02


全部入りきらない小さな凹が幾度も収縮と痙攣を繰り返し勃起した陰茎を飲む込む様は、口腔に熱々の磯辺焼きを咥えている様を彷彿とさせて可愛いねェ。朦朧としながらそんな頭の湧いた言葉が口から飛び出てくる頃には、赤琉は意識を飛ばしてただただお兄を受け止めるだけの温かいお人形に様変わりしていた。迫り上がる射精感にはっとして、急いで棒を抜いて腹の上に白濁を撒き散らす。誰もいないのをいいことに、体裁を気にせず呻き声をあげながら、最後の一滴まで絞り出す。血の繋がった実の妹を犯して可愛がるなんて、兄弟たちはまあ好みそうにない光景だ。だから全員出払っているタイミングは俺にとってはこれ以上ない好機。ま、心の臓は繋がっているから、筒抜けなのは仕方がないとして……だからこそ、俺と赤琉のつながりを理解してくれているとも言えるが。
「よしよし、全身綺麗にしようねェ。城下で上手い飯が待ってるぜ」
「……」
「今日もたくさん運動したな。その分たくさん食わなきゃなぁ」
棒から手で拭いとった二人分の粘液を舐め、赤琉の腹に撒いた精液を舐め、赤琉の秘部から垂れる愛液を舐め、赤琉の口から垂れる唾液を舐め、ついでに接吻しながら、赤琉の目から流れる涙を手で拭い、赤琉の首筋を流れる汗を舐めて、全部綺麗に味わったあと、俺は自分の着物を正しく着直し、床に敷いていた赤琉の着物でさっき俺が好き放題した赤琉の裸体を風呂敷みたいに包み込んだ。万が一にでも赤琉の裸を他の誰かに見られてはいけねぇからな。この城には八咫郎の部下がわんさか存在しているから、主の命以外では動かないとはいえ、注意深くあるのに越したことはない。
赤琉の体を大切に持ち上げ、大部屋を出て風呂場に向かう。赤琉は交わったあとはいつも気を失ってしまうのだ。気を失うまで俺がやめねぇのが本当なんだが、そんなこと言われたってこいつが可愛すぎるのがいけないんだ。こいつは俺だけにしか触れない。俺だけが触れる。あの兄上ですら何もできない。俺だけが好きにできる。俺だけの妹。最初から黒い石をもって生まれた神の子供。すなわち鬼の子。赤琉は特別。俺の特別。俺だけが抱きしめてやれる。
「ちょっと冷てぇかな?でも赤琉にはこれくらいがちょうどいいよな」
湯船に張った冷水に、ピクリとも動かない赤琉を投げ入れた。今俺は湯船の外にいるうえに、意識のない状態では抑止のしようがないから、『赤琉の力』は遺憾無く発揮される。いつ見ても面白いものだ。赤琉の体が水に沈められた途端、湯船の冷水は瞬きすらせぬ間に沸騰を始めた。刹那にして冷水は熱湯と化したのだ。
赤琉が七つの時に宿した鬼の力。『自分と周囲の温度を操り物質の形状を瞬時に変える』能力だ。
ぐつぐつと煮立つ湯船のなかで、すやすやと気持ちよさそうに眠る赤琉。……を見守る俺。赤琉が自分で変えた温度に本人は影響されないから火傷の心配はない。けれどもそこで沸騰している水は紛れもない本物だ。俺が触れると一溜りもない。“少なくとも赤琉が目覚めていない今は、俺も赤琉の能力の攻撃対象内”。今は風呂場に誰も入って来れないように見張って、見守るだけ。少しすると、赤琉は少しづつ目を開いて俺と目を合わせた。
「……おにい」
「どうだい?湯加減は。ま、俺にはどうしようもねぇから自分で調節してくれ」
「……うん」
寝ぼけまなこの赤琉は可愛さで天下一を取れるほど可愛い。四郎は論外として、それ以外の兄弟は割と共感してくれるから良い奴だ。でも赤琉が懐くようになったらいけないから油断は禁物。特に八咫郎……あいつは俺がほんの少し目を離した隙にすぐちょっかいをかけたがるからあいつの前では一寸たりとも目が話せない。悪気がないのはよく分かるが……。
ついさっきまでぐつぐつと煮立っていた湯船の湯は、赤琉が温度を『下げた』ことによっていい具合になったようだ。この能力のおかげで俺もいつもいい汗が流せるってもんだ。でも今は赤琉の体をさっさと清めて朝飯を食べに行かねばならないので、俺は服を着たまま湯船から出たがる赤琉の手を取って引き上げた。
「温まったろ?ほら、お兄が洗ってやるよ。全身くまなく」
「べつに、いい」
「ったく、おまえさんは……素直にお兄の言うことを聞きなさい。足ガクガクのくせによ」
「……」
「お兄のせいだって?あはは。その通りだぜ」
「……」
自らの小さな胸を両腕で抱きかかえながら、文句ありげに俺のことを見上げてくる。赤琉は静かなようでいてとても分かりやすいのだ。何も言わなくても瞳を見れば一目瞭然。たとえ文句があったとて、赤琉の沈黙は全て肯定。もちろん互いの信頼あっての行動だ。それに、赤琉は嫌な時はきちんと声に出す。昔それを無視して無理やり犯したことがあるが、一定期間全く触らせてもらえなくなり、かなり堪えた。それ以降俺は学んだ。この世の万物は、赤琉の『信頼』がなければ、赤琉に物理的に触れられないのだ。どの人間も物体も、空気も水も、鬼でさえ。赤琉の『許可』がなければ、触る前にこちら側の手が『蒸発』して雲散霧消してしまう。
「腕上げな」
「……ん」
湯船の湯をかけながら、全身を素手で洗ってやる。着物が濡れるのは気にしなくていい。あとで赤琉が乾かしてくれるから。後ろから抱きしめるように手足や胸やへそを撫でつける俺に、赤琉は何も言わずに大人しく従っている。さっきさんざん犯したばかりなのに、もう欲情しそうだ。酒はすっかり抜けたかな。
「よし、粗方流し終わった。最後は……」
赤琉を湯船の手前の座面に座らせ、足を開かせた。傷つけないよう様子を見ながら、膣の中に指を滑らせる。これを忘れたら一大事だ。というか体を清める目的の大半がこれである。中で出してはいないが、万が一ということもあるから、余計なものは全部出さなければ。
「さっき熱湯風呂に浸かったからとっくに死滅したとは思うが……一応な。我慢しろよ。おまえさんのためなんだから」
「……ん、……っぁ、おに、い……」
「あん?さっき死ぬほどイったってのに、まだ熱引いてねぇな?可愛い体しやがって。指挿れただけだぜ?」
試しにくいっと指を折り曲げて弱いところを一直線に突いてやれば、途端に体をビクつかせて俺の肩を掴んでくる。可愛いけど、今は精子を掻き出さないといけない。赤琉の反応は気にせず奥まで指を挿れ、中の粘液を優しく優しく撫でていく。俺の指で子宮口まで届くんだからなぁ、全部入り切らないのも当然だ。震えながら足を閉じようとする赤琉を押さえつけ、桶を使って湯を中に投入した。
「なんでこんなに執拗にやるかって?ここ、丁寧に洗わねぇと妊娠しちまうからねェ。赤琉は体が弱いから、きっとお産には耐えられねえ。だから、そうならないようにお兄の種をかきだしてるのさ」
「……ん、ふ、ぁ♡」
「ま、簡単な話、交合うのをやめりゃいいんだけど……でも俺は赤琉ともっといっぱい繋がりてぇし……気持ちいいことしてえんだ。赤琉もそうだろう?」
「……、ん、ん……♡」
「赤琉はお兄と交合うの、嫌かい?」
「……ぁ、ん……や、じゃない♡」
これはひとつの裏話だけど、同じ意味の質問でも、赤琉が否定しなきゃいけない聞き方をすると全て言葉にしてくれるから良い。
「赤琉はお兄のこと大好きだからなぁ」
「……ぅ♡」
満足できたところで指を抜いて、周辺をまた湯で流してやる。湯船にまた浸かりたいかと問えば、ふるふると首を振るので手を掴んで立たせた。
「ちなみに赤琉はこども、欲しいか?」
「……。……ほしくない」
小さな声だった。赤琉の声はいつも小さいが。
「なんで?」
俺の胸に手を当て、俺を見上げてくる。
「こなた、お兄だけでいい」
ずっとお兄とふたりきりでいたい?小さく頷く赤琉。溢れ出る笑みが堪えきれなくて抱きしめながら笑いかけると、「おにいきもちわるい」と言われた。俺の笑顔ってそんなに気持ち悪いかねえ。

風呂場から脱衣場に仕切りを跨いで一歩移動する時間だけで、赤琉の体はすっかり乾く。もちろん俺の服や髪に滴る水も、頼まれるまでもなく全て赤琉が『蒸発』させてくれた。なんと言ったって赤琉の能力の強みは、温度の変化に刹那程の時間しか必要としないこと。それも低温から高温まで自由自在。赤琉を本気で怒らせたら、きっと俺のからだ丸ごと蒸発させられてしまうな。
「さあさ、服着ようねェ」
「……」
用意していた新しい着物を赤琉の肩にかけ、袖を通す。帯を結んで、髪を手櫛で整えれば、あっという間に可愛い赤琉の出来上がり。
「おにい、ままみたい」
「世話焼きって言うんだよ」
「……。……えへ」
赤琉はよく笑うけど、声を出して笑うと世が平和になる。俺は脱衣場に置いていた刀を携え、赤琉の手を引いて城下に向かった。



「静六くんさぁ……そろそろウザイんだけど」
団子屋の前の長椅子で団子を食う三喜人を発見したので、やぁと手を上げて挨拶したらこれである。開口一番に罵倒されるとは思わず、無意識に鬼鉄刀に手が伸びた。
「なんだよ出合い頭に。やんのか!」
「やんねぇけど。……てか、もうやってきたんだろ?」
食いかけの団子の串で俺と赤琉を交互に指し示す三喜人。嫌悪感と呆れの混じった表情でこちらを見上げてくるもんだから、ああ、と声がでる。なるほど“ウザイ”という言葉の意味は理解した。そんなことよりも、俺の手を大切そうに両手で握る赤琉を、もう一方の袂で隠しながらにじり寄る俺。
「まさかとは思うが……覗いてたわけじゃあねぇよな?もしそうなら俺はおまえさんを斬らなきゃならねえ」
「ガチじゃん。朝からおっぱじめてんじゃねえよ。みんなが寝静まってからニャンニャンすりゃいいのによ……むず痒くて仕方ねぇんだよ、心臓が。お前の赤琉への寵愛ぶりはさあ……みんな思ってるぜ?ダリィ〜って、きっと……」
「なんだい、ひでぇこと言うぜ。なぁ赤琉」
「……」
俺たちの会話を聞いているのかいないのか、三喜人が美味そうに頬張る団子を見つめて、自分のお腹をさする赤琉。そうそう、朝飯を食いに来たんだ。世間話などはあとしにて、まずは団子を買ってやろうと店の旦那に声をかけた。
「三喜人。相席、いいかい?」
「良くないって言ったらどっか行くの?」
「でも赤琉がもう食べたそうだ。邪魔するぜ」
「聞いた意味ぃ」
赤琉を一番端に、三喜人と同じベンチに座る。赤琉は顔を綻ばせ、俺に背中を支えられながらさっそく団子にかじりついた。あくまでこれは店に入るまでの繋ぎ。団子のひとかたまりだけで口の中がいっぱいになり、慌ててもぐもぐする赤琉の様子を眺めて「美味いか?」と尋ねると、胸元に頭を擦りつけてくる。赤琉は甘えん坊なのだ。人前でもこうだから困る。
「ほらぁ、もうさぁ、距離からして違うんだよお前ら。兄と妹の距離感じゃねぇんだよそれ。いつからそうなんだ?」
「そりゃあ、生まれた時からだよ」
「へぇ〜……?よぉく覚えてるねぇ、そんな昔のことぉ。静六くんすごぉい〜」
どう考えても煽られている。そんなに不快な思いをさせていたか?確かに兄弟に俺たちの関係が知れ渡ったのは心臓の繋がりのせいだけど、俺が赤琉を可愛がるときの感情の揺らぎというのはそんなに分かりやすいものなのだろうか。でも、だからなんだという話になる。赤琉への愛は覆しようのない確かなものだ。俺にはどうすることもできない。三喜人だって四郎のことになれば周りが見えなくなるだろうに。それと同じだ。俺だけを批判しないでほしいものだ。
「そういやさぁ、赤琉?」
ふたりの間に挟まる俺の太腿に遠慮なく身を乗り出して、赤琉に声をかける三喜人。
「おーい、三喜人。俺の妹に話しかけんじゃねえ」
「シスコンはほっといてさぁ、五万里姉が赤琉に似合いそうな浴衣こしらえたぜ!ってはしゃいでたよ。だから今日あいつが帰ってきたら覚悟しな。今夜は寝れねぇかもな」
「なに!?俺はそんな話聞いちゃいねぇぜ!だめだめ、赤琉の着るもんは俺と赤琉で決めるってルールがあんのに!なに勝手に……」
「俺じゃなくて五万里姉に言いなよ。ていうか浴衣ごときでなに騒いでんの?キモ」
「キモって言うな!」
「事実じゃん」
「事実か!?」
「……」
三喜人を見上げながら、もぐもぐと二つ目の団子を咀嚼する赤琉。最後のひとつを残して俺に差し出してきた。
「……ん。ありがとさん。赤琉は五万里のじゃなくて俺と買ったやつがいいよな?」
「……」
赤琉は考えるような素振りをみせ、口の中のものをごくんと飲み込んでから、満を持して答える。
「どっちでもいい」
「なんだって!?考え直せよ赤琉!どっちでもいいこたねぇだろ!」
「だはは!フラれてやんの〜!愛があるなら本人の意思を尊重しろよバカヤロウ〜!はは!」
「なにィ?人をゴミみてぇに操るおまえさんに言われたかないねェ〜」
「はぁ!?何言ってんの!俺の愛の対象は四郎くんだけだしぃ」
店先だというのに思いっきり言い合いをする俺たち。そろそろ店主の旦那が文句を言いに来そうだ。

「……おにい。お蕎麦」
「今日はお蕎麦の気分か?分かった分かった、ここらで一番のとこ連れてってやるよ」
「え?お蕎麦?やったー。ゴチになるぜ」
「お前は着いてくんなよ」
「ええ〜?ケチ〜!なあ赤琉。俺も着いてっていいでしょ?」
馴れ馴れしい三喜人から隠れるように、俺の後ろにまわって俺の羽織りを握りしめる赤琉。恥ずかしがっているんじゃない、ただ幼いながらに警戒しているのだ。にこにこと自分の顔を指さす三喜人を、俺の脇下から見つめるばかり。このとおり、こいつは基本俺以外のやつとは口を聞かないから、俺が「どうなんだ?赤琉」と話を促したところでようやく口を開いた。
「……お兄と仲良くしないなら、いい」
三喜人はその言葉を聞いた途端、あはは!と笑い出した。
「相変わらずだねぇ、お前も。分かったよ、俺は四郎くんのこと探して四郎くんとご飯食べるから。なにもふたりの邪魔をしたいわけじゃあねえんだよ、俺も。じゃ、さよなら〜」
赤琉の頭……触れると『蒸発』して自分の手が消えるのを分かっているから、三喜人は赤琉の頭の上から少し浮かせたところを撫でるように手を動かし、俺たちの前から去っていった。
「俺に奢られたかっただけかい。さ、行こうぜ赤琉。俺もそろそろ限界だ」
「……」
三喜人の代わりに……と言ってはなんだが、しっかり頭に手を乗せてよしよしと撫でてやる。その手を自ら掴んで握る赤琉。こうして周りに人がたくさんいる時は、どこかしら俺に触れていないと不安になるらしいのだ。俺も同じだ。赤琉は自分の攻撃力も防御力も優れた超人的な能力に身を守られているとはいえ、本人はこんなにも小さくてか弱い。俺が守ってやらなければ。そうでなきゃ、黒い心臓と共にこの世に蘇った意味が無い。


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