曖昧


「はるかちゃんって絵描くの好きなの?」

なんとなく。なんとなく、そんなことを尋ねた私に彼はそれまで迷いなく動かしていた手を止めた。

「なんで?」
「えっと……」

「はるかちゃんって、本当に絵描くの好きなのかなあって、思っ」

彼は不思議そうな顔でこちらを振り返った。

「なんで?」

私、何聞いているんだろう。こんなに楽しそうに絵を描く人が楽しくないわけないのに。美大にまで進んだ人が、絵を描くことが楽しくないわけないのに。

「なあ、なんで?」

自分から意味の分からない質問をしておいて何も答えない私に、悠ちゃんは筆を置いて絵を中断してまで私のところにやってきた。同じテーブルのすぐ隣のイスに座ると、彼がいつもそうするように、その大きな手のひらで頭を撫で、私の顔を覗き込むようにテーブルに肘をつく。
はるかちゃんはいつも距離が近いけど、今日はいつにも増して威圧感があるような……気がする。私は言葉がでなかった。彼がすごく、怒っているように見えたから。

「ご、ごめんなさい」
「なんで謝んのや」
「悠ちゃん、怒ってるでしょ……?」
「怒ってへんよ」
「でも」

彼は私の髪の束を人差し指でくるくるしながら微笑んだ。

「怒ってへんよ」

怒ってる……。





「ごめ、なさ」

涙が出てきた。私の愚かさに。気づかれたくなくて真下を向いたのに、その時には既に遅くて彼はギョッとしたように私の両肩に手を置いた。

「ニアちゃん、なんでなんで、なんで泣いてんの」

僕そんな怖かったかなあ、なんてオロオロしながら私の頭を撫でてくれる彼の優しい手つきにもっと惨めになってくる。





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