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『※※歴※※年の或る日、このルゥアンより遥か遠くに位置する※※星系のとある研究所が解体した。その研究所は国際宇宙安全法にことごとく反するような、重大な危険物を取り扱っていることで界隈では有名だったが、所在地の星はもともと知的生命体が存在しない荒れ地だった上に、国際警察の目も届かない果ての地に漂っていた小さな星だったので、これまで一度も検挙されることはなかった。
 無法地帯で行われる研究はまさに自由そのもので、研究員たちはモラルを早々を捨て去った。一般的な感覚を持つ人間ならば身も凍えるような凄惨な実験も数多く行われ、近年勢力を増しているあのグノーシアをも凌駕するような非人道的な何某かが、取り憑いて支配しているかのような恐ろしい場所だった。

 そんな研究所が呆気なくも解体したのは、遂に彼らの悪行が国際警察に見つかってしまったから……ではなく。
 半径百万キロにも及ぶ星々の生命体に影響を与えるほどの大規模な事故が起こり、研究員が全員死亡したからだった。
 事故、と表現したものの実際に何が起こったのかは未だ謎のままである。分かっているのは結果として研究所が機能停止し、存続不能となったこと。同時に、周囲に与えた影響もそれはそれは大きなもので、近隣の星でも不可解な死を遂げた生命体が多数発見された。現地の研究員が死亡したことにより情報統制もままならず、この騒動をきっかけとして、ようやく国際警察の耳に届く事態となった。

 国際警察は調査を行った。しかし、緊急事態に作動するよう設定されていた爆撃により、建物は実験物諸共全壊した後だった。有益な情報は何一つ得られず、現場は間もなく自然に還されることとなった。なんせ果ての地にある星系での出来事だったため、調査隊はその時何があったのかは神のみぞ知る、と結論付けた。

 ――――ただし、この調査隊は研究所が設立された当初から大いに関わっていた疑惑のある、グリーゼの人間によって結成されたものである。
 重大な情報が意図して隠された可能性が高いことは明確であったが、権威ある知能集団グリーゼ船団国家の調査隊により“解明不可能”と断定された事故を、外野から指摘できるほどの能力など、国際警察は持ち合わせていなかった。

………………
…………
……』



「なかなか興味深い記事を読んでいるンだね。あれ?君って文字が読めたのかい?初耳なンだけど」
「…………ラ」
「おはよう。順調に生命活動を維持しているね。あんまり静かだから死んでいるのかと思ったよ。あと、僕の名前はラキオだ。ラキオ。いい加減覚えたらどう?」
「…………」

 早朝、部屋を訪れると、それ、、は顔の下に敷いていたタブレットから目線をズラし、こちらを見やった。まるで生気のない目をしているけれど、これはこの子の平常運転なので特に気に止める必要はない。
「…………ラ、ラ」
 挨拶代わりなのだろう、言葉としての意味を成さない拙い発声をして、僕の名前を呼んだつもりでいる。この生き物とはもう三年ほど共に時を過ごしたが、この子が流暢に言葉を連ねるのは聞いたことがない。概念伝達

 この人間の少女のような体躯をした生命体は、どう頑張っても一文字しか喋れないらしく、ラキオにとってはどう頑張っても意味の無い言葉にしか聞こえないけれど、こんなやり取りももう数ヶ月ほど続いている。




「𝕷𝕴𝕸𝕴𝕿 𝕺𝖁𝕰𝕽」

目をまんまるにして#名前#を見つめた。

「あははっ、なんだ、喋る気がないだけなんじゃないか。君にもそこそこ知能があることは分かっていることだしね。だったらどうしていつまで経っても僕の名前が言えるようにならないンだい?」
「……」
「それとも、名前を口にするということが、何か重大な意味を持つのかな?」
 #名前#は頷いた。
「ふーん。」



「」



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