怖い、怖すぎる。
「………………」
「…………(帰りてえええええええ)」
なんというんだろうか、語彙の足りない俺には分からないが、たぶんだだっ広い司令室にある会議ができるようなところに、俺は座っていた。そしてさっきから俺はマッチョな金髪ロン毛のお兄さんことソーにガン見されている。俺の右隣にソー、そして俺の左隣にはキャプテンアメリカ。ヒーローオタクならきっと卒倒するような幸せなことなのだろうが、残念ながら俺にとって外人に挟まれて1人にはガン見されるというシチュエーションは恐怖に近い。綺麗な青い瞳に見つめられてこんな微妙な気持ちになるとは思わなかった。
「……お前の名前はナマエ、っていうんだよな」
「…は、はい」
ソーのその問いにビクつきながらうなずくと、ソーはなにやら考え始めた。さっきキャプテンアメリカと話してるのを一生懸命聞き取ったら、どうやら俺はソーの知っているレニーってやつと瓜二つらしい。むしろ同じ顔なのだとか。そしてそのレニーはソーにとって家族のように大切な人だったけど、ソーが子供の時にいなくなったか、死んでしまったとかそんな感じのことを言っていた。
なんだか申し訳ない気持ちだ。俺がその人と同じ顔をしているということは、嫌でもソーはそのレニーのことを思い出してしまって、悲しい思いをしてしまうんじゃないだろうか。
「(って勝手にそんなこと思ってもどうもできないしな……)」
自分の顔なんて変えられないし、それに英語のリスニング力は多少あっても会話力がない俺には、気遣いの言葉をかけることは難しい。もどかしいけれど。
そんなことを考えていたら、キャプテンが「大丈夫かい?」なんて心配してくれた。彼のジェスチャーからどうやら俺は眉間に皺を寄せていたらしい。そのあと「どこか痛む?」みたいなことを聞かれたけど、俺はどういうことか分からず首を傾げた。
「君、さっきロキに投げられてただろ」
「ロキ…?」
ロキって誰だ。
「ほら、黒髪で角のある兜をかぶってた奴だよ。」
キャプテンが簡単な言葉と身振り手振りで説明してくれてようやく分かった。俺の胸ぐら掴んで吹き飛ばした角の人だ。ロキっていうのかあいつ。納得したところでキャプテンが同じ感じのことを聞いてくれた。「痛いところはないか」って。優しいなこの人。
「ええと、…大丈夫。ありがとう、キャプテン」
「キャプテンが良い感じに受け止めてくれたから全然痛くなかったんだ、ありがとう」…って言いたかったけど言えるわけもなく。座ったままでぺこりと軽く頭を下げる。そうしたらキャプテンは「スティーブでいいよ」って言ってくれた。「コールミースティーブ」ってそういうことだよな?
「…分かった、スティーブ」
にこりと笑ったスティーブを見て、キャプテンアメリカって外身も中身もイケメンだすげえと思った瞬間だった。
「……ロキは俺の兄弟なんだ」
「え、」
スティーブのイケメンさに感動していたら、ふと発せられたソーのその言葉にびっくりした。そうか、兄弟だったら俺と瓜二つのレニーってやつのことも知ってるよな。だからあんな驚いた顔されたんだ。つーか全然似てねえな。兄か弟か、どっちなんだろう。
「レニーはロキにとっても大切な存在だったからな。きっとお前を見て驚いたはずだ。……ロキはお前に何か言ってたか?」
ソーの問いに俺は唸るしかなかった。言っていた。言っていたが、なんて言っていたのかはほとんど分からない。あの時は混乱していたし、英語を聞き取るどころじゃなかったから。
「うーん………」
とりあえず、何かしら言ってたけどよく理解できなかった旨を伝えておいた。ごめんと謝れば、ソーは気にするなって言ってくれた。ついでに頭をわしゃわしゃと撫でられた。なぜだ。
相手が気を使ってくれているのだろうか、多少ゆっくり話してくれている気がするので今のところは意味をどうにかなんとなく理解できている。何回か聞き返してしまう時もあるけど。ただ、言ってることを理解できるもののスピーキング能力があまりないので自分から話しかけたり、ちょっと複雑な話をしようにも文に合う英語が見つからず上手く伝えられないから、心の底から通訳欲しいと思った。ケータイに翻訳アプリが入ってるから使おうと思ったのになんだか知らんがケータイとか財布とか身につけてたものは全て没収されてしまった。通訳の人なんてもちろん俺なんぞに付くわけがない。自力で慣れるしかないってことか。こんなことならもっと英語をしっかり勉強しとくんだった。
2人が何か話してる間で、はあ、と俺は2人に気づかれないようにため息を吐いた。