「あ、あ、えっと……“せかい”、くん?」
教室を出たところで、女子生徒に話しかけられた。今この場にいる誰よりも変わった格好をしているから、どうせ服飾コースの人だろう。
ていうか俺はこの顔に見覚えがある。美術コースの三つ編みの人とよく一緒にいる、絵の具みたいな名前の人だ。その程度の認識で今まで数える程も話したことがない。
面倒事には巻き込まないで欲しいんだけど。つい眉間に皺を寄せて顔を逸らせば、そいつは俺が返事もしないことを特に気にする様子もなく話を始めた。
「これ東美にあったらしくて、たぶんせかいくんの忘れ物だと思うんだけど……」
たしかに俺のだ。手のひらを差し出すと、彼女は「よかった」と言いながらペンをそこに置いた。
「なんでこれを君が」
「あのね、はるかちゃんが予備校の先生から預かってきたんだって。あ、えと……はるかちゃんっていうのは」
「橋田悠のことだろ。だからなんで直接来ないんだ、あいつ」
別に自分が人に避けられているとか、嫌われているとか、そういうことを言っているんじゃない。あいつ、自分で預かってきたんだから自分で返しに来ればいいのに。そうじゃないなら預かるなよ。わざわざ人を遣わせる意味が分からない。……まあ結局そういうのも全部どうでもいいけど。
「ああ、別にたいした意味はないよ。今はるかちゃん美術部の後輩に呼ばれてて……私暇だし、丁度せかいくんの姿が見えたから、ね」
「……あっそ」
やっぱり聞かなくてもよかったな。それより授業が終わったことだし、一刻も早く学校を出たい。早くこちらから話を絶たないと、どうせ会話が続くんだろうな。彼女はたぶんそういう部類の人だから。
「まあ、ありがとう」
「どういたしまして」
「……」
かばんを開いてペンを筆箱にしまうだけなのに何故か見守られている。用が済んだならさっさといなくなればいいのに。
じゃなくて、俺が早くいなくなればいいのか。筆箱をしまいながらその場ですばやく踵を返すと、ちょうど振り向いた方向からまた面倒くさいのがやってきた。……うわ。
「お〜、セカイくんやん」
噂の。長ったらしい二本の三つ編みを胸の前で揺らしながら、一直線にこっちに近づいてくる大男。これといって用もないのに、たまに特進コースの教室に遊びに来てはついでに俺に構う変人だ。
「なんや二人してそないなところで……もしかして僕のニアちゃん口説いてたん?」
「は?」
「たとえセカイくんでもなあ、この子だけはあげるわけには」
「別にいらないけど」
「そーお?」
「もー!はるかちゃんったら出てきて早々バカなこと言わないの!」
そういえば付き合ってるんだっけ、この二人。こんな時期によく浮ついてられるよなと言いたいところだけど、前に中学の頃からずっと一緒だと聞いてもないのに聞かされた覚えがある。ていうか早く帰らせろよ。なんなんだよ。
「忘れ物のペン渡しただけだよ。はるかちゃんこそもう美術部の用事済んだの?思ったより早かったね」
「ああ、あれか。ありがとうなあ。こっちは今月のスケジュールの確認だけやったから、もういつでも帰れるで」
「……」
「せや、セカイくんも一緒に帰る?」
「いい」
「そ?残念」
さっきは俺が彼女といることに少なからず文句を垂れてたのに、どうしてこの意味わからない面子で帰らなきゃいけないんだよ。相変わらず他のどの人よりも思考が読めない。
隙を見て今度こそその場を離れると、背後からまた明日、と言う二人の声が聞こえてきた。出来ることならもう関わりたくないのに。なんであの二人といい、予備校の金髪の人といい、いちいち俺に。
教室を出たところで、女子生徒に話しかけられた。今この場にいる誰よりも変わった格好をしているから、どうせ服飾コースの人だろう。
ていうか俺はこの顔に見覚えがある。美術コースの三つ編みの人とよく一緒にいる、絵の具みたいな名前の人だ。その程度の認識で今まで数える程も話したことがない。
面倒事には巻き込まないで欲しいんだけど。つい眉間に皺を寄せて顔を逸らせば、そいつは俺が返事もしないことを特に気にする様子もなく話を始めた。
「これ東美にあったらしくて、たぶんせかいくんの忘れ物だと思うんだけど……」
たしかに俺のだ。手のひらを差し出すと、彼女は「よかった」と言いながらペンをそこに置いた。
「なんでこれを君が」
「あのね、はるかちゃんが予備校の先生から預かってきたんだって。あ、えと……はるかちゃんっていうのは」
「橋田悠のことだろ。だからなんで直接来ないんだ、あいつ」
別に自分が人に避けられているとか、嫌われているとか、そういうことを言っているんじゃない。あいつ、自分で預かってきたんだから自分で返しに来ればいいのに。そうじゃないなら預かるなよ。わざわざ人を遣わせる意味が分からない。……まあ結局そういうのも全部どうでもいいけど。
「ああ、別にたいした意味はないよ。今はるかちゃん美術部の後輩に呼ばれてて……私暇だし、丁度せかいくんの姿が見えたから、ね」
「……あっそ」
やっぱり聞かなくてもよかったな。それより授業が終わったことだし、一刻も早く学校を出たい。早くこちらから話を絶たないと、どうせ会話が続くんだろうな。彼女はたぶんそういう部類の人だから。
「まあ、ありがとう」
「どういたしまして」
「……」
かばんを開いてペンを筆箱にしまうだけなのに何故か見守られている。用が済んだならさっさといなくなればいいのに。
じゃなくて、俺が早くいなくなればいいのか。筆箱をしまいながらその場ですばやく踵を返すと、ちょうど振り向いた方向からまた面倒くさいのがやってきた。……うわ。
「お〜、セカイくんやん」
噂の。長ったらしい二本の三つ編みを胸の前で揺らしながら、一直線にこっちに近づいてくる大男。これといって用もないのに、たまに特進コースの教室に遊びに来てはついでに俺に構う変人だ。
「なんや二人してそないなところで……もしかして僕のニアちゃん口説いてたん?」
「は?」
「たとえセカイくんでもなあ、この子だけはあげるわけには」
「別にいらないけど」
「そーお?」
「もー!はるかちゃんったら出てきて早々バカなこと言わないの!」
そういえば付き合ってるんだっけ、この二人。こんな時期によく浮ついてられるよなと言いたいところだけど、前に中学の頃からずっと一緒だと聞いてもないのに聞かされた覚えがある。ていうか早く帰らせろよ。なんなんだよ。
「忘れ物のペン渡しただけだよ。はるかちゃんこそもう美術部の用事済んだの?思ったより早かったね」
「ああ、あれか。ありがとうなあ。こっちは今月のスケジュールの確認だけやったから、もういつでも帰れるで」
「……」
「せや、セカイくんも一緒に帰る?」
「いい」
「そ?残念」
さっきは俺が彼女といることに少なからず文句を垂れてたのに、どうしてこの意味わからない面子で帰らなきゃいけないんだよ。相変わらず他のどの人よりも思考が読めない。
隙を見て今度こそその場を離れると、背後からまた明日、と言う二人の声が聞こえてきた。出来ることならもう関わりたくないのに。なんであの二人といい、予備校の金髪の人といい、いちいち俺に。