「はぁ……っ、あ、白龍さま……」
世継ぎの話題を振られる度に真っ先に思い浮かぶのがこの顔である。ということは、つまりそういうことを示すわけで。
「ぁ、はく、白龍さま、……も、やめて、……ください……」
「どうして?」
「あか、ちゃん、ん、できちゃう……っ」
「ええ。そうですね。今更?」
懇願を無視して腰を動かし続ける。
「子供ができて、何かまずいことでも?」
「え、だ、だって」
「いいですよ、産んでください。責任をもって面倒をみますから。あなたのこともね」
「俺に体を許している時点で、もう嫁にはいけないでしょう?でも安心してください」
「あなたは俺の子を産んで、この宮殿でただ静かに暮らしているだけでいいんです。温かい食事と寝床もあるし、俺の言うことを聞きさえすれば、何不自由なく暮らせます」
「それが嫌ならば、……ここを改竄してしまいましょうかねぇ。唯一の眷族であるあなたにはベリアルを使うまいと思っていましたが」
額にトンと指を置けば、彼女は若干体をビクつかせて小さく首を振った。
「ど、して……そんな、ひどいこと……言うのですか……」
「ひどい?優柔不断なあなたを楽にさせてやろうとしているんじゃありませんか。心外だな」
「浮ついた気持ちでいるあなたを、そばに置くことを許してやってる俺の身にもなってください。あなただって子供を産めばいい加減諦めもつくでしょう。過去の想い人のことなんか忘れて俺に全部委ねればいいんですよ」
「ち、ちが、……ちがう……」
「違う?」
「か、過去の、なんかじゃ……ない……」
「今も愛していると?」
「ちが、う!……あの方は、そう、いうのじゃ、ない……っ」
「タケ、ル様は、っ……あ、あなたとは、ぜんぜん、ちがう……!」
「健彦殿?」
寝台の隅で縮こまって呼吸を荒らげている。のを見ながら考える。
「想い人というのは、まさか健彦殿のこと?」
「……ちが、う」
「でもあなたが今考えているのはその人なんでしょ?」
「……そう、いうのじゃない……!」
「好いてはいないと?」
「すっ、……すき、じゃなく、ない……」
「ほら。好き、なんでしょう?だから、あなたの想い人は健彦殿なんだ。そうなりますよね?」
「……ぜ、んぜん、ちがう……、っ!……ぐすっ……、ちがうの、ひぐっ……うえ、っ……ちがうのに……」
そこからはとうとう関門が崩壊したかのように泣きじゃくる。普段の落ち着いた様子からは想像もできないほど心が乱れている。嗚咽混じりに大粒の涙をとめどなく流して、
自らここに残ったのに、国のことを忘れられないでいる赤琉に対してもどかしい気持ちが膨れ上がり、随分と大胆なことをしたのは認める。嫌がっているのに強行することはなかった。これではただの悪漢の所業と同じことだ。
手荒な真似をされ泣いている乙女を前にして、このまま立ち去ることはできるがそうすべきではないことは確実である。なぜなら俺が彼女をこうしたからだ。
着物を携えながら赤琉の近くに寄ってみる。嫌がられたり避けられる素振りはなかったので、ひとまず顔に触れて親指で涙を拭いにかかった。あなたに泣き顔は似合わない。
「赤琉殿、落ち着いてください。俺はなにもあなたを貶めるつもりなんてなかったんですよ」
「……ぐすっ、……うそ……っ」
「嘘じゃありません」
「じゃあ、なんで……っ」
「いいから、まずは呼吸を整えて」
俺の胸というか腹に横顔を擦り付けている。そんな赤琉の頭を撫でる。
「はあ……健彦殿はなぜあなたをこんな状態にしてまで置いていったんでしょうねえ。ひどい方だ」
「た、タケル様を悪く言わないで……っ」
「はいはい。すみません。思えばあの七海とかいうあなたのご友人も、健彦殿のことを心底敬愛していましたよね。あなた方の国って、何かそういう文化?でもあるんですか?まああの人は確かになんとなく、若い女性を侍らすのが好きそうな方でしたね」
「タケル様のこと、馬鹿にしないで……っ」
「はいはい。すみません」
「なるほど。つまり、あなたが言いたいのは健彦殿は絶対的な忠誠を誓っている主という存在で、好いてはいるけど恋愛的な意味で慕っているわけではない、と」
「……ん」
「はあ、そうでしたか。でも、俺からしたらそんなのどっちでも変わらないですけどね。それほどの熱量で彼のことを思っているんだから」
「そんなに健彦殿のことが大切なら、やっぱりあなたはご自分の国に帰るべきですよ。ザガンの眷族器なんて置いていけばいい。それなら堂々と顔向けできるでしょう?」
首を横に振る。
「……この刀は、……」
「ああ、鬼倭の国宝なんですって?ザガンの奴は随分尖ったものを器にしてしまいましたね。心配せずとも、あなたの頼みとあらば俺が責任をもって預かることも出来るんですよ。それはもう厳重に保管して、俺以外の誰にも触れられない場所に飾っておきますから」
「……」
「……でも、そしたら、此方……今度は、あなたのことを、忘れられなくなってしまいます」
「……」
「あなたの元を離れて鬼倭に帰ったとて……きっと、此方はあなたのことを忘れられなくて、ふとした時に思い出して、苦しくなってしまいます……そうなったら、それこそ、タケル様に顔向けできませぬ……」
「……はあぁ〜。あなたって人は、本当にもう、困ったお人だ」
「いいですか?あなたの主張をまとめると、俺のことが好きだけど健彦殿、ひいては鬼倭国のことが大事だから煌帝国の妃にはなりたくない、そのくせ俺と離れたくないから健彦殿のいる鬼倭国へ帰ることもしたくない。そういうことになりますよ?」
「……ん」
「ふざけてるんですか?」
「あなたが妃にならないということは、俺は他の女性を娶ることになるんでしょうねえ」
「え、や、やだっ」
「わがまま言わないでください。俺は皇帝になったんですよ?世継ぎの問題は単なる色恋事情で左右できるほど簡単な話じゃない。普通なら、妃どころか側室だって何人も持つくらいの気概でないと、皇位継承者がいない皇帝など地位がないに等しいんですよ」
「……と言っても、シンドバッド王が言うにはどうやら近々国の垣根は無くなるそうですが。いったいどうなることやら」
世継ぎの話題を振られる度に真っ先に思い浮かぶのがこの顔である。ということは、つまりそういうことを示すわけで。
「ぁ、はく、白龍さま、……も、やめて、……ください……」
「どうして?」
「あか、ちゃん、ん、できちゃう……っ」
「ええ。そうですね。今更?」
懇願を無視して腰を動かし続ける。
「子供ができて、何かまずいことでも?」
「え、だ、だって」
「いいですよ、産んでください。責任をもって面倒をみますから。あなたのこともね」
「俺に体を許している時点で、もう嫁にはいけないでしょう?でも安心してください」
「あなたは俺の子を産んで、この宮殿でただ静かに暮らしているだけでいいんです。温かい食事と寝床もあるし、俺の言うことを聞きさえすれば、何不自由なく暮らせます」
「それが嫌ならば、……ここを改竄してしまいましょうかねぇ。唯一の眷族であるあなたにはベリアルを使うまいと思っていましたが」
額にトンと指を置けば、彼女は若干体をビクつかせて小さく首を振った。
「ど、して……そんな、ひどいこと……言うのですか……」
「ひどい?優柔不断なあなたを楽にさせてやろうとしているんじゃありませんか。心外だな」
「浮ついた気持ちでいるあなたを、そばに置くことを許してやってる俺の身にもなってください。あなただって子供を産めばいい加減諦めもつくでしょう。過去の想い人のことなんか忘れて俺に全部委ねればいいんですよ」
「ち、ちが、……ちがう……」
「違う?」
「か、過去の、なんかじゃ……ない……」
「今も愛していると?」
「ちが、う!……あの方は、そう、いうのじゃ、ない……っ」
「タケ、ル様は、っ……あ、あなたとは、ぜんぜん、ちがう……!」
「健彦殿?」
寝台の隅で縮こまって呼吸を荒らげている。のを見ながら考える。
「想い人というのは、まさか健彦殿のこと?」
「……ちが、う」
「でもあなたが今考えているのはその人なんでしょ?」
「……そう、いうのじゃない……!」
「好いてはいないと?」
「すっ、……すき、じゃなく、ない……」
「ほら。好き、なんでしょう?だから、あなたの想い人は健彦殿なんだ。そうなりますよね?」
「……ぜ、んぜん、ちがう……、っ!……ぐすっ……、ちがうの、ひぐっ……うえ、っ……ちがうのに……」
そこからはとうとう関門が崩壊したかのように泣きじゃくる。普段の落ち着いた様子からは想像もできないほど心が乱れている。嗚咽混じりに大粒の涙をとめどなく流して、
自らここに残ったのに、国のことを忘れられないでいる赤琉に対してもどかしい気持ちが膨れ上がり、随分と大胆なことをしたのは認める。嫌がっているのに強行することはなかった。これではただの悪漢の所業と同じことだ。
手荒な真似をされ泣いている乙女を前にして、このまま立ち去ることはできるがそうすべきではないことは確実である。なぜなら俺が彼女をこうしたからだ。
着物を携えながら赤琉の近くに寄ってみる。嫌がられたり避けられる素振りはなかったので、ひとまず顔に触れて親指で涙を拭いにかかった。あなたに泣き顔は似合わない。
「赤琉殿、落ち着いてください。俺はなにもあなたを貶めるつもりなんてなかったんですよ」
「……ぐすっ、……うそ……っ」
「嘘じゃありません」
「じゃあ、なんで……っ」
「いいから、まずは呼吸を整えて」
俺の胸というか腹に横顔を擦り付けている。そんな赤琉の頭を撫でる。
「はあ……健彦殿はなぜあなたをこんな状態にしてまで置いていったんでしょうねえ。ひどい方だ」
「た、タケル様を悪く言わないで……っ」
「はいはい。すみません。思えばあの七海とかいうあなたのご友人も、健彦殿のことを心底敬愛していましたよね。あなた方の国って、何かそういう文化?でもあるんですか?まああの人は確かになんとなく、若い女性を侍らすのが好きそうな方でしたね」
「タケル様のこと、馬鹿にしないで……っ」
「はいはい。すみません」
「なるほど。つまり、あなたが言いたいのは健彦殿は絶対的な忠誠を誓っている主という存在で、好いてはいるけど恋愛的な意味で慕っているわけではない、と」
「……ん」
「はあ、そうでしたか。でも、俺からしたらそんなのどっちでも変わらないですけどね。それほどの熱量で彼のことを思っているんだから」
「そんなに健彦殿のことが大切なら、やっぱりあなたはご自分の国に帰るべきですよ。ザガンの眷族器なんて置いていけばいい。それなら堂々と顔向けできるでしょう?」
首を横に振る。
「……この刀は、……」
「ああ、鬼倭の国宝なんですって?ザガンの奴は随分尖ったものを器にしてしまいましたね。心配せずとも、あなたの頼みとあらば俺が責任をもって預かることも出来るんですよ。それはもう厳重に保管して、俺以外の誰にも触れられない場所に飾っておきますから」
「……」
「……でも、そしたら、此方……今度は、あなたのことを、忘れられなくなってしまいます」
「……」
「あなたの元を離れて鬼倭に帰ったとて……きっと、此方はあなたのことを忘れられなくて、ふとした時に思い出して、苦しくなってしまいます……そうなったら、それこそ、タケル様に顔向けできませぬ……」
「……はあぁ〜。あなたって人は、本当にもう、困ったお人だ」
「いいですか?あなたの主張をまとめると、俺のことが好きだけど健彦殿、ひいては鬼倭国のことが大事だから煌帝国の妃にはなりたくない、そのくせ俺と離れたくないから健彦殿のいる鬼倭国へ帰ることもしたくない。そういうことになりますよ?」
「……ん」
「ふざけてるんですか?」
「あなたが妃にならないということは、俺は他の女性を娶ることになるんでしょうねえ」
「え、や、やだっ」
「わがまま言わないでください。俺は皇帝になったんですよ?世継ぎの問題は単なる色恋事情で左右できるほど簡単な話じゃない。普通なら、妃どころか側室だって何人も持つくらいの気概でないと、皇位継承者がいない皇帝など地位がないに等しいんですよ」
「……と言っても、シンドバッド王が言うにはどうやら近々国の垣根は無くなるそうですが。いったいどうなることやら」