クリスマスだ!!!!!
正確にはクリスマスホリデーだけど!!!そんなことはどうでもいい!!
数ヶ月ぶりにようやくニュートに会えるのだ、楽しみで道中思わずスキップしそうになってしまった俺は断じて悪くないと思う。早くキングスクロスに着いてくれないかな、と列車の中でずっと窓の外の景色を見つめていた。キングスクロス駅でニュートと合流して、そのまま彼の家に一泊する予定なのだ。なんて素敵なホリデーの始まりだろう。

「…はあ、寒いな」

列車のホームに降り立つと途端に白い息が出た。この駅はいつも賑わっているが、休みだからかいつもよりも人が多い。それにこの駅は広いから、きっと移動するのに時間がかかるだろう。待ち合わせ場所はどっちの方向だろうかときょろきょろと辺りを見回す。逸る気持ちを抑え重いトランクを持ち上げて、待ち合わせ場所に向かって足早に歩き始めた。
そして待ち合わせ場所に着いて待つこと数分。背の高いふわふわとしたキャラメル色の頭を見つけて、思わずあ、と声が漏れる。久しぶりの親友、そして恋人になったニュートとの再会に口角が上がるのを抑えられない。ニュートも同じ気持ちでいてくれていたのか、俺の姿を確認すると顔を綻ばせてこっちへ小走りでやってきてくれた。ああ、数ヶ月ぶりのニュートだ。全然変わってなくて安心した。

「ニュート」
「っナマエ、」

はあ、と白い息を出して、ニュートは俺を爪先から頭までまじまじと眺めた。そして俺をぎゅうと抱きしめる。おお、こいつにしては積極的だな。やっぱり寂しかったんだな。手紙にも書いてあったし。

「久しぶりのナマエだ、」
「うん、俺も久しぶりのニュートだ」

ぽつりと確認するように呟いたニュートの声は本当に嬉しそうで、なんだかこっちも嬉しくなる。抱きしめられながらなんとかトランクを床に置いてニュートの背中に手を回し、ニュートの言葉を真似て返した。

「随分大きい荷物だね」
「ああ、ホグワーツから直で来たからな」
「え、家に帰ってないの?」
「帰ってないよ、お前に早く会いたくてさ。今日1泊させてくれるだろ?それから家に帰ることにした。親も了承済みだよ」
「………」
「…なんだよ」

ニュートに会いたくて予定をぎりぎりまで早めたのだが、引かれただろうか。と少し不安に思ったのだが、

「ごめ、ん、嬉しくて。…荷物僕が持つよ」
「え、いやいいって、おい!ニュート!」

ニュートがそうはにかんで言うので、なんだかむずがゆい気持ちになった。照れ隠しなのか俺の荷物を半ばひったくって相変わらずの早足で歩き始めるニュートをにやにやしながら追いかけた。
どうしよう、ホグワーツの今までのクリスマスホリデーで一番幸せかもしれない。



「へえ、ここがニュートの家か」

彼の部屋に上がっての初めての一言がそれだった。想像通りといえばまあ想像通りだ。簡素な部屋、簡素なテーブルに簡素なベッド。棚には十中八九魔法動物についてだろう本が並べられている。

「ごめんね、狭くて」

ニュートはそう申し訳なさそうに謝って、俺のトランクを部屋の隅に置いてくれた。それから俺をもてなそうとしてくれているのだろうか、紅茶を入れようか、何か食べる?と慌ただしく動き始めた。普段慣れないことをしているのだろう、その様子がおかしくて少し笑ってしまった。

「ニュート、気にしないでいいから」
「え、でも」
「俺はお前と話したいな」
「…あ、」

俺の言葉にニュートは忙しそうに動かしていた身体を止めて、ちらりと俺を見た。そして僕も、と気恥ずかしそうに目を逸らす。…久しぶりのニュートは心臓に悪い。

それからベッドサイドに座って、ぽつりぽつりとお互いのことを話した。手紙でお互いの近況についてやりとりしていたから、積もり積もった話というのはあまりなかったけれど、それでも久しぶりのニュートとの会話は楽しい。それに、

「ナマエ?」
「…なんでもない」

ああ!やっぱりニュートの隣って落ち着く!!!

「……ナマエ、」
「ん、?」

ニュートの隣で思い切りリラックスしていると、不意に名前を呼ばれて、彼の手が俺の手に重なった。動きがどこかぎこちない。
ニュートの方に顔を向けると、その視線が揺れていた。俺の手をぎゅ、と握って、そしてゆっくりと顔を近づけてくるニュートに、ああ、キスしたいんだな、となんとなく察した。どくどくと心臓が波打ち始めて、目を閉じる。
そっと、ゆっくりとニュートの唇が押し付けられる。何気に、これで3度目のキスだ。そして数ヶ月ぶりのキス。相変わらずその唇は少しかさついていた。
唇が離され、じ、とお互い見つめ合う。

「…ニュート、お前の唇かさついてる」
「え、」

ニュートの唇を指でなぞる。それに少しびくりとニュートの肩が震えた。その反応がなんだかかわいい。そのかさついた唇に惹きつけられるようにぺろ、とニュートの唇を舐めた。何をされたのか分からず一瞬ぽかんとしていたニュートは、間を置いて俺にされたことを理解した瞬間あっという間に顔を赤くして、ばっと素早く手で口元を押さえた。

「っナマエ!」
「ははは」

真っ赤な顔で睨まれてもまあ全然怖くないけどもさとりあえず笑ってみた。かわいいなこいつ。
そう思ったところで、ふと冷静にさっき俺がなんとなくしたことが脳裏をよぎる。

「…………。」

なんとなく衝動的にやったけど、
俺がやったことって、…単に唇と唇を合わせるだけのキスよりも、相手の唇を舐めるって、…よっぽどエロいことなのでは、

「…………………っはあああ…………!」

そう脳内で結論に達した瞬間、身体中が熱くなった。自分のやったことが恥ずかしすぎて我慢できずにバッと顔を両手で覆った。

「(やっっっっべえ、何してんだ俺は!!!)」

馬鹿じゃないの、心臓破裂しそうなんだけど!!ほんと馬鹿じゃないの!!あああああ無理、ほんとに馬鹿、数秒前の俺ほんとに馬鹿!!!恥ずかしすぎる!!無理!!ニュートの顔見れない!!と恥ずかしさで死にそうになりながら悶えていたら、

「なんで君はそんなに余裕なんだよ!」
「はあ?!」

いきなりニュートがキレだした。

「久しぶりに君と会えて嬉しいのに君は、っこんな、こんな、僕ばっかり余裕がなくて、こんなのっ、馬鹿みたいじゃないか!」
「………」

その顔が相変わらず真っ赤で必死なのも相まって、文章が途中で途切れていたがとりあえず彼が言ったことに三割増しくらいでトキめいた。まあ、ニュートに余裕がないのは目に見えて分かっていたがそれは全然バカみたいではないし、

「いや、俺だって全然余裕ないんだけど」

落ち着けニュート。さっきの挙動不審の俺を見てなかったのだろうか。めちゃくちゃ恥ずかしがってただろ俺。めちゃくちゃ長いため息ついてただろ。周りからガラ悪いとか言われてる(主に口が悪いせい)せいか、事情を知らない他の寮の奴らにはよく「彼女いるんでしょ?」とか聞かれるが目の前にいる魔法動物オタクが初恋だったため、俺は全くの恋愛初心者だ。それは長年一緒にいたニュートなら分かっていると思っていたのだが、彼には余裕に見えるらしい。まあ、こいつの気を引こうと色々考えて積極的にアプローチしていたし、…その時は全然余裕じゃなかったけど余裕ぶってたしな。それに俺は割と後先考えずに衝動的に色々やってしまうタチで、さっき唇を舐めた(やった後死ぬほど恥ずかしかったが)せいもあるのかもしれない。ニュートも余裕がないし、俺も余裕がない。しかも久しぶりだから尚更。お互い必死だな、と少し面白くなってしまった。

「何笑ってるのさ」
「や、面白いなと思って…。でも、本当に俺余裕ないからな」
「…うそだろ」
「うそじゃないって、本当に余裕なんてねえよ、ほら」

ほんとかよ、とでも言うような疑り深い視線を俺に向けるニュートに苦笑いが溢れる。言うより感じてもらったほうが早いだろうと、ニュートの手を取って自分の胸に押し当てた。

「すごいだろ、心臓の音」

俺の心臓の音を聞いたのか、ぱっと顔を上げて俺を見る。

「……すごい」
「だろ?俺今、すごいドキドキしてる」
「…う、」
「分かった?」
「…分かった」

どうやら納得したらしい。

「ナマエ、」
「なに」
「あの、抱きしめても、」
「あーはいはい」

それくらいなら俺からだってできる。というか抱きしめるくらい、いちいち断りを入れなくていいのに。ニュートの言葉を遮ってぎゅ、と抱きつくと、ぴしりと効果音が付くぐらいに彼の身体が固まった。
けれどしばらくそのままの状態でいると、ナマエの匂い、とニュートがぽつりと呟いた。恐る恐る、けれど俺を確かめるように背中に手を回して、俺の首筋に擦り寄る。こいつちょっと変態くさいぞ。けれどニュートの匂いだと、彼のふわふわの髪の匂いを嗅ぐあたり俺も中々の変態かもしれない。

「、ん、ニュート、くすぐったい」
「っごめん、」

ニュートの唇が首筋に掠れる。それがくすぐったくて身をよじったら、ニュートはぱっと身体を離した。が、その数秒後目を泳がせて、

「…あの、…キス、していい?」
「……今更すぎるだろ」

そして声が若干裏返ったぞ大丈夫か。

唇が触れ合って、ちゅ、ちゅ、と子供のようでぎこちないキスが繰り返される。それからどこかお互いを探るようなキスをしていたはずなのに、それがゆっくりと加速し始め、いつの間にか深いキスになっていった。ニュートのキスは、今までおあずけを食らっていたのがようやく解かれたようながっつき具合だった。唇を食まれ、ニュートの肉厚な舌が俺の舌に触れると、ぴくりと身体が震えてしまう。気持ち良くて変な声が鼻を抜けて出てしまった。

「んぅ、っン、………ぁ、う」

緊張してるのか必死になっているのか、ニュートの俺の二の腕を掴む手の強さが強くなっていく。段々と押され気味になって、このままだとニュートに押し倒されそうだ。

「ふ、は、…」

キスの合間に必死に息継ぎをする。初めてした、こんなキス。まさかニュートがこんなキスしてくるなんて。唇が離されて、はあ、と俺を見つめて熱っぽい息を吐いたニュートは、俺が今までに見たことのない表情をしていて、心臓が高鳴った。それでもその顔は必死そうでちょっと面白い。するりとニュートの頬に触れると、目を細めて気持ちよさそうにした。その頬はやっぱり熱い。

「…はは、顔、必死な顔してる、熱い」
「…ナマエ、は、余裕そうな顔してる」

まだ言うかこいつは。こんなに心臓ばくばくいってるのに。

「全然余裕ないけどな……。俺ってそんなに表情に出てない?耳とかすごい熱いんだけど、ほら、赤くなってるだろ?」

触ってみてよと促すと、ニュートは優しい手つきで俺の耳を触る。俺の耳たぶが気持ちよかったのかそのあと耳たぶをしばらく触られた。

「…うん、でも顔にはあまり出てない。君はいつもそうだ」
「ええ、そうか?」
「そうだよ。テストの時だって余裕そうな顔して平気で赤点取って補習受けてたじゃないか」
「その話はするなよ…」
「ん、ごめん」

じとりとした目線を向けると、ニュートは俺のふて腐れた表情が面白かったのか、ごめんと謝りながら微笑んだ。

「じゃあさ、その俺の余裕ぶってる顔崩してくれよ」
「…そういうところだろ」
「え、なに?」
「なんでもない」
「(なんでちょっと不貞腐れるんだ)なんだよ、俺の必死な顔見たいんだろ?」
「…、……うん、まあ……」

変な間を置いてそう答えたニュートは何故かまた顔を赤くしてぎゅ、と服の裾を握る。なんだその曖昧な返事は。そしてなぜ俺から顔を逸らした。

「おい、今何を想像したんだよ」
「や、なにも」
「やらしいこと考えてただろ」
「か、考えてない!」

俺の言葉をニュートはすぐさま慌てて否定した。絶対やらしいこと考えてたなこいつ。すぐ顔を赤くするし挙動不審になるし、分かりやすくてしょうがない。



そんなこんなでニュートと過ごしたクリスマスホリデーの初日はあっという間に過ぎて、いつの間にやらもう寝る時間になってしまった。楽しい時間はなぜこんなに時間が過ぎるのが早いのだろう。ニュートの手作りの飯も食ったし、シャワーも入って身体はぽかぽかで幸せである。歯磨きをしたしパジャマにも着替えたし、あとは寝るだけだ。けど寝たくないなあ、そんなことをぼうっと考えながらベッドサイドに座っていると、寝支度を整えたのかニュートが俺のとなりに座った。

「はあ、あっという間だったな」
「そうだね、…あの、」
「あのさ、また遊びに来ていい?」

何しろニュートと会えるのは長い休みの間だけなのだ。この期間にしっかり充電しておかないと。ニュートの言葉を遮ってそう聞いたら、彼は少し面食らったような表情を見せた。

「…うん」
「…よかった」

けれど嬉しそうに小さい声でそう言ってくれたのでほっとした。

「そういえばさっきさ、何言おうとしたの」
「えっ」

なんとはなしにそう聞くと、ニュートは俺から顔を逸らして黙って、それから君と同じこと、とぼそりと言った。耳が真っ赤だ。その真っ赤な耳を見て、ニュートの言葉を聞いて、なんとも形容しがたい想いが胸に湧いてきた。ほんとにこいつ、ああもう。ニュートに身体を寄せて寄りかかるとその身体が強張る。今日俺にあんなすごいキスかましたくせになんなんだこいつは。

「…俺さ、お前の手紙のせいで魔法生物飼育学の成績めちゃくちゃいいんだけど」

まるで俺魔法動物オタクみたいじゃん?どっかの誰かさんみたいにさ、と笑みを交えながら続けると、ニュートもふふ、と笑った。

「俺ニフラー好きだな、あいつかわいい」
「うん、そうだね。僕も好きだよ」

彼にもたれてそんな会話をしながら、数年後に彼の魔法のトランクの中でそのニフラーと戯れることになるとは、その時は夢にも思わなかったのだった。そして、俺がニフラーを可愛がりすぎてニュートがニフラーに嫉妬することになるのも、まだ先の話である。


20161216

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