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ほら僕、なんでもかんでもじっくり観察してしまうところあるから。こういういかにも特別って感じの日には特に、周りの光景に露骨に興味を示してしまう。極論、世界って神さまの作品みたいなもんやろ?
桜に見守られながら校門をくぐり抜ける面々がどんな顔をしているのか、どんな様子で入学式を迎えようとしているのか、まるで場面を切り取るように慎重に瞬きを繰り返す。そうしていると、自然とかわいこちゃんに目がいくようになってしまって、景色なんてそっちのけで人の流れを追うように視線を動かす僕。

しゃあないやん、可愛い子はみんな好きやし。そういう僕も、傍から見れば忙しなく目を動かしてる“可愛い”新入生なんやろうなあ、とかそんなことを考えていると、向こうの方にひたすら存在感を放つ女の子を見つけた。

「……」

おかしい、周りと全くおんなじ新品の制服を身につけているはずなのに、その子だけ何かが違うのだ。何か、見た目じゃない、感覚的な何かが他とは違うオーラを纏っていて、ついつい目を奪われた。……これはあれ、いい絵を見た時のような感覚。不思議だ。
今から考えれば彼女は洋服のプロになる子なんだから、制服の一つ完璧な着こなしをしていても何もおかしいところはない。ただ、当時の自分にとってはなかなか貴重な体験をしたような気分になって、ていうかめっちゃ可愛いし、とりわけ鮮明に記憶に刻みつけられたものだ。

さりげなく彼女の声を盗み聞きするくらいには心を惹かれた。一目惚れと言っても差し支えないんやないか?

「あ、私?新色青っていうの。ニューカラー・ブルーで覚えてね」

どんな名前やねん。それはもう気になってしまう他なくて、全クラスの名簿を上から順になぞっていく僕。本当にその名前を見つけた時は結構アガった。
なんやめっちゃ絵描いてそうな。絵描いてんかなあ、もしかすると美術部で一緒になるかもなあ、な〜んて気楽に考えてはいたものの、別にそんなことはなかった。まあ人生ってそんなもんやろ。どうせ機会がないと関われんし。言っておくけど、この時点ではまだ完全に惚れ込んだわけではないから、別にこのまま何事もなく卒業しても痛くも痒くもないと思っていた。
……二年の夏になるまでは。



そう考えると、一年生の時からお互い名前だけは把握しとったんやな。新色ブルーのあおちゃんと、美術部のはるかちゃんと。やっぱ名前だけ見ると女の子二人組みたいやわ、って別に男の子でも『はるか』って名前は割と見かけるはずなのに。まあこの話は置いといて。

僕は初めから、それはもう入学初日から、彼女に完全なる好印象を抱いていた。その時はまだ『可愛い子』という認識だけだったのが、彼女がまさか美術部に入部してくるとは思わず、少女漫画にありそうな急展開に僕はまんまとドキドキさせられて、初めて話した瞬間からスットーンと落ちた。

堕ちた。

だ、だって、あの子一番最初に僕になんて言ったと思う?好きですやって。

「こんなんもお惚れるしかないやん!僕もう恥ずかしなって死ぬかと思たわ」
「……さっきから一人でぶつぶつ何言ってるのはるかちゃん」

美術部で知り合って、たくさんお話をするようになって、用もないのに教室に顔を出したりして、文化祭を一緒にまわったりなんかもして、さらには高校も一緒のところで。
今ではもうお互いの家を行き来する仲。家族ぐるみで仲良くなってしもた。地元の同中だから家が近いのは楽やし。待ち合わせの時にお互いお迎えに行くこともできるしな。

こうして家族も誰もいない部屋でいかがわしいこともできる。

「ニアちゃんが可愛いのが悪いんや」
「はるかちゃんも可愛いよ?」
「男の子にそれ言ってもあんまり効果ないで。僕は嬉しいけど」
「じゃあいいじゃん、べつ――」

お口チャック。さっき一緒におやつを食べたから、ニアちゃんの唇は甘々だった。
もっと別の言葉聞かせてやという顔をすれば、子供をあやすような優しい表情をして微笑んでくれる。

「なんて言って欲しいの?」
「なんやと思う?」

ま、どんな言葉で褒めてくれたら僕なんでも嬉しいけど。

「そう?じゃ、受験応援してるよ」

いたずらっ子のような笑みで、愉しそうに僕を見上げる彼女。なんでも良いとは言ったけど、なんか思ってたんと違う。

「あー!ニアちゃん、一足先に進路決まったからって」
「応援してるのは本当だもん。それに私もAO頑張ったんだからね。準備も本番も」
「……おつかれ。おめでとう」
「ありがと。はるかちゃん大好き」
「あー!もう一回!今のもう一回や!」

うっとおしがられた。



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『かこへん』おしまい


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