05


外出する時、周りの目を気にしたことは一度もない。人間は案外周囲の景色を見ていないものだ。気にする必要なんてどこにもない。時折、街を歩いていると特別目を惹かれる格好をした人を見かける。そういう人になりたいな、私。自分の好きな服装をするのって難しいけれど、その日の気分は最高だ。



「今日のニアちゃん、なんかいつもより可愛いなあ。まあいつも可愛いけど」

なによりはるかちゃんがいっぱい褒めてくれるから、とっても幸せな気分になっちゃうなあ。
前の席に反対向きに座って、私の机で頬杖をつくはるかちゃん。いつにも増してにこにこしてるな……まあ、今日の私は、可愛い!からね。

「なんというか……知らない間に髪の毛が伸びてるお人形さんみたいやな」
「褒めてる?」

今年度は和裁の授業があるから、この方が気分が乗るかと思って浴衣を引っ張り出してきたのだ。確かに赤い浴衣に黄色い帯、真っ黒な髪をまっすぐ下ろしている私はそう見えなくもないけど、こちとら可愛い要素も取り入れるためにヘッドドレスも身につけとんじゃ。これぞ和と洋とハイブリッド。くれぐれも怪談に出てくるような日本人形と見間違わないように。

「それではるかちゃん、何しに来たの?」
「ニアちゃんに会いに」
「……暇なの?」
「うん」
「うんじゃないでしょ」

一時限目終了のチャイムが鳴った一分後、今日は一緒に登校できなかったからかわざわざ私の教室まで会いに来てくれた彼は、今年受験生なんだから暇なわけなかろ。どうせ帰りは一緒なんだし、そんなに献身的にならなくてもいいのに(嬉しいけど)と思っていたら、単純に渡したい物があったらしい。

「こないだ妹が校外学習に行ってきたらしくてな?僕にはお土産ひとつもくれんかったのに、『これ、あおちゃんの』って」
「あ!可愛いクッキー!ありがと〜って伝えといて」
「僕も食べたいなあ」

まだ袋を開けてもないのに「あーん」と口を開けるはるかちゃん。あざと。
惚気じゃなくて普通に可愛いから写真を撮ろうとしたら、お手洗いに行っていた前の席の坂木ちゃんがずかずかと私たちの間に割り込んで、ばしーんと机を叩いた。

「ちょっと橋田!そこあたしの席!」
「あーごめんごめん、勝手に借りとった」
「ったくも〜毎度毎度人の席でいちゃつかないでくれる?」
「ごめんって。でも坂木さんやって放課後いつもサッカー部の後輩さんといちゃいちゃしとるやん」
「はあー???お前なに盗み見してんの?信じらんない!今すぐ記憶から消して!」
「僕だけやないもーん。みーんな知ってんで」
「くたばれ!」

はるかちゃんって、本当に誰とでも仲良しだよね……私は高校は部活に入っていないから、同じ服飾コースの後輩くらいしか仲いい子がいないや。それ以外の子だと、いつもはるかちゃんを通して知り合うことがほとんどだし。

「あ、新色先輩!」

私の目の前で仲良く口喧嘩している二人の様子を眺めていたら、ちょうど件の後輩の一人が教室を訪ねてきた。

「ん?どうしたの?」
「おれ移動教室で通りかかって〜。そうだ、ツイッター見ましたよ!あの新作めちゃくちゃ可愛いっすね!おれも着てみたいな〜」
「ああ、ありがと。嬉しいな」

席を立って歩み寄ると、彼は満面の笑みで私の両手を掴み取り、まるで仔犬みたいに見えないしっぽを振りまくる。でたでた。

「ていうか今日の新色先輩めーっちゃくちゃ可愛いじゃないですかー!!え!今日、なんかあるんですか!」
「別にないけど」
「そうなんですね!あ、おれ前から思ってたんですけど新色先輩と一回デートしたくて〜下北沢とか行きません?行きましょうよ〜」

めちゃくちゃお洒落で可愛くて、とっても素敵なお洋服を作る子だけど、はるかちゃん並に距離感がおかしいんだよな……この子。可愛いから私は結構好きだけど。

「あらあら、君ねえ。残念やけど、その子は先客がおるから出直してきや」
「あれ?橋田先輩じゃないすか。なんで服飾のクラスいんすか。暇なんすか」
「暇やないで。受験生やし」

さっき暇って言ってたじゃん。

「せやから息抜きにニアちゃんとこ来たんや。やのに、僕らの仲をジャマする悪い子はおしおきせなアカンなあ」
「うわー!先生!先輩がいじめるー!」

まるでヤンキーがするみたいに拳を握る動作をするはるかちゃん。全然肉体派じゃないのに何やってるんだろ……ていうかもうすぐ二時限目始まるよ?

「じゃ、ニアちゃん。僕この子見送るついでに教室戻るな。ばいばい」
「新色先輩またね〜」
「うんまたね。はるかちゃん、今日も一緒に帰るでしょ?」
「おー、いつもみたいにここに迎えに来るから待っとってな」
「いいな〜橋田先輩。そうだ、おれもご一緒していいですか!?」
「いいわけないやろ」

後輩を引きずりながら教室を出ていく彼を見送り、私はため息をついた。高校生楽しいわ。


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