「そう。これがしょったの"し"だね」

「し」



真衣は最近、阿部にひらがなを教わっているらしい。
時間を見つけてはひらがなの練習に取り組んでいる真衣を見て、努力家なところは小さくなっても変わらないんだなと感じる。



「こえ、ひ!」

「うん、これは"ひ"。ひかるの"ひ"」

「ひぃのひ!」



嬉しそうに俺の名前のひらがなを練習している姿はとてつもなく可愛くて、たぶん今の俺はへにゃへにゃの顔をしているに違いない。

覚えやすいという理由からなのか、主にメンバーの名前のひらがなを練習しているらしい。

声に出してひらがなを読み上げるたび、真衣の可愛い声がリビングに響いて、そこにいるメンバーの顔は緩み切っている。

普段なら可愛い真衣に群がっていく俺たちだけど、勉強の時間だけは邪魔をしないと決めているから、少し離れた所でその様子を見守っていた。


そんな日が何日が続いて、1週間くらい経った頃。
夕飯を食べ終えてしばらくすると、阿部が「みんなちょっと待ってて」と言い、真衣を連れて自室へ向かった。

なんだ?と残された俺たちは顔を見合わせるが、言われた通り大人しく待つ。

数分が、何やら色とりどりの紙をその小さな手に持って、真衣と阿部が戻ってきた。



「真衣からみんなに渡すものがあります!真衣、自分で渡せる?」

「うん!」



阿部が言うと、真衣は一度持っていた紙を全て机に置いてから、その中の黄色い紙だけを持って、俺の所へ来た。



「こえ、ひぃの!」

「くれるの?ありがと」



どうやらその紙は、小さな折り紙を二つに折りたたんだもののようで。
開けていいのかどうか迷ったが、阿部を見ると「ちょっと待って」とでも言うように手で制してきたから、そのまま待つことにした。



「うっか、どーじょ!」

「ありがと〜!」

「くろは、めぇの!」

「ありがと!なんだろ、開けるの楽しみ」



ちゃんとそれぞれのメンカラの折り紙を本人に渡していて、すごいなと思う。
真衣はものすごく物覚えが良くて、名前とメンカラは小さくなった初日に全員分覚えてしまった。



「あべちゃ!」

「えっ、俺も?」



最後に真衣が緑の折り紙を阿部に差し出すと、阿部は驚いた表情を見せた。

…自分の分があること、知らなかったのか?
俺たちに渡すことは知っていたのに?

なんて思ったが、真衣が折り紙を全員に配り終わったらしく、佐久間が「じゃあせーので開けようぜ!」と言ったので、意識を折り紙に戻した。



「せーの!」



佐久間の声で折り紙を開くと、そこには可愛らしいいびつな文字が書かれていて。
阿部と練習していたひらがなで、一生懸命書いたのであろうことが伝わってくるような、そんな文字で。

『ひかる だいすき』

そんなものを見てしまえば、もう愛おしさしか溢れてこなくて。
なんとなく目頭が熱くなった気がして、ごまかすように顔を上げると、康二が泣きながら真衣を抱きしめるところだった。



「真衣姉〜!めっぢゃ嬉じいぃぃぃ!」

「気持ちは分かるけど泣きすぎだろ(笑)」

「だっでぇ…!」

「おい康二離れろ。俺にもぎゅーさせろ」

「康二かわって、俺もしたい」



涙でぐちゃぐちゃの康二に抱きつかれた真衣は嬉しそうに笑っていて。

康二が持っているオレンジ色の折り紙の中がちらっと見えて、そこには『こーじ だいすき』の文字。
それを見て、全員が同じ手紙をもらったんだと分かった。

…もしかして、これを書くためにひらがなの練習してたのか?

だとしたら、めちゃくちゃ嬉しい。
確認してみようと阿部を見ると、じっと緑色の折り紙を見つめていて。
その表情は何かを堪えているような、阿部にしては珍しい表情だったから、思わず声をかけた。




「…阿部?どうした?」

「……いや、なんか、さ。………ちょっと今、感動してる」



そういえば、阿部は自分宛ての手紙があることを知らない様子だった。

阿部は一度小さく息をつくと、ぽつりぽつりと話し始めた。



「…最初はさ、真衣がみんなに手紙書きたいって。大好きだよってお手紙書きたいって言ってきてさ。そらで、ひらがなの練習始めたんだよね。で、今日のお昼に書き終わって。俺もちょっと横で教えたりしたけど、ほとんど真衣が自分でちゃんと書いてて。それで、ご飯終わったら渡そうねって」



そこまで言うと、阿部はとても愛おしそうに真衣を見つめて、こう続けた。



「…俺、自分のがあると思ってなくて、昼に書いてる時は、みんなの分だけだったから」

「あ、じゃあそれって…」

「うん。…俺がいない時に、真衣が自分ひとりの力で書いたんだよ。ちゃんと緑の折り紙選んで、俺が教えたひらがな使ってさ」



そう言って、阿部が持っていた緑色の折り紙を見せてくれた。
そこには子供特有のいびつな字で、『あべちやん だいすき』と書かれていた。



「はは、小さい文字書けてないのがめっちゃ可愛い(笑)」

「うん、だよね(笑)」

「俺も『しよつた』だった(笑)」

「あ、じゃあ涼太もじゃん?」

「うん。俺『りよーた』(笑)」

「ふっかは?」

「ふふん、俺『たつや』

「え、ずる!」



わいわいと賑やかになるリビング。
真衣がするりと康二の腕を抜けて、阿部のもとへ来た。
康二が、あ!と騒いでいるがそんなのは気にも留めない様子で、真衣は阿部に抱きついた。



「あべちゃ、ひららなおちえてくえて、ありあとぉ!」

「…ふふ、どういたしまして。真衣も、こんな素敵なお手紙くれて、ありがとう」



阿部が真衣を抱き上げて、優しくその身体を抱きしめる。
正直俺も抱きしめたかったけど、阿部はある意味今回の功労者なので、今だけは譲ることにする。



「見てオレの、ひらがなで『らう』だから。オレのがいっちばん可愛い!」

「いや俺の『さく』も可愛い!」

「いやいや、呼ぶ時は『めぇ』なのに『れん』って書いてある俺が優勝でしょ」

「それ言ったら俺も『たつや』だからね!」



真衣は一旦阿部に預けて、俺もこのしょうもない争いに参加してやるとするか。



「俺も『ひかる』だった」

「うわ、照まだマウント取ってきた!」



とりあえず明日、額縁でも買いに行こう。
たぶんみんな同じことを考えてるから、誰か誘ってみるかな。



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