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白龍さんのこと、本気で好きになりました。というか、本気で好きだということをようやく自覚しました。それに、今まで白龍さんに対して漠然と抱いていた誤解もすっきり解消することができました。なんてことはありません。今日の学校からの帰り道、私を待ち伏せしていたあの人が私の悩みをまるっと聞き出して言語化してくれたのです。彼が……ジュダルさんが白龍さんの知り合いということは名前を聞いただけで分かりました。以前映画を見た時にした会話で名前が出てきたから。なにしろお母さんを殺した人だし、普段なら人の名前なんて覚えられない私だけどさすがにぴんと来ました。そのおかげで白龍さんと仲直りできました。まあ喧嘩していたわけじゃないけど。
白龍さんの言う言葉が全部、私に対して、真っ直ぐ向けられたものだということは彼の言う通り。それを真っ直ぐ受け止められないのは、私がただただ恥ずかしがって、てきとうなことを言っているんだと思い込んでいるんじゃないかって、あまりにも潔くそうズバッと突っ込まれて……気づかされました。そうでした、私って実は疑り深い性格だったのです。その人の言うことは全て腑に落ちることでした。信じてるのに、信じられない。それは、私の心が小さいだけだった。
だから、受け止めきれないから、そういうことを言うのはやめてほしいって勇気をだして正直に打ち明けたのに、白龍さんは聞いてくれませんでした。それどころかもっともっと言うようになってしまいました。でも……お互いの気持ちを改めて分かり合えた感じがするから、これでよかったのです。仲直り?のキスをしている間、ふと目を開けた時に白龍さんの目が潤んでいるように見えたのは、気のせいだったかな。
……気のせいだったかも。白龍さんが泣くところなんて想像できないもん。

「で、俺はひとつあなたに尋ねなければならないことがあるんですが……ジュダルと、いつ、どこで、会ったんですか……?あなた……」
「ひぃ」
お話が終わったあと。私はもう後腐れなく全部思いを伝えられたけど、白龍さんにはまだ納得いっていない部分があったようで……笑いながら圧をかけてきました。怖すぎる。余韻を引くように零れかけていた涙が思わず引っ込んでしまいました。後ずさる私を当然のように捕まえて両肩を掴む白龍さん。そのままソファーのところまで連れていかれて隣同士で座りました。いつもは全然怒らないのに、どうして今に限ってそんなに怒っているのかよく分かりません。
「は、白龍さ……」
「今、猛烈に困惑しているんですが……説明、してくれますか?」
私がいつどこでジュダルさんに会ったか?やっぱり……さっき委員会がどうとか聞かれたけど白龍さんは知らなかったみたいです。今日は委員会なんてなかったのに。部下の人はなんでも報告をするわけではないのでしょうか?
「えと、えと、ジュダルさんとは、今日、学校の帰り道で、声をかけられて、えと、なんかお店に連れてかれて……」
「店……?それは、何の店です……?まさか」
「ひぃ」
めちゃくちゃ怒ってます。何のお店って言われても、お店はお店です!一生懸命説明しているのにますます怖い顔をする白龍さん。怖……。
「まさかあなた……やらしい店に連れていかれたんじゃないでしょうねえ」
「えっ!?ち、ちがいます!そんなの、行くわけないです!」
「じゃあどこです?」
「えっと、たしかハンバーガー……?とかがあるお店です……!そこでポテトとかも食べさせてもらいました。一度断ったのに、ジュダルさんは聞いてくれなくて……」
なんとかなんとかっていう、学校帰りによく見かけていたご飯のお店です。私は幼い頃から外食をした経験が全くなく、だからこそ白龍さんに無断で入るのは怖いから断ろうとしたのに、それを言った途端にむしろジュダルさんは「マクドの美味さを知らずに死んでいくなんてもったいねぇ!」と強引に私を店内に連れていってしまいました。不審者かと思いました。でも、ジュダルさんとのお食事は楽しかったです。お友だちと向かいあわせでご飯を食べたことなんて一度もなかったし……。
「その、なんか白龍さんのお料理とは雰囲気が違って……でも美味しかったです。私は初めて入りましたけど……だから大丈、」
「大丈夫なわけないでしょう!?」
「……」
ジュダルさんは首を振る私にしきりに「大丈夫だいじょーぶ!」と言っていたけど、白龍さんにとっては大丈夫じゃなかったみたいです。
「はぁ〜なんてこった、クソ……」
くそ……?白龍さんはたぶんヤンキーさんだけど私の前では滅多に言葉を崩したりなんてしないのに。いつもみたいに失礼、とお口を閉じるどころか、続けて「アホ、バカ、マヌケ!」と叫び続けています。語彙力をなくした白龍さんかわいい……。白龍さんはさらに「ファストフード……」「俺に無断で……」「偉い身分になったものだなあのクソガキは……」とかぶつぶつ言っています。……クソガキ?ジュダルさんは昔からのお友だちだったみたいにあっという間に私と仲良くなって、世間話もしたし色々と相談に乗ってくれました。かくかくしかじか。その時に白龍さんより年上という話を聞いたような。気のせいだったかな。
白龍さんの服をぐいぐいひっぱる私。さっき泣き腫らしたばかりだけど、もう声は落ち着いてきました。
「白龍さん、あの、実は、明日の放課後も会いに来るって言ってました。ジュダルさん……」
「なんですって?そうですか、分かりました。放課後ですね。迎えに参りますからくれぐれもあの男に先に見つからないように」

と、言われていたのにそれは無理な話でした。だってジュダルさんは校門の目の前で待ち構えていたからです。
「よぉ赤琉!来たぜ〜」
まあ、この前みたいに道端の途中でいきなり現れたとしても、白龍さんと同じくマフィアで殺し屋でもあるだから、回避なんて出来ないけれども。
「……ジュダ、ルさん」
「今度はファミレスな!」
ポケットに手を突っ込みながら、アラジンさんみたいに長い後ろ髪をゆらゆら揺らしながら、ジュダルさんは近寄ってきます。それにしてもファミ、レス……?馴染みのない単語に首を傾げたら「ファミレスも行ったことねぇの!?」と昨日と同じように驚かれてしまいました。たぶんご飯を食べるところだと思うけど、また食べに行くのかな。
「白龍のもいいけどさァ、今のうちに色んなとこで食べといた方がいいって!なんせJKなんだし?おまえ」
「……」元気なひと……。
今は絶賛放課後で、しかも校内点検とかで部活ができなくていつもより下校する生徒がたくさんいるのに、そんなふうに大声を出さないでほしいです。私はそんなことで目立ちたくありません。なので知らないふりをして通り過ぎようかと思ったのに、何食わぬ顔で肩に手を回されて捕まってしまいました。
「あ、今日は紅覇もいるから!あいつ、待ち合わせに遅れたら割とうるせぇんだよな。女子かよって!」
「……」こうは?



「あっはは!白龍くぅん〜?イライラしたってしょうがないでしょ?このバカはどうしようもないバカなんだから今更考えたってムダムダ。それより……女の子の前でそんな態度、ボクなら考えられないねぇ〜。せっかくなら楽しまなきゃ損じゃん」
「どうも……義兄上。アドバイスありがとうございます」
思わぬところで、練家の人と顔を合わせることになり急に緊張し始めた私と、これからお食事をするのに珍しく体裁を気にせずテーブルに片肘をついて眉間のしわを揉む白龍さん。私の目にも見えるんじゃないかと言うほど、強い負のオーラが出まくっています。その対象はどうやら……向かいの斜めに座るジュダルさん。仲、悪いのかな。でもジュダルさんの話では全然そんなこと聞かなかったのに。
ここはさっきジュダルさんの言っていたファミリーレストラン、略してファミレス……ではなく、おそらく白龍さんか紅覇さんのどちらかが急遽貸し切りにしたレストランです。言うまでもなく高級なところだと思います。店内がキラキラで、コックさんもいて、慣れたものだと思っていたけど、綺麗な建物はいつだって目を奪われてしまいます。今日は学校が午前中に終わる日だったし、お昼はちゃんとしたところで、という感じなのでしょうか。
「で、赤琉だっけ?初めましてだね。ボクは紅覇。適当に呼んでいいよ。お前もせいぜい楽しむことだね」
「は、はい。よろしくお願いします」
「まあここは組織の管轄下だからゆっくりしてってよ。気張らずにね。ほら白龍も!いつまでそんな顔してんのさ!」
「いたっ!」
「……」白龍さんが殴られた。
少し大きめのテーブルで、私と白龍さん、ジュダルさんと紅覇さんがそれぞれソファーに座って向かい合っています。組織の管轄下。それはどういう意味なのでしょうか。よく分からないまま、とりあえず紅覇さん……紅玉お義姉さまのお兄さまの挨拶にぺこりとご挨拶しました。外見はとっても幼く見えるけれど、本当に“おにいさま”?でも、未だに不機嫌な表情を隠さずに悶々としている白龍さんに上から手刀を食らわしたところをみると、やっぱり紅覇さんの方が年上らしいです。
それはさておき、ジュダルさんの前にはもうさっそく大きなパフェがあって、一人だけ先に食べ始めています。おいしそう。
「そうだぜ白龍クン、楽しまなきゃ損だぜ」
「あなたがいなきゃもう少し楽にできるんですけどねぇ……」
「……?」
白龍さんって実は仲良しのひとあんまりいないのかな……紅覇さんには殴られるし、ジュダルさんには負のオーラを撒き散らしてるし、先日もアリババさんやアラジンさんとは言い合いしてたし。……なんちゃって。それはそれで嬉しいかもです。ここぞとばかりに白龍さんに寄り添って、腕を抱きしめて、肩先に頭をこてんとぶつけてみます。昨日たくさんお話をしたから私にはもう怖いものなどないのです。
「私は、白龍さんといられるだけで、楽しいです……です」
ぱちりと瞬きをする紅覇さん。と、白龍さん。人前なのに堂々と甘える私に驚いて、白龍さんは嬉しそうによしよしと撫でてくれました。白龍さんのよしよし、好き。
「へえ〜?可愛いじゃん、おまえの嫁」
「そうでしょう?あげませんよ」
「いや別にいらないよ」
「は!?いらないとは何事ですか!こんなに可愛いのに」
「え?なにそのノリ。お前もう酒でも入ってんの?顔赤いよ?っていつものことか」
少し甘えただけでさっそく可愛いと言われて嬉しいというか恥ずかしいというか。それに、さっそく紅覇さんに気に入られてしまったみたいです。男性?だけど可愛い人に可愛いと言われてしまった……。
「赤琉、今度ボクの部屋においでよ。お前にあうコスメつくったげる。あとドレスも。ボク服つくるの得意だしぃ」
「あの、俺の目の前で堂々と部屋に誘わないでいただけますか?」
「何言ってんの!お前も来るんだよ。旦那も一緒じゃなきゃお揃いの考えられないじゃん。聞いたよ。今度の総会には二人一緒に参加するんだろ?結婚の前祝いってことで、とっておきのドレスコード、ボクが仕立てたげる」
総会……。度々話題に出るから覚えてしまいました。その家族の集まりには、やっぱりみんなおめかしして参加するものなのでしょうか。ていうか、お仕立て?お洋服と、あとお化粧品も作ってもらえるということですか?なにそれ。そういう知識のない私には彼がとんでもないことを言っているように思えてなりません。紅覇さんは見た目よりずっとすごい人なのかな。見た目で判断しているんじゃないけれど……。
「……」
「?」
ジュダルさんからの視線を感じて、思わず白龍さんの腕をまたぎゅっと抱きしめました。

お料理が運ばれてきました。熱々の美味しそうなステーキです。それにしてもジュダルさんはさっきパフェを食べていたのにこれからステーキも食べるだなんて、大胆なひとです。でも白龍さんも紅覇さんも普通にしているからこういうものなのかなと思っていたら、どうやら“慣れたもの”らしくて、つっこむのも面倒くさいという感じみたいです。なるほど。
いつものように突然現れた部下さんが毒味をしている間、白龍さんはとうとう重い口を開きました。
「で、ジュダル。あなたに聞いておかなければならないことがあります」
「なんだ?今日のパンツは黒だぜ」
おちゃらけた雰囲気で変なことを教えてくれるジュダルさん。パンツ、黒なんだ……と私が思う間も与えず白龍さんは食い気味に「黙れ」と言いました。殺気が丸出しだったから、ぞくぞくしました。思わず震え上がってまた彼の腕を抱きしめたら、白龍さんは慌てて、というか、至って落ち着いた様子で口元を手で覆いました。私に向かってにこっと微笑んだあと、すぐにジュダルさんに視線を戻します。
「いいですか?聞かれたことにのみ答えてください。ていうか俺が許可する以外に勝手に声を出さないでください。不快なので」
「……なぁ、どう思う?紅覇。コレ。酷くね?イジメじゃね?」
「いやボクも、パンツの色なんて知りたくないよ。これからお肉食べるのに」
「なんでだよ。聞かれたから答えたのに」
「なんでだよじゃないよ……そんなこと聞かれてないだろ……言っとくけど、ボクもわりと白龍サイドだから」
「まぁじ!?」
ジュダルさんは、昨日はずっと笑顔で私のことをなぐさめてくれたから普通にいい人だと思っていたのに、白龍さんは彼のことを心底毛嫌いしているみたいです。白龍さんは嘘はつかないということはもう分かってるから……だから、今彼が不機嫌なのも演技とかじゃなくて……だから、昨日私がジュダルさんに会ったと言っただけであんなに怒っていたのでしょうか。
「何故、俺の許可なく赤琉に会ったんですか」
「そりゃお前の嫁がどんなんか気になって」
「無理やり店に連れて入ったそうですね。しかもファストフード……」
「それはさぁ、白龍のばっか食ってたら舌が肥えんだろ?って思って。てか、赤琉は嬉しそうだったぜ。初めて来る場所だかなんだか知らねぇけど、もっと色んなとこで食わせてやれよ」
「あなたに言われずとも、赤琉が望めば、どこにでも連れていきますよ。俺が言いたいのは無理やり連れて行ったことについてです」
なんだか険悪なムードが。向かいの紅覇さんがどうすんのコレという目線を送ってきたけど、それは私も言いたいです。どうするのこれ。
「それより、部下からはあなたが現れたという報告は一度も入っておりませんが?」
「だって、嫁たぶらかしたら白龍怒んだろ?」
「ええ、この通りね」
「だからちょっくら目くらまししてさぁ。だいたい、あいつらの目ェ盗んで女ひとりかっさらうくらい簡単だよ。白龍はさぁ、放任主義なのはいいけどさぁ、もっと鍛え直したほうがいんじゃね?なぁ?黒耀」
黒耀、と呼ばれたその人は、毒味をしていた手を即座に止めてジュダルさんに一礼してから、主である白龍さんの方に向き直りました。当たり前のことだけど、白龍さんの部下さんにもちゃんとお名前があったんだ。名前を呼ばれているところなんて見たことがなかったから、なんだか新鮮です。その部下の人に目線をあげないまま、腕を組む白龍さん。青舜さんにも少し当たりが強いなあと思っていたけど、……今の彼はそれどころじゃありませんでした。
「どうした。言い訳か?」
いつもの白龍さんからは信じられないほど冷たい声でした。私の時はまだ優しい言い方をしてくれていた、ということに今気づきました。
「大変申し訳ございません。ジュダル様の仰る通りで御座います。此度は我らの不手際で多大なる粗相を……」
「御託はいらない。ジュダルのことだからどうせ母上のことで脅しをかけられたんでしょう?もしくは取引でも?お前たちは母上の名を出されると途端に赤子のように判断力が鈍るんだから。ああ、健気なものですね。これを機に今も心酔する彼女の元へ舞い戻ってはいかがです?母上はきっと受け入れてくださる。そのがお前たちにとっても良いでしょう。ほら、早く」
「とんでも御座いません。我々はとうに白龍様と奥方に対してのみ忠誠を誓った御二方の犬に御座います。貴方様の元を離れることは致しません。しかしご命令ならばなんなりと……お申し付け下さいませ」
やっぱり険悪なムードが。白龍さんって、怒ると怖いの。私にもよく分かります。私にもよく分かるから、部下さんのことが可哀想になってしまいました。さすが部下さんは皆、白龍さんのお母さまのところで鍛えられたと聞いているから、こうして詰められても全く動揺していないのはすごいと思います。でも、今回のことは部下さんに対してはあんまり怒るようなことでもないとも思いました。なので、白龍さんの服をぐいっとひっぱりました。最近の私、白龍さんの服ひっぱり過ぎかも。
「白龍さん」
「……はい、なんでしょう」
「白龍さん。もし、私のことで怒っているんだったら、そんなに言わないであげてください。部下さん、可哀想です……」
「そうだよ、お説教はあとでにしてくんない?ずっとこの空気ならボク帰っちゃうよ?」
「紅覇さんも言ってるし……」
「そうだそうだ!ネチネチネチネチ陰気くせえっての!」
「じ、ジュダルさんも言ってるし……」
ジュダルさんのはなんか自分の立場を分かってないって感じだけど……って思ったら、白龍さんが目にも止まらぬ速さで投げたナイフがジュダルさんの真横にドスッと突き刺さりました。
「二度言わせるな」
おわぁ、と間抜けな声を出しながら目をまん丸にするジュダルさん。彼を睨みつける白龍さんを見て、紅覇さんはやれやれと手を広げています。は、白龍さんは私が止めなきゃ。
「私、ジュダルさんに色々お話を聞かせてもらいました。白龍さんのことも、教えてもらいました。だからジュダルさんが昨日現れてくれてなかったら、白龍さんのこと、勘違いしたままでした。昨日お話した通り……」
「……赤琉」
「だから、ジュダルさんのことも、怒らないであげてください。私、昨日でもうジュダルさんとお友だちになりました。どうして白龍さんがジュダルさんのことを敵対?してるのか分からないけど、……だから、だから……」
必死にこの場を収めるために、ジュダルさんを庇ってみます。白龍さんは一度は微笑んで私を見下ろしてくれましたが……一変、すぐに元の表情に戻りました。あ、だめだ、と悟る私。もしかして、私にも怒ってる?
「俺としてはあなたがこの男と仲良くしている時点で、二人きりで話をしている時点で、会食をしている時点で、はらわたが煮えくり返るほど殺意が抑えきれないんですよ。これでも我慢している方です」
「そ、そんなに?」
「あなたも分かっているんですか?赤琉。俺は嫉妬しているんですよ。もちろん悪いのは強引に店に連れ込んだジュダルの方ですが、俺以外の男と二人きりで何かをしたことを、秘密にしたでしょう?一時は隠そうとしたでしょう?」
「秘密……?な、なんのことか、よく……」
「放課後、帰りが遅かったのは、なんて言いましたっけ?あなた」
「……」あ。
白龍さんに言われて気づきました。昨日、彼に委員会があったのかって聞かれて、適当に相槌を打ってしまったのでした。その時点で私は私とジュダルさんの自分の悪行を認めたことになる。ていうか、私もついこの間まで白龍さんに同じような疑いを持っていたじゃないか。白龍さんは他のところで別の女の人と会っているとか、なんとか、それは私の勘違いだと分かったけれど、私の場合は、ジュダルさんとばっちり二人きりでお食事をしました。
私、何考えてるんだろう。私、白龍さんのことを疑っていたくせに、自分のことを棚に上げて自分が浮気していました。お食事もデートに入るってお母さんが言ってたの、今思い出しました。私、鈍感すぎるどころじゃなくて、自分の悪事に全くの無自覚だ。今の今まで、ジュダルさんとお食事をしたことについて、何も思ってなかった。そっか、白龍さんはこのことに対して怒っていたのだ。じゃあ私なんて口を挟める立場じゃないじゃん。……いたたまれない。
「……わ、わたし」
急に自信をなくして黙り込んだ私。白龍さんはやっぱり私に対しては優しいからそれ以上は何も言わずに背中を撫でてくれたけれど、私はいつかのように自己肯定感が爆下がりしました。自分がこんなに自己中だなんて思わなかった。はい、自分のことはいつか殺してやります。
「ふぅん?まあ、話を聞いた限りでは、やっぱりジュダルくんが悪いよねぇ」
「おい。俺は赤琉の恋愛相談に乗ってやったんだぜ?優しいだろが」
「それはそうなのかもしれないけど、でも白龍に事前にでも事後でもいいから報告しなかった時点で、裏目があったことを認めてるようなもんじゃん?」
「だって……人の嫁に手ぇ出すと怒られるって知ってるし。白龍はどうせ白雄に似て嫉妬深いから、マクド行くだけでも黙っとくしかないだろ」
「あ!そういやジュダルくん、前科あるんだっけ?マジウケんだけど。そんなだから白龍に嫌われるんだよぉ。白龍はお兄ちゃんっ子だからね。ああ、お姉ちゃんも大好きだっけ。可愛い末っ子だよね〜ホント」
「……」
なんだか話の顛末がよく分からないことになっているけれど、そういえば……今話題に出てきた白龍さんのお兄さまのこと、私全然知らないな。どんな人なのかな。今は聞けるタイミングじゃないから、また今度……。
白龍さんは少し考えた後に言いました。
「ジュダルに悪気がなかったのは、そうなのでしょう。……お前はそういうやつだから」
「おっ!?認めてくれんのか?白龍」
「でも行動は最悪すぎる。俺に喧嘩を売っているとしか思えません。そして、赤琉にはもっと自己意識を持って頂きたい」
ジュダルさんは不満げに、そして私は項垂れながらそれぞれ小さく反応を示すのみ。紅覇さんはただひたすら薄ら笑いを浮かべて様子を見ています。
「今のを前提として。そうですね。それでも、赤琉が独自に抱いた友情を踏みにじる行為は俺はしたくない。紅覇殿の言う通り、あなたにせっかくの食事の時間を険悪な空気のまま過ごさせたくない。なので、水に流すことにします」
白龍さんは、あくまで落ち着いた口調でそう言い切りました。ずっと不機嫌でいて申し訳ありません、と目を閉じる彼。やっぱり、白龍さんは優しい。そして誠実だ。今まで彼を疑っていた自分が信じられないくらい。こちらこそ申し訳ない気持ちでいっぱいになっていたら、白龍さんはずっと後ろで待機していた部下の……黒耀さん、にこの時初めて目線をやりました。
「あとで話がある。もう行け」
一礼をしてから命令通りすぐに姿を消した彼の後を目が追うも、早すぎて全然どこに行ったのか分からなくなってしまいました。部下さんだけはまだ許してない、のかな。本来なら私の方こそもっと責められてもいいはずのに……。
「白龍さん、ごめんなさい。私、自分が悪いことしてたの、分かってませんでした」
「いいんですよ。赤琉、それ以上は謝らないでください。悪いのは全部こいつですから。こいつが吹っかけたのが悪いんですから」
「……ふん。それで仲直りできたくせによ」
ジュダルさんは不貞腐れてしまいました。でも彼が言っていることは正しいのです。ジュダルさんが恋愛相談に乗ってくれていなかったら、私は本当に白龍さんのことを理解し切れなかった。そのことは白龍さんも十分理解していたようで、イラつきながらではあれど、白龍さんはあくまでお淑やかに「ありがとう、ジュダル」と言いました。
「へへ。べつに〜?」
その途端、ジュダルさんがさっきまでの不機嫌な顔とは一転して嬉しそうに笑うから、私はたまげてしまいました。単純な人です……。


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