たとえタケル様を蚊帳の外に置かずとも、元より此方は世界にいる他の誰より母上のことが大好きだ。一番尊敬している。それは今も変わらぬ。幼き頃は父上と母上に同時に両手を広げられた時、問答無用で母上に飛びつくような子供だった。氷川家当主としての父上は厳しく、一時期嫌いになりかけていた頃もあったとはいえ、そうでなくとも母上への愛情は覆せないものだったであろう。今は……もう抱きしめてはくれないが。
母上は女性という身分に囚われず、己の才覚を武器にまっすぐ武の道に進んだ。此方もその姿に憧れて後を追った。此方に叩き込まれたほとんどの所作と武芸は、他でもない母上によるものだ。あの父上も母上には適わなかった。色んな意味でだ。表向きには父上は氷川家歴代最強と言われていたが、あれは単に言葉だけの意味でしかない。本当は貴族家でもなんでもない、ただの呉服商の娘である母上の方が強かった。だから『アミー』に選ばれたのも母上だった。
父上は若い頃、任務中に出会った母上のその強さに惚れて口説き落としたそうだ。堅物なのにお可愛らしい一面もあるものだ。母上を嫁入りさせた直後、氷川家当主の座を母上に譲ろうとしたこともあったそうだが、しかして母上はきっぱりと断った。此方を身篭ったからだ。
此方は手塩をかけて育てられ、期待に応えようと切磋琢磨し日々励んだ。少々花や植物に現を抜かす子供に育ったが、どの面においても誰もが優秀と評価し、健彦様の妹君であられる七海さまとも同じくらい周りからよく可愛がられた。何をするにも持て囃され、町へ下りれば人だかりが出来、多くの捧げものを頂いた。十つになり隠密機動部隊に配属されてからは人前に出ることはきっぱりなくなったが。幸せな毎日だった。
そんな時に、堕転した。母上に力を認められ同行した迷宮攻略にて眷族器を授かった直後、その場で出くわしたとあるマギが、此方の心を強制的に黒く染め上げたのだ。目的などはよく分かってない。それはいずれ聞き出そうと思ってはいるが……まあまともな返答は得られぬだろうな。
出口では確かに全員揃っていたはずが、その時はなぜか此方一人しかいなかった。此方一人だけで、アル・サーメンなるマギの対応ができるわけもなく、実験だなんだと言われながら堕転させられたうえに氷魔法で腹を貫かれ、海に沈んだ。死んだものと思われた。
気づいた時には数ヶ月もの歳月が過ぎていた。最初に視界に飛び込んできた母上と父上の顔は今でも忘れられぬ。どうやって生き延びたのかはよく覚えていないが、此方はがむしゃらの中でさっそく眷族器を使いこなし致命傷を免れたらしい。腹の表面に大きな傷は残ったが、内臓は無傷とのこと。なんとも不思議な話だが、今となって考えれば攻撃を素通りさせるのは『アミー』なら造作もない。
そして問題の堕転は……目覚めた頃には元通りになっていた。元通り、白く戻っていた。これこそが不可思議な話なのだ。国内の医療魔道士によると、数週間は完全にルフが真っ黒な状態で体を蝕み続けていたが、あの時を境に、まるで黒いルフが浄化されていくように、自然と元通りに戻ったのだという。当時から前国王と関わりのあったシンドバッド王さまにすら『そんなことがあるものか』と言わしめたこの現象。よく分からぬが、一旦は珍しい体質ということで片付けられた。
その後、此方は十代も半ばにして氷川家当主の座を父上から奪い取った。過去の事件など思わせない機敏な動きと才覚を存分に披露し、満を持して国宝『華刀』を我がものとした。父上は不満そうにしていたが、母上は喜んで祝福してくれた。思えばここらが幸せの最高潮だったかもしれぬ。
二人が仲良く笑っているのを見るのが好きだった。なのに、母上は突如として病に倒れた。確かに心臓は動いているが、もう目覚めることはなくなった。
「赤琉……!赤琉!しっかりしろ!」
もう一度母上の笑顔を見たい。抱きしめてほしい。名前を呼んでほしい。そんなこと、何度夢に見たことか。そんなだから、いきなり目の前に現れた母上そのもののオーラにあてられ、此方はいつの間にか都合のいい夢の中でぐっすりうたた寝をしていたらしい。
海賊の根城へ侵入した此方らは、差して苦労もなく頭領大聖母の元へたどり着いた。大勢の子供たちに紛れてドス黒い笑みを浮かべるその女は、ある魔法道具で幻覚を見せてきたのだ。自らを自分の母親と思い込ませるという、なんとも此方に効きすぎる魔法だ。
おかげで数秒も耐えることなくまんまと手中に堕ち、気がつけば此方の刀は御味方であるはずのアリババさまを斬りつけようとしているところだった。必死に呼びかけるような彼の声にハッとした此方は、即座に身を翻して刀身を空振りさせた。
反動を打ち消すように近くにいたアラジンさまのおそばに膝をつき、敵に対して面をあげる。え、と声が出た。視界に入ってきたのが思いもよらない光景だったから。
「は、白龍皇子……、魔装が……!」
「おお……!良かった赤琉は気づいたな!いやまぁじで焦った……!ザガン組が両方とも持ってかれるからよ……!」
「え、えっと、これはどういう状況なのでしょう……!いまいちよく分からず……」
「私たちは幻覚を見せられたんです!赤琉さんもようやく気づいたみたいですが、でも、白龍さんはまだ……!」
「な、なるほど……とんだご迷惑をおかけしたようで……!」
「そんなことはいいさ!とにかく今は白龍おにいさんを助けなきゃ!」
そこに立っていたのは、体の左側半分が魔装状態になり、ザガンの武具も双頭に形状を変え、物々しい雰囲気を纏った白龍皇子その人だった。偽の母性愛に惑わされ、まさしく親でも殺されたかと思うような鋭い目つきで此方らを睨みつけている。此方もようやく、ということは、此方もさっきまであのような状態だったということか?
確かに今の今まで幸せな夢を見ていたような気がするが、まさか、そんな馬鹿なことが有り得るだろうか。白龍皇子の背後でにたにたと笑うマドーラの醜態を見てみろ。此方はまさかあんなものを自分の母上だと思い込んでいたと?まさか、そんな。此方の脳ミソはいつの間にイカれていたのだろう。そのことに気づいた途端、吐き気を催した。
そして未だに術中にいる白龍皇子のお気持ちを察し、アラジンさまらと同様、助けねばと思うと同時に……此方だけは、彼に同情するしかなかった。白龍皇子は自身の母親に対して確執を抱えているのだ。この中では此方だけが知る事実。それも諜報によるもの。白龍皇子はこのことを知らない。だけれども、此方は知ってしまっていた。
白龍皇子が今何を考えて“自身の母上”を護ろうとしているのか、思えば思うほどに身が煮えたぎる。
「目眩しにまんまと嵌るとは、この不手際、母上には申し訳がつきませぬ……。早う彼をお助けせねば」
魔法道具の影響だろうか、夢から醒めても止まらない涙はそのままに、誰にも聞こえぬようぽつりと呟く。華刀を構え直し、今現在白龍皇子と刃を交えるアリババさまの警護についた。
白龍皇子はザガンを相当使いこなしておられるようだ。鍛錬に何度も付き合った此方でさえ、彼が魔装を半分習得しているのに驚きを隠せないくらいだ。まあこの土壇場で開花したようにも思えるが……彼の操る生命は、何も植物だけではなかったらしい。何も無いところから出現したように見える不気味な生き物たちを斬り落としながら考える。
金属器があのような動きをするのなら、此方がつい先程持ったばかりの眷族器はどのような効果をもたらすのだろう。やはり触れたところの何がしかを操る能力なのだろうか。今のところは少しも反応してくれないが……。
たとえ海賊の子供とはいえ、こんなに人数が多い中で『霧隠れ』の能力は使いたくはない。生身のまま片っ端からザガンの生き物を斬りつけていくうちに、白龍皇子のお得意技である魔力操作が効力を無くしていき、アリババさまの『アモン』が『ザガン』を切り壊した。あれだけ一心に暴れ回っていたのだから体力の限界を迎えたのだ。白龍皇子の魔装は解け、生き物も姿を消し、彼はその場に倒れ込んだ。
+
「白龍皇子、お体の調子は……?」
「……」
「無理しないでください……あなたは目覚めたばかりなんですから」
アクティア海軍の登場により、大聖母は最終的に投降した。此方らは自分たちで名乗りを上げたとはいえ、結局面倒な役柄を押し付けられ海軍にいいとこ取りをされたような感じで終わってしまった。白龍皇子はすぐに気がついたが、どこかまだぼんやりとなさっていて、此方はもちろん、モルジアナさまの呼びかけにも応じてくれない。
さていがかなものか。町中からの避難を浴びたマドーラは見るも無惨な仕打ちを町人たちから受けている。髪を引っ張られ石を投げられ、正直此方からしてみればいい気味にも程があるのだけれど、その騒動を思いもよらぬ手段で収めた人物があった。白龍皇子だった。
「あらま……」
彼は民衆の前に出て、この場に似合わぬ微笑みを見せたかと思えば、手持ちの剣でマドーラの首を落とした。スパーンと。途端にどよめく周囲。衝撃のあまり言葉をなくす子供たち。同じく固まる此方たち。
白龍皇子はその首を掴んで見せびらかした。獲った、とでも言うかのように。
此方は思わず口元を覆った。それがあまりにも清々しい一太刀だったために、すっかり今の一連の動作に目を奪われてしまった。さっきの戦闘でマドーラの好感度が地の底に達したところだったのだ。此方の大好きな大好きな母上を騙る彼女に、死ぬほど嫌悪感を抱いていた。
だから、もちろん驚いたのもあるが、それよりも此方はむしろ清々した。つい口角があがってしまうほど。鬼倭国民は案外戦闘好きなのだ。そして悪党の成敗には目がない。此方にも十分その血が流れている。
それに……未だに漠然としか白龍皇子の目的を理解していなかった此方だけれど、ようやく分かった。“母上”に対してそこまでやるか。彼の執念を垣間見た。
母上は女性という身分に囚われず、己の才覚を武器にまっすぐ武の道に進んだ。此方もその姿に憧れて後を追った。此方に叩き込まれたほとんどの所作と武芸は、他でもない母上によるものだ。あの父上も母上には適わなかった。色んな意味でだ。表向きには父上は氷川家歴代最強と言われていたが、あれは単に言葉だけの意味でしかない。本当は貴族家でもなんでもない、ただの呉服商の娘である母上の方が強かった。だから『アミー』に選ばれたのも母上だった。
父上は若い頃、任務中に出会った母上のその強さに惚れて口説き落としたそうだ。堅物なのにお可愛らしい一面もあるものだ。母上を嫁入りさせた直後、氷川家当主の座を母上に譲ろうとしたこともあったそうだが、しかして母上はきっぱりと断った。此方を身篭ったからだ。
此方は手塩をかけて育てられ、期待に応えようと切磋琢磨し日々励んだ。少々花や植物に現を抜かす子供に育ったが、どの面においても誰もが優秀と評価し、健彦様の妹君であられる七海さまとも同じくらい周りからよく可愛がられた。何をするにも持て囃され、町へ下りれば人だかりが出来、多くの捧げものを頂いた。十つになり隠密機動部隊に配属されてからは人前に出ることはきっぱりなくなったが。幸せな毎日だった。
そんな時に、堕転した。母上に力を認められ同行した迷宮攻略にて眷族器を授かった直後、その場で出くわしたとあるマギが、此方の心を強制的に黒く染め上げたのだ。目的などはよく分かってない。それはいずれ聞き出そうと思ってはいるが……まあまともな返答は得られぬだろうな。
出口では確かに全員揃っていたはずが、その時はなぜか此方一人しかいなかった。此方一人だけで、アル・サーメンなるマギの対応ができるわけもなく、実験だなんだと言われながら堕転させられたうえに氷魔法で腹を貫かれ、海に沈んだ。死んだものと思われた。
気づいた時には数ヶ月もの歳月が過ぎていた。最初に視界に飛び込んできた母上と父上の顔は今でも忘れられぬ。どうやって生き延びたのかはよく覚えていないが、此方はがむしゃらの中でさっそく眷族器を使いこなし致命傷を免れたらしい。腹の表面に大きな傷は残ったが、内臓は無傷とのこと。なんとも不思議な話だが、今となって考えれば攻撃を素通りさせるのは『アミー』なら造作もない。
そして問題の堕転は……目覚めた頃には元通りになっていた。元通り、白く戻っていた。これこそが不可思議な話なのだ。国内の医療魔道士によると、数週間は完全にルフが真っ黒な状態で体を蝕み続けていたが、あの時を境に、まるで黒いルフが浄化されていくように、自然と元通りに戻ったのだという。当時から前国王と関わりのあったシンドバッド王さまにすら『そんなことがあるものか』と言わしめたこの現象。よく分からぬが、一旦は珍しい体質ということで片付けられた。
その後、此方は十代も半ばにして氷川家当主の座を父上から奪い取った。過去の事件など思わせない機敏な動きと才覚を存分に披露し、満を持して国宝『華刀』を我がものとした。父上は不満そうにしていたが、母上は喜んで祝福してくれた。思えばここらが幸せの最高潮だったかもしれぬ。
二人が仲良く笑っているのを見るのが好きだった。なのに、母上は突如として病に倒れた。確かに心臓は動いているが、もう目覚めることはなくなった。
「赤琉……!赤琉!しっかりしろ!」
もう一度母上の笑顔を見たい。抱きしめてほしい。名前を呼んでほしい。そんなこと、何度夢に見たことか。そんなだから、いきなり目の前に現れた母上そのもののオーラにあてられ、此方はいつの間にか都合のいい夢の中でぐっすりうたた寝をしていたらしい。
海賊の根城へ侵入した此方らは、差して苦労もなく頭領大聖母の元へたどり着いた。大勢の子供たちに紛れてドス黒い笑みを浮かべるその女は、ある魔法道具で幻覚を見せてきたのだ。自らを自分の母親と思い込ませるという、なんとも此方に効きすぎる魔法だ。
おかげで数秒も耐えることなくまんまと手中に堕ち、気がつけば此方の刀は御味方であるはずのアリババさまを斬りつけようとしているところだった。必死に呼びかけるような彼の声にハッとした此方は、即座に身を翻して刀身を空振りさせた。
反動を打ち消すように近くにいたアラジンさまのおそばに膝をつき、敵に対して面をあげる。え、と声が出た。視界に入ってきたのが思いもよらない光景だったから。
「は、白龍皇子……、魔装が……!」
「おお……!良かった赤琉は気づいたな!いやまぁじで焦った……!ザガン組が両方とも持ってかれるからよ……!」
「え、えっと、これはどういう状況なのでしょう……!いまいちよく分からず……」
「私たちは幻覚を見せられたんです!赤琉さんもようやく気づいたみたいですが、でも、白龍さんはまだ……!」
「な、なるほど……とんだご迷惑をおかけしたようで……!」
「そんなことはいいさ!とにかく今は白龍おにいさんを助けなきゃ!」
そこに立っていたのは、体の左側半分が魔装状態になり、ザガンの武具も双頭に形状を変え、物々しい雰囲気を纏った白龍皇子その人だった。偽の母性愛に惑わされ、まさしく親でも殺されたかと思うような鋭い目つきで此方らを睨みつけている。此方もようやく、ということは、此方もさっきまであのような状態だったということか?
確かに今の今まで幸せな夢を見ていたような気がするが、まさか、そんな馬鹿なことが有り得るだろうか。白龍皇子の背後でにたにたと笑うマドーラの醜態を見てみろ。此方はまさかあんなものを自分の母上だと思い込んでいたと?まさか、そんな。此方の脳ミソはいつの間にイカれていたのだろう。そのことに気づいた途端、吐き気を催した。
そして未だに術中にいる白龍皇子のお気持ちを察し、アラジンさまらと同様、助けねばと思うと同時に……此方だけは、彼に同情するしかなかった。白龍皇子は自身の母親に対して確執を抱えているのだ。この中では此方だけが知る事実。それも諜報によるもの。白龍皇子はこのことを知らない。だけれども、此方は知ってしまっていた。
白龍皇子が今何を考えて“自身の母上”を護ろうとしているのか、思えば思うほどに身が煮えたぎる。
「目眩しにまんまと嵌るとは、この不手際、母上には申し訳がつきませぬ……。早う彼をお助けせねば」
魔法道具の影響だろうか、夢から醒めても止まらない涙はそのままに、誰にも聞こえぬようぽつりと呟く。華刀を構え直し、今現在白龍皇子と刃を交えるアリババさまの警護についた。
白龍皇子はザガンを相当使いこなしておられるようだ。鍛錬に何度も付き合った此方でさえ、彼が魔装を半分習得しているのに驚きを隠せないくらいだ。まあこの土壇場で開花したようにも思えるが……彼の操る生命は、何も植物だけではなかったらしい。何も無いところから出現したように見える不気味な生き物たちを斬り落としながら考える。
金属器があのような動きをするのなら、此方がつい先程持ったばかりの眷族器はどのような効果をもたらすのだろう。やはり触れたところの何がしかを操る能力なのだろうか。今のところは少しも反応してくれないが……。
たとえ海賊の子供とはいえ、こんなに人数が多い中で『霧隠れ』の能力は使いたくはない。生身のまま片っ端からザガンの生き物を斬りつけていくうちに、白龍皇子のお得意技である魔力操作が効力を無くしていき、アリババさまの『アモン』が『ザガン』を切り壊した。あれだけ一心に暴れ回っていたのだから体力の限界を迎えたのだ。白龍皇子の魔装は解け、生き物も姿を消し、彼はその場に倒れ込んだ。
+
「白龍皇子、お体の調子は……?」
「……」
「無理しないでください……あなたは目覚めたばかりなんですから」
アクティア海軍の登場により、大聖母は最終的に投降した。此方らは自分たちで名乗りを上げたとはいえ、結局面倒な役柄を押し付けられ海軍にいいとこ取りをされたような感じで終わってしまった。白龍皇子はすぐに気がついたが、どこかまだぼんやりとなさっていて、此方はもちろん、モルジアナさまの呼びかけにも応じてくれない。
さていがかなものか。町中からの避難を浴びたマドーラは見るも無惨な仕打ちを町人たちから受けている。髪を引っ張られ石を投げられ、正直此方からしてみればいい気味にも程があるのだけれど、その騒動を思いもよらぬ手段で収めた人物があった。白龍皇子だった。
「あらま……」
彼は民衆の前に出て、この場に似合わぬ微笑みを見せたかと思えば、手持ちの剣でマドーラの首を落とした。スパーンと。途端にどよめく周囲。衝撃のあまり言葉をなくす子供たち。同じく固まる此方たち。
白龍皇子はその首を掴んで見せびらかした。獲った、とでも言うかのように。
此方は思わず口元を覆った。それがあまりにも清々しい一太刀だったために、すっかり今の一連の動作に目を奪われてしまった。さっきの戦闘でマドーラの好感度が地の底に達したところだったのだ。此方の大好きな大好きな母上を騙る彼女に、死ぬほど嫌悪感を抱いていた。
だから、もちろん驚いたのもあるが、それよりも此方はむしろ清々した。つい口角があがってしまうほど。鬼倭国民は案外戦闘好きなのだ。そして悪党の成敗には目がない。此方にも十分その血が流れている。
それに……未だに漠然としか白龍皇子の目的を理解していなかった此方だけれど、ようやく分かった。“母上”に対してそこまでやるか。彼の執念を垣間見た。