100,000HIT企画




魔法省に入省してから早数ヶ月、ようやく人間関係や環境にも慣れ始めた頃だ。けれど前から働いていたニュートとは違い、俺は膨大な事務仕事に忙殺され毎日毎日半分泣きながら部署に残って仕事を終わらせ、寮に帰るのは大分夜も更けた頃になる日々が続いている。働き始める前にニュートと一緒に出かけて一緒に帰るんだ〜なんてルンルン気分だった俺をぶん殴りたい。人生そんなに甘くないんだぞ。そういうわけで、ここのところ俺の仕事が遅いせいで、同じ部屋に住んでいるのにニュートと顔を合わせ話をする時間が朝と昼休憩しかなかったのだ。だが、今日は花の金曜日である。そして幸運にもいつもよりも早く仕事を終えることができた俺は、ようやく二日間の休みが手に入る!ニュートと一緒にだらだらできる!と嬉々としてスキップしながら寮へと戻った。朝が早いのでいつもは俺の帰りを待たずに寝てしまうニュートだが(最初は待ってくれていたが俺のことは待たなくて良いと言い聞かせた)、次の日が休みの時はいつも寝ないで待ってくれているのだ。だから帰ったらニュートに真っ先にハグをして、ソファで駄弁ってから一緒にベッドに倒れこむ「つもりだった」。

察してほしい。つもりだったということは、つまりできなかったというわけである。

「…………」

俺は今、自室の外でばくんばくんと心臓を鳴らしながら壁にぺたりと張り付いていた。
なぜなら、

「ん、っ……ぅ、……は、ぁ」

なぜなら、俺の恋人が今絶賛お取り込み中だからである。

「(しかも俺の部屋で、ベッドの上で……!!!)」

リビングにニュートの姿がなかったので、早く帰れたから驚かしてやろう、と抜き足差し足でニュートを探していたら、何やら俺の部屋から押し殺した声が聞こえて来たので、これはもしや、とドキドキしながら半開きのドアから自分の部屋を覗いた結果がこれだ。
ああ神様、毎日夜遅くまで魔法省に残って残業していた対価がこれですか。本当にありがとうございます俺もう別の意味で死にそう。まさか恋人がオナってるところを盗み見てしまうことになろうとは!

「んっ、……あ、はぁ、」

ニュートは俺に気付くことなく、俺のベッドの上でオナるのに夢中になっている。顔を赤らめ、時折漏れる悩ましい声がどうにも艶かしいと見ていると、はあ、と息を漏らしたニュートがのろのろと片手を伸ばした。その先には、朝急いで出て行ったせいでベッドに放り投げて行ったままの俺のパジャマが。おいこれはまさか、ま、まじか。おい、まじか。

「は、ぅ、ナマエ…っ」
「(まじかーーーっ!!!)」

すん、と臭いを嗅ぐ音まで聞こえた気がする。ニュートは俺のパジャマを引き寄せ、顔に近付ける。そして俺の名前を呼びながら自身を扱き始めた。

「(刺激が強すぎる………。)」

思わずへなへなとその場に座り込んでしまう。まだセックスもしていない童貞の俺には中々、というかかなり目の毒だ。俺の息子がすっかり元気になってしまった。分かる。最近忙しすぎて抜くどころじゃなかったもんな。触ろうとしたけれど、その手を止めた。恋人の自慰を見ながらの自慰ってなんだ、意味が分からない。どうせだったら扱き合いしたいくらいだ。明日休みだし?オナってる途中で俺に気付いた時のニュートの反応も見てみたいし。首まで真っ赤になるに違いない。簡単に想像できてしまって顔が緩む。

「ぁ、んんっ……、ん、ナマエ…っあ、ぁ、は、」
「(いやしかし、マジでどエロいな、こいつ…)」

普段の魔法省でのコミュ障拗らせて他人とはあんまり(というかほとんど)目を合わせないしよそよそしいニュートとのギャップがすごい。以前魔法省でたまたま見たニュートの同僚への対応が相変わらずよそよそしすぎてそれが面白かったのは秘密だ。と同時に普段俺に接してくれるニュートの態度の違いに優越感を感じたのも秘密だ。まあそれはまた別の話だが。

「あっ、ん、んんっ」
「(先っぽ弄ってる、好きなのかな)」
「あっ、ナマエ、だめ、ぁ、んっ」
「(俺で何を妄想してるんだ…)」
「ナマエっ、ぁっん、は、あ、」

えっちだ……心底そう思いながらドアの隙間から覗く。俺の視線はニュートに釘付けで、目を逸らせない。正直抱きたい。喘がせたい。あんなことやこんなこと、なんて漠然としたピンクな妄想をしながらニュートを見つめていると、不意に熱に浮かされとろりとした瞳がこちらの方を向く。あっヤバイ、そう思ったがもう遅かった。次の瞬間、

「…………???!!!??」

めちゃくちゃ目が合ってしまった。
俺を見て目をこれでもかと見開きフリーズして固まったニュートにははは、と渇いた笑いを漏らしながら部屋に入る。そんな俺を見て我に返ったニュートは、え、とかあ、とか吃りながら慌てて俺のパジャマを放ってすごい勢いでシャツの裾で下腹部を隠した。

「あっ、え、あ、っナマエ、なんで、」

案の定その顔は素晴らしい速さで真っ赤になっていった。というか最早耳や首まで真っ赤である。かわいいな。

「あーー………と、今日、早く上がれたから、お前を驚かそうと思っ、て、」
「そ、っ、そう、なんだ、」

そして沈黙。俺はニュートの下半身に目が行かないよう変な方向を向いて、ニュートはズボンをいそいそと履き直す。履き終わった頃を見計らって奴の方を見れば、俺から目を逸らして、でもちらりと俺を垣間見る。そしてぼそりとおかえり、と呟いた。こんな時でも律儀におかえりと言ってくれるあたり本当にこいつはかわいい。

「ただいま、」

ああ、ここでようやくハグだ。ぎゅうとベッドサイドに座るニュートに抱きつけば、ニュートはのろのろと背中に手を回した。勿論触ってない方の手で。

「…俺でオナる程寂しかった?」
「なっ、それはっ、」

思う存分ニュートを味わった後、揶揄うつもりでニヤニヤしながらそう言ったら、ニュートは口をパクパクとさせる。けれど何も弁解の言葉が出てこなかったのか、やがて観念したようにこくりと小さく頷いた。

「ごめん、ナマエの部屋に入ったら、君の匂いがして、その、」

ナマエが足りなくて、ぼそりと小さく呟いたニュートの言葉がギュンと心臓にきた。キュンどころではない。

「興奮した?」
「……っ、あ、う、」

口角がゆるゆるのままの俺のその言葉にニュートは顔を赤くして言葉を詰まらせる。困ったように眉を下げるその表情を見れば答えは分かる。うん、したんだろうな。そうなんだろうな。分かりやすくて本当に助かる。

「ごめんて。…いや、俺こそごめん、毎日帰りが遅くて」
「そんな、…んっ、」

我慢できなくて、謝罪の言葉に何か言いかけたニュートの唇を自分のそれで塞ぐ。ぷちゅ、と幼稚な音がした。何だかキスさえも久しぶりのような気がする。ああ、もっとキスがしたい。触れ合いたい。

「ニュート」

とん、と肩を押してニュートをベッドに押し倒す。上に覆い被されば、ニュートは、ぁ、と小さく声を漏らした。どこか期待するような眼差しが俺を捉える。

「ナマエ、」

名前を呼んで視線をうろうろさせたあと、ちらりと此方を向いたニュート。当たっ、てる。小さな声がそう漏らした。

「知ってる」

ぐ、と熱く硬くなったそこを太腿に押し付ければ、ニュートの身体がぴくりと震えた。それと同時にこくりと喉仏が上下する。

「俺も、ニュートが足りない」

その体勢のまま、見つめ合って数秒。そう告げてもう一度キスをしようとゆっくりと顔を寄せれば、首にいつのまにか回されていたニュートの手にぐい、と一気に引き寄せられ、唇に噛みつかれる。

「っん?!、んあ、にゅ、っんむ」

開けっぱなしだった俺の口の中にニュートの舌が入り込む。一瞬驚いたが、ニュートに応えるように舌を差し出した。お互いの舌を擦り合わせ、絡ませ合うキス。こんなキス、数える程しかしてない。甘く、でも少し性急なそれに頭が蕩けそうだ。必死に鼻で息をしながらズボンの上からニュートの太腿を撫で上げて、それから下腹部に触れれば腰がぴくりと揺れる。そこは俺と同じように、熱く硬くなっている。

「っは、……」
「ん、……っなあ、」

ようやく唇を離されてはあ、と息を吐く。ニュート、俺が邪魔したせいでイけてないっぽいから苦しいだろうな。だから扱き合いをしようと、そう言うつもりだったのだけど。

「へ、あ……、れ?」

ぐるりと視界が回って、覆い被さっていたはずの俺がいつの間にかニュートに押し倒されていた。あれ待て、今俺がリードする感じじゃなかったか?あれ、おかしいな?

「ナマエ」

普段とは違う、少し低い声色で名前を呟かれる。明らかに劣情を孕んだその声に、思わずどきりとしてしまう。恐る恐るニュートと目を合わせれば、感情の昂りのせいか、いつもの緑色の瞳が、今は獣のような金色に近い色で俺を見つめていた。

「…ナマエ、……いい?」

頬を撫でられ、もう一度名前を呼ばれ、その言葉にどくりと身体全体が心臓になったかのように波打った。分かっている。その「いい?」の意味が分からないほど、俺は鈍くないつもりだ。

「………ぁ、……」

声が掠れる。心臓の音がうるさくなって、身体がぶわりと熱くなる。

ああこれは、扱き合いどころで、終わりそうに、ない。








20170811

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