11


セキルがアカデミーの卒業を二週間後に控えた今日。それも結構なイベントだけど、おれたちはそれよりももっと大きな一大イベントを三日後に控えていた。
他でもない、セキルの18歳の誕生日だ。家族以外で誕生日を祝う機会はほとんどなかったし、なによりおれと彼女が出会ってから初めてお祝いする誕生日でもあるから、失敗したくなくて前々から準備はしっかり済ませている。事前に本人から色々聞いてプレゼントは一緒に考えたし、セキルは食べるのが好きだからレストランやケーキも予約したし……。

しかし、正直本当に喜んで貰えるか不安だ。本人の口からは直接そういう話を聞いたことがないが、セキルが都会の金持ちの生まれというのは既に察しがついていた。つまり、おれみたいな田舎生まれの人間には想像もつかないような盛大な祝われ方をしてきたんじゃないかって、そう考えてしまう。
ブルーベリー学園にもいたっけな、同い年くらいなのにブランド物とか持ち歩いてる生徒。当時のおれは詳しくなかったから、それがどれほど高価なものなのかは想像するしかなかったが。そういう子は価値の見合わない貰い物をされても普通喜べないんじゃないか?やっぱり不安だ……。


「ご、ごめん、スグくん。私、アローラに帰らなきゃ」
「え?……アローラ?いつ?」

「今日の夜には出ないと間に合わないの」
「今日の、夜……!?いきなりだな?」

ていうか間に合わないって、何にだ?


「アカデミーの卒業式、どうすんだべ……」
「最悪出れなくてもいい。単位も出席日数も十分足りてるし、卒業はできるから……」


「事情はよく分かんねえけど、おれも行くよ」
「ううん、ダメなの。スグくんとは一緒にいけない」
「は……?なんで?」
「おねがい、スグくんはここでお留守番してて。私、絶対にパルデアに戻ってくるから。少しの間、会えないけど……おねがい」
「え、急に言われても納得できないって、そんなん」



「レストランとか、せっかく予約してくれたのに……楽しみにしてたのに……ごめんなさい。絶対に埋め合わせするから、ごめんね」



「セキル、おれ、隠しごとさ嫌いだ。セキルとセキルの周りのやつだけで、おれを除け者にしないで」
「……スグくん」
「セキル、おれのことならなんでも知りたいって言ってくれたよな。あれ、おれも同じ……おれだってなかなか自分のこと言い出せなかったけど」


「もしかして、セキルも何か、でっけぇもん抱えてんのか」

「ねえ、おれずっと聞きたかったんだ。あの日、セキルが暗い夜の森にいた訳。今のセキル見てるとさ、なんか怖くてたまんねぇよ」
「……」


「わかった。全部話すから、スグくんも一緒にアローラきて。本当はね、一人で行くの寂しかったの」
「うん……どこにでも行く、おれ」
「とにかく支度しなきゃ。一旦アカデミーの寮に戻って荷物まとめてくるから、スグくんも必要なものまとめて待ってて」



「これから一緒にアローラに向かうんだけど、条件があるの」
「条件?なんで、観光地行くだけなのに、そんな警戒さ敷かれてんだ」
「いいから聞いて!」


ひとつめは、何個か前の港からセキルとは赤の他人のフリをすること。
ふたつめは、たとえ赤の他人を装っていてもセキルと接触しないこと。

なんの意味があるんだこれ、と思ったが。飛行機や車を乗り継いで、いよいよ港から船に乗り込もうという時、おれよりわざと少し前を歩くセキルを出迎えるように、堂々と待ち受ける黒服がそこにはいた。
その人はまるで、実家のテレビで流れてたドラマとかに出てくるような、見慣れない風貌の体格のいい男で、見るからに何かを警護する人、という感じの雰囲気を醸し出しいた。その何かというのは……考えるまでもなく、セキルのことだろう。

「セキルさま。お待ちしておりました。お元気そうで何よりでございます」
「うん、久しぶり。向こうではお変わりなく過ごせていたの?私がいない間、何か事件とか、なかった?」
「いいえ。一同平和な毎日を過ごさせて頂きました。セキルさまのご好意のおかげです」

セキルは黒服と共に小さな船の室内へ入り、おそらくは同じ警護の人であろうもう一人の黒服の女性と合流した。たぶんあそこが外の景色も楽しめる一番いい席なのだろう。
もしこれが大型船なら当たり前のように個室で過ごしていたのだろう。同じ室内にいるのにあそこだけ空気が違う。幸いにもおれは他の乗客に上手く紛れて、セキルたちの会話がよく聞こえる席に難なく座ることができた。

「次の港に到着するまで、およそ一時間ほどと聞いております。……お飲み物を」
「ありがと」


「リーリエちゃんやグラジオくんは……元気かな。久しぶりにお会いしたいのだけど」
「あの御二方も変わらず、財団のために日々動いておられます。最近は業務も落ち着いているようで、セキルさまのお声かけがあれば、いつでもお会いしてくださるかと」
「そう……」


「お母さまはいつ頃いらっしゃるのかな」
「はい。まさに今日の夜、アーカラ島にご到着される予定です」
「ぎりぎりだったね。私が来るまでヒヤヒヤしたでしょ」
「いえいえ。セキルさまならば無事にご到着なさると思っておりました」
「そう?じゃあ、焦ってたのは私だけなんだ」


「明日の誕生日は、ずっと家に拘束されちゃうのかな」
「……おそらく。奥様はセキルさまの18歳のお誕生日を大変心待ちにされておりました」
「外出したいんだけど。ちょっとでもいいからさ」
「朝から夜まで、パーティのご準備やお移動も含めて予定が詰まっておりますので。その分、アローラきっての料理人が腕をふるったご馳走を楽しめますよ」

「でも、お母さまと食べる料理、美味しくないもん……」


「……パルデアのレストラン、楽しみにしてたのに」
「……どなたかとお約束を?」
「うん……向こうで知り合ったの」
「それはそれは……。私どもからお詫びのご連絡を差し上げましょう」
「いーの。自分でできる……」

その時、憂鬱そうにテーブルに突っ伏したセキルの目線が、さりげなくこちらに向いているのがわかった。
今の会話でだいたい察した。セキルの家の事情というか、今置かれている状況とか、何故急に帰らなければならなくなったのか。セキルもきっと今のをおれに聞かせるために黒服に対して色々質問を投げかけてくれたのだと思う。




11top