仕事が終わって帰宅して、夕食を食べた後の、ニュートと過ごす細やかな団欒のひと時が好きだ。
何気無いこの時間が幸せだなあとぼんやり思う。一緒にいれなかった時期を思うと、会話をせずともソファで2人で寛いでいれることが、こうして2人でいれることが、とても幸せに思えるのだ。まあそんなことは恥ずかしくて本人には言わないが。
そして今日もいつものようにソファでニュートに寄りかかりながら本を読んでいると、不意に彼が口を開いた。

「あのさ、ナマエ」
「んー?」
「今日、君の誕生日だよね?」
「………………お前俺の誕生日知ってたのか」

何気ないニュートのその言葉にビックリしすぎてレスポンスが遅れてしまった。かなり意外だ。魔法動物以外に興味がない奴だからてっきり俺の誕生日なんて知らないと思ってた。ていうか、ニュートに言われるまで今日が誕生日だということを自分でも忘れてた。

「し、知ってるよ!好きな人の誕生日くらい…」
「まじか!なんと、あの魔法動物オタクで人間に全く興味のないニュート・スキャマンダーせんせーが!俺の誕生日を覚えてくれてたのか!なんということだ!これはめでたいなワインでも開けるか?!」
「……………」

つい嬉しくて大げさにそうリアクションをしたら、ニュートがジト目で俺を見るので思わず笑いが漏れた。

「ごめんて、そんな不貞腐れるなよ!すごく嬉しい、俺の誕生日覚えててくれて。ありがとうニュート」

嬉しくて満面の笑みでぎゅっと抱きしめると、ニュートはん、と小さく声を漏らした。

「…で、何?もう俺の誕生日あと3時間くらいで終わるんだけど、何かプレゼントくれるのか?」
「……う、ん」

冗談半分でそう言ってみたら、ニュートは頬を染めてこくりと頷いた。どうやらくれるらしい。まじか。これは本格的に嬉しいな。なんとなく居住まいを正してニュートと向き合う。彼ははじ、と俺を見つめて、そして、

「…あの、」
「ん?」
「これ、受け取ってくれる?」

ごそごそとポケットから出した小さなこぎれいな箱を、俺に差し出した。

「…………え、」

それを恐る恐る受け取って、そっと開ける。
そこには、綺麗な銀色の指輪が入っていて。
指輪だ。ニュートが、俺に指輪をくれるなんて。
その意味を聞こうとして、けれど言葉が喉につっかえて出てこない。思わずぱっと顔を上げてニュートの顔を見ると、彼はとても真剣な表情で。

「その、これからも一緒に、いて欲しい。ホグワーツの時だって、今だって、君が隣にいない生活なんて、考えられないから。僕は、ナマエと一緒に生きていきたい」
「……ぁ、……」

手を重ねてそう言ってくれたニュートの言葉がどうしようもなく嬉しくて、泣きそうで声が出ない。

「…ナマエ?あの、」

ああ、だめだ、早く返事をしないと。固まってなにも言わない俺を不安に思ったのか、ニュートは表情を曇らせて名前を呼ぶ。早く、早く「俺も」と言わないと。喉の奥がぐずぐずになって、泣きそうなのを必死に堪えて口を開いた。

「…いる」
「え、」
「お前が嫌だって言ったって、ずっと一緒にいてやる」
「…うん、」

偉そうにそう言った割には震えそうな声だったのに。俺の返事にニュートが嬉しそうに顔を綻ばせるから、なんだか泣きたくなった。違う、もっと素直に一緒にいたいと言いたいのに、俺の素直じゃない、天邪鬼な口は全く違うことを口走る。

「覚悟しろよな、俺、かなりめんどくさいやつだからな!マイペースだし、わがままだし、独占欲強いし、素直じゃないし口は悪いし、それに他にも色々あるからっ、やっぱりやめるっていうのは今のうち、っ」

ニュートにふわりと優しく抱きしめられて、俺の言葉はそこで途切れる。間近でニュートの匂いが鼻をかすめて、なんだか頭がくらくらしてきた。

「構わない」
「っ、」
「僕は、そんな君が好きなんだ。大好きなんだよ」
「っう、ぁ、」

俺を真っ直ぐに見つめてそう言ったニュートの言葉にぶわりと顔が一気に熱くなって、遂に耐え切れなかった涙が瞳からぼろぼろと溢れ出た。零れ落ちた涙がニュートの肩口に染みを作っていく。

「うっ、れしい」
「うん、僕もうれしいよ」
「俺も、っだいすき、」
「うん…、」

ニュートは俺の頬に優しく手を添え、流れ落ちる涙にキスをする。見つめ合えば俺に当てられてニュートも泣きそうなのか、涙の膜が張って、彼のきれいな緑色の瞳が瞬きをした拍子にきらきらと輝いた。

「ナマエ、これからも、一緒にいてくれる?」
「…うん、ずっと、一緒にいる…」

涙がぼろぼろ出ているし、嬉しくて自然とにやけてしまって今絶対ぐちゃぐちゃな顔をしているはずなのに、俺の表情を見てニュートは愛おしそうに目を細めて微笑う。ぎゅう、と抱き締められて、俺の耳元でニュートがありがとうと呟いたので、それに応えるように俺も腕を背中に回してニュートに擦り寄れば、抱き締められる力が強くなった。

「誕生日おめでとう、ナマエ」
「…ん、……最高の誕生日にしてくれて、ありがと、」

自然と重なり合った唇は、少ししょっぱい味がした。




20170312

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