私が育てました


私が在籍しているブルーベリー学園には、バトルがとても強い男の子がいます。少し前まではその実力を隠していたのか滅多に人前に出てこなかったけれど、今の彼の活躍っぷりはもはや他人を寄せ付けないほど。
というのも、少し前にこの学園の由緒正しきビッグイベントであるブルベリーグが開催された際、そこで彼はめでたくも新たに何代目かのチャンピオンに君臨しました。全校生徒に存在を知らしめてからは、彼のことを知らない人など、この学園には一人もいなくなりました。もちろん私もその中に含まれます。

そんな彼……名前はスグリくんと言います。同じクラスで、いつも窓際の席に座っているのを見かけます。しかし、誰かと好んで話をしているところはあまり見たことがありません。
元々シャイな性格というのもあるらしいんだけど、強くなるために不必要な会話は極力排除し、常日頃からバトルの勉強に熱を注いでいる様子。私は授業中、斜め後ろの席から彼の後ろ姿をじっと観察するのが日課になりました。

今、彼が口を開くのは、彼の肉親の姉であるゼイユさんと先生たちを除けば、この学園の前代チャンピオンである私の他には存在しません。


「セキル。勝負さ、付き合って」

放課後、私の机まで一直線にやってきたスグリくん。その訛りの入った声を聞いて顔をあげると、彼は赤いグローブをはめた右手の上で、ボールをくるくる遊ばせていました。中のカミッチュ酔っちゃうよ。
私はあざとい感じで両手をあわせ、スグリくんを見つめました。前髪を全部あげている彼の良好な視界に入っているのが、今は私だけだと思うと、勝手に笑顔が出てきちゃう。

「スグくん。お誘いとっても嬉しいんだけど、私これから先約があって――」
「……おれより優先すること?それ」
「え?えっと、えっと」
「今日だけは、お願い聞いてくれねえとセキルのことさ嫌いになる」
「……」

私はテキストを閉じてすぐさま立ち上がりました。落ち着いて説得をするためです。突然の横暴な発言に心の中では「な、なんで、なんで?そんなことで嫌いにならないでよっ」なんて慌てまくってしまったけれど、こういう時こそ冷静に対応しなければなりません。
いや、たとえ今のが冗談だったとしても、彼はいつも目がマジなので、ついつい本気で言っているみたいに聞こえてしまうのです。でも、真面目なことを言うとスグリくんには本当に嫌われたくない、本当に。

「卑怯なスグくん。そんなこと言われたら、こっち優先するしかないじゃん、もう」
「そう?よかった。今日はどうしてもセキルとバトルさしたい気分だったから、おれ」
「どうしても?」
「うん」

にへらと笑うスグリくん。その笑顔はまるで、自分の思い通りになることが当たり前と言わんばかりに自信たっぷり。正直好き。
それに、どうしても私とバトルがしたいだなんて、スグリくんにそんなことまで言われたら断れるわけがありません。実際、私は彼のお願いならどんなに大事な約束でも蹴っ飛ばす自信があります。そう、私たちはお互い自信たっぷりに微笑み合いました。なにこれ、たのしい。

「んで、先約ってなに?一応聞かせて」
「なんかね、今年委員会で一緒になった男の先輩たちに、用があるから体育館裏に来てねって。たぶんだけど、もしかしてさ、告白?かなぁ、えへへ」
「ふーん……。先輩“たち”、に?同時に?」
「そうなの」
「そっか。セキルは相変わらず忙しいな。バトルさしたいのはおれだけじゃねんだ」

呼び出しを受けた私自身が告白だと予想しているのに、スグリくんはバトルに誘われているだけだと言いたいようです。モテないって思われてるのかな。ふざけんな。
彼は少し考えたあと、言いました。

「……。んだば、セキルは先にバトルコート行って場所取りしてて。おれ寄り道してっから」
「どこ行くの?」
「どこって、準備体操しに」
「えー、一緒にやろうよ、そんなの」
「セキルが来たらわやなことになる、たぶん。おれ一人で平気」
「……私が行くと大変な準備体操ってなに?ていうか本当にどこ行こうとしてるの?」
「鈍感?セキルはさ、もうちょっと空気読んだほうがいーよ。ばか。せっかくおれがさ……」

なんか急に蔑まれた。スグリくんの、ドラゴンタイプを彷彿とさせる綺麗な黄土色のマジな目で射抜かれると、ふとした瞬間に矢が刺さるから困ります。本当になんでそんなこと急に言い出したのか、本当にわかんない。

「集団でリンチするようなやつら、どうせ放っといたらまたセキルに絡んでくる気ぃすっから。おれ行ってくる」
「ふーん?よくわかんないけどまあいいや、その寄り道?ってやつ終わったらすぐ来てね、スグくん」
「ん」

彼はさっそく教室を出ていきました。クラスメイトたちは今の私たちの会話をしっかり聞き届けていたようで、教室内ではざわざわ、ひそひそ、様々な会話が聞こえてきます。中にはスグリくんの後を追いかけるように歩き出す生徒もちらほら。けれど、彼らの話の内容は私の耳には届きませんでした。私は彼らのことがあまりよく認識できないからです。
それはさておき、このあとスグリくんとの楽しいバトルの予定が入ってしまったので、素早く支度をしなければ。机の上のテキストなどをまとめて廊下のロッカーへ押し込むと、さっそくバトルコートへ向かいました。

学園の中にあるだだっ広いバトルコートエリアに到着すると、放課後すぐにも関わらず、既に多くの生徒が自らのポケモンを繰り出して熱いバトルを繰り広げていました。全てのコートが埋まっているところを見ると、さすがこの学園にはバトル好きしかいない、と何故だかのほほんとしてしまいます。

「…………」

コートが空いていなくても心配はいりません。私は少し離れたところに立ち、しばらくの間、この中で一番強そうに見える人たちのバトルを観戦していました。そうしていると、いつしかどこかのコートに空きが出て、すぐに使えるようになるからです。
一応他に使いたい人がいないか確認してからコート入りするものの、誰もが空気を読むように、私の目の前の道を開けてくれるので、なんだかモーセにでもなった気分。
どうして私がこの場所に来るとこんな現象が起きるのか、私にはよく分かりません。この学園の七不思議にそういうものがあるのでしょうか?

「おまたせ。思ったより時間食ってさ」
「おかえりスグくん。ちょうどコート空いたところだよ。準備体操できた?」
「うん。始めよ」

合流した私たちはお互いに距離を取り、ボールを構えました。
それにしてもスグリくん、ただの準備体操をしてきたわりには、やけに息切れをしているような気がするんだけど……もしかして寄り道したあと走って来てくれたのかな?うれしい。彼の期待に応えたい。


以前までのスグリくんはバトルに今ほど熱中しておらず……いや、関心はあったものの、当人の自信の無さが邪魔をして、思った通りの実力を出せないでいたようです。前に彼の姉であるゼイユさんとお話をする機会があり、そう教えてもらいました。
しかし、数ヶ月前……ここから遠く離れたパルデア地方のとあるアカデミーと合同で林間学校が行われた時。ゼイユさんと共に参加したスグリくんは、そこでとある女の子と出会い、現在のような戦闘狂に成れ果ててしまった、と。

私は“強い男の子”が大好きなので(もちろん性別関係なく強い女の子も大好き)、スグリくんが強くなったことに関しては純粋に嬉しく思います。ただ、強さを求めるようになったきっかけについて先日彼からふんわり話を聞いたら、どうやらあまりポジティブなものではなかったようで……。
今でも思い出します。スグリくんがめきめきと腕をあげて、閃光の矢の如くブルベリーグ四天王を打ち倒し、私の前に現れたあの時の感動と言ったら。でも、当時はそういう裏事情があることは知らなかったので、後になってなんだか複雑な気持ちになりました。

そんなことを考えている間に、楽しいバトルは一瞬にして終わってしまったようです。スグリくんはコート上に倒れ伏したオオタチを意味ありげに見つめながら、ボールに戻しました。

「セキル、もう一回」
「言うと思った。スグくん、バトル好きだもんね」
「おれが好きなのは、勝つことだけ、なんだけどな」

スグリくんのオオタチはずっと前からの仲間らしく、パーティにいない時も多々あるけど、選出された時は先鋒に出てくることが多い様子。今回も交代の末に再び最後に登場し、健闘しました。スグリくんは私とのバトルの中でも回を重ねるごとに様々な戦法を試し、試し、試し、より強い戦法を探ろうとしています。
そういう努力の仕方は大好き。特に、彼は毎度戦いながら着実に強くなっていくから、油断をするとまた負けてしまいそうで気が抜けません。

よしよし、と頑張ったポケモンたちを撫でておやつを与えながら、今回の反省点をみんなで話し合う時間も大切です。スグリくんはキズぐすりを使って自分のポケモンを癒すと、そうやって輪になって話をする私たちのそばまでとことこ歩いてきて、少し真剣な顔で言いました。

「……どうしたら本気さ出してくれんだ?」
「どういう意味?私たちはいつでも本気だよ」
「嘘バレバレ。手加減したよな、今」
「そう思った?」
「うん。今だけじゃなくて……この前だって、セキルはわざと手ぇ抜いた」
「この前っていつのこと?」
「……わかってるくせに。いじわる」

なんだか怖い顔をして詰め寄ってくるスグリくん。そんな彼に気押されて、とっさに私の後ろへ隠れる私のおくびょうなポケモンたち(かわいい)。
立ち上がると、問い詰めるような顔でじっと見下ろされてしまう。そんなに見つめられると恥ずかしいんだけど……怒りの中にもどこか寂しげな表情が混じっている気がして、気後れしてしまいました。でも、思ったことも言ってみる。

「そう言うスグくんはどうなの?」
「どうって?」
「スグくんこそ、今、本気出してた?」
「本気のセキルでなきゃ、本気でやる意味ないべ」
「そんなこと言う子に本気出すわけないじゃん。へんなの」
「……今のなんか攻撃力高すぎ」

あ、と思う。ちょっとばかし本音が出ちゃった。一拍遅れて、ボールを持った手で口元を隠す私。わりと嫌味な言い方しちゃった。清楚、清楚。
けれどもスグリくんは嘲るように、すかさず笑ってくれました。にへへって、口元だけ。相変わらず目はマジだけど。

「でもセキルの言う通りだな。セキルのそういうスパルタなとこさ、おれ好きだ。やる気さ出てきた」
「そ、そう?」どきどき。
「だからもう一回勝負して」
「えへへ、いいよ何回でもしよ」

ねえ聞いた?好きだって。えへへ。
スグリくんはやっぱり私をその気にさせるのが得意なようです。とはいえ。私たち二人だけでひとつのコートを占領し続けるわけにはいきません。さっきだって誰かが譲ってくれたのだから、使えるようになったわけで。
そこで私たちはもう一戦だけバトルしてから、一旦休憩を挟むことにしました。小腹も空いてきたことだしね。


私たちは疲れたポケモンを回復させるべく、学園内のポケモンセンターへ並んで歩いて向かいました。その途中、購買を通り過ぎようとした時にふと目についたお菓子に気を取られ、ふらふら〜っと店内に吸い寄せられた私。
スグリくんは少し遅れてそれに気づいて、でも呆れたようについて来てくれました。

「スグくん、スグくん。これおいしそうだよ。一緒に食べようよ」
「……いいけど」
「スグくん、買って?」
「セキルのがいっぱいお金持ってんだから、自分で買えば」
「も〜、スグくんったら」

モテない男の子みたいなこと言ってる。そう言いつつ「いくらするの、それ」と値段を確認してくれるところ、好き。で、こういう時わりと結構な頻度で買ってくれるところも好き。それでそれで、自分の買い物ついでだから、なんて言い訳しつつレジに向かうとこ、大好き。

彼の良さがわかっているのは私だけだと思っていたのに、最近はそうも言っていられません。なぜなら……私が“強い男の子”が好きなばかりに、ある時期からなぜか執拗に仕掛けられまくった彼とのバトルを断るに断れず、回数を重ねる度に着実に強くなっていくスグリくんにすっかり惚れてしまって……挙句の果てにはうっかり足が滑ってチャンピオンの座から引きずりおろされてしまったから。
敗因はたぶんスグリくんのことばかり考えすぎてちょうど寝不足のピークだったからだと思っているんだけど、そんなことより!

スグリくんはチャンピオンになるまで目立った戦績がなく、中の下くらいからの目まぐるしい怒涛の追い上げを繰り広げた上での新チャンピオンというわけなので、どうしても学園中から注目度が高まっているようです。
以前までの私がそうだったように、授業の時も授業以外の時にも、色んな子からケンカをふっかけられるようになり、その度に着実に勝ちを収め続けていくから、突然顕になった彼の隠れた実力に、今では熱狂的なファンまで現れました。
中にはどんな時間どんな場所でいかにゲリラ的に始まったバトルだしても、必ず観戦しにくる過保護な保護者みたいなおもしろい存在まで。

噂によると女の子限定のファンクラブなんかもできたとかできてないとか……。私がチャンピオンだった時はそんなの無かったと思うんだけどな。そういえば、スグリくんは以前「元チャンピオンの親衛隊だったやつらが毎日絡んでくるからうんざり」なんてことを漏らしていたこともありました。元チャンピオンって誰のことだろう?
今のやさぐれたスグリくんのキャラは、逆に女の子たちの「悪いっぽい男の子が好き」というバカげた特性を刺激して、人気をかっさらっていきました。そういう子たちを分からせてあげるために、私は今日もスグリくんのそばから離れられなくなっています。あー困った困った。

「セキル、なんか距離さ近い」
「ちょうどいいくらいだよ」
「……少し離れてって言ってんだ、おれ」
「やーだ。素っ気ないの」

離れるどころか腕に抱きついて抗議を唱える私。いつもこうだから予想通りの反応だったのか、彼は心底面倒くさそうにしながら、空いているほうの手を使ってちょっと乱暴な手振りで自身のバンダナを外しました。さっきのバトルで崩れた髪を直そうとしたのでしょう。

「……セキル、おねがい」
「スグくん、前髪伸びたね。かっこいい」
「……」

スグリくんはその、顔を隠すほどの長い前髪を手でかきあげて、ダメだこりゃという顔をしました。こういう時でも乱暴に振り払わないところ、かなり好き。
バンダナを片手で器用につけ直し、いつもの良好になった視界で、やはり周囲を気にするように一度後ろを振り返るスグリくん。すると、知り合いでもいたのか「あちゃあ」と言って、見なかったフリをするように素早く前を振り返りました。

「おれ……あの人たちの相手さ、したくないのに。弱いから」
「あの人たちって?」
「……どっかの誰かの親衛隊。こないだも変な絡まれ方されてさ」
「?あー、本当に誰?よくわかんないけどかんばれ」
「……。あのな……弱いってだけで憧れの人に認識されないの、結構辛いんだ、これ。かわいそう、あの人たち……まあいいや」
「?」
「結局、弱いのが悪いんだから」

スグリくんはよく分からないことを言い、遂には我慢ならなくなったようです。私がしがみついていたジャージの上着からするする〜っと両腕を抜いて、それをまんまと脱ぎ捨ててしまいました。策士だ。そして私の腕の中にはスグくんの上着だけが残りました。もしかして、私にくれるの?ありがとう。
スグリくんの代わりと思って大切にぎゅう、と抱きしめ、すぐに先へ行く彼の隣へ小走りで追いつく私。これふわっとスグくんの香りがして、結構好き。かなり好き。でも隣のスグリくんはジト目で私を一瞥し、返せと言わんばかりに強引に奪い取ってしまいました。なーんだ、くれると思ったのに。

「セキルはさ、どうして人前でそんなに堂々としてられんの。純粋なぎもん」
「強くあろうとしてるからだよ」
「あの時、おれにわざと負けたのに?」
「それさっきもいってたけど、もしかして前回のブルベリーグの時の話?」
「それしかないべ。おれがセキルに勝ったのそん時だけだ」
「えー、わざとじゃないってば。防衛戦でやっとスグくんと戦えるのが嬉しくて、その日全然眠れなかっただけ」
「やっぱ本気の全力じゃなかったんだ。悔しい。むかつく」

スグくんが私のせいで感情を顕にしてるの、かなり好き。

私たちはその後またバトルコートへ戻ってきて、何度かフルのシングルバトルで戦いました。勝敗は数える必要がなかったので数えていません。スグくんは私の本気を引き出そうと必死になっていたけれど、私は必死なスグくんを見守るのに必死でそれどころではありませんでした。
そして、もう就寝時間も近いのに程よく周囲に人が集まりきった頃、疲れたポケモンたちのことを考えてそろそろ切り上げることになりました。まだ終わりたくないのか、その場で寝転がって天井を仰ぎ始めたスグリくん。私は使い終わったバトルコートの整備をしつつ、見てくれていた皆さんに寮に帰るように促します。
これをやらないと先生に怒られるのは遅くまでバトルをしていた私たちなので。

「スグくん、帰ろ」
「……」

無言のスグリくん。そのまま寝てもおかしくないくらい大胆に大の字で寝転がるスグリくん。と、バトル後で構ってほしいのかその周りをぴょんぴょん動き回るオオタチ。
戯れてるのかわいいけど、彼が帰らない限り帰ろうとしない保護者面ファンがコート外のすぐそこにいることを考えると、早く立ってほしいです。早く。立ってくれないなら、私一人で喋っちゃうぞ。

「私ね、スグくんがどんどん強くなってうれしい」
「……」
「強いスグくん、好き。まースグくんのことはずっと前から好きだったけどー。……あれ、なんで前から好きだったんだっけ?実はそこまで好きじゃなかったかも?」
「……」

もー私ってば、よわよわだった時代の彼を全く認識していなかったから全然覚えてない。

「でも、今の強いスグリくんが好きなんだから、なんでもいっか!」
「……」
「でも、林間学校中にスグくんをこんな形で変えさせた例の女の子のことは、許せないの。それは私の役目だったのに。今度私がコテンパンにしてやる」
「それはおれがやる」
「わあ、びっくりした。返事無いから話聞いてないのかと思ってた」
「えー、ひとりごとだったんだ、今の」

なに、あの子の話を振った途端急に返事してくれちゃって。そんなにあのパルデアのチャンピオンに夢中なの?白々しい目を向けると、スグリくんはそんな私にちょっと笑って、「今日はもう疲れた……」と呟きました。
のっそりと起き上がって、かったるそうに立ち上がり、そして、ポケットに両手を入れてすたすたと去っていこうとする。えーん、この人コートの整備手伝わなかったくせに先に帰ろうとしてる。
もちろん後をついてく私。その足音を聞いて、振り返りもせず話を続けるスグリくん。しょうがないんだから、もー。

「実際に今度さ、この学園に交換留学に来るらしいけど……アオイはおれがやる。アオイなら四天王も余裕で倒しちまうべ」
「スグくんは、チャンピオンだから、そんなに張り切ってるの?それとも、スグくんの私怨的なのもちょっと入ってるんじゃないの?」
「おれはアオイのことさ怨んでるわけじゃないよ。ただ倒したいだけ」
「……」

この間ふわっと聞いた話では彼女にのけ者にされたらしいけど、そんなことはもう気にしてないんだ。少なくとも彼本人はそう主張しているようです。私の目にはそうは映らないけれど。
でも、強い子に注目してしまう気持ちは私には充分に分かるから、話半分に聞いておくことにします。

「だからさ、アオイのことはどうでもよくて。それより、セキルはおれの相手だけしてたらいーよ」
「……スグくんの相手だけ?」
「ん。セキルが他のやつらにかまけて万が一おれ以外に負けたりしたら、わりと幻滅する」
「……」え?それって嫉妬?
「今日ちょっと思った。セキルはもう、おれ以外と戦っちゃだめだ。今日まで受けてた誘いとか、今後は全部断ってな」

……え?なんかよくわかんないけど、スグリくんが嫉妬している……?え、なんかよくわかんないけどうれしい……。
私が他の人とバトルするの、やなの?もしかして、これまでも私たちが二人でいる時にふっかけられたバトルを、いつも全部スグリくんが一人で相手しちゃうのって……そういうことだったの?今日だって、私が行こうとしていた告白(?)のお呼び出しを代行してくれたのも、そういうこと、だったの?
弱い子ならべつにどうだっていいんだけど、強い子まで持ってっちゃうから実は不満に思っていました。思っていたけど、そういうことなら話はべつだ!
だってそれって、言っちゃえば私とのバトルを自分だけで独占したいってことでしょ?え、なに、急にそんなデレられたら、困る、かなり困る(困らない)。

「ずっと安心してたんだ、おれ。セキルはおれたちの学年さ低い時からずっと学園のトップで、孤高の存在で、憧れの人だったから。強くなるって決めた時、あの不動のチャンピオンは絶対最初におれが倒すって、思ったからさ」
「……え、急にどうしたの?」
「おれがようやく四天王を倒すまで、ずっとそのままでいてくれて嬉しかった。セキルはおれが最初に存在を知った時から、何ひとつ変わらないから、その安心感がさ……なんて言うか、わやすごい」
「えっと、あの……」
「な、明日からもさ、おれとだけバトルさいっぱい付き合って、もっとおれのこと強くして。セキルだけはおれの憧れのままで……そばにいてな。そしたらセキルのこともっと好きになる」

あんまりにも急に語り出すから、耳が追いつかなくて目がちかちかします。脳みそが無事にキャパオーバーになり、廊下でちょっと立ち止まってしまいました。それでもなんとかスグリくんの今の言葉を頭の中で何度も何度も反芻させる。そばにいて、って。そばにいて、だって。そんなの、そんなの。
私が立ち止まったことに気づいても、足を止めないスグリくん。高まる気持ちのままダッシュで追いつくと、そのままの勢いで後ろから飛びついてタックルをしかけました。「うわっ」とよろけて前かがみになったスグリくんの背中に全体重を預けて、ぐりぐりと顔面を押し付ける私。

「好き、好き。スグくん、好き」
「……ちょっと、セキル」
「私もスグくんのそばにいたい。もっと強くしたい。スグくん、も〜だいすき!」
「も、もうわかったから、ちょっと、廊下は静かに」

おかしいな。私はスグリくんの強いところが好きだったのに、今ではもうスグリくんの全てが好きになってしまっているのかも。
何を言われてもスグリくんなら嬉しいとまで思っているのに、そんな人にもっと好きになっちゃうかもって言われたら、私の方がもっと好きになっちゃうかも!
嬉しくて調子に乗って「今日このままスグくんのお部屋にお泊まりしたいな」と言ったら、わやじゃ、校則があるから、だめ、と言われました。
じゃあ校則がなかったらいいの?今度生徒会長倒しに行ってこよ。あ、でもスグリくん以外とのバトル、たった今禁止されたところでした。困った……。


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