名前を呟く声を聞きながら、心地の良い微睡みに意識を預けた。
20171105