「そういえばね、スグリくん。今日アカデミーにチャンピオンのあの子がいらしたの。特別授業の先生として」
「……」
「初々しい感じで教壇に立ってて、可愛かったなぁ。あんな子が実はすっごいバトルが強いだなんて、ギャップ萌えかも」
「……」
ノーコメント。
セキルはあれから順調に単位を集めて、このまま出席を続ければ今年中には卒業できるようになるらしい。そんな今年もあと二ヶ月ほど。おれたちはセキルの卒業を待って、今のところは彼女の育ったアローラか、パルデアに近いカロスへ移住する予定だ。ちなみに、おれの認識としてはぶっちゃけ彼女とは結婚を前提にお付き合いをしている。ので、一緒に暮らす以外のことは一切考えていない。
おれは日中は相変わらず野良のトレーナーと戦ったり、少し腕を鳴らしたい時にはリーグに顔を出したりしている。まあチャンピオンランクなのに行き過ぎてそろそろ出禁になりそうな気配がするけど、あそこの四天王は強い上にノリが良いからつい……。
今は既に宝探しの期間が終わり、セキルは日中はほとんどアカデミー内で過ごすようになった。外出については母校のブルーベリー学園ほど厳しくはないようで、夕方以降はほとんど毎日おれに会いに来てくれている。休日以外は一緒に寝れないのが地味に辛い。おれはもう既にセキルにゾッコンみたいだ。
そんな彼女と過ごす夜の時間は貴重なもので、おれはセキルの話ならどんなものでも聞いてあげたいと思うんだけど、たまーにこうしてチャンピオンさまの話題になることもあり、そういう時だけおれは無口になるのであった。
「私ね、スグリくんが誰かとバトルするところ見るの好き。だけど、いっつもすぐに勝っちゃうから、最近はつまんないなぁって」
「そりゃ、どうも……」
「だから、一度でいいからスグリくんが負けるところも見てみたいの」
「……おれは負けるのが大嫌い。だから、それは嫌味な話だべ」
「スグリくんがチャンピオンと戦った時の映像とか、残ってたらいいのに」
「……」
セキルに悪気がなくて、純粋な好奇心からそういう発言をしているというのは分かるけど、そろそろやめてほしいかも。おれももうこんなことでバチ切れするような子供じみた精神は持っていないが、それでもすこ〜しイライラすることに変わりはないのだ。
今だけはセキルが言うことを話半分に聞き流しながら、テーブルシティの街角の席に頬杖をついてスマホロトムを操作する。そんなおれの態度は気にもせず、セキルはただおれといるだけで楽しそうに、さっきおれが奢った特大クレープを頬張っている。なんだ、このいきものは。めんこいな。写真とったろか。
「あ、噂をすれば……」
その時、セキルが真横を向いて何かに気がついた。……噂をすれば?その言葉にわや嫌な予感がして、ゆっくりと上半身をあげる。セキルはおれの反応を待たずに既に立ち上がってどこかへ歩き出しており、遠慮もなくその“噂”の人物に声をかけていた。
「……」
相手の顔が目に入るなり、おれはゲンナリして即座にテーブルに突っ伏した。右腕で頭を抱えるように腕枕をつくり、左手は変わらずスマホロトムを操作する。知らんぷりだ。
「アオイ先生、ごきげんよう。本日アカデミーの特別授業に参加しておりました、セキルです。覚えていらっしゃいますか?前の方の席に座っていたのだけど」
「ああ、セキルさん!もちろん覚えてます!なんだかすっごい私の話をじっくり聞いてくださって、嬉しかったです。緊張していたので……変なこと言ってなかったか、不安で……」
「まあ。アオイ先生のお話はとてもためになったので、終始楽しめましたのに。今はテーブルシティへお買い物に?」
「そうです!買い出しと、プライベート用のお洋服も見たくって……ほら、普段スーツばかりじゃ飽きちゃうから……」
そういやセキルって初対面の時カチコチの敬語だったっけ。思い出すと感慨深いな。今はもうすっかり打ち解けたから。
「……スグリ?そこで、何してるの?」
「……」
くそ、気づかれた。
「もうチャンピオンランクになったんだし、パルデアに用はないんじゃ?……とっくに別の地方に行ってるのかと思ってた」
「アオイには関係ないべ」
「んー、まあ、関係ないかもだけど」
「セキル、ごめんな、また明日」
これ以上セキルの前で何か言ってしまわないよう、あまり顔を見ないようにしてその場を後にした。が、セキルは慌てたように「ま、待って!」とおれを追いかけてくる。
どうせこのあとすぐ、それぞれの寮とホテルに別れることになるんだから、そっちを優先すればいいのに、健気で優しい子だ。どこかの誰かとは大違い。
「待って、スグリくん、急に行かないで」
「おれはいいから、アオイと話してきなよ。二人のが年近くて話も合うべ」
「スグリくん……!」
「……どうしてそんな顔するの?」
「はぐらかされると思って今まで聞かなかったけど、スグリくんがどうしてそこまであの子のことを毛嫌いしているのか、私にはちっとも分からないの」
「何か理由があるんでしょう?私、知りたい。スグリくんのことなら全部、知った気でいたいの」
「……無理に話さなくてもいいから。でも、ずっとそんな態度でいるなら、私もスグリくんに隠しごとしやすくなっちゃうよ」
「ああ、今日それとなくあいつの話をしてたのは、それ聞きたかったからなんだ?」
「……」
「ごめんな、こうして不安にさせて。でも陰気臭い話だし、セキルも興味ないと思って……それで今まで話さなかっただけ、だから」
「今日はもう遅いから、また明日でもいい?」
「うん。明日じゃなくても、私はいつでもいいの。スグリくんのお話聞けるなら……」
「セキル、ありがとう。おやすみ」
「……」
「初々しい感じで教壇に立ってて、可愛かったなぁ。あんな子が実はすっごいバトルが強いだなんて、ギャップ萌えかも」
「……」
ノーコメント。
セキルはあれから順調に単位を集めて、このまま出席を続ければ今年中には卒業できるようになるらしい。そんな今年もあと二ヶ月ほど。おれたちはセキルの卒業を待って、今のところは彼女の育ったアローラか、パルデアに近いカロスへ移住する予定だ。ちなみに、おれの認識としてはぶっちゃけ彼女とは結婚を前提にお付き合いをしている。ので、一緒に暮らす以外のことは一切考えていない。
おれは日中は相変わらず野良のトレーナーと戦ったり、少し腕を鳴らしたい時にはリーグに顔を出したりしている。まあチャンピオンランクなのに行き過ぎてそろそろ出禁になりそうな気配がするけど、あそこの四天王は強い上にノリが良いからつい……。
今は既に宝探しの期間が終わり、セキルは日中はほとんどアカデミー内で過ごすようになった。外出については母校のブルーベリー学園ほど厳しくはないようで、夕方以降はほとんど毎日おれに会いに来てくれている。休日以外は一緒に寝れないのが地味に辛い。おれはもう既にセキルにゾッコンみたいだ。
そんな彼女と過ごす夜の時間は貴重なもので、おれはセキルの話ならどんなものでも聞いてあげたいと思うんだけど、たまーにこうしてチャンピオンさまの話題になることもあり、そういう時だけおれは無口になるのであった。
「私ね、スグリくんが誰かとバトルするところ見るの好き。だけど、いっつもすぐに勝っちゃうから、最近はつまんないなぁって」
「そりゃ、どうも……」
「だから、一度でいいからスグリくんが負けるところも見てみたいの」
「……おれは負けるのが大嫌い。だから、それは嫌味な話だべ」
「スグリくんがチャンピオンと戦った時の映像とか、残ってたらいいのに」
「……」
セキルに悪気がなくて、純粋な好奇心からそういう発言をしているというのは分かるけど、そろそろやめてほしいかも。おれももうこんなことでバチ切れするような子供じみた精神は持っていないが、それでもすこ〜しイライラすることに変わりはないのだ。
今だけはセキルが言うことを話半分に聞き流しながら、テーブルシティの街角の席に頬杖をついてスマホロトムを操作する。そんなおれの態度は気にもせず、セキルはただおれといるだけで楽しそうに、さっきおれが奢った特大クレープを頬張っている。なんだ、このいきものは。めんこいな。写真とったろか。
「あ、噂をすれば……」
その時、セキルが真横を向いて何かに気がついた。……噂をすれば?その言葉にわや嫌な予感がして、ゆっくりと上半身をあげる。セキルはおれの反応を待たずに既に立ち上がってどこかへ歩き出しており、遠慮もなくその“噂”の人物に声をかけていた。
「……」
相手の顔が目に入るなり、おれはゲンナリして即座にテーブルに突っ伏した。右腕で頭を抱えるように腕枕をつくり、左手は変わらずスマホロトムを操作する。知らんぷりだ。
「アオイ先生、ごきげんよう。本日アカデミーの特別授業に参加しておりました、セキルです。覚えていらっしゃいますか?前の方の席に座っていたのだけど」
「ああ、セキルさん!もちろん覚えてます!なんだかすっごい私の話をじっくり聞いてくださって、嬉しかったです。緊張していたので……変なこと言ってなかったか、不安で……」
「まあ。アオイ先生のお話はとてもためになったので、終始楽しめましたのに。今はテーブルシティへお買い物に?」
「そうです!買い出しと、プライベート用のお洋服も見たくって……ほら、普段スーツばかりじゃ飽きちゃうから……」
そういやセキルって初対面の時カチコチの敬語だったっけ。思い出すと感慨深いな。今はもうすっかり打ち解けたから。
「……スグリ?そこで、何してるの?」
「……」
くそ、気づかれた。
「もうチャンピオンランクになったんだし、パルデアに用はないんじゃ?……とっくに別の地方に行ってるのかと思ってた」
「アオイには関係ないべ」
「んー、まあ、関係ないかもだけど」
「セキル、ごめんな、また明日」
これ以上セキルの前で何か言ってしまわないよう、あまり顔を見ないようにしてその場を後にした。が、セキルは慌てたように「ま、待って!」とおれを追いかけてくる。
どうせこのあとすぐ、それぞれの寮とホテルに別れることになるんだから、そっちを優先すればいいのに、健気で優しい子だ。どこかの誰かとは大違い。
「待って、スグリくん、急に行かないで」
「おれはいいから、アオイと話してきなよ。二人のが年近くて話も合うべ」
「スグリくん……!」
「……どうしてそんな顔するの?」
「はぐらかされると思って今まで聞かなかったけど、スグリくんがどうしてそこまであの子のことを毛嫌いしているのか、私にはちっとも分からないの」
「何か理由があるんでしょう?私、知りたい。スグリくんのことなら全部、知った気でいたいの」
「……無理に話さなくてもいいから。でも、ずっとそんな態度でいるなら、私もスグリくんに隠しごとしやすくなっちゃうよ」
「ああ、今日それとなくあいつの話をしてたのは、それ聞きたかったからなんだ?」
「……」
「ごめんな、こうして不安にさせて。でも陰気臭い話だし、セキルも興味ないと思って……それで今まで話さなかっただけ、だから」
「今日はもう遅いから、また明日でもいい?」
「うん。明日じゃなくても、私はいつでもいいの。スグリくんのお話聞けるなら……」
「セキル、ありがとう。おやすみ」