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このパルデア地方から遠く離れたアローラの地に、ひとりの幼馴染がいる。
生まれた時から二十歳になるまで、故郷のジョウト地方や他の色んな地方で共に過ごした……正真正銘人生で初めてできた友人であり、唯一無二の親友。

何をするにも彼女がいないとダメだった。何をするにも、なまえと過ごす前提で毎日が構成されていた。
毎日のように同じところを旅して、同じジムを目指して……それから、毎日同じものを食べて、同じ話題で笑い合う。
お互い他にも友人はいたし、もちろん会わない日もあったけど、何かある度に一番になまえのところへ飛んでいったのは、ただの幼馴染と言うには巨大すぎる、とてつもない感情をこの胸の中に抱いていたからで。
それだけ自分の中で大きな存在だったし、当然のように、いつまでも一緒にいられるものだと思っていた。
……が、現実はそうにもいかない。

「ゆうえんち、すっごい楽しかったね〜。昨日の今日で付き合ってくれてありがと!チリちゃんって暇なん〜?」
「なまえに誘われたら行くに決まっとるやろ」
「ふーん。そんなに暇なら、お引越し手伝ってよ。私、アローラ行くからさぁ、来週動きやすい服で私のうち来てね」

その日、なまえはいつも通りだった。
いつも通りの様子で、突然そんなことを打ち明けられたのだ。

「アローラ?なんや急に……アローラって、あのアローラ?」
「うん。あのアローラ」
「旅行でも行くん?なら、チリちゃんも誘ってや」
「旅行やないよ。一人で行くの。チリちゃんはパルデアやろ?同じ感じで、私はアローラに住むの。一緒には行けないよ」
「……は?」
「せやから、チリちゃんとはしばらく会えなくなるね。さみしいね。思い出に写真撮っとこ。はいちーず。ああ……チリちゃん変な顔なっちゃった。まあいいか、これはこれで」
「待って、待って待って、なまえ、ちゃんと説明してくれん?アローラって、なに?うちは、てっきり……パルデアに一緒に残るんかと思って……」
「うーん、私はそんなつもりなかったけど?」
「え?」
「ていうか私、もう眠いし、さっさとおうち片付けなあかんから帰るね。チリちゃんばいば〜い。ちゅ」
「ちゅ、やないねん。は?」

うちはポケモントレーナーのチリ。幼馴染で同郷のなまえとイッシュ地方のゆうえんちに遊びに行って……別れる直前、衝撃的な告白を耳にしてしもた!告げられた内容に夢中になっていたうちは、一人で足早に去ってしまうなまえに気づかんかった……。って、納得できるか!そんなん!!
すぐになまえを追いかけて問い詰めたが、どんなに説得しても返ってくる言葉は同じだった。

「アローラでやりたいことがあるんよ。チリちゃんは、他にやるべきことがあるやろ。一緒には行けないよ」

それが、他でもないなまえの口から語られた言葉だったから。「いやや……」とか、「離れたないわ……!」とか、どんな悲痛な叫びが出てこようとも、結局のところ最終的には頷く他なかった。
ほら、チリちゃんってあの子の言うことは絶対やから。





「あら、チリさん。ちょうどいいところにいらして。ただ今お時間よろしいですか?少し、お話が」
「ん、トップ。今日は外回りやなかったんですか?」

今日も一日の終わりが近づいた頃、前方から聞こえてきたトップの声に足を止め、姿勢悪くポケットに突っ込んでいた手を引っこ抜いた。廊下の向こうからやってきたのは、このパルデアリーグの委員長であり、自分の上司でもあるトップことオモダカさん。
今日は一日留守にするから、ここでの業務は頼みます……みたいなことを今朝言われたような気がするが、当たり前のようにリーグにいるから首を傾げた。聞けば、用事が早く済んだから直帰せずに舞い戻ってきたのだそう。はーん、もう終業時間も近いのに律儀なお人や。
世間話もそこそこに、トップはさっそく本題に入った。

「それで、話というのは……ああ、そこの会議室を使わせていただきましょうか。立ち話もなんですし」
「はい。なんや、大事な話ですか?」
「それなりに」

それなりに?よう分からんけど真面目な話っぽい。そう思い、今度はサスペンダーのベルトに挟んでいたグローブを外して、両手にはめた。それから、シャツの袖もまくり直して、肩をほぐして……これでお仕事モードのチリちゃんの完成である。
正直に言うと、今日はもうリーグへの挑戦者を捌ききったところだったから、ほとんど終わった気でいたのだが。トップ直々にお呼ばれされては致し方ない。彼女に続いて会議室に入り、中の電気を付けて、自分も適当な椅子に腰を下ろしたところで……問いかけられた。

「アローラを訪れたことは?」
「あ、アローラ?」

初っ端から思わぬ単語の登場に、素っ頓狂な声が出た。

「はい、ここからはるか南方に位置する、アローラ地方です」

アローラ。そこは自分に縁もゆかりもありすぎる場所だ。まあ、ただ幼馴染が住んでいるだけなんやけど……もちろん会いに行くために何度か訪れたことがある。
幼馴染に関連する話題になると、すぐにテンションがあがるこの体。急に振られたために、かなり裏返った声が出たような気がしたが、トップは特に気にする様子もなく話を続けている。

「世界的に有名な観光地ですが、私は未だかの島々に足を踏み入れたことがなく……」
「なはは、確かにトップは暑いところ苦手そうですね」
「ええ……どちらかと言えば着込める地域の方が好みです。そういうあなたは得意なのですか?」
「あー、実は、かなり好きな方ですね」

少々個人的な理由で。
いやなに、幼馴染のことがなくてもアローラは好きだ。綺麗な海で泳ぐのは楽しいし、レジャースポーツなんかもよくやるし、自然に溢れるあそこは訪れるだけで気分が晴れる。
なんと言っても、あそこにはちょっと変わったディグダが生息しているのだ。手持ちのダグドリオが一番可愛いのは当たり前として、あのアローラリージョンの可愛い風貌にメロメロになったのは……チリちゃんだけやないはず。
まあ、幼馴染がいるからアローラが特別というのは事実だとしても。

「これまでに何度か旅行しましたけど……アローラがどうかしたんですか?」
「数年前、そこにポケモンリーグが出来たことは知っていますね?」
「ええ、もちろん。当時パルデアでも結構話題になった覚えが」

アローラのポケモンリーグか。真面目な顔で旅行先でも相談されているのかと思ったが、やはり仕事の話に繋がるらしい。
他の地方のリーグの情報収集は、トップとして欠かせない業務の一環。職場で最も近しい立場だからか、よく仕事の相談をしてくれる彼女だ。今回もそのひとつなのだろう。期待に添えるよう、真剣に耳を傾ける。

「アローラのポケモンリーグは世界的に見ても一番歴史が浅く、言わば一番『新しい』システムが導入されています」
「ふむ」
「ガラルのように、ポケモンリーグを興業スポーツとして発展させたところもあれば、パルデアのように、厳格な資格試験を課すところもあり……しかし、どの地方も挑戦者の腕を試すという点で本質は変わらない」
「ふむふむ」
「アローラはどちらかと言えばパルデアに近い方法で挑戦者の腕試しを行っているそうです。その名も『試練』という、昔から続く伝統行事を織り交ぜた、他にないシステム……そういう意味でもアローラリーグは『新しい』のです」
「あー、正確には……元々あった最後の試練が新しく出来たポケモンリーグに置き変わった感じって、うちは聞きましたけども」
「あら。よくご存知で」

ちょこっと横槍を入れると、トップが驚いたように視線を寄越してきた。過去何度かアローラを訪れた際に、なまえが自分語りをするようにペラペラ喋っていたのを聞いたことがあるから知っている。なんでも、手の空いた隙にのんびりゆっくり『島巡り』をしているのだとか。
島巡りというのは、パルデアでいうジム巡りのこと。アローラにはポケモンジムが存在しない代わりに、トレーナーは四つの島を巡って独自の方法で腕試しをする。余所者にとっては珍しいことこの上ないが、アローラの住民にとっては、それがはるか昔から続けられてきた伝統のやり方なのだ。……って、ジョウト生まれのなまえが言っとった。

「その一風変わった腕試し、是非とも一度この目で視察をしたいと……もしくは、直接この身で体験したいと思っているのが常なのですが」
「ほお」
「近頃は例の大穴の件もあり、臨時業務も大詰めで、手が離せない事柄が多く……」
「はい、はい」
「そこで」

トップは顔の前で人差し指をピッと立てた。彼女が何か大事なことを言う時の癖みたいなものである。なんとなく……文脈からして先の言葉を察することができていたが、自分に都合のいい解釈をしたところで後々ガッカリするだけや、と素知らぬ顔をして相槌を打つ。
まあ、実際に予想通りのことを告げられることになるのだが。

「今度の改修工事で業務が一時停止する間に、ぜひ、あなたに代役を担って頂けないかと」
「代役というのは……つまり」
「端的に言えば、一週間ほどアローラへの出張を依頼します」

ほぉ〜〜。なるほど、そういうことですか。

「話は分かりました。もちろん行きます」

口では冷静に言いながら、心の中でめちゃくちゃガッツポーズをした。
アローラへの出張。それは願ってもないことだ。他のどの地方でもなく、ドンピシャでアローラ行きを依頼されるとは……これは間違いなく、チリちゃんの日頃の行いがよかったのだろう!完全に神を味方につけている。
即答で頷いたのに対して、トップは驚いた顔で瞬きをした。

「……もちろん?やけにあっさり……私はてっきり嫌な顔をされるかと。なんたって、休暇が潰れるようなものですから」
「なはは」

それはそうだ。もしアローラじゃなくて別の地方だったら、もう少し悩んでいたところだったと思う。まあ部下として命令は須らく受け入れるのが定めではあるが……アローラだから、即決できた。

「アローラには古い友人がおって……あの子に会えるってだけで、嬉しいんですわ、うち」

本当は。
仕事とか関係なく、全てを投げ出してでもあの子のところに行きたい。自分の全てをあの子のために使いたい。でも、そんなことをすればなまえは呆れてすぐに追い返してしまうだろうから。今ある役柄を責任をもって全うしなければならない。このパルデアでの四天王という、他にない役目を。
なまえがそれを望むのなら、チリちゃんは。


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