会話とナマエの回想がすけべ



気怠さと倦怠感と、腰と尻の痛みで目が覚めた。
のろりと起き上がることさえ怠い。ゆっくりと起き上がり、靄がかった思考の中で辺りを見回す。
朝だ。窓からは温かい光が漏れている。

「……腰と、尻が、痛い……」

そう呟いてびっくりした。声も枯れて掠れている。ついでに言うなら頭も痛い気がしてきたぞ。
何故こんなに身体中が痛いのかとぼうっとした頭で自分に問いかけて、数秒もしないうちに昨日の出来事を思い出した。そうだ、何故痛いのかと言えば、昨日魔法のせいで犬耳と尻尾が生えて発情したニュートとめちゃくちゃなセックスをしたからだと、どこか冷静な頭がそう答えを出した。うーん、それにしても身体が痛いな。

「ナマエ、良かった」

何も考えずにしばらくぼうっとしていると、馴染みのある足音を響かせて、目が覚めたんだねとどこかほっとしたような表情を浮かべたパジャマ姿のニュートが、部屋の入り口から顔を覗かせた。
昨日彼に生えていたはずの犬耳と尻尾は消えている。

「ニュート、」

彼の名前を呼んだのだが掠れ声すぎて自分でもビビる。思わず顔をしかめて喉に手を当てた。

「ちょっと待ってて」

そんな俺を見てニュートはそれだけ言って部屋の入り口から顔を引っ込めて、慌ただしく足音を立てていく。
再び部屋に入ってきたニュートはその手にコーヒーカップとパンを乗せたトレイを持っていた。ベッド脇のチェストにそれを置いて、そっとベッドサイドに腰掛ける。俺の頭を優しく撫でるその手は、少しひんやりとしていて気持ちが良かった。

「おはよう、ナマエ」
「ん、」

目をしぱしぱさせる俺を見て微笑むニュートは、俺が楽に寄りかかれるよう背中を支えて、枕を立てて腰のところに挟んでくれた。

「これ飲んで。さっき作ったんだ。その、痛みが少し和らぐと思う」
「ああ…ありがとう」

俺のために薬を作ってくれたのか。粉末状の薬を混ぜて差し出された紅茶を受け取ってカップに口を付けると、紅茶の温かさがじわりと胸に広がった。

「はあ、美味い」
「…ナマエ、あの、」
「ん?」
「お腹の具合大丈夫?痛くなったりとかしてない?」
「え」
「君最後気を失っちゃったから、その、」

紅茶を飲んで脱力していると、言いにくそうにニュートが顔を赤くしながらもにょもにょ言うので、長年の付き合いで彼が言わんとしていることを理解してしまった。というか、そう聞かれて昨日の夜の出来事が鮮明にフラッシュバックしてしまった。


「あっやだ、ニュート、っ動いちゃ、イったばっかだからっんあ!」
「ん、ふう、もう一回…」
「えっもう一回?!まっニュートまて、お前さっき俺に中出したばっかだろ!っぁ、だめっそこやだ、ついちゃ、ぁんん」
「なんで…?ナマエのここ、こんなになってるのに…?」
「だって、んっやだっそこ、きもちい、からぁ!にゅーと、んっふァ、やっ噛むなぁ!」

「……………(あああああああ)」

めっちゃ恥ずかしいな!!!なんだよ昨日の俺!!!

「(そういえば昨日こいつにめっちゃ中出しされたな俺!!!)」

さらに言うなら初めて中出しされたし俺が気絶した後ニュートに俺の中の精液掻き出してもらったってことだよなこれ?!まああいつが散々中出ししたんだから当然と言えば当然だけどさ!
ああ、最早抜かずに何発ヤったのかすら覚えてないぞ。というか記憶がぶっ飛んでいる。今までの行為で彼に中出しはされたことがなかったので(俺の身体に負担がかかると言うので)なんとも言えないが、まあ、アレだ。自分で精液を掻き出すのも恥ずかしいだろうし、相手に掻き出されるのはもっと恥ずかしいということが分かった。

「はああ………」

思わず大きな溜息が出て顔を手で覆ってしまった俺は悪くないと思う。

「ナマエ?」
「何でもない…、腹は、大丈夫」

顔を覆いながらそう答えると、ニュートは小さく良かったと呟いた。ああ、顔が熱い。
ニュートが用意してくれた朝食をもそもそと食べていると、不意にニュートが俺の名前を呼んでごめんね、と謝った。

「は?いきなりどうした」
「昨日、無理矢理何回もしちゃったし、中にも、」

出しちゃったし、と今までよりも小さい声でニュートが続ける。口に出して言うのも恥ずかしいのか昨日のことを思い出したのかなんなのか、俺から目を逸らして顔を赤くした。

「セックスの話?」
「…う、ん。怒ってるだろ?」
「ううん、怒ってない。お前は魔法にかかってたし、俺もそれを承知で受け入れたからな」

そう言うと、ニュートは少しほっとしたように表情を見せた。そうだ、俺は怒ってない。全然怒ってないのだが、昨日散々ヤられたささやかな仕返しをしたいのだ。ということで少し意地悪をすることにした。

「ただ、昨日のアレはセックスというより発情期の動物の交尾だな。あちこち甘噛みされてキスマーク付けられたし、乳首は弄られすぎて最早ヒリヒリするし、」
「あっそうだ、赤くなって痛そうだったから軟膏作ったんだ…!これ使って!あっ僕塗ろうか?」
「大丈夫だからやめろ自分で塗る」

赤くなって痛くなったのはお前が散々乳首を弄くり回したせいなんだけどな!と思いつつもおろおろしているニュートから軟膏の入った容器をひったくった。ていうか軟膏も作ったのか。こいついつか薬局でも開けるんじゃないだろうか。

「ほ、他には?痛いところない?」
「大丈夫、…あ、でもやっぱり尻がちょっと痛いかな」
「え、」
「だって、お前にめちゃくちゃ奥突かれて『種付け』されたし?」
「…うう…やっぱり怒ってるだろ…」

ニヤニヤしながら言ってやったら恥ずかしさが頂点に達したのか遂に顔を覆ってしまった。はは、ざまあみろ。

「怒ってないって。まあ、普段ヘタレなお前があんなに積極的だったのは初めてだったから見れて良かったよ。俺が欲しいって言ったの覚えてるか?」
「…………」

覚えてるのだろう、相変わらず顔を覆って黙って俯いているニュートの耳は湯気が出そうなほどに真っ赤だ。流石にからかい過ぎたかな。

「ごめんて、気持ち良かったからそんな恥ずかしがるなよ。むしろ気持ち良すぎて頭おかしくなるかと思ったし。…悪い、これフォローになってない気がするな」
「無理させてごめんね…」

俺に対する申し訳なさと昨日の恥ずかしさからかニュートは顔を真っ赤に染める。俺の手に自分の手を重ねるニュートに指を絡めて応えた。

「耳と尻尾は消えてるけど、もう大丈夫なのか?変な気分になったりしてない?」
「あ、うん。大丈夫だと、思う…」
「そっか、良かった。ああでも、犬耳はやっぱり可愛かったなあ…」

発情せずに犬耳が生える魔法でも考案しようか。そんなことを考えながら犬耳が生えていたところを撫でると、もう生えてないよ、とニュートは困ったように笑った。

「ていうか、昨日あれだけ激しくヤって俺がこれだけボロボロなのにお前は大丈夫なのか?魔法の副作用とか、身体とか痛くないの?」
「そ、そんなの、君に比べたらどうってことないから」

首を振って答えたニュートの言葉にん?と首をかしげる。俺に比べたらどうってことないということは、

「…痛いのか」

有無を言わさない口調でそう言うと、ニュートは小さい声でぁ、はい…とこぼした。

「どこ?」
「…こ、腰…と、頭…」
「痛いんじゃねえか」
「はい…」

やっぱりな。こいつがちょっと腰に痛そうに手をやってたのを俺は見逃さなかったからな。俺より程度は軽いといえど、同じ症状の奴に看病をしてもらうわけにはいかない。今日は一緒にごろ寝だなと、自分の入っているベッドのシーツを捲った。

「ほら、ベッド入れよ」
「いや、僕は全然平気だから、」
「あ?入らないなら俺がお前を看病するぞ」

ベッドに入るのを拒否するニュートににっこりと笑顔でそう言いながらベッドを出ようとする仕草を見せると、彼は慌てて分かった入るよ!と言ってベッドに入ってくる。それに俺はよし、と呟いた。ニュートが俺のことを大事に思ってくれているからこそできる脅しだがこれが扱いやすいのだ。そしてかわいい。

「さあて!今日は1日寝るぞー」

もぞもぞとベッドに入って俺の隣に横になったニュートを確認して、寝る体勢を整える。今日は思い切りのんびりしよう。こんな機会はなかなかないからな。

「…なに、まだ魔法が残ってんの?」
「違うけど、」

俺に擦り寄って来たニュートに冗談交じりにそう言ったら、否定の言葉の後にナマエに触れたい、とぼそりとそう返ってきた。そういう意味ではなく、ただ単に触れたいということなんだろう。かわいいなあと思いつつ、シーツの中で触れ合った指先を絡めて手を繋いだ。

「…今日は絶対にヤらないからな」
「わ、分かってるよ!」

とりあえず念を押したら、ニュートの慌てた返答ぶりに思わずふふ、と笑いが零れてしまった。

「でも、あの、キスしていい…?」
「…キスだけな」

少しの沈黙の後、ニュートは遠慮がちに小さい声でそうお願いをしてきた。ああ、かわいい。そばかすだらけの頬にキスをしてそれに応えると、甘えるように唇を寄せられる。
ああ、犬耳なんかなくてもニュートはかわいい。








20170202

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