「で、僕らは命からがら国を出て、ようやく祖国がいかにディストピアであったかを知ることになったンだ。以上。もう話はないよ。解散」
「いや、まだ気になることがある」
「……セツ、君がそんなにも他人に興味津々だとは思わなかったよ。そしてSQ、君はどうしてここにいる?」
「えー?えっと、ヒマだから?」
その日、会議終わりに通りかかった食堂で、船内の中でも極端に顔の似た二人組が静かに時を過ごしていた。それは二人が普段概念伝達を通してコミュニケーションをとるタイプの人間だから、というわけではなく、単に片方が眠っていたからだ。
私はチャンスと思い近づいた。些細なことでも、何がしか二人の情報を聞き出せれば、と考えたのだ。
この、銀の鍵に情報を与えるために。
「僕らが何故ルゥアン星系にいたのか……だって? セツ、いきなり現れたかと思えば、君はそんなことが知りたいのかい?」
「聞いてはマズかった……かな?私としては、世間話のつもりだったのだけど」
「僕らの中にグノーシアが紛れているかもしれないっていうのに、馴れ合いに来るだなんて随分と悠長なンだねぇ……あぁ、それとも探りにきたのか」
「警戒しないでほしいな。今は議論の最中ではないから」
「ま、僕としても情報交換をすることは無駄とは思わない。だけど、今はセキルが寝入っているところなんだ。騒ぎ立てたら承知しないよ」
「ああ、もちろん。ここ、失礼するよ」
テーブルには食事が並べられていた。食事をしないラキオが何故ここにいるのか疑問だったが、セキルに付き添っていたのだろうか。
「食事の途中……だったのかな。ラキオ、君はサプリを愛用していると言っていたっけ。しかしセキルは一般的な食事をするんだね」
「セキルは僕と違って物好きなンだ。何でも口にする赤子みたいなものさ。得体の知れないものにまで手を出すからハラハラしてしまうよ」
「ああ、Leviの出す料理は私でさえ興味をそそられる。それにしても、まだ半分以上も残っているのに眠ってしまうだなんて……よっぽど疲れていたのか」
「見事に処理落ちしたね。セキルの脳味噌は莫大な容量がある分、冷却処理を怠るとすぐにこうなる。特に食事なんかしたらそれだけで体温が上がるだろう。こうなることは判っていたさ」
「セキルはパソコンか何か?」
「そうだよ」
「そう……なの?」
「正しくはスーパーコンピュータだ」
「祖国ではグリーゼの国家機密に関する情報処理や、僕も出入りしていた国立研究所で色んな計算をさせられていたよ。毎日、毎日」
「国家機密……?」
「国で一番性能のいい機械よりも計算が得意だった。この頭の中には君の想像を遥かに超えるような情報が沢山詰まってる」
「ただ、セキルは自分の思考を整えるのが大の苦手でね。なんでかって言うと、幼い頃から『物事を分かりやすく伝える』っていう努力をしてこなかったからだ」
「そんなことをしなくても許されるくらい価値のある脳味噌なンだよ。それに、こちら側が的確に情報を読み取ればいいだけだしね。これが出来ない人間はグリーゼには存在しないけど……君には難しいかもね?……ああ、概念伝達においての話だよ」
セキルはあまり自分から喋らない。こちらから話しかけてようやく口を開いてくれるけれど、正直いつも言葉足らずで、なんとか紡ぎ出された言葉さえも支離滅裂で、毎度ラキオが通訳のように横から口を挟む始末。
音声伝達が極端に苦手なのだ、とループの度にラキオが甲斐甲斐しく説明してくれてはいたが、そういうことだったのかと今一度腑に落ちた。
「セキルの脳味噌は国家機密そのもの……ってことだろう? そんな存在が、何故こんなところに? ボディガードも付けずに」
「ボディガードならここにいるけど?」
「……ラキオが?」
「失礼な奴だね。確かに軍人の君にとっては僕は圧倒的に力不足かもしれないけど、僕以外にセキルの付き人は務まらない」
「まあ、出国許可が出るくらいには、ラキオは国から信用されているんだ?」
「出国許可なんてないよ。僕らは違法に国を出てきた」
「ええ?」
「セキルはもう、そういうのが許されないくらいに国の裏側を知ってしまっている。もはや国の所有物とも言える」
「ラキオは……そんな国の所有物を、どうして」
「君も軍人であるからには国の犬なんだろう?なら、君には察しがつくンじゃない?」
「単純な話。国に使い潰されそうになっていたから、僕が連れ出したンだ。それだけの話さ」
これは私が銀の鍵を得て、何度かループを繰り返した経験から確信した不変の事実なのだが……このラキオとセキルの二人は、いつも、いつでも、常に一緒にいるようだ。空間転移の時はさすがに各々の自室へ戻らざるを得ないようだが、グノーシア対策規定がなければベッドすら共有していたかもしれない。
そのレベルで、二人は親密な関係にあるようだ。おそらくは血縁関係なのだろうが……。
「結局、ラキオとセキルは家族なのか?外見はこんなにも酷似しているのに、なぜかそういうふうには見えないんだ」
「そういうふうって、なンだい」
「いや、その……」
「セツの言う『家族』というのが、世間一般的な血縁者という意味なら、その通りだよ。僕とセキルは正真正銘、同じ番の遺伝子を持つ兄妹だ。生物学的に言えばね」
「へぇ〜。まあSQちゃんは最初からピンと来てたけどね」
「もっとも、戸籍上は赤の他人だよ。人工授精をするには必然的に優れた遺伝子が選ばれやすい。そういった選ばれし種を一回限りで使い捨てるのは勿体ないだろう?だから、同血縁体の人間は複数いるのが普通。でも、造り手が同一人物とは限らない。卵子はともかく、精子は人体生成を望む者に分け与えても余りあるほどの数が作り出されるものだからね」
「僕らも当初は君たちの想像するような関係性ではなかった。知り合ったのもたまたまだし」
駆け落ちのようなものだ。
「二人の振る舞いはまるで……」
「僕らがなンだい」
「あー、正しい表現が分からない。これを言うと、不快にさせてしまうんじゃないかって……」
「そうもったいぶられるほうが不快なンだけど?」
セツが言い淀む横で、SQがピンと人差し指をたてた。
「ラブラブカップルっぽくね?て話でしょ」
「ああ、僕とセキルがそういう仲なのは認めるよ」
「え?」
「わー、SQちゃんびっくり!」
「ていうか、隠すまでもないだろ?この子、四六時中僕にべったりなンだから」
「僕にはそういった欲求はないけど、セキルは絵に書いたような恋愛感情を持ち合わせている。憧れているンだ。物語のヒロインみたいに。王子様なんかに夢を見ている」
「えー、可愛いじゃん」
「ま、僕はちっとも共感できないけど?その精神構造自体は理解してる。セキルがどれだけ僕のことを考えているのかってことも」
おや?これは……。
「あの子は僕が汎だからって遠慮しているようだけど、セキルの相手ができるのは僕以外には有り得ない。だから僕が相手をしてやらなくちゃならない。なんせあの子の全てを理解しているのは僕だけなンだからね。セキルの欲求を満たしてやれるのは僕だけだ」
「あっはー。超絶濃いめの惚気聞かされちゃった」
「惚気?違うね、ただの事実だよ」
「それを惚気って言うんだZE☆」
「……ララちゃん」
「ララちゃんって誰?」
「僕」
「え、ラキオ、そんなふうに呼ばれてるの?SQちゃんもそうやって呼んでい?」
「はぁ?僕がそれに頷くと思う?」
「ねー?ララちゃん」
「虫唾が走るからやめてくれない?」
「おっと、ごめんネ。そう呼んでいいのはセキルだけだもんね」
「……早く出ていってくれ」
「ここは一応公共スペースなんだが」
「なんか文句ある?」
「ああいや……。行こう、SQ」
「セツ、君は残るんだ」
「……?何か用かな」
「色々話してやったお礼にさ、この子を部屋まで運んでくれない?」
「ああ、もちろん。そういうことならお易い御用だよ」
「くれぐれも丁重に扱うことだね。今君の腕の中にある[[rb:それ > 、、]]の価値はもう話したろう?傷一つ付けようものなら、僕は君を末代まで呪うよ」
「もしその話を聞いていなかったとしても、乱暴になんてしないよ。ていうか、私が汎だと分かっていながら、そんなことを?」
「フン。皮肉に決まっているじゃないか。君自身が末代として、君らの家系に降りかかる怨念を一身に受けるンだよ。その方が強力だろう?」
「フフ」
「なにさ、その顔は」
「いや、微笑ましいなと思って」
「は?」
この二人や、他の皆が幸せに暮らせる未来を、私が護らねば。そう思った。