「…ほら、ちゃんと食べろよ」

オカミーたちに餌をやり終えてからぐ、と伸びをする。魔法動物たちに餌を与えたり世話をしていて長い間しゃがんだり背中を曲げて作業をしていたからか、背伸びをしたら気持ちよかった。
ふう、と一息ついて辺りを見回す。魔法動物たちの生態に合わせて創られたトランクの世界はきれいだ。それぞれの環境の中で、動物たちも色々な表情を見せてくれるし、何よりニュートの魔法動物に対する愛情を感じる。きれいな世界の中で笑みをこぼしてから、俺はニュートのいる小屋に向かって歩き始めた。
ニュートのトランクの中の魔法動物たちの世話をするようになってから結構経つ。ホグワーツ時代の頃からニュートに散々魔法動物のことを聞かされてたし、元々動物は好きだから、俺が卒業してニュートと同じ魔法省で(といっても部署は違うが)働き始めて、色々あってから彼に「一緒に魔法動物の世話をしてくれないか」と言われた時は、それはもう嬉しかった。思わずその場で小躍りしそうなほどには。ある意味プロポーズだな。まあ本人にそのつもりは毛頭ないと思うけど。

「ニュート、動物たちに餌やり終わった」

ニュートがいる小屋に入ってそう伝えると、彼はこちらを振り返らずにありがとう、と返してきた。視線は手元に集中している。何やら作業に熱中しているらしい。

「他に手伝えることあるか?あるなら手伝うけど」
「ん、…………」

そう言ってはみたが、目の前の作業に夢中になっているニュートの返事はとてもぼんやりしている。そのん、は何のん、なんだ。いつものことだし慣れてるけどな。

「…あーっと、じゃ、俺そこらへんにいるから、なんかあったら声かけて」
「…、わかった、」

そうニュートに言い残してから小屋を出る。さてと、ニュートが構ってくれないのでニフラーと遊ぶことにしようかな。


「よ、遊びに来たぞ」

巣穴に近づくと俺に気付いたニフラーが元気よく鳴いた。ニフラーに手を差し出すと擦り寄ってくる。撫でろということらしい。元々そのつもりだ。かわいい。ニフラーの巣穴は相変わらずきらきらしている。彼がいつも寛いでいる特等席は、特にお気に入りの宝石や金貨で作られているようで、一際きらきらと輝いているように見えた。

「お前はかわいいなあ…キラキラしたものに目がないのはちょっとあれだけど、まあそういうがめついとこもかわいいというか…憎めないというか」

呟きながらニフラーの頭を撫でたりして抱いたりしてしばらく戯れていると、ふとニフラーの視線が俺の左手の薬指に集中していることに気づいた。小さくて丸い黒目がきらきらと物欲しそうに光っていて、思わず苦笑する。

「ああ、だめだよニフラー。これはだめ。これは大切な指輪だから、お前にはあげられない。わかってるだろ?これが誰からの贈り物か」

お前のご主人からの贈り物なんだ、そう続けるとニフラーはじ、と俺を見て、それからしゅんとしょぼくれた。しょぼくれた姿でもやっぱりかわいい。けどニフラーの前では指輪を外さないとだめだな。毎回毎回しょぼくれさせるのも可哀想だ。チェーンを付けてネックレスにでもしようか、とぼんやり考えた。

「ごめんなニフラー」

謝ってニフラーの頭を撫でると、気持ちよさそうに目を閉じて擦り寄ってくる。かわいいなあこいつ。ニュートとよくケンカ(主にニフラーがやらかしてそれをニュートが収拾する)してるのをよく見るのだが、そのケンカしてる様がニュートを含めなんとも微笑ましくてかわいいのでいつも温かい目で見守ってしまう。ニュートにはその度にそれどころじゃないからナマエも手伝って!と怒られるのだ。ケンカするほど仲が良いという言葉をニュートとニフラーは見事に体現してると思う。

「ああ〜かわいいなあお前!あああ〜」
「…………ナマエ」
「はっ」

ニフラーを抱き締めて頬擦りしていたらニュートの俺を呼ぶ声がした。いつもより少しトーンが低い。ばっと勢いよく振り向いたらニュートがなにやら眉間にシワを寄せて俺を見ていた。しまったニフラーに対する心の声が思いっきり出てた!確実にニュートに俺の猫なで声が聞かれてたなこれ!すげえ恥ずかしい!

「あ、っと、…やること終わった?」
「ナマエ」
「ん、」
「こっち」

俺の質問には答えてくれず、手をこまねいて来てというので、ニフラーを巣穴に戻してやってから言う通りにニュートのところへ向かう。

「どうした?」
「………いや、なんでもない」

いやなんでもあるだろう。ニュートのその答えにツッコミそうになってしまった。わざわざ俺を呼んで腕を組んで眉間にシワを寄せて、何か言いたげにじ、と俺を見つめて、どこがなんでもないんだ。俺がニフラーと戯れてめちゃくちゃ可愛がってたから、まさかニフラーに嫉妬したとかじゃないよな?

「…何、ニフラーに嫉妬した?」
「してない」

とりあえず言ってみたら少しムッとした顔でそう返してきた。おっと、まさかの図星だ。そんな不満げな顔をして何を言うんだか。思ってることが表情に出やすいということをこいつは学んだ方がいい。

「あはは嘘つけ、ニフラーに嫉妬したんだろ」
「してないって!」
「はいはいそんな怒るなよもー。今度お前にもかわいいって言ってやるっン?!」

へらへら笑っているとがっと腕を強く掴まれて、無理やりキスで口を塞がれた。そして唇を離されて、至近距離で一言。

「し て な い」
「…分かった、そういうことにしておく」

これ以上揶揄うとめんどくさいことになりそうだったので、そういうことにしておいた。未だに不満げな表情をしているニュートに今度は俺から触れるだけのキスをすると、ニュートは恥ずかしそうに目を逸らした。いい加減慣れないのだろうか。そういう相変わらず変なところでウブなのも好きだけど。

「かわいいよなお前って」
「嬉しくない」
「拗ねるなよ、やること終わったんだろ?飯食おう」
「…うん」

ニュートの手を取って歩き出す。歩き出してから、自分の手がニュートの大きな手に握り返されるのを感じて、思わず顔が綻んだ。今日の夜ご飯のメニューは何にしようかと話しながら、トランクの中に広がる動物たちの世界を後にした。




20170106

[ 7/16 ]

[*prev] / back /[next#]