「結局、怪我を負っているのだからこんなことを言えば鼻につくかもしれないが……君をザガンへやったこと、俺はファインプレーだったと思っているよ」
明らかに女官とは違う、それもよく聞き慣れた男性の声がして、それが誰であるかを察した瞬間に即座に起き上がった。
「し、シンドバッド王さま」
……否、実際は彼の手に止められて起き上がることができなかったのだけれど。怪我をしていない方の右肩に優しく手を置かれ、大人しくしていなさいという言葉もなく再び寝台の中に収められてしまった。
こうして前触れもなく突然病室に現れたシンドバッド王さまは、様子を見ていた女官たちに手を挙げて人払いさせた。なぜか此方にあてがわれたのが個室でラッキーとは思っていたが、こうして二人きりにされてしまうとさすがに緊張してしまうな。王さまともあろうお方がいったい何の用だろうか。此方は先の襲撃を受けてからつい昨日までお布団の中で撃沈していたところだったのだ。
「怪我の具合はどうだい?三日三晩目を覚まさなかったと聞いたが」
「軽傷です」
「そんなわけ、ないだろ?」
「此方は昔からよく眠る子でしたから。しっかり休養と睡眠時間をいただいたおかげで、もうこの通りです」
もちろん怪我が全くないわけではないが、どこか骨を折っているわけでもないし、魔力を極端に削られたわけでもない。怪我の程度で言うのなら、帰還後またしても現れたアル・サーメンの残党の攻撃でぶっ倒れたという、アリババさまの方が重症なのではないだろうか。彼も此方が休養している間にすっかり治ってしまったらしいが。
此方は体質的に一度眠ると本当に起きなくなるので、三日三晩眠るくらいなら普段となんら変わらない。よく眠れてすっきりだ。冗談交じりにそんな誇張した説明をすると、それはそれで心配だなと苦笑いを頂いてしまった。
「アラジンから聞いたが、君は誰よりも率先して奴らと健闘したそうだな。やはりアル・サーメンは君にとっても因縁の相手なのか」
「べつに……敵が現れた時、戦えるのが此方しかいなかったのですよ。どちらかといえば、此方はジュダルさまにお会いしたかったのに」
此方がザガンにいる間に、シンドリア本島の結界を破り宮殿に襲来したというジュダルさま。かつて迷宮『アミー』を攻略した此方にちょっかいを出し、ご挨拶を交わす間もなくこの腹に穴を開け、此方のルフを一時的にも真っ黒に染め上げた張本人だ。あの時のことは今も鮮明に思い出せる。
しかし……実は彼にはそれを打ち消して余りあるほどの大きな恩義がある。シンドバッド王さまも、鬼倭前王との関わりの中で事件の概要を知っている人物の一人なのである。
「そう、だから、それは俺のファインプレーだと言ったんだ。奴が来た当時、君が宮中にいなくて本当に良かったよ」
「なんだか話が噛み合いませんけど……」
「いいか?一度堕転したとも言える君のルフが元に戻ったのは奇跡としか言いようがない。しかし、ジュダルと再び接触してしまえばそんな奇跡も無に帰すだろう」
「……」
「君が今度こそ本当に堕転させられアル・サーメンの標的になることは、俺としては絶対に見過ごせるものじゃあないよ。だから、君は決して彼に会うべきではない」
シンドバッド王さまがファインプレーとまで言うのは、おそらく此方が応戦したのがただの闇の金属器使いだったからだ。もしザガンの島に現れていたのが闇の魔道士だったのなら……例えば話に聞くイスナーンとかいう、人を堕転に導くような魔法を使える魔道士と相対峙していたら、一度堕転を経験している此方のルフは格好の餌食となったであろう。
「でも、シンドバッド王さま」
「なんだい?」
「ジュダルさまは此方の母上の命の恩人なのです。ただ一言お礼をしたいだけなのです」
「ああ、君の言いたいことはよく分かる。しかし赤琉、君は……彼のことを都合よく解釈してはいないかい?」
「……そんなことは」
“事実”を申し上げたのに、シンドバッド王さまはそれを優しく受け止めながらも、諭すように此方の目をじっと見つめてくる。ジュダルさまのことを教わったのもこのお方からだったし、この人はこの人でジュダルさまと犬猿の仲であることも知っている。
此方はしばらく何も言えなかった。シンドバッド王さまがこんなにも難しい顔をされているのは、先日ジュダルさまがここへただ顔を見せに来るだけではなく……シンドリアに宣戦布告をしたから、ということに他ならない。
此方も此方で色々考え込んでしまって、シンとした空気になったところをすかさずシンドバッド王さまは微笑んで、当たり障りのない世間話をするように自信満々に腕を組んだ。
「それにしても……君はもう少し“やれた”んじゃないのかい?」
「……どういう意味ですか?」
「もう存分に眷族器を使いこなしている君ならば、無傷でやり過ごすことも不可能ではなかったはずだろう?」
と、突然何かと思えば、此方は褒められているのか……?七海の覇王ともあろうお方にそんなお言葉を頂けるとは思いもよらず、何度か瞬きを繰り返す。
此方が寝台の中にいる今も頭に眷族器を身につけているのが変に思ったのか、シンドバッド王さまは頭上に視線を送っている。
「そんな、此方は未だにこれを使いこなせているとは思いませんけれど」
「しかし連日嗅ぎ回っているじゃあないか。眷族器の力を使って、空気に姿を変えてね」
「……」ああ、そっち。
「俺が気づいていないとでも思ったかい?」
成程、と思う。別に此方を褒める時間が始まったのではなく、眷族器の能力の勘ぐり合いが始まったのか。
「いやまあ、気配を察知したのはヤムライハだが。アラジンは……そもそも君の眷族器の能力を知らないから、気づけなかったようだな」
「此方、あなたさまにこそ眷族器の能力をお話した記憶などございませんのに……」
「ヤムライハの頭脳と考察する力を侮ってはいけないよ。しかし逆に言えば、ヤムライハほどの目をもってしても“確信”できないほど、ルフレベルで身を欺ける君の能力は素晴らしい」
「え?あー……」
思わず唸った。確信していなかった、ということはまさに今のやり取りで確証を得られてしまったようだ。ごめんなさいタケル様、此方やらかしちゃいました。でも……素晴らしい能力というのには此方も納得せざるを得ない。いや、自分のことを買い被っているのではなく。
迷宮のジン『アミー』から生まれた眷族、すなわち此方の頭飾りに収まった彼から、夢の中で話を聞いたことがある。此方の母上が攻略した『アミー』は、金属器としては珍しいタイプの能力を使うという。この世界での分類上、それは七型……力魔法を司る。
此方の体はもはや物理法則に囚われない。空気に変化すれば、ルフも同様にほぼ自然のものとなる。それなのに五感はそのまま機能するのだから驚きだ。
「魔道士ではない俺には、さっぱりだったよ。まさか人が空気に紛れているなんて思うまい。言ったろう?赤琉、俺は君のことは一目置いていると」
確かに聞いたなあ。しかしそれを言うのなら、母上の金属器の能力が素晴らしいだけなのではないのか?此方の眷族器は、あくまで主たる金属器の恩恵を受けているだけに過ぎない。そんなこと、七回も迷宮を攻略している覇王ならばご存知であろう。
母上が能力を使ったのは数える程しかないが、それでも圧倒的な力の差を見せつけられたのは記憶に新しい。それに比べて此方のはただ隠れんぼに向いているだけなのだ。
「さて、君は俺の許可なく、俺の目をかいくぐって諜報活動に勤しんできたわけだが……」
「弁明の余地もございませんが、“盗聴に関しましては”タケル様の御命令でないことだけご承知おきください。故に、罰はこの身一つでお受け致します」
「あはは、やけに冷静じゃないか」
あくまで冷静を取り繕っているだけである。下手をしたら鬼倭にシンドバッド王さまからの制裁が加わることになるのだ。それだけは避けねばならない。既に冷や汗ダラダラである。
しかし、シンドバッド王さまはいつも通りの明るい様子で此方の肩に手を置いた。
「分かっているさ、鬼倭は我々を敵対視するような国じゃあない。今回のは君の単なる興味本位故の行動であったと思っておくよ」
「……此方を罰しないのですか?」
「そんな必要はないからね。それに、決定的な証拠もないのに七海連合同盟国の姫君に手を下すような真似はできない」
「……ははあ、御恩上余りある」
此方は姫などではないが。否定する前にまず感動せずにはいられなかった。
驚いたことに、此方の盗聴について何も無かったことにしてくれるらしい。あまりにも心が広すぎて……なんか、心の一部が持っていかれてしまいそうだ。この人はあまりにも存在が大き過ぎる。いかんいかん、こんなんじゃタケル様に示しがつかない。
「で、色々なところで聞き耳を立てていたのなら、白龍皇子の話も聞いていたかい?」
「……いいえ、と言えば嘘になります」
「そうか。ならば都合がいい」
「え?」
つ、都合がいい?煌帝国の皇子の秘密を知っていることが?もはや嘘は通じぬと思い、煌を敵に回すやも知れぬと覚悟しながらも素直に頷いたというのに、諜報活動をしていたことそのものを都合がいいだなんて、この人は一体何を考えているのだろう……。
「確定ではないが、近いうちに君たち鬼倭王国にいくつか依頼をするかもしれない……同じ同盟国の一員として、これを君に預けておく」
差し出された手の上には小さな魔法道具が乗っかっていた。これはなんぞ?と首を傾げたら彼は笑いながらもきちんと説明してくれた。ルフの瞳……遠く離れた地でも、声を通わして通話ができる魔法道具らしい。
そんな便利で貴重そうな代物を此方に預けるだなんて。もしかしなくとも、此方はシンドバッド王さまに少なからず信頼されている……?いやいや、そんなはずは。
「それはさておき、白龍皇子とはどうだい?」
「どう、とは?」
「隣国の者同士、話が合うだろ?さすがに煌の皇子なら鬼倭のことを知っているだろうしな」
「まあ、確かに……此方の正体は初対面で見破られていたようです。でもそれだけですよ」
「そうかな?」
そ、そうかなも、どうかなもあるかいな。先日のアル・サーメンらとの戦闘で一時は背中合わせになって戦ったものの、それ以降は特に関わりもないしほとんど顔を合わせていない。昨日はアラジンさまたちがわざわざお見舞いにきてくださったけれど、そこに白龍皇子のお姿はなかった。
ザガンを攻略し手に入れたのが彼なんだし、この面子の中では誰よりも心労を得られているのかもと思ってあまり気にも留めていなかった。
「聞いたところ、ザガンの能力は植物を操る力だというじゃあないか。君が食いつかないはずがないと、俺は思ったのだが……」
「ああ、ああ、そういうことなら、めっちゃ食いつきました!」
「はっはっは!そうだと思ったよ」
明らかに女官とは違う、それもよく聞き慣れた男性の声がして、それが誰であるかを察した瞬間に即座に起き上がった。
「し、シンドバッド王さま」
……否、実際は彼の手に止められて起き上がることができなかったのだけれど。怪我をしていない方の右肩に優しく手を置かれ、大人しくしていなさいという言葉もなく再び寝台の中に収められてしまった。
こうして前触れもなく突然病室に現れたシンドバッド王さまは、様子を見ていた女官たちに手を挙げて人払いさせた。なぜか此方にあてがわれたのが個室でラッキーとは思っていたが、こうして二人きりにされてしまうとさすがに緊張してしまうな。王さまともあろうお方がいったい何の用だろうか。此方は先の襲撃を受けてからつい昨日までお布団の中で撃沈していたところだったのだ。
「怪我の具合はどうだい?三日三晩目を覚まさなかったと聞いたが」
「軽傷です」
「そんなわけ、ないだろ?」
「此方は昔からよく眠る子でしたから。しっかり休養と睡眠時間をいただいたおかげで、もうこの通りです」
もちろん怪我が全くないわけではないが、どこか骨を折っているわけでもないし、魔力を極端に削られたわけでもない。怪我の程度で言うのなら、帰還後またしても現れたアル・サーメンの残党の攻撃でぶっ倒れたという、アリババさまの方が重症なのではないだろうか。彼も此方が休養している間にすっかり治ってしまったらしいが。
此方は体質的に一度眠ると本当に起きなくなるので、三日三晩眠るくらいなら普段となんら変わらない。よく眠れてすっきりだ。冗談交じりにそんな誇張した説明をすると、それはそれで心配だなと苦笑いを頂いてしまった。
「アラジンから聞いたが、君は誰よりも率先して奴らと健闘したそうだな。やはりアル・サーメンは君にとっても因縁の相手なのか」
「べつに……敵が現れた時、戦えるのが此方しかいなかったのですよ。どちらかといえば、此方はジュダルさまにお会いしたかったのに」
此方がザガンにいる間に、シンドリア本島の結界を破り宮殿に襲来したというジュダルさま。かつて迷宮『アミー』を攻略した此方にちょっかいを出し、ご挨拶を交わす間もなくこの腹に穴を開け、此方のルフを一時的にも真っ黒に染め上げた張本人だ。あの時のことは今も鮮明に思い出せる。
しかし……実は彼にはそれを打ち消して余りあるほどの大きな恩義がある。シンドバッド王さまも、鬼倭前王との関わりの中で事件の概要を知っている人物の一人なのである。
「そう、だから、それは俺のファインプレーだと言ったんだ。奴が来た当時、君が宮中にいなくて本当に良かったよ」
「なんだか話が噛み合いませんけど……」
「いいか?一度堕転したとも言える君のルフが元に戻ったのは奇跡としか言いようがない。しかし、ジュダルと再び接触してしまえばそんな奇跡も無に帰すだろう」
「……」
「君が今度こそ本当に堕転させられアル・サーメンの標的になることは、俺としては絶対に見過ごせるものじゃあないよ。だから、君は決して彼に会うべきではない」
シンドバッド王さまがファインプレーとまで言うのは、おそらく此方が応戦したのがただの闇の金属器使いだったからだ。もしザガンの島に現れていたのが闇の魔道士だったのなら……例えば話に聞くイスナーンとかいう、人を堕転に導くような魔法を使える魔道士と相対峙していたら、一度堕転を経験している此方のルフは格好の餌食となったであろう。
「でも、シンドバッド王さま」
「なんだい?」
「ジュダルさまは此方の母上の命の恩人なのです。ただ一言お礼をしたいだけなのです」
「ああ、君の言いたいことはよく分かる。しかし赤琉、君は……彼のことを都合よく解釈してはいないかい?」
「……そんなことは」
“事実”を申し上げたのに、シンドバッド王さまはそれを優しく受け止めながらも、諭すように此方の目をじっと見つめてくる。ジュダルさまのことを教わったのもこのお方からだったし、この人はこの人でジュダルさまと犬猿の仲であることも知っている。
此方はしばらく何も言えなかった。シンドバッド王さまがこんなにも難しい顔をされているのは、先日ジュダルさまがここへただ顔を見せに来るだけではなく……シンドリアに宣戦布告をしたから、ということに他ならない。
此方も此方で色々考え込んでしまって、シンとした空気になったところをすかさずシンドバッド王さまは微笑んで、当たり障りのない世間話をするように自信満々に腕を組んだ。
「それにしても……君はもう少し“やれた”んじゃないのかい?」
「……どういう意味ですか?」
「もう存分に眷族器を使いこなしている君ならば、無傷でやり過ごすことも不可能ではなかったはずだろう?」
と、突然何かと思えば、此方は褒められているのか……?七海の覇王ともあろうお方にそんなお言葉を頂けるとは思いもよらず、何度か瞬きを繰り返す。
此方が寝台の中にいる今も頭に眷族器を身につけているのが変に思ったのか、シンドバッド王さまは頭上に視線を送っている。
「そんな、此方は未だにこれを使いこなせているとは思いませんけれど」
「しかし連日嗅ぎ回っているじゃあないか。眷族器の力を使って、空気に姿を変えてね」
「……」ああ、そっち。
「俺が気づいていないとでも思ったかい?」
成程、と思う。別に此方を褒める時間が始まったのではなく、眷族器の能力の勘ぐり合いが始まったのか。
「いやまあ、気配を察知したのはヤムライハだが。アラジンは……そもそも君の眷族器の能力を知らないから、気づけなかったようだな」
「此方、あなたさまにこそ眷族器の能力をお話した記憶などございませんのに……」
「ヤムライハの頭脳と考察する力を侮ってはいけないよ。しかし逆に言えば、ヤムライハほどの目をもってしても“確信”できないほど、ルフレベルで身を欺ける君の能力は素晴らしい」
「え?あー……」
思わず唸った。確信していなかった、ということはまさに今のやり取りで確証を得られてしまったようだ。ごめんなさいタケル様、此方やらかしちゃいました。でも……素晴らしい能力というのには此方も納得せざるを得ない。いや、自分のことを買い被っているのではなく。
迷宮のジン『アミー』から生まれた眷族、すなわち此方の頭飾りに収まった彼から、夢の中で話を聞いたことがある。此方の母上が攻略した『アミー』は、金属器としては珍しいタイプの能力を使うという。この世界での分類上、それは七型……力魔法を司る。
此方の体はもはや物理法則に囚われない。空気に変化すれば、ルフも同様にほぼ自然のものとなる。それなのに五感はそのまま機能するのだから驚きだ。
「魔道士ではない俺には、さっぱりだったよ。まさか人が空気に紛れているなんて思うまい。言ったろう?赤琉、俺は君のことは一目置いていると」
確かに聞いたなあ。しかしそれを言うのなら、母上の金属器の能力が素晴らしいだけなのではないのか?此方の眷族器は、あくまで主たる金属器の恩恵を受けているだけに過ぎない。そんなこと、七回も迷宮を攻略している覇王ならばご存知であろう。
母上が能力を使ったのは数える程しかないが、それでも圧倒的な力の差を見せつけられたのは記憶に新しい。それに比べて此方のはただ隠れんぼに向いているだけなのだ。
「さて、君は俺の許可なく、俺の目をかいくぐって諜報活動に勤しんできたわけだが……」
「弁明の余地もございませんが、“盗聴に関しましては”タケル様の御命令でないことだけご承知おきください。故に、罰はこの身一つでお受け致します」
「あはは、やけに冷静じゃないか」
あくまで冷静を取り繕っているだけである。下手をしたら鬼倭にシンドバッド王さまからの制裁が加わることになるのだ。それだけは避けねばならない。既に冷や汗ダラダラである。
しかし、シンドバッド王さまはいつも通りの明るい様子で此方の肩に手を置いた。
「分かっているさ、鬼倭は我々を敵対視するような国じゃあない。今回のは君の単なる興味本位故の行動であったと思っておくよ」
「……此方を罰しないのですか?」
「そんな必要はないからね。それに、決定的な証拠もないのに七海連合同盟国の姫君に手を下すような真似はできない」
「……ははあ、御恩上余りある」
此方は姫などではないが。否定する前にまず感動せずにはいられなかった。
驚いたことに、此方の盗聴について何も無かったことにしてくれるらしい。あまりにも心が広すぎて……なんか、心の一部が持っていかれてしまいそうだ。この人はあまりにも存在が大き過ぎる。いかんいかん、こんなんじゃタケル様に示しがつかない。
「で、色々なところで聞き耳を立てていたのなら、白龍皇子の話も聞いていたかい?」
「……いいえ、と言えば嘘になります」
「そうか。ならば都合がいい」
「え?」
つ、都合がいい?煌帝国の皇子の秘密を知っていることが?もはや嘘は通じぬと思い、煌を敵に回すやも知れぬと覚悟しながらも素直に頷いたというのに、諜報活動をしていたことそのものを都合がいいだなんて、この人は一体何を考えているのだろう……。
「確定ではないが、近いうちに君たち鬼倭王国にいくつか依頼をするかもしれない……同じ同盟国の一員として、これを君に預けておく」
差し出された手の上には小さな魔法道具が乗っかっていた。これはなんぞ?と首を傾げたら彼は笑いながらもきちんと説明してくれた。ルフの瞳……遠く離れた地でも、声を通わして通話ができる魔法道具らしい。
そんな便利で貴重そうな代物を此方に預けるだなんて。もしかしなくとも、此方はシンドバッド王さまに少なからず信頼されている……?いやいや、そんなはずは。
「それはさておき、白龍皇子とはどうだい?」
「どう、とは?」
「隣国の者同士、話が合うだろ?さすがに煌の皇子なら鬼倭のことを知っているだろうしな」
「まあ、確かに……此方の正体は初対面で見破られていたようです。でもそれだけですよ」
「そうかな?」
そ、そうかなも、どうかなもあるかいな。先日のアル・サーメンらとの戦闘で一時は背中合わせになって戦ったものの、それ以降は特に関わりもないしほとんど顔を合わせていない。昨日はアラジンさまたちがわざわざお見舞いにきてくださったけれど、そこに白龍皇子のお姿はなかった。
ザガンを攻略し手に入れたのが彼なんだし、この面子の中では誰よりも心労を得られているのかもと思ってあまり気にも留めていなかった。
「聞いたところ、ザガンの能力は植物を操る力だというじゃあないか。君が食いつかないはずがないと、俺は思ったのだが……」
「ああ、ああ、そういうことなら、めっちゃ食いつきました!」
「はっはっは!そうだと思ったよ」