今日だけでジムを三つ制覇した。レベルの低い順に潰していっただけなので、何も難しい話では無い。それよりも問題なのが移動距離だ。モトトカゲがいなければこんな疾走感のある旅はできなかっただろうな。正直街から街へ走らせるのは楽しい。
ようやく新生ポケモンリーグの体制が整ったようで、各地に初々しい顔をした参加者であろう人たちを見かけたが、だいたいがアカデミーの制服を着た子供たちだった。かつてはこの中にあの顔もあったのだろうか。そう考えてすぐ、頭を振って別のことを考えた。
セルクルジム、ボウルジム、ハッコウジムとそれぞれ面倒なジムチャレンジと馴れ合いのようなバトルを終え、おれはバッジを三つ携えてテーブルシティに戻ってきた。本来なら次のジムに備えてカラフシティかチャンプルタウンに泊まろうと考えていたのだが、急遽予定が舞い込んできたので戻ってくる必要があった。正直断りたかったけど、電話口の向こうでテキパキと要件を告げられ、どうにも断れない雰囲気だったのだ。セールスだったらどうしようと思った。
「ごきげんよう、一昨日ぶりですね」
「あ、ど、どうも……」
一昨日、森の中で出会った彼女。セキルという女性。歳は分からないが……えっと、歳は分からないけど、たぶん年下か同い年くらいだと思う。あの時と同じように、今日も綺麗めなワンピースを優雅に着こなしている。
この間は暗い森の中だったからどうしても違和感があったが、こうして都会のど真ん中で見るとさすがにお似合いという他なかった。ていうかこの子、めんこい、かも。ニコッと笑う仕草とか、様子を窺うような上目遣いとか、わやめんこい。この人、相当な美人だ。一瞬誰かわかんなくてキョドってしまった。情けないおれ。
「その、さっそくだけど、レストランまでご案内しますね。今日はきちんと調べてあるので大丈夫です。私についてきてください」
彼女は
「昨日、パルデアの四天王の一人でもあるアカデミーのとある先生にご教授を受ける機会がございまして、美味しいお店がないか聞いてみたところここを紹介してくださったのです」
「今日は何をされていたんですか?」
「えっと……」
気まずい。
一昨日のお礼だからお代は気にするなと言っていたが、女性と二人きりというこのシチュエーションで気にならないわけがない。もし本当にご馳走してくれるにしても、男が女に払わせるなんてなんやかんやみたいなことをねーちゃんが言ってたような……。
いや、大丈夫だ、おれ。お金なら平気。そんな人には見えないが、もし何かの詐欺で最初からおれに払わせるつもりだったとしても、これまでのバトルで人から貰ってそのままにしておいた賞金が山ほど貯金してあるから。……え?おれ今から詐欺かもしれない人とごはん食べるの?
戸惑いながら、とりあえず当たり障りのないメニューを注文する。レストランなんて存在しないド田舎から出てきたばかりの頃は、注文することにすら慌てふためいていたが、イッシュ地方のジムを巡るうちにそういうのはとっくに慣れた。
ただ、今回は違う。今は女性が一緒にいる。それも、見知った関係のねーちゃんとかではなく、友だちとすら呼べない、初対面の女性だ。何が言いたいかというと、ド緊張してる……。どうしよ、おれ、どうしたらいい……?
「今日は……ジムさ行ったくらい、です。そのまんまここに直行してきたから……寄り道もなく……」
とりあえず質問に答える。料理が来るまでの間はお冷を飲む以外に何もできなくて困る。
「あっ、もしかしてシャワー先に浴びて来た方がよかったよな……ごめんなさい、ちょっと汗臭いかも……」
「いえいえ。気になりませんよ。それより、敬語、よければ外してください。私、たとえ初対面に等しくてもよそよそしいの嫌いなの」
「そう……?でも、セキルさんも……」
「それはまあ、最低限のマナーですから。もし気になるのなら、私も喜んで外します」
にこ。
「……」
「じゃあ、お互い話しやすいように話しましょう。慣れたら自由に変えてく感じで」
「う、うん、わかった……」
「ところで、私は今年で18歳になるんだけど、スグリくんはおいくつなの?」
慣れたらと言ったのに、急に馴れ馴れしく名前を呼ばれたので少しドキ、と緊張する。
「おれは今20……だから、セキルさんより二個上だ。いや、三つか」
「そう。年上なんだし、セキルって、呼んでもらってもいいんだよ?」
「……はあ」
なんか、急に距離感おかしくなったな?気にせいかな。普通はこんなものなのか?普段はバトル以外でまったく女性と関わらないから分からない……。
いやでも、よく考えたら男女関係なく呼び捨てで名前を呼ぶのがいつものおれなのに、どうしてか彼女のことは無意識にセキルさんと丁寧になっている……雰囲気が大人っぽいからだろうか?……同年代に見えるし、実際年下なのに?まあ、なんでもいいか。どうせ今日限りの関係なんだし……。
「……」
「ふふ、もしかして、あんまり女性とデートしたことがないのかな?」
「エッ」
「わかりやすいこと」
ふふふ、と柔らかく笑う彼女。これは間違いなくおれのことを笑っているようだ。途端に全身が熱くなって必死に否定した。ちがう、おれはバトルにしか興味ないから、そういうのは、ちがうから、とあわてて彼女を諌めるおれ。全然言い訳になってない。なにこの罰。おれ、何か悪いことした?
「でも、私も男性と二人きりでお食事なんて、初めて。おあいこだね」
本当か?信じられない。けれど、これが嘘でも本当でもなかなか芸達者な人だと思った。もしこれが嘘でも本当でも、おれみたいに経験のないやつは簡単に騙されていい気分になってしまう。やっぱり詐欺の人かもしれない。一昨日声かけないほうが良かったのかな……いやでも、あれで声かけなかったら罪悪感しか残らなかったし……。
ごちゃごちゃ考えたところで料理が運ばれてきたので、ありがたくも会話は一時中断された。パルデアに来たらさっさとチャンピオンランクになってさっさと帰ろうと思っていたので、思えばちゃんとした飯所で食事をしていなかった。せっかくのパルデア名物のお店なのだ、気分転換にはなるかもしれない。
目の前に座る彼女の目線を気にしながらも、おれは粗相のないよう持ち前のテーブルマナーを駆使して料理に手をつけた。
「ええっと、ごちそうさまでした……」
「はい。私も、ごちそうさまでした」
緊張感に包まれながら、適当な世間話を交えながらする食事はまるで話に聞くようなお見合いみたいだと思った。おれが勝手にそう思っただけ。彼女は会話を切らさないように気を配ってくれていた。それが終始居心地が悪かった。初対面で即座に打ち解けられる人のことは尊敬せざるを得ない。おれには出来ないことだから。
けれど食事は確かに美味しかった。紹介してくれたのは四天王の一人と言っていたっけ。じゃあ近いうちにおれが倒すことになる人だ。今日もこのあとは明日の対策をしなければ。
店を出る際、一応保守的な心構えで財布をカバンから取り出したが、予想通りと言うべきか、彼女は「私に払わせて」と笑って至極丁寧に断った。そして彼女は自らのカバンから高そうな財布を出し、高級感のあるデザインのクレジットカードで会計を済ませた。スマホロトムだけでなく、現金も持ち歩かないタイプらしい。都会っぽい。
「今日はわざわざ食事に付き合ってくれてありがとう。一昨日は助かりました。明日もジムに挑戦するの?がんばって、応援してる」
そう言って、彼女は去っていった。色々勘ぐってしまったけれど、結局のところ本当にお礼がしたかっただけのようで、本当におれはただ美味しい料理をご馳走になっただけだった。このあと何かあるわけでもなく、その場ですぐに別れて、お互いがそれぞれ帰路についた。なんだったんだろう。彼女は何者だったのか。
まあいいや、考えても仕方がない。生きてりゃこういうこともあるもんだ、とおれは適当に納得して、その日はテーブルシティのちょっといいホテルで足を伸ばした。もう二度と会わないと思ったから、スマホロトムに追加された彼女の番号を消すか消すまいか、一分くらい悩んで、やっぱりそのままにしといた。なんとなくだ。
ようやく新生ポケモンリーグの体制が整ったようで、各地に初々しい顔をした参加者であろう人たちを見かけたが、だいたいがアカデミーの制服を着た子供たちだった。かつてはこの中にあの顔もあったのだろうか。そう考えてすぐ、頭を振って別のことを考えた。
セルクルジム、ボウルジム、ハッコウジムとそれぞれ面倒なジムチャレンジと馴れ合いのようなバトルを終え、おれはバッジを三つ携えてテーブルシティに戻ってきた。本来なら次のジムに備えてカラフシティかチャンプルタウンに泊まろうと考えていたのだが、急遽予定が舞い込んできたので戻ってくる必要があった。正直断りたかったけど、電話口の向こうでテキパキと要件を告げられ、どうにも断れない雰囲気だったのだ。セールスだったらどうしようと思った。
「ごきげんよう、一昨日ぶりですね」
「あ、ど、どうも……」
一昨日、森の中で出会った彼女。セキルという女性。歳は分からないが……えっと、歳は分からないけど、たぶん年下か同い年くらいだと思う。あの時と同じように、今日も綺麗めなワンピースを優雅に着こなしている。
この間は暗い森の中だったからどうしても違和感があったが、こうして都会のど真ん中で見るとさすがにお似合いという他なかった。ていうかこの子、めんこい、かも。ニコッと笑う仕草とか、様子を窺うような上目遣いとか、わやめんこい。この人、相当な美人だ。一瞬誰かわかんなくてキョドってしまった。情けないおれ。
「その、さっそくだけど、レストランまでご案内しますね。今日はきちんと調べてあるので大丈夫です。私についてきてください」
彼女は
「昨日、パルデアの四天王の一人でもあるアカデミーのとある先生にご教授を受ける機会がございまして、美味しいお店がないか聞いてみたところここを紹介してくださったのです」
「今日は何をされていたんですか?」
「えっと……」
気まずい。
一昨日のお礼だからお代は気にするなと言っていたが、女性と二人きりというこのシチュエーションで気にならないわけがない。もし本当にご馳走してくれるにしても、男が女に払わせるなんてなんやかんやみたいなことをねーちゃんが言ってたような……。
いや、大丈夫だ、おれ。お金なら平気。そんな人には見えないが、もし何かの詐欺で最初からおれに払わせるつもりだったとしても、これまでのバトルで人から貰ってそのままにしておいた賞金が山ほど貯金してあるから。……え?おれ今から詐欺かもしれない人とごはん食べるの?
戸惑いながら、とりあえず当たり障りのないメニューを注文する。レストランなんて存在しないド田舎から出てきたばかりの頃は、注文することにすら慌てふためいていたが、イッシュ地方のジムを巡るうちにそういうのはとっくに慣れた。
ただ、今回は違う。今は女性が一緒にいる。それも、見知った関係のねーちゃんとかではなく、友だちとすら呼べない、初対面の女性だ。何が言いたいかというと、ド緊張してる……。どうしよ、おれ、どうしたらいい……?
「今日は……ジムさ行ったくらい、です。そのまんまここに直行してきたから……寄り道もなく……」
とりあえず質問に答える。料理が来るまでの間はお冷を飲む以外に何もできなくて困る。
「あっ、もしかしてシャワー先に浴びて来た方がよかったよな……ごめんなさい、ちょっと汗臭いかも……」
「いえいえ。気になりませんよ。それより、敬語、よければ外してください。私、たとえ初対面に等しくてもよそよそしいの嫌いなの」
「そう……?でも、セキルさんも……」
「それはまあ、最低限のマナーですから。もし気になるのなら、私も喜んで外します」
にこ。
「……」
「じゃあ、お互い話しやすいように話しましょう。慣れたら自由に変えてく感じで」
「う、うん、わかった……」
「ところで、私は今年で18歳になるんだけど、スグリくんはおいくつなの?」
慣れたらと言ったのに、急に馴れ馴れしく名前を呼ばれたので少しドキ、と緊張する。
「おれは今20……だから、セキルさんより二個上だ。いや、三つか」
「そう。年上なんだし、セキルって、呼んでもらってもいいんだよ?」
「……はあ」
なんか、急に距離感おかしくなったな?気にせいかな。普通はこんなものなのか?普段はバトル以外でまったく女性と関わらないから分からない……。
いやでも、よく考えたら男女関係なく呼び捨てで名前を呼ぶのがいつものおれなのに、どうしてか彼女のことは無意識にセキルさんと丁寧になっている……雰囲気が大人っぽいからだろうか?……同年代に見えるし、実際年下なのに?まあ、なんでもいいか。どうせ今日限りの関係なんだし……。
「……」
「ふふ、もしかして、あんまり女性とデートしたことがないのかな?」
「エッ」
「わかりやすいこと」
ふふふ、と柔らかく笑う彼女。これは間違いなくおれのことを笑っているようだ。途端に全身が熱くなって必死に否定した。ちがう、おれはバトルにしか興味ないから、そういうのは、ちがうから、とあわてて彼女を諌めるおれ。全然言い訳になってない。なにこの罰。おれ、何か悪いことした?
「でも、私も男性と二人きりでお食事なんて、初めて。おあいこだね」
本当か?信じられない。けれど、これが嘘でも本当でもなかなか芸達者な人だと思った。もしこれが嘘でも本当でも、おれみたいに経験のないやつは簡単に騙されていい気分になってしまう。やっぱり詐欺の人かもしれない。一昨日声かけないほうが良かったのかな……いやでも、あれで声かけなかったら罪悪感しか残らなかったし……。
ごちゃごちゃ考えたところで料理が運ばれてきたので、ありがたくも会話は一時中断された。パルデアに来たらさっさとチャンピオンランクになってさっさと帰ろうと思っていたので、思えばちゃんとした飯所で食事をしていなかった。せっかくのパルデア名物のお店なのだ、気分転換にはなるかもしれない。
目の前に座る彼女の目線を気にしながらも、おれは粗相のないよう持ち前のテーブルマナーを駆使して料理に手をつけた。
「ええっと、ごちそうさまでした……」
「はい。私も、ごちそうさまでした」
緊張感に包まれながら、適当な世間話を交えながらする食事はまるで話に聞くようなお見合いみたいだと思った。おれが勝手にそう思っただけ。彼女は会話を切らさないように気を配ってくれていた。それが終始居心地が悪かった。初対面で即座に打ち解けられる人のことは尊敬せざるを得ない。おれには出来ないことだから。
けれど食事は確かに美味しかった。紹介してくれたのは四天王の一人と言っていたっけ。じゃあ近いうちにおれが倒すことになる人だ。今日もこのあとは明日の対策をしなければ。
店を出る際、一応保守的な心構えで財布をカバンから取り出したが、予想通りと言うべきか、彼女は「私に払わせて」と笑って至極丁寧に断った。そして彼女は自らのカバンから高そうな財布を出し、高級感のあるデザインのクレジットカードで会計を済ませた。スマホロトムだけでなく、現金も持ち歩かないタイプらしい。都会っぽい。
「今日はわざわざ食事に付き合ってくれてありがとう。一昨日は助かりました。明日もジムに挑戦するの?がんばって、応援してる」
そう言って、彼女は去っていった。色々勘ぐってしまったけれど、結局のところ本当にお礼がしたかっただけのようで、本当におれはただ美味しい料理をご馳走になっただけだった。このあと何かあるわけでもなく、その場ですぐに別れて、お互いがそれぞれ帰路についた。なんだったんだろう。彼女は何者だったのか。
まあいいや、考えても仕方がない。生きてりゃこういうこともあるもんだ、とおれは適当に納得して、その日はテーブルシティのちょっといいホテルで足を伸ばした。もう二度と会わないと思ったから、スマホロトムに追加された彼女の番号を消すか消すまいか、一分くらい悩んで、やっぱりそのままにしといた。なんとなくだ。