05


シャトー・ダンクワースの生い立ちは分かっている通りだ。実の父親は三檮会に殺され、その後しばらくして警察に保護された。まあここでは詳しく語る必要もないだろう。
今は、彼女がここにいることが問題なのだ。腕のある暗殺者として既に名が広まっているらしいソン・リャンハの目の前に、如何様にして拳銃を手にし立っているのか。僕には甚だ理解できないね。てっきり裕福な家庭に引き取られてそのまま平穏な暮らしを送っているとばかり思っていたのに。こう二度も姿を見せられちゃ、構わない筈がないだろ。



ある話を小耳に挟んだ。近頃大規模な闇市が裏社会で執り行われるらしく、世界各地から一箇所に要人が集まるのだとか。まあそんなの何かが起きないわけもなく、マフィアとか、ヤの人とか、周辺業者の方々とか、はたまた何も知らない一般市民まで、幅広い人間が動くことになるのだろうな。ここまでは一般常識として。

「シャトー・ダンクワース……」

本来の名をシャトー・ノーブルと言う。彼女の本家、父親、ドナルドのこと、もう先日の抗争で全部終わったはずだ。全部終わったはずなのだが。まだ何か彼女には裏があるらしい、らしいのだ。僕ですら気づけないその存在とは一体何者なのか。
その答えは、案外早くやってくる。

「今日も出ないなあ」
「オイ」

とある組織を目の前にして、携帯ばかりいじっていたのが癇に障ったようだった。隣からド低音で囁かれ思わず身の毛がよだつ。

「遠い向こうの彼女ばっかに構ってんじゃねえよ。あいつらつまんなそうにしてんぜ?」
「何か勘違いしてるみたいだけど……僕らいつからオトモダチになったんだっけ?」
「はあ?二ヶ月くらい前だろ?」
「……まあオトモダチにも色んな意味があるよね」

いつの間にか彼女の同僚になっていたニッカという男。なぜ今日僕と共にここにいるのか意味不明だが、



「あんたの勘ってやつ?やっぱえげつないな」
「どういう意味だい?」
「だってよ、今日この仕事を受け持つのはあいつのはずだったんだぜ?」

じゃあなんでお前がここにいる。

「シャトーチャン、ここ数週間ずっと音信不通だし」



「インド君、シャトーちゃん知らない?」
「シャトーサンナラ、競売ニ賭ケラレテルミタイデース」
「ふむふむ、競売に……え?」








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