くっついてる設定
スティーブに続いて部屋に入って後ろ手でドアを閉めたところで不意に手を引かれたかと思うと、とん、と壁に身体を押し付けられた。そして、彼の両腕は俺が逃げられないよう、俺の顔の横に、置かれている。
「ナマエ」
俺に覆い被さるスティーブの声にぴくりと震える。その声は少し怒っているようで、僅かに熱を帯びているようにも聞こえた。
「(これは)」
これは、所謂壁ドンというやつでは?!
「ナマエ、君は僕のことを優しいとか、寛容だとか我慢強いとか言うけれど」
「ス、ティーブ…?」
「僕にだって我慢ならないことはあるんだよ」
困ったように、けれど少し怒ったように眉を顰めて、スティーブはそう言った。
「僕は君が思っているよりも優しくはないし、狡いところだってある。寛容でもないし、寧ろケチなところもある」
君のこととなると、どうしてもそうなってしまう、スティーブは続けた。その言葉に期待するように、とくとくと心臓の鼓動が早まっていく。
もしかしてこれは、この展開は期待していいのでは?!何にという話だけど!
「だから、その、」
「うん」
頷いてスティーブを見上げる。ああ、きっと今の俺は期待するような表情をしてしまっているのだろう。青い綺麗な瞳が俺を見つめていた。
「君は余りにも無防備すぎる、」
「む、………」
だけど、スティーブから繰り出された言葉が自分が想定していたものとは大分違ったもので、落胆と共に今度は俺が眉を顰める番になった。
分かっている。この国は少なくとも日本よりは治安は良くないし、俺みたいな小さくて平和ボケした日本人は簡単にカモにされることも、全て分かっているつもりだ。だからいつも気をつけている。俺がこっちに来てから間もない頃から散々言われていた言葉だし、その言葉には聞き飽きている。最近その言葉は言われなくなったと思っていたのに。
「ちゃんと気をつけてるよ、スティーブが散々言うから夜は人通りの多いところを歩いてるし、電車の中だって財布とかスられないようにちゃんと」
少しムッとして早口でそこまで言って、不意にすっとスティーブの方に視線を上げてみると、彼は何とも言えない表情をしていた。待て、何故だ。
「…そういうことじゃなくて」
「……え、違うの」
「いや、それも大事なことだよ。けど、…あー…」
言い淀んで俺から顔を背けるスティーブに、?マークが頭に浮かぶ。無防備って、そういう意味の無防備だろ?違うのか?
「…?」
俺が怪訝な顔をしていたのを見たスティーブは不意にふ、と笑う。視線が絡まって、俺の頬を撫でたかと思うと、優しく抱き締められた。
「君には敵わないなあ」
「?ごめん俺、何かした…?」
「ううん、何でもないんだ。好きだよ、ナマエ」
「うん…?」
そのまま耳元で囁かれた優しい言葉に釈然とはしなかったけれどそう言われるのはやっぱり嬉しくて、スティーブに応えるようにその広い背中に手を回した。
2017120