婿入りバトル


「黒耀様は元より当主返還を受け入れてはおりませぬ!あなた様は今も氷川家当主のままなのですぞ!」


「赤琉様のお心を射止め、氷川家に婿入りするというかねてからの夢をどこぞ馬の骨とも分からぬ男に阻まれるなんぞ到底受け入れることはできませぬ!」
「白龍くんは、こう見えても煌帝国の元皇帝だよ」
「関係なし!おどれ、尊き氷川の一族と関わり合いを持とうと言うのであらば潔く決闘を受けろ!でなければとっとと失せろ!」


「白龍、許せ。こやつらは昔から赤琉に目がないのだ」
「仕方がありませんね。ここにいるので全員ですか?まとめてかかってきて頂いても構いません」

結果は白龍さまの圧勝だった。嬉しいけど、仮にも氷川の名を冠さんとする者たちが全員揃って他国の人間一人に敵わないなんて、恥ずべきことである。父上がこの場にいたら怒り狂って猛特訓を始めてしまうかもしれない。……いや、たぶんそこにいると思うんだけどな。どうしてか今もお姿を隠したまま出てこない。外交以外での国外からの来賓など数十年ぶりのことだから、人見知りが拍車をかけているのか?

「どうなされたか?勝ち残った最強の男が氷川家に婿入りするという規則なのでしょう?ならば俺がこの中でもっとも相応しい男であるはずだ。既に勝負はついたと思うのですが」

「みっともないことはおやめなさい」
「しかし、赤琉様……この者なんかより私の方がずっと、ずっとあなた様を想っているのに」
「でも、赤琉おねえさんは白龍くんのことが好きみたいだよ?」
「あ、アラジンさま!わざわざ言わなくていいですから……!」


「くっ……やはり数年前のあの時、あなた様が国を出るのを決死の覚悟で止めていれば……!こんなことには……」

「あなたのこと、此方は大切に思っておりますよ。幼い頃から一心に支えてくれていましたね。迷宮攻略の際に瀕死になった時も、あなたはずっとそばにいてくれたと聞きました」

「でも、あなたの気持ちに沿うことはできません。これまで尽くしてくれた全てをお返しすることは叶わないけど、これからは此方のためではなく、他のことに時間を使いなさいな」


「いえ……あなた様にはとうに忠誠を誓っております。隣に立つことは出来ずとも、生涯お支えする所存であります。叶うのならばこれからも、従僕として赤琉様のおそばに」
「あなたは強いですね。此方はそうはいかなかったのに……」

「しかし、あなたまで国を出ることはない。さすればどなたがタケル様をお守りするのです」
「ま、まさか赤琉様……」



「父上!よくお聞きなさいな。氷川家当主の座は今度こそ父上にお返しいたします。時来たれば此方はアラジンさま方と共に再び国を出ることになりましょう。此方が氷川を名乗るのもそれまでです」
「ああ、赤琉様……」
「残された問題が全て片付いた暁には、此方は白龍さまのお国へ行き……練一族の籍に入ります。もうタケル様とも話を済ませたことです。どうかお分かりになってくださいね」



「赤琉殿の父君がここにおられるのですか?」
「はい。たぶん。アラジンさま、あなたになら見えるのではないですか?」
「うん……ちょうど僕たちの真正面に、赤琉おねえさんとよく似た人のルフが見えるよ。それと、同じ眷族器のルフの色もね」
「私の目にはまったく見えませんが……」
「父上は此方よりもかくれんぼが得意なのですよ。昔からえらく人見知りで……」
「人見知りなどではないわ」

あ、という間に目の前に父上が姿を表した。普段から滅多に姿を見せないのは変わっていないのだろう。周りの者は皆驚いたように「黒耀様!」と口々に名前を呼んでいる。

「お初にお目にかかります、お客人方。我は氷川の黒耀と申す者。そこの赤琉の父親でもありまする」

なんて雑な自己紹介なのかしら。まあ国の誰もが知る人なのだ、ただの刑吏が外交に関わることもないし、自己紹介をする機会もそうあるはずがない。
こちらは煌帝国の……と紹介しようとしたところで白龍さまは誰よりも早く一歩前に出て頭を下げた。顔の前に拳を握って、丁寧にお辞儀をしている。

「黒耀殿。ようやくお会いできて光栄です。俺は煌帝国前皇帝、練白龍」
「もちろん我が王より話は聞いておりまする。よくぞ鬼倭国へ参られましたな」
「赤琉殿のご家族であるあなたには真っ先にお会いしたいと思っていたのに、まさか入国から何週間経ってもご挨拶すらできぬとは……不思議なお方だ。今夜こそはぜひともお話をさせて頂きたく」

「白龍さまのほうが偉いのですから畏まらなくていいですよ!それに、父上はただ人見知りのかまってちゃんなだけなので、あまり気になさらないでください」
「誰が人見知りのかまってちゃんだ!」
「タケル様のお言葉ですよ」
「だにぃ!?それはまことか!てめえ、一発殴ってやる!」
「うおお!?お、落ち着けっ!確かにおれはそんなことを言ったが衆目の面前で戯れるでない!王の部下がそんな態度で許されると思うとか!?」
「関係ないわ!!」



「父上、そういうわけなので、此方はこの御仁と結婚します」
「ならん」
「え!?赤琉おねえさんの結婚に反対なの?」
「当たり前だ!」
「まあまあそう言わずに。赤琉殿のことは俺にお任せ下さい。必ずや幸せにしますよ、義父上殿」
「貴様!気安く父などと呼ぶな!何様のつもりだ!」
「父上……!白龍さまに失礼ですよ!」
「何って、俺たちはとっくに両想いなのに。ねえ、赤琉殿」
「それとこれとは話が別だ!」


「父上だって、ただの庶民だった母上を口説き落として嫁入りさせたんでしょ?母上は本当は決まった相手がいたのに、それに比べたら両想いの此方たちの方がよっぽど受け入れられるべきです!」
「ぐぬぬ……一丁前に口達者になりおって」
「ふーんだ」
「へぇ、赤琉おねえさんのお母さんはそうだったんだ!どんなところに惚れたんだい?」
「……はあ、健彦。どうやら私には酒が必要だ」
「おおっ。わかったわかった!今夜も宴会としよう」



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