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「なんか人多くね?」
エレベーターを出た途端、すぐそこの廊下で多くの人が行列を成していた。同じ階で、何か大きな展示でもやっているのだろうか。廊下の向こうまで続く行列を無視して進んでいく橋田に、俺も続いて歩き出す。
「これまた人気やなあ。もうこんな時期やし、噂を聞きつけた1年生もたくさんおるやろうからな」
「1年生?」
「そ。実は一般公開は明日からで、今日は関係者向けのプレ公開なんや。だから今ここにいるのは、ほとんどみーんな僕んとこの高校生と、その家族」
「え、何、もしかしてこの行列、お前の彼女の・・・?」
「そやで。すごいやろ。ニアちゃん、学校では死ぬほど人気者やねん」
いや人気者どころの話じゃねーよ。なんだこれ、小さな遊園地の開園前並に長い列ができてんじゃねえか。俺が想像していた個展のイメージと大きくかけ離れていて、素直に事実を受け止めることができない。え、こいつの彼女何者?
「あ!橋田くん、やっと来た!なんだか遅かったね?もうとっくにオープンしてるよ!」
受付のカウンターまでやって来ると、高身長の橋田に気づいた係の人が声をかけてきた。すげ、個展なのにスタッフなんているんだ。カウンター内にいる紺色のTシャツを着た人たちは、みんな忙しそうにテキパキと行列を捌いていた。その中の一人、真っ先に橋田に気づいた女の子。もしかして、この子がニアちゃん?
「おはよう、高橋さん。と、ニアちゃんのお友だち」
「アイちゃん、橋田くんは並ばせなくていいって言ってたよ。もうさっさと行ってきなよ!」
「うん、いつも通りやね」
なんだ、高橋さんか。どうやら違うみたいだ。それから、高橋さんの口から出てきたアイちゃんという名前。会話を聞く限り、それが橋田の彼女の名前らしい。変な意味はないけど、案外普通の名前だな。
「はいこれ、チケットとパンフレットとアンケート!持ってるかもだけど一応渡しとくね」
「ありがとう、いつもニアちゃんが個展開く度に手伝ってくれて。自分のことでも精一杯やろ?特に君らのクラスは」
「あはは、それアイちゃんが言ってたことと同じ!いいんだよ、私たちはいつもアイちゃんにお世話になってるから、そのお礼をしたいの」
「ほら八虎、ニアちゃんはモテモテやしみんなから愛されてるんやで」
「あれ?そういえばそっちの子、制服違うね?」
「あっ、俺?」
突然声をかけられて、途端に姿勢を正した。そういや今日は関係者だけしか入れないんだったよな。俺、全然関係者じゃないけど・・・。
「八虎は僕の予備校の友だち。お願いなんやけど、この子もついでに中に入れてええ?」
「橋田くんのお友だち?まあいいんじゃないかな?たぶんだけど」
「ほんま。ま、ニアちゃんには僕の方から言っとくから」
「え、いいの?なんだったら俺、並ぶけど・・・」
「そない遠慮せんでええ。八虎が並んだら僕と一緒に来た意味ないやんか」
「そりゃそうだけど」
「じゃあ2人分の渡しちゃうね!」
「あ、ありがとう」
いいのか、こんないい加減で。でもまあ主催がこいつの彼女だから多少の融通は効くのか。たぶんこれ以上何を言っても橋田は聞かないし、ここは素直に入れてもらうことにしよう。高橋さんからパンフレットなど諸々を受け取り、ながーい行列の真横を通り過ぎるのを申し訳ない気持ちになりながら、入口に向かった。
「あ、見てみて!あの人って、たしかアイ先輩の・・・!」
「ほんとだ!美術コースの橋田先輩!」
途中、後輩と思われる女の子たちが橋田に気づいて声を上げた。橋田がその子たちの方を振り向いてにっこり微笑むと、その途端にちょっとした悲鳴が上がり、俺は思わず後ずさる。よく見たら、並んでいるほとんどの人が橋田の方を注目している。こいつはいつも目立つけど、今日はやけに視線を集めてると思っていたところだ。
「うそだろ、お前って学校じゃそんな感じなの?もうほぼアイドルじゃん」
「あの子たちはみんなニアちゃんが好きなだけ。そのおかげで、何故か僕まで有名人やわ」
「お前がアイドルなんじゃなくて、彼女がアイドルなのか・・・。なるほど、アイドルの彼氏は誰だって気になるもんな」
「そうそう、わかりやすい例えやわ」
「じゃあお前、なんでそんなアイドルと付き合えたんだ?」
「特別なことは何もあらへんよ」
俺の質問に、橋田は簡潔に答えた。
「ニアちゃんが、僕の絵を大好きやって言ってくれたんや」
それは特別なことだろうが。
なーにが何も無いだ。そんなの絵描きなら誰でも言われたいことなんじゃないのか?なんなんだこの野郎。白々しい顔しやがって。羨ましすぎてハゲそう。
「なんか人多くね?」
エレベーターを出た途端、すぐそこの廊下で多くの人が行列を成していた。同じ階で、何か大きな展示でもやっているのだろうか。廊下の向こうまで続く行列を無視して進んでいく橋田に、俺も続いて歩き出す。
「これまた人気やなあ。もうこんな時期やし、噂を聞きつけた1年生もたくさんおるやろうからな」
「1年生?」
「そ。実は一般公開は明日からで、今日は関係者向けのプレ公開なんや。だから今ここにいるのは、ほとんどみーんな僕んとこの高校生と、その家族」
「え、何、もしかしてこの行列、お前の彼女の・・・?」
「そやで。すごいやろ。ニアちゃん、学校では死ぬほど人気者やねん」
いや人気者どころの話じゃねーよ。なんだこれ、小さな遊園地の開園前並に長い列ができてんじゃねえか。俺が想像していた個展のイメージと大きくかけ離れていて、素直に事実を受け止めることができない。え、こいつの彼女何者?
「あ!橋田くん、やっと来た!なんだか遅かったね?もうとっくにオープンしてるよ!」
受付のカウンターまでやって来ると、高身長の橋田に気づいた係の人が声をかけてきた。すげ、個展なのにスタッフなんているんだ。カウンター内にいる紺色のTシャツを着た人たちは、みんな忙しそうにテキパキと行列を捌いていた。その中の一人、真っ先に橋田に気づいた女の子。もしかして、この子がニアちゃん?
「おはよう、高橋さん。と、ニアちゃんのお友だち」
「アイちゃん、橋田くんは並ばせなくていいって言ってたよ。もうさっさと行ってきなよ!」
「うん、いつも通りやね」
なんだ、高橋さんか。どうやら違うみたいだ。それから、高橋さんの口から出てきたアイちゃんという名前。会話を聞く限り、それが橋田の彼女の名前らしい。変な意味はないけど、案外普通の名前だな。
「はいこれ、チケットとパンフレットとアンケート!持ってるかもだけど一応渡しとくね」
「ありがとう、いつもニアちゃんが個展開く度に手伝ってくれて。自分のことでも精一杯やろ?特に君らのクラスは」
「あはは、それアイちゃんが言ってたことと同じ!いいんだよ、私たちはいつもアイちゃんにお世話になってるから、そのお礼をしたいの」
「ほら八虎、ニアちゃんはモテモテやしみんなから愛されてるんやで」
「あれ?そういえばそっちの子、制服違うね?」
「あっ、俺?」
突然声をかけられて、途端に姿勢を正した。そういや今日は関係者だけしか入れないんだったよな。俺、全然関係者じゃないけど・・・。
「八虎は僕の予備校の友だち。お願いなんやけど、この子もついでに中に入れてええ?」
「橋田くんのお友だち?まあいいんじゃないかな?たぶんだけど」
「ほんま。ま、ニアちゃんには僕の方から言っとくから」
「え、いいの?なんだったら俺、並ぶけど・・・」
「そない遠慮せんでええ。八虎が並んだら僕と一緒に来た意味ないやんか」
「そりゃそうだけど」
「じゃあ2人分の渡しちゃうね!」
「あ、ありがとう」
いいのか、こんないい加減で。でもまあ主催がこいつの彼女だから多少の融通は効くのか。たぶんこれ以上何を言っても橋田は聞かないし、ここは素直に入れてもらうことにしよう。高橋さんからパンフレットなど諸々を受け取り、ながーい行列の真横を通り過ぎるのを申し訳ない気持ちになりながら、入口に向かった。
「あ、見てみて!あの人って、たしかアイ先輩の・・・!」
「ほんとだ!美術コースの橋田先輩!」
途中、後輩と思われる女の子たちが橋田に気づいて声を上げた。橋田がその子たちの方を振り向いてにっこり微笑むと、その途端にちょっとした悲鳴が上がり、俺は思わず後ずさる。よく見たら、並んでいるほとんどの人が橋田の方を注目している。こいつはいつも目立つけど、今日はやけに視線を集めてると思っていたところだ。
「うそだろ、お前って学校じゃそんな感じなの?もうほぼアイドルじゃん」
「あの子たちはみんなニアちゃんが好きなだけ。そのおかげで、何故か僕まで有名人やわ」
「お前がアイドルなんじゃなくて、彼女がアイドルなのか・・・。なるほど、アイドルの彼氏は誰だって気になるもんな」
「そうそう、わかりやすい例えやわ」
「じゃあお前、なんでそんなアイドルと付き合えたんだ?」
「特別なことは何もあらへんよ」
俺の質問に、橋田は簡潔に答えた。
「ニアちゃんが、僕の絵を大好きやって言ってくれたんや」
それは特別なことだろうが。
なーにが何も無いだ。そんなの絵描きなら誰でも言われたいことなんじゃないのか?なんなんだこの野郎。白々しい顔しやがって。羨ましすぎてハゲそう。