1年生からの良き友人だったはずのニュート・スキャマンダーとの、3年生の冬から始まったじれったい恋の駆け引き(にも及ばないような何か)は唐突な終わりを告げた。ニュートが退学処分になり、ホグワーツから去るその日に。
見送りのために駅のホームまで付いていくと言ったのは俺なのに、いつまでも駅のホームに着いて欲しくなくて、いつもよりもずっと遅く歩いた。いつも歩くのが速いニュートは、今日は俺に合わせてゆっくりと並んで歩いてくれた。季節は秋で、周りの木々は色付いてとても綺麗だったのに、俺の心はそれを楽しむ余裕さえない。
お互い無言で歩く中、遂にホームに着いてしまう。けれどまだ列車は来ていなかった。ニュートはトランクを落ち葉の上に置いて、そして静かに俺の名前を呼んだ。

「ナマエ、その、ありがとう。先生に直訴してくれたり、色々してくれて」
「でも結局お前は退学処分じゃねえか…ごめん、俺が、」
「君が謝ることじゃないよ。嬉しかった。僕のためにそこまで、してくれて」

俺の言葉を遮り、そう言って少し無理をして笑うニュートの顔を見れなくて、俺は俯く。結局、俺はニュートのために何もできなかった。大切な奴のために何もできないなんて、悔しくて悲しくてもどかしくて、喉の奥が苦しい。口を開いて絞り出した声は今にも震えそうで、力を抜けば今すぐにでも涙が溢れそうだった。

「…これからどうするんだ」
「そうだな、とりあえず職を探すよ。魔法省にでもツテを探しに行ってみる」

すぐに仕事が見つかるといいんだけど、と続けるニュート。退学処分になったくらいどうってことないとでもいうような口調に、なんだか俺の方が辛くなる。

「…ニュート、」
「そんな顔しないで、ナマエ。君のそんな顔を見てると僕が悲しくなる、から」

少し困ったように眉を下げたニュートは、俺の頬をそっと撫でた。その手は温かい。
やっぱり嫌だ。ニュートがホグワーツからいなくなるなんて。こいつが俺の隣にいなくなるなんて、そんなの、
言葉が出ない。今口を開いたら絶対に泣くから。でも今俺の気持ちを言わなければ、もしかしたらもう一生会えなくなるかもしれない。そんなの嫌すぎる。くそ、絶対にこいつから告白させてやるって思ってたのに。告白させてドヤ顔で「俺も」って言ってやるつもりだったのに。まさかこんなことになるなんて。相手の答えが分かってる告白なんて、こんな楽なものはないはずだ。だから言うんだ、ニュートと会えなくなってしまう前に。色々な感情が頭の中を渦巻く中そう覚悟を決めて、俺の頬に触れているニュートの手に自分の手を重ねた。思い切って彼のグリーンの瞳を見つめて、泣きそうになりながら震える唇で言葉を紡ぐ。

「ニュート、俺……」

けれど言葉は続かなかった。俺の頬を両手で包んで、ニュートが俺の唇に自分のそれを重ねたから。

「(キス、された)」

実感を得る前に、ニュートの少しかさついた唇が、ゆっくりと離れていく。

「好きだよ」

そして小さな声で、でも確かな声で、真っ赤な顔で俺を真っ直ぐ見てそう言ったニュートに、ついに俺の涙腺は崩壊した。ぼろぼろと何も言えずにただ涙を零す俺を、ニュートは優しくゆっくりと抱きしめる。

「ごめん、言うの、遅くなって」
「…遅すぎだ、馬鹿…」
「ごめん、」
「しかもこんな、っお前に簡単に会えなくなるっていう時に、馬鹿じゃえねの…寂しくてしぬだろ…」
「うん、ごめん、ごめんねナマエ」

しゃくりあげながらの俺のしょうもない文句にも、ニュートは何も言い返さない。耳元で繰り返される優しい謝罪の声が愛しい。ニュートの背中に手を回して、俺もぎゅう、と抱きしめ返した。
返事を言わなければ。ドヤ顔で「俺も」って言ってやろうと思ってたのに、これは無理そうだ。そう思いながら少し身体を離して、ぼんやりと涙でぼやける視界を瞬きで鮮明にする。瞬きをしたせいで溢れた涙をニュートは優しく拭ってくれた。その顔は相変わらず赤い。

「……俺も、お前のこと好きだ」
「…うん、…ありがとう、」

すん、と鼻水をすすってから出した声はぐずぐずだった。かっこよく言ってやるつもりだったのにこんなかっこ悪い感じになってしまうとは。そんな俺の言葉にニュートは嬉しそうにふわりと笑って、もう一度俺を抱きしめる。俺の肩口に顔を埋めるニュートのふわふわの頭を撫でると、俺を抱きしめる力が少し強くなった。


「ごめん、肩濡らして」
「ううん、気にしないで、…あの、」
「ん」
「…手紙、送ってもいいかな」
「もちろん、俺も送る。絶対送るから」
「ナマエ、」
「ん」
「……その、クリスマスに、会いにきてくれる?」
「…いく」


行くに決まってんだろ。
自信なさげにそう聞いてきたニュートにそう返して、今度は俺からニュートの唇にキスをした。

20161208

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