安請け合い


直江兼竜と犬川静六
なんでもありの仲良し時空
切り捨て御免



「やあやあ直江兼竜くん、その説はどうも!」
月がてっぺんに登る頃、心地よい風の音をバッサリと斬り捨てるように突然男の声が鼓膜を殴った。飄々とした話し口調、返り血の目立つ白装束に、きらり煌めく金の鬼鉄刀、長い髪を後ろに束ねた……その男は幽霊だ。淡路島の合戦にて俺がこの手で葬った。しかし犬川静六という男はその程度では死ななかった。存外タフな男だったようだ。
「久しいねェ、傷は塞がったかい?俺もだ。ほら見てみろよ、おまえさんが死ぬ気で獲った俺の命、その日のうちに返してもらったぜ。残念だったねェ」
つい先日穴を空けられた土手っ腹を自らの手で太鼓のように叩きつけながら、その男は屋根瓦を割る勢いで一歩一歩こちらに近づいてくる。当然、気配を感じた瞬間から酒瓶は放り投げ、刀を構えて臨戦態勢を取っていた。ほろ酔いの中、ひとり静かに月見を楽しんでいたというのに、予想だにしない来客に肝が冷えるどころが心臓が大きく音を立てている。
この男とその連れは、仲間を大勢血肉に変えた。灰に変えた。鬼に組みする悪どい集団だ。
「犬川静六……!!」
もう逃しはしない。奇襲を仕掛けるどころかわざと声を掛けて存在を知らしめてくるとは、舐め腐ったその根性を叩き直すのも億劫だ。腑抜けのまま死ぬがよい。手足に力を込め、奴の斬撃を真正面から受け止めた。



「ところで直江兼竜くん」
「フルネームで呼ぶのをいい加減やめたまえ、犬川静六」
「あはは、おまえさんもね」


この男は言った。俺に一度殺されたことで心が入れ替わったのだ、と。これまで悪さをしていた自分が信じられない、と。これからは正義のために戦わせてくれ、と。
「だからよ、俺を上杉の仲間に引き入れてくれないかい?直江兼竜くん」
「あっはっは。虫唾が走る冗談だ。それで俺がウンと頷くとでも思ったか?」
「俺の鬼鉄刀の能力をお忘れかな?おまえさんの首をちょいと動かすことくらいお易い御用だ。試してみるかい?」
きらっきらに目を輝かせて手を差し出してくるものだから、胃の中のものを全部ぶちまけるかと思った。取り入って仲間になるという策は定石だからまあいいとして、志願理由がびっくりするくらい薄っぺらでなかなかにしんどい。笑わせようとしているのだろうか。胃の中のものを出すかわりに深い深いため息をついた。なんだ、こいつのこの緊張感のなさは。今なら箸でも殺せそうな気がする。
「残念だったな。我ら上杉武士団は血縁を何より重んじる。貴様は資格すら持ち合わせてはいないのだ」
「何を言うんだい。俺はおまえさんの遠い遠い親戚なんだぜ?だからかねェ、こんなに互いに導かれるのは……」
「でっ出鱈目なことを言うでない!き……気色悪い!」







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