「七海殿……そこで何を?」
部屋の前で部屋の中を覗き込みながらうぎぎと拳をにぎる七海
「羨ましいっ!!!でも赤琉ちゃまはずっとお悩み事が晴れず……それを殿がどうにかしてくださると言うから……わたしは涙を飲んで見守るのみ……っ」
「えっと、もう潰れているように見えるんですが」
健彦に寄りかかるように眠る赤琉
「おお白龍!良いところに来おった。こやつをさっさと連れて行け、おれはもう足が痺れて適わんぜよ」
「赤琉殿がなぜあなたの肩を枕にして寝ているんですか!?」
「なぜって、赤琉はおれの娘じゃ。親が子を寝かしつけてやるのは普通のことであろう」
普通のことか。その普通は俺には通じないが、二人の関係はそれこそ部外者の俺などが測れるものではないから、そういうことにしておこう。
赤琉殿は酒瓶を抱きしめながら小さく寝息を立てている。顔が赤みがかっているのを見るに、酒に酔いつぶれてしまったようだ。お酌をしていたのは赤琉殿のようなのに、なぜ彼女の方が潰れていて、なぜ健彦殿の方はこんなにもピンピンしているのだ。この部屋で二人きり、何の話をしていたのだろう。
赤琉を自分の方へ引き寄せる白龍
「ずっとあなたに聞きたかったことがあります」
「なんだ?」
「赤琉殿があなたの大切な娘だと言うのなら、どうしてあの時無理やりにでも連れ帰らなかったんですか。俺が言うのもなんだが、内戦直後で荒れている煌帝国よりもこの国に戻る方が安全だったでしょうに」
「赤琉がそう望んだからぜよ。そんなことおぬしも知っておろう。なにを今更不思議に思うことがある」
「赤琉殿はどちらかと言えば国に戻るのが気まずそうな態度でした。でも前に祖国を追い出されたというのは赤琉殿の早まった解釈で、あなたにそのつもりはなかったのでしょう?その話を聞いたからこそ、まさか俺の元に残るとは思わなくて」
当時、彼女のことはまあまあ酷い扱いをしていたから……という自覚はもちろんある。俺に気があるように見せていたのも居場所をもらうためか、一時の気の迷いかと思っていた。
「最終的には帝位在位中に婚儀を交わすことはなかったが、もしかしたら赤琉殿は皇妃になっていたかもしれないんですよ。隣国の、元侵略国家の」
「うむ。おれにも分からん。当時の赤琉はおぬしの言いなりだったそうだのう。皇帝の命令一つでいつでも我が物に出来たろうに、そうしなかったのはなぜだ?」
「はあ?そんなこと、あなたの方こそ許さないでしょう。正式な国賓になったからと警護を何人も寄越してくれたお陰で俺はろくに手が出せなかったんだから」
「かっかっか!」
「俺は……最初からそのつもりでしたよ。妻にするなら赤琉殿しかいないと。でも、彼女はべつに全部が全部俺の言いなりだったわけではありません」
「赤琉殿が煌帝国に単身で舞い戻ってきた時から、彼女はただ金属器の主というだけの俺に力を尽くしてくれました。その時は健彦殿や鬼倭の重役に何らかの目論見を託されて遣わされたのかと疑っていましたが、そうではなかった」
「赤琉殿が俺の命令で煌の兵士を殺した時から、責任を取るつもりでいましたよ。俺と関わったことで不要な殺生などを強いられて、無関係な国の内紛に巻き込まれたんだから」
「でも彼女の本当の忠誠心はいつもあなたに向いていました。鬼倭と正式に外交のやり取りをするまでは、自ら情報を漏らすこともなかったし」
「赤琉殿は俺を慕ってくれてはいましたが……求婚には応じなかったんです。それもいつも曖昧な返事で。俺のそばに残ることを選んだとはいえ、あなたが忘れられなかったのでしょう。赤琉殿はもともと鬼倭国の眷族だし、あなたの忠実なる従者と分かってからは俺も弁えてとやかく言える立場ではなくなった」
「俺はどうやって赤琉殿をあなたのもとにお返ししようかと悩んでいて……しかし赤琉殿が俺といることを望むならいっそのこと妻にするのが早かったのに、それも嫌だと言うのだから、まったくこの人の我が儘には困ったものですよ」
俺が皇帝をおりて今こうして鬼倭国で盃を交わしているなんて、少し前までは想像しなかったことだ。アルバから逃れるのにこの浮遊島が都合がよかったとはいえ。
赤琉殿を連れて帰ることには成功したが、将来どうするのかはまだ決めあぐねている。アルバを倒した、その後の話だ。
「だがおぬし、未だ赤琉を娶る気は残っちゅーが」
「責任はとると言いました」
「アルバの件が解決したら……赤琉をまた煌帝国に連れて行くのか?」
「赤琉殿に負担を強いてまで貴国から連れ出すようなことはしたくありません」
「となると、おぬしが鬼倭に婿入りすると?そんなわけなかろうが」
「ええ、皇帝をおりたとはいえ、俺は煌帝国の皇族ですよ。それも失策の末に退位した……そんな俺をあなたは簡単に受け入れるべきではない。それに今の煌帝国の惨状をご存知でしょう。俺にはまだ国でやるべきことがたくさんある」
「ふむ。ならばもう、遠距離恋愛をするしかあるまい」
「……そうですね」
「という冗談はさておき、どうしたものかの。そも、赤琉の肚が決まらんことには話もできぬ」
「起きていたんですか?さっきまでぐっすりだったでしょう?」
「おう!赤琉、話は聞いておったか?どうせまた眠ったフリをして盗み聞きしておったのだろう!ほれ、愛しの白龍に心の内を話してみよ」
赤琉殿はぺたりと額を畳に擦り付けた。ほとんど倒れているだけにも見えるが、二度寝したわけではなさそうだ。
「……此方は、氷川の者として、タケル様に生涯を捧げてお支えすると誓いました」
「でも、此方は……」
「は、白龍さまのことが、好きになってしまいました。だから、だから……」
「タケル様、ごめんなさい……」
「白龍について行くんだな?」
「はい……」
「よし!今の言葉、しっかと聞き届けた!まあ聞くまでもなかったぜよ。おぬしの考えなど手に取るように分かるからの!」
「で、でも、此方は……本当は、タケル様のことが、本当は……」
「いい、いい。血筋に縛られて生きるのは余りにも窮屈であろう。おぬしが最初に国を出たいと言った時から、こうなることは予感していた。なあに、部下ならばあの黒耀がいる。おれのことは案ずるでない」
「どこの誰と結ばれようと、おれの娘であることは変わらんぜよ。いつでもおれの元へ帰って来い」
「た、タケル様っ……だ、大好き……やっぱり此方、タケル様と結婚する……」
「え!?何言ってんですか!?あんたまだ酒が残って……!」
「困ったのお、おれのモテモテ具合には」
「言ってる場合か!ほら、もう、お屋敷に帰りますよ!それでは!失礼いたします!」
部屋の前で部屋の中を覗き込みながらうぎぎと拳をにぎる七海
「羨ましいっ!!!でも赤琉ちゃまはずっとお悩み事が晴れず……それを殿がどうにかしてくださると言うから……わたしは涙を飲んで見守るのみ……っ」
「えっと、もう潰れているように見えるんですが」
健彦に寄りかかるように眠る赤琉
「おお白龍!良いところに来おった。こやつをさっさと連れて行け、おれはもう足が痺れて適わんぜよ」
「赤琉殿がなぜあなたの肩を枕にして寝ているんですか!?」
「なぜって、赤琉はおれの娘じゃ。親が子を寝かしつけてやるのは普通のことであろう」
普通のことか。その普通は俺には通じないが、二人の関係はそれこそ部外者の俺などが測れるものではないから、そういうことにしておこう。
赤琉殿は酒瓶を抱きしめながら小さく寝息を立てている。顔が赤みがかっているのを見るに、酒に酔いつぶれてしまったようだ。お酌をしていたのは赤琉殿のようなのに、なぜ彼女の方が潰れていて、なぜ健彦殿の方はこんなにもピンピンしているのだ。この部屋で二人きり、何の話をしていたのだろう。
赤琉を自分の方へ引き寄せる白龍
「ずっとあなたに聞きたかったことがあります」
「なんだ?」
「赤琉殿があなたの大切な娘だと言うのなら、どうしてあの時無理やりにでも連れ帰らなかったんですか。俺が言うのもなんだが、内戦直後で荒れている煌帝国よりもこの国に戻る方が安全だったでしょうに」
「赤琉がそう望んだからぜよ。そんなことおぬしも知っておろう。なにを今更不思議に思うことがある」
「赤琉殿はどちらかと言えば国に戻るのが気まずそうな態度でした。でも前に祖国を追い出されたというのは赤琉殿の早まった解釈で、あなたにそのつもりはなかったのでしょう?その話を聞いたからこそ、まさか俺の元に残るとは思わなくて」
当時、彼女のことはまあまあ酷い扱いをしていたから……という自覚はもちろんある。俺に気があるように見せていたのも居場所をもらうためか、一時の気の迷いかと思っていた。
「最終的には帝位在位中に婚儀を交わすことはなかったが、もしかしたら赤琉殿は皇妃になっていたかもしれないんですよ。隣国の、元侵略国家の」
「うむ。おれにも分からん。当時の赤琉はおぬしの言いなりだったそうだのう。皇帝の命令一つでいつでも我が物に出来たろうに、そうしなかったのはなぜだ?」
「はあ?そんなこと、あなたの方こそ許さないでしょう。正式な国賓になったからと警護を何人も寄越してくれたお陰で俺はろくに手が出せなかったんだから」
「かっかっか!」
「俺は……最初からそのつもりでしたよ。妻にするなら赤琉殿しかいないと。でも、彼女はべつに全部が全部俺の言いなりだったわけではありません」
「赤琉殿が煌帝国に単身で舞い戻ってきた時から、彼女はただ金属器の主というだけの俺に力を尽くしてくれました。その時は健彦殿や鬼倭の重役に何らかの目論見を託されて遣わされたのかと疑っていましたが、そうではなかった」
「赤琉殿が俺の命令で煌の兵士を殺した時から、責任を取るつもりでいましたよ。俺と関わったことで不要な殺生などを強いられて、無関係な国の内紛に巻き込まれたんだから」
「でも彼女の本当の忠誠心はいつもあなたに向いていました。鬼倭と正式に外交のやり取りをするまでは、自ら情報を漏らすこともなかったし」
「赤琉殿は俺を慕ってくれてはいましたが……求婚には応じなかったんです。それもいつも曖昧な返事で。俺のそばに残ることを選んだとはいえ、あなたが忘れられなかったのでしょう。赤琉殿はもともと鬼倭国の眷族だし、あなたの忠実なる従者と分かってからは俺も弁えてとやかく言える立場ではなくなった」
「俺はどうやって赤琉殿をあなたのもとにお返ししようかと悩んでいて……しかし赤琉殿が俺といることを望むならいっそのこと妻にするのが早かったのに、それも嫌だと言うのだから、まったくこの人の我が儘には困ったものですよ」
俺が皇帝をおりて今こうして鬼倭国で盃を交わしているなんて、少し前までは想像しなかったことだ。アルバから逃れるのにこの浮遊島が都合がよかったとはいえ。
赤琉殿を連れて帰ることには成功したが、将来どうするのかはまだ決めあぐねている。アルバを倒した、その後の話だ。
「だがおぬし、未だ赤琉を娶る気は残っちゅーが」
「責任はとると言いました」
「アルバの件が解決したら……赤琉をまた煌帝国に連れて行くのか?」
「赤琉殿に負担を強いてまで貴国から連れ出すようなことはしたくありません」
「となると、おぬしが鬼倭に婿入りすると?そんなわけなかろうが」
「ええ、皇帝をおりたとはいえ、俺は煌帝国の皇族ですよ。それも失策の末に退位した……そんな俺をあなたは簡単に受け入れるべきではない。それに今の煌帝国の惨状をご存知でしょう。俺にはまだ国でやるべきことがたくさんある」
「ふむ。ならばもう、遠距離恋愛をするしかあるまい」
「……そうですね」
「という冗談はさておき、どうしたものかの。そも、赤琉の肚が決まらんことには話もできぬ」
「起きていたんですか?さっきまでぐっすりだったでしょう?」
「おう!赤琉、話は聞いておったか?どうせまた眠ったフリをして盗み聞きしておったのだろう!ほれ、愛しの白龍に心の内を話してみよ」
赤琉殿はぺたりと額を畳に擦り付けた。ほとんど倒れているだけにも見えるが、二度寝したわけではなさそうだ。
「……此方は、氷川の者として、タケル様に生涯を捧げてお支えすると誓いました」
「でも、此方は……」
「は、白龍さまのことが、好きになってしまいました。だから、だから……」
「タケル様、ごめんなさい……」
「白龍について行くんだな?」
「はい……」
「よし!今の言葉、しっかと聞き届けた!まあ聞くまでもなかったぜよ。おぬしの考えなど手に取るように分かるからの!」
「で、でも、此方は……本当は、タケル様のことが、本当は……」
「いい、いい。血筋に縛られて生きるのは余りにも窮屈であろう。おぬしが最初に国を出たいと言った時から、こうなることは予感していた。なあに、部下ならばあの黒耀がいる。おれのことは案ずるでない」
「どこの誰と結ばれようと、おれの娘であることは変わらんぜよ。いつでもおれの元へ帰って来い」
「た、タケル様っ……だ、大好き……やっぱり此方、タケル様と結婚する……」
「え!?何言ってんですか!?あんたまだ酒が残って……!」
「困ったのお、おれのモテモテ具合には」
「言ってる場合か!ほら、もう、お屋敷に帰りますよ!それでは!失礼いたします!」