視線が不安げにあちこちと動いていた。コールソンに連れられて「安全な場所」に移動していったあの青年は、去り際律儀にぺこりとお辞儀をして去っていった。如何にも日本人らしい。
「…一般人を巻き込むべきじゃなかった」
ナマエはどこからどう見ても一般人だ。それは話してみても、彼の経歴を見ても一目瞭然だった。そうしたことに理由はあるのだろうが、なぜシールドは彼をここまで連れてきたのか。
「やはり似ている」
ナマエが出て行った方向をじっと見つめながらソーはぽつりと呟く。似ているというのはソーがさっき話していたレニーのことだろう。
「君とロキの世話役だったというレニーにか」
「ああ」
釈然としない表情でソーは頷いた。
「……似ているのは顔だけじゃないと」
そう言いたいのか?と聞けば、ソーはゆっくりと口を開いた。
「俺も最初は偶然だと思っていた。ナマエが、…似ているのは顔だけだと」
だが違った、とソーは続ける。
「雰囲気も、なにもかも似ている。それにナマエからは、何か感じるんだ。」
「何かって?」
「……おそらく、レニーの力に似ているものだと思う」
「どんな力なんだ」
「癒しの力だ。大抵の怪我は彼の力で治る」
その力でよく怪我を治してもらっていた、とソーは懐かしそうに言った。
「ナマエから感じる力が何なのか、俺ははっきりとは分からないが、きっとロキは分かっているのだろう。俺よりも鋭いからな」
どちらにせよナマエには何かある、本人は気付いてないみたいだが、とソーは言った。だからロキからナマエを守らないととも。その「何か」が分からないからか、ソーは腑に落ちない表情のままだ。
「…彼のことを守らなければ」
「ああ」
「………はあーー………」
コールソンが部屋から出て行って一人になった瞬間、我ながら盛大なため息を吐く。周りが知らない外国の人ばっかりで気を張ってたから、誰もいない空間に一人になったとたん気が楽になった。
「……………」
そのままゆっくりと部屋を見回す。確かめてみたが部屋の唯一の入り口であるドアは開かなかった。まあそうだよな。きっと監視カメラとかも付いているのだろう。これいつ出れるんだろう。
「(疲れたな……)」
何も考えたくない。どうしてこんな目に遭ったのかとか、これからどうなるのかとか、ソーやロキが言う俺にそっくりな「レニー」のこととか、もういろいろ気になることはたくさんある。けどそれよりも、自分の身が無事ならそれでいい。ここにいればきっと今のところは安全だ、コールソンが「安全だ」とか言っていたしな。それに、きっとシールドは良い組織なんだろう。だってキャプテンアメリカやアイアンマンみたいなスーパーヒーローがいるし。むしろそう信じたい。
はあ、とそこまで一先ず考えて、そして部屋にある簡素なベッドに腰掛けそのまま何も考えずしばらくぼーっとしていた。そうしたら段々眠くなってきてちょっとだけ寝ようかなと考えたのだが、
「っ?!」
急に大きな爆発音と共に機体が激しく揺れた。そして間をおかずに部屋の外が騒がしくなった。人の声と走る足音と、そして銃声だ。
「(だ、大丈夫かよこれ……)」
どうやら敵に襲撃されたらしい。………襲撃????
「(…襲撃って、…相当まずくないか?)」
アクション映画でよく見るシーンを今身を以て体験してるってことか?やばい、これ今外に出たら絶対死ぬやつだよし絶対に出ねえ。
おとなしくベッドの端で縮こまっていよう。いやむしろ部屋の端っことかのがいいかもしれない。そう思って立ち上がった瞬間、また機体が激しく揺れた。そしてさっきよりも大きな爆発音。転ばずにはすんだが思わずよろけてしまった。
「う、っわ、っごほッ」
煙がいきなり部屋に入ってきてむせる。部屋を見回せば、部屋のドアが破壊されていた。どうやらすぐ近くで爆発があったらしい、……ってこんな冷静にナレーションしてる場合じゃねえよ!爆発音連続して聞こえるしなんか銃声聞こえるしこれまじで生命の危機だよ!!!どうすればいいんだおい!!
「落ち着け、落ち着け俺………」
外から見つからないよう、急いで部屋の隅っこに縮こまる。深呼吸をして自分の体を何度もさすった。
ここにいるか、それとも部屋を抜けだして安全なところに逃げるか。後者は絶対に無理だ、部屋から出た瞬間撃たれる自信がある。かといってこのままここにいても無事とは限らないし…それにさっきの爆発で部屋のドアが壊れたから敵から丸見え状態だ。部屋に入られたら見つかるのは時間の問題だろう。
「(マジでどうしよう、どうしようどうしようどうしよう)」
そう考えた瞬間、冷や汗がぶわっと溢れ出る。心臓の鼓動が早くなる。息が乱れて苦しい、身体が震える。どうしよう、本当に俺ここで死ぬかもしれない。今のうちに俺のささやかな人生を振り返っておくべきだろうか。
「Here he is! Get him!」
「?!、っ」
嗚呼、人生を振り返る間もない。
最悪だ!!