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血の繋がりは全くない。どの情報をもってしても自分自身とはなんの関係もありゃしない。墓地で倒れていたところをたまたま見つけることができたから、私はあの時あの子を保護し、相談の上で家に迎え入れた。
ただ外見が似ているというだけの理由で、両親は私たちを年の離れた本当の姉妹のように可愛がってくれた。いや、外見が似ていなくとも、彼らはきっと同じようにしただろう。ダンクワース家は内から見ても外から見ても非の打ち所がないほど平和で、穏やかで、行き場のない私を養子に迎えてくれた二人は最初からずっと優しくて。
だから私も同じことをした。行き場のないあの子に家族の愛を知って欲しかった。今思えばただの勝手な押し付けのような行為だったかもしれない。あの子は決して泣かない強い子だ。けれど、その裏に隠された、激しい苦痛を“押し付け”られるような、元の生活にだけは戻らせてはいけないと……あの子の傷だらけの体を見て思ったのだ。

それが強さ故のものだったとは、思ってもみなかったけれど。



「ニア・クローズ。この名前だけは捨てられないの。だから『かぞく』にはなれない」

あの時のまっすぐすぎる目を私は未だに覚えている。単に少女というには何か違和感を覚えてしまうような、緊張感。それは明らかな拒絶だった。こんなにも小さいのに、まるで私が誘拐犯にでもなったような感じがして……思わず気圧されたものだ。私に手を引かれ、家に来るにもされるがままだったのに、両親があれやこれやと手続きを進めようとした途端に一歩後ろに下がってゆく少女。
それでも父は、私の時で慣れていたのか臆せず優しい声色で「それじゃあニア・クローズ・ダンクワースでいいじゃねえか」と言った。

「ほうら、家族だ。異論はあるか?」

大人の余裕というやつにまんまと嵌められ、大人しく首を振る。
私が小さい頃に着ていたワンピースの裾を握りしめてじっと黙り込む少女は、大きな手に頭を撫でられふらふらと体を揺らされて、意外にも呆気なく笑顔を見せた。

ニアは自分の年齢が分からなかった。父の情報網ですら一ミリたりとも出生に関する記録が出てこない。私と同じ。
あまりにも堂々としているから大人びて見えてしまうけれど、もうじき成人を迎える私と横に並んでしまったらその年齢差は一目瞭然だ。まあ言ってしまえば性格な年齢なんて実生活を送る上であまり必要としないし、どっちかといえば誕生日が分からないことのほうが私たちにとっては問題だった。

「それなら、シャトーと同じ日にするのはどうかしら?ほら、明日がその日なのよ。これもきっと何かの偶然ね」

妹というプレゼント。神様からの、大事な大事なプレゼント。私が守らなきゃ、だって、私があの時連れて帰ったんだもの。私に似た、天使みたいな小さな小さな妹を、たとえ何があったって、守りきってみせる。


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