「父上はどちらに?」
「知らん。おおかたおぬしに会うのが気まずいんじゃろ。それにいい歳して人見知りだからのぅ〜、新顔がこんなにいるんじゃあ出てこられないにきまってるぜよ」
「はあ、情けない御仁ですこと」
「黒耀!良いな!宣言通り赤琉の親権はおれが貰い受ける!こやつはもうおれの娘っ子じゃ!」
「ええっ!赤琉おねえさん、お殿様の子になるのかい!?」
アラジンさまは国の優秀な医療魔導士によって治療が施された。数時間もすれば歩けるほどには回復した。まだまだ休養は必要だが。
「あなた方はどうぞ此方のお屋敷にお泊まりくださいな。部屋はいくつも余っていますので」
「随分と広い部屋みたいだし、僕たちは一緒の部屋で大丈夫だよ?これまでもずっとそうしてきたからね」
「とはいえ、時にはお一人になりたい時間もありますでしょうし、一人一部屋はお貸ししますよ。そのうえで、お好きな部屋に自由に集まって頂いて構いませんので」
「ありがとう!じゃあ有難く使わせてもらうよ。お互いの部屋を行ったり来たりしたら楽しそうだね!」
「アラジンはまず怪我を治さないと」
どれも代わり映えのない部屋なので、楽しめるかは不安だが。
「こちらが白龍さまのお部屋です」
「ふーん?」
すごい不服そうな顔をしている。
「な、なにかご不満でも……?」
「あなたの部屋はどこにあるんですか?」
「え?此方のお部屋は上の階に……」
「俺をそこに案内してください」
ええっ。
「そっか。ここは赤琉おねえさんのお家だもんね。僕も赤琉おねえさんの部屋に行ってみたいなあ〜!ね!モルさん」
「まあ……はい。ご迷惑でなければ」
「いいえ。この二人のことはいいです、案内しなくて。俺だけ連れて行ってください」
「こ、此方の部屋で何をするんですか。べつに面白いものは何もありません」
「そこで寝泊まりするに決まってるでしょう。用意していただいたのに申し訳ありませんが、俺はこの部屋は使いませんから」
「ええ」
「あなた、煌帝国のどこで寝泊まりしたのか覚えていますよね?」
「は、白龍さまの、お部屋に……」
「でしょう?俺の部屋には好きなだけ泊まらせてあげたのに、あなたは俺にそうしてくれないんですか?」
「そんな、滅多なことを言わないでくださいまし……」
「ほら、分かったら案内してください。ではアラジン殿、モルジアナ殿、ゆっくり休んでどうぞ。俺は赤琉殿と行きますから」
「う、うん……モルさん、ここは大人しく二人の邪魔しないようにしよっか」
「は、はい。分かりました」
「なんだか恥ずかしいのでそんなにじろじろ見ないでいただけると……」
「思ったよりも質素ですね。さっきの部屋ともなんら変わらないような」
「そりゃあ、此方は皇族でも王族でもないんだから豪華な飾り付けなんて無縁なのです!白龍さまのお部屋が豪勢なだけでしょ」
「まあ文化の違いというやつですね。思えば城内も似たような感じでしたし、いかにも鬼倭国らしい内装というか」
「娯楽のようなものはないんですか?」
「もちろんありますよ!此方の部屋をあまり舐めないでくださいまし」
「べつに舐めてませんけど」
「ほら!」
部屋の奥の襖を全部開けると、目の前には竹やら松やらの木々が青々しく茂っていて、その下には一面町並みが広がっている。ちょうど日の入りの時間帯だから家々に灯る灯りが点々と見えて
「ここからの景色は此方のお気に入りなのです。お城以外では一番綺麗に見える場所なんですよ」
「確かに……お綺麗です」
「どこを見ているんですか?ちゃんと見下ろしてみてください!ほら!」
廊下の手すりの外を指さしながらあれがお城で、あれが大通りで、と色々説明して差し上げたら途中で話を遮られた。白龍さまに唇を塞がれたからだった。
「ようやく二人きりになれた」
「は、白龍さま……」
「煌帝国ではアラジンもモルジアナ殿も我が物のように部屋に入ってくるから、最近はそんなタイミングがあまりなかったでしょう。鬼倭の使いがずっと監視していたのもある」
「まあ、確かに」
「でもこれからは好きなだけ、楽しいことができますね」
「指名手配になってまで逃れてきたのに、調子に乗らないでくださいな。此方はまだ心休まらないのに……いつまたアルバさまが襲ってくるのかわからないでしょ」
「大丈夫ですよ。今度こそは倒します」
手を握られた。
「赤琉殿、愛しています」
「……」
「あなたには色々と借りがある。無関係な復讐を手伝わせた上に、いくつか手荒な真似もしましたよね。でも、そんな俺を今も慕ってくれているあなたのこと、俺は心から愛さずにはいられない」
「それとは別に、あなたのお心が健彦殿にあることは知っています。でも俺が赤琉殿を想う気持ちに変わりはないこと、分かっていてくださいね」
「俺はいずれまた煌帝国に戻るつもりですが、あなたはその時着いてこなくても構わない。結婚が無理なら今の曖昧な関係を続けてもいいし、なににせよ俺はいつでもあなたに会いに行きますよ。まあ、鬼倭国が煌帝国と国交を再開してくれないことには始まらないですが……それについても鬼倭王と話をつけねばなりませんね」
「一応言っておきますが、たとえ離れ離れになったとしても絶対に他の誰とも結婚しないでくださいね。だって、俺のことが好きなんでしょ?なのに他の誰かと契りを交わすなんて意味が分かりませんから」
白龍さまは色々と考えていらっしゃる。それなのに此方はそれに対する返答も、彼のお気持ちに対して抱く感想すらも言葉にすることができなくて、代わりに目の前の胸板に飛び込むことしかできなかった。
何も言わない此方に、白龍さまはただぎゅうと抱きしめてくれた。温かかった。
「知らん。おおかたおぬしに会うのが気まずいんじゃろ。それにいい歳して人見知りだからのぅ〜、新顔がこんなにいるんじゃあ出てこられないにきまってるぜよ」
「はあ、情けない御仁ですこと」
「黒耀!良いな!宣言通り赤琉の親権はおれが貰い受ける!こやつはもうおれの娘っ子じゃ!」
「ええっ!赤琉おねえさん、お殿様の子になるのかい!?」
アラジンさまは国の優秀な医療魔導士によって治療が施された。数時間もすれば歩けるほどには回復した。まだまだ休養は必要だが。
「あなた方はどうぞ此方のお屋敷にお泊まりくださいな。部屋はいくつも余っていますので」
「随分と広い部屋みたいだし、僕たちは一緒の部屋で大丈夫だよ?これまでもずっとそうしてきたからね」
「とはいえ、時にはお一人になりたい時間もありますでしょうし、一人一部屋はお貸ししますよ。そのうえで、お好きな部屋に自由に集まって頂いて構いませんので」
「ありがとう!じゃあ有難く使わせてもらうよ。お互いの部屋を行ったり来たりしたら楽しそうだね!」
「アラジンはまず怪我を治さないと」
どれも代わり映えのない部屋なので、楽しめるかは不安だが。
「こちらが白龍さまのお部屋です」
「ふーん?」
すごい不服そうな顔をしている。
「な、なにかご不満でも……?」
「あなたの部屋はどこにあるんですか?」
「え?此方のお部屋は上の階に……」
「俺をそこに案内してください」
ええっ。
「そっか。ここは赤琉おねえさんのお家だもんね。僕も赤琉おねえさんの部屋に行ってみたいなあ〜!ね!モルさん」
「まあ……はい。ご迷惑でなければ」
「いいえ。この二人のことはいいです、案内しなくて。俺だけ連れて行ってください」
「こ、此方の部屋で何をするんですか。べつに面白いものは何もありません」
「そこで寝泊まりするに決まってるでしょう。用意していただいたのに申し訳ありませんが、俺はこの部屋は使いませんから」
「ええ」
「あなた、煌帝国のどこで寝泊まりしたのか覚えていますよね?」
「は、白龍さまの、お部屋に……」
「でしょう?俺の部屋には好きなだけ泊まらせてあげたのに、あなたは俺にそうしてくれないんですか?」
「そんな、滅多なことを言わないでくださいまし……」
「ほら、分かったら案内してください。ではアラジン殿、モルジアナ殿、ゆっくり休んでどうぞ。俺は赤琉殿と行きますから」
「う、うん……モルさん、ここは大人しく二人の邪魔しないようにしよっか」
「は、はい。分かりました」
「なんだか恥ずかしいのでそんなにじろじろ見ないでいただけると……」
「思ったよりも質素ですね。さっきの部屋ともなんら変わらないような」
「そりゃあ、此方は皇族でも王族でもないんだから豪華な飾り付けなんて無縁なのです!白龍さまのお部屋が豪勢なだけでしょ」
「まあ文化の違いというやつですね。思えば城内も似たような感じでしたし、いかにも鬼倭国らしい内装というか」
「娯楽のようなものはないんですか?」
「もちろんありますよ!此方の部屋をあまり舐めないでくださいまし」
「べつに舐めてませんけど」
「ほら!」
部屋の奥の襖を全部開けると、目の前には竹やら松やらの木々が青々しく茂っていて、その下には一面町並みが広がっている。ちょうど日の入りの時間帯だから家々に灯る灯りが点々と見えて
「ここからの景色は此方のお気に入りなのです。お城以外では一番綺麗に見える場所なんですよ」
「確かに……お綺麗です」
「どこを見ているんですか?ちゃんと見下ろしてみてください!ほら!」
廊下の手すりの外を指さしながらあれがお城で、あれが大通りで、と色々説明して差し上げたら途中で話を遮られた。白龍さまに唇を塞がれたからだった。
「ようやく二人きりになれた」
「は、白龍さま……」
「煌帝国ではアラジンもモルジアナ殿も我が物のように部屋に入ってくるから、最近はそんなタイミングがあまりなかったでしょう。鬼倭の使いがずっと監視していたのもある」
「まあ、確かに」
「でもこれからは好きなだけ、楽しいことができますね」
「指名手配になってまで逃れてきたのに、調子に乗らないでくださいな。此方はまだ心休まらないのに……いつまたアルバさまが襲ってくるのかわからないでしょ」
「大丈夫ですよ。今度こそは倒します」
手を握られた。
「赤琉殿、愛しています」
「……」
「あなたには色々と借りがある。無関係な復讐を手伝わせた上に、いくつか手荒な真似もしましたよね。でも、そんな俺を今も慕ってくれているあなたのこと、俺は心から愛さずにはいられない」
「それとは別に、あなたのお心が健彦殿にあることは知っています。でも俺が赤琉殿を想う気持ちに変わりはないこと、分かっていてくださいね」
「俺はいずれまた煌帝国に戻るつもりですが、あなたはその時着いてこなくても構わない。結婚が無理なら今の曖昧な関係を続けてもいいし、なににせよ俺はいつでもあなたに会いに行きますよ。まあ、鬼倭国が煌帝国と国交を再開してくれないことには始まらないですが……それについても鬼倭王と話をつけねばなりませんね」
「一応言っておきますが、たとえ離れ離れになったとしても絶対に他の誰とも結婚しないでくださいね。だって、俺のことが好きなんでしょ?なのに他の誰かと契りを交わすなんて意味が分かりませんから」
白龍さまは色々と考えていらっしゃる。それなのに此方はそれに対する返答も、彼のお気持ちに対して抱く感想すらも言葉にすることができなくて、代わりに目の前の胸板に飛び込むことしかできなかった。
何も言わない此方に、白龍さまはただぎゅうと抱きしめてくれた。温かかった。