他の何色も感じさせない純粋な黒髪。すっかり手入れされ指通りが良くなった、その艶のある髪を触るのが好きだ。同じ黒色の大きな瞳とくるんとカーブした長い睫毛。喜怒哀楽が乏しいかと思いきや、俺の前では意外と簡単に色を変えるから見ていて楽しい。潤いがあって血色のいい唇。チーク。すぐに口付けたくなる。血の通った細い首。簡単に折れそうだ。今すぐにでも切りつけたい。噛みつきたい。姿勢のいい薄い肩。片手で一周が足りる二の腕。手首。可愛らしいネイル。姉上から頂いたものを大切に使っているようだ。愛らしい。どんな服を選んでも何故かいつも着痩せする豊満な胸。本人は自覚していないようだが、同年代と比べてもかなりの大きさなのでは?あのような家庭にいながらよくここまで育ってくれたものだ。それに反して、俺の与える食事でも太くなる気配のないウエスト。服の上からでも思わず撫でてしまうくびれ。抱きしめたくなる小さな背中。肉付きは良くなってきたがまだまだこれからだ。胸に負けず劣らず柔らかい臀。何度抱きしめようとも、意識のあるうちはまだ触らせてくれない。その反応をもはや楽しんでいる自分がいる。早くいれたい。犯したい。スカートから覗ける細い太腿。ふくらはぎ。運動をしていないから筋は見えないがこんなに細いと心配になる。
「赤琉」
「……?」
「ああ、やっぱりなんでもありません」
「……」
名前を呼ぶと仔猫のように近寄ってきてじっと視線を寄越すところ。意地悪なことを言うと、むっと唇を尖らせるところ。逆に褒め言葉を言うと遠慮がちに目を逸らすところ。大事そうに俺の腕を抱きしめるところ。車でもどこでもすぐ眠りにつく警戒心のないところ。朝起こされるのに何十分も抵抗するところ。店を歩くのも慣れ、ブランドものにはすっかり抵抗がなくなったところ。花畑や煌びやかなインテリアに密かに目を輝かせるところ。自分から婚約指輪をはめさせるなんて照れ隠しをするところ。ハグをすると弱い力で服を握ってくるところ。キスをするとすぐ紅くなるところ。照れ隠しにボコボコあざとく殴ってくるところ。自信なさげに俺の名前を呼ぶところ。映画なんぞに怖がるところ。血に全く動揺しないところ。人が死ぬシーンを見て笑うところ。死んだように眠るところ。……これ全部、俺のもの。
「白龍さん、これ」
俺が今何を考えているのか知りもせず、赤琉は髪を揺らしながらとことこ駆け寄ってきた。なんだこの愛らしい小動物は。思わず抱きとめたくなったが、生憎俺は今ナイフを握っているところだったので、うっかり殺してしまわないよう手元はそのままに振り返った。素の笑顔を見せながら。刃物を持っているのに何の気なしに近寄ってくるなんて、相変わらず警戒心のかけらもない。何度言ってもこのザマだ。そういうところも可愛いから困る。まったく、毎日殺意を抑えなきゃならない俺の身にもなって欲しいものだ。それなのに夜は警戒心丸出しで、一緒に寝ようと言うだけであんなに焦って逃げようとするのだから、……はあ、早く抱きたい。でも大切に、大切に抱きたいから、我慢。
「なんですか?それ」
夕食の野菜を刻むのを一旦中断して、手を拭いながら今度こそ体ごと振り返る。週も終わりかけで課題が溜まっているようだったから夕食まで部屋から出てこないと思ったが、渡すものだけ渡しに来たという感じだろうか。赤琉は手に持っていた一枚のプリントを俺の目の前に掲げた。学校の配布物らしい。
「三者面談ですか。ああ、そんな行事もありましたねえ。こちらで合わせるので好きな時間を選んでいいですよ」
「わかりました。あと、あの、保護者の人のサイン……ください」
プリントを受け取りがてら、俺はようやく赤琉を抱きしめた。いつものように暴れまくるのを片腕だけで制御する俺。そんなことをしても可愛いだけなのに。サインくらいなら彼女本人に任せてもいいが、赤琉と触れ合う口実に調理は後回しにしてしまおう。彼女を引きずりながらリビングまで戻って万年筆と偽の印鑑を取り出した。
「……白龍さんって、保護者ですか」
「俺の扶養内ということを考えれば、そうなるでしょうね。でもあなたが18になった暁には俺たちは正式に夫婦になるので……」
ダイニングテーブルに紙を置いて、立ったままペンを滑らせる俺を半歩離れたところから見守る赤琉。近寄るならもっと近寄ればいいのに、警戒心がないとはいえ、最低限のパーソナルスペースを持ち合わせていることは褒めてもいいのかもしれない。これでも距離は縮めた方だ。初日なんて自分からは半径五メートル以内に入ろうともしなかったのだから。
「……。じゃあ今の戸籍とかって、どうなってるんでしたっけ。学校の住所録とかも……」
「もちろん、あなたは駅前徒歩十分の住宅街、築三十年の二階建ての一軒家に住む、遠い親戚の老夫婦に引き取られた養子ということになっています」
「……面白い設定ですね」
その設定通りの偽の名前の横に、“氷川”と刻まれた印鑑まで捺したところで顔をあげれば、赤琉はまさに今初めて聞きましたという顔をしていた。最初に説明はしていたはずだが、ここへ来たばかりの彼女は放心状態だったから記憶に残らなかったのかもしれない。
「ああ、その、遠い親戚っていうのと嘘の住所を言ってることは知ってましたけど……」
「けど?」
「先生たち、最近は学校のそとも巡回してるんです。不審者がなんとかって……。だから、このマンションに入っていくところを見られないように、いつもこそこそ帰ってきてたんですけど」
「いえ、先日話した通り、俺の部下が周囲を警戒しているのでその心配はいりませんよ。言わば私服警官のように一般人に紛れている者もいますので、そういう輩は追い払ってくれているはず。なのであなたは堂々と帰宅すればいいだけです。現に目の前に不審者が現れたことなんて一度もないでしょう?」
「不審者……」
ぽつりと呟く赤琉にプリントを手渡した。なにやら考えごとをしているようだ。目線が下の方を向いている上に、いつにも増して焦点が合ってない。と思ったら、すぐに俺を見上げた。ぎこちない上目遣いが可愛い。わざとやっているのか?
「……あの、私の警護、をしてる部下さんの行動とか、部下さんが見たものとかって……白龍さんは把握してるんですか?」
「どうしてそんなことを?」
「べ、べつに」
気になっただけ、と言ってまた視線を落とす。何かやましいことでも?なんて、冗談。もちろん俺は部下の行動ルートや視界は全て把握している。俺がいないところでも何かしら“動き”がある度に報告するように言ってあるのだ。たとえば警護対象である赤琉がどの道をどんな風に歩いて学校に行き帰っているのかも、逐一俺に報告が来る。今日もいつも通り、道端の花壇に気をとられながらいつもの道を歩いて帰ってきたと定時報告がなされていた。少し帰りが遅くなったのは、委員会の仕事か何か?と尋ねれば、小さな声で「そんな感じです」と返事が返ってきた。……“学校の敷地内は『彼』がいるから”何も無い限りは部下の侵入は控えさせている。故に俺も彼女の全ての行動を把握しきれているわけではない。その件についても早くなんとかしなければな、そう考えていたところ、テーブルの上で俺のスマホが振動を始めた。
「姉上から電話です」
画面に表示された名前を読み上げてから、電話に応答する。何かと思えば……“美味しい”スイーツをお作りになったようで、赤琉ともどもお茶会にご招待を頂いた。ふむ。せっかくのお誘いなのでもちろん行きますと返事をしたが、それはさておき、今回は何人ほど犠牲者がでるだろうな。毒味にあたった俺の部下にはいつも通り毒味手当を出してやるか。赤琉の分は俺が作ったものにすり替えるとして……。
「……」
電話中、話している内容が気になるのか部屋に戻りもせずじっとこちらを見続ける赤琉。伸びた前髪が目にかかっているのを避けるように撫でてやれば、猫みたいにぎゅっと目を瞑って首を振った。かわいすぎる。ついでに青舜の元で髪を切らせて頂こう。前回は姉上の適当な部下におまかせしたが、やはり美容学校を首席で出た青舜にやらせるのが一番だろう。日程は後で調整しますからと伝え、ひとまず通話を終了させる。ふと、赤琉が電話が終わったあともじっと俺を見上げてくるから首を傾げた。
「ああ、姉上がお茶会をしませんか、と。もちろん赤琉も一緒ですよ。また着ていく服を買いに行かなければね」
「そう、ですか」
「……何か気になることでも?」
電話の内容を答えても、どこか腑に落ちないという感じの表情をする。赤琉を姉上の元に連れていった時はまだ出会って三週間ほどで、こんなふうに好き合う関係ではなかったし、練家の人間と関わるのも初めてだったから、あまり踏み込んだ話などはできなかっただろう。当時俺は恋人のフリをしていただけで本当のことは何も言わなかったし、姉上からも問い詰められることはなかったが、俺が赤琉を利用するために連れてきたことはバレていただろうな。だが姉上はその辺を汲んで、達者な話術で赤琉に語りかけ、女性として必要不可欠な身支度のいろはをご教授くださった。もともと人と話すのが好きなお方なのだ。今なら紅玉殿と同じように仲良くなれると思うのだが……。
「最近、どうしてお電話の相手を私に教えてくれるんですか?」
が、赤琉が聞きたかったのはまた別のことらしかった。
「そんなこと?もちろん、あなたが不安にならないように」
「?……なんの不安ですか」
「俺が知らない人と話をしていると、気になるでしょう?俺はなにもやましいことはしていませんよ、って証明しているんです」
「証明……?」
「赤琉は疑り深いようですからね。まあ、そういうところも可愛いですが」
可愛い、という単語にピクリと反応したのを俺は今日も見逃さなかった。いつもこうなのだ。褒め言葉を言うと、背筋を伸ばして俺を見上げながらぱちぱちと瞬きをする。そんな顔をされるともっと言いたくなる。やっぱりわざとだろう、これ。
「じゃあ……最近、お出かけ先とか、お出かけ先で何をするのかとか、細かく教えてくれるのも、同じですか?」
「ええ」
「……私の携帯電話に、白龍さんの位置情報がのってるのも、ですか?」
「あ、気づいていたんですか?うまく機能しているか不明なので、まだ試運転の段階ではありますけどね」
「……」
本当は俺の全部の行動を彼女に見てもらいたいほどだが、そんな提案をするのは純粋な彼女にとってあまりにも刺激が強すぎるので、今やれる範囲で対策を進めているというだけの話。プロポーズをしたその日に浮気を疑いにかかる彼女だから、こうでもしないと俺の方が不安になるのだ。
「何をそんな、困ったような顔をしているんです?何か心配ごとでも?可愛い顔して」
またビクリ。かわいすぎる。好きだ。一度は堪えたものの、やっぱり歯止めが効かずすぐに口から飛び出た「好きです」の言葉。さっきよりも大きく反応して、立て続けに退散しようとするのが目に見えて分かったので、即座に捕まえてキスをしようとしたら、全力のグーパンチが飛んできた。止めたけど。少しショック。
しかし、なんだろう。プロポーズをしてからの一週間、赤琉はずっとぼんやりと俺の話を聞いているだけだったが、今日はなにやら様子がおかしい。一段と。何かあっただろうか。さっきも言った通り、今日はいつも通り学校へ行っていつも通り帰ってきたはず。学校では特に友人と呼べる関係の人間はいないそうだから、何かあるとすれば“彼”との会話に限られるが……。
やはり近いうちに学校に乗り込むか。ああ、三者面談があった。なんと都合がいい、その時にでも……。捕まえた拳を引き寄せ、めげずに頭を優しく優しく撫でてやると、赤琉はもう諦めたようにじっと項垂れた。いつものことだが諦めが早くて可愛いな、と思いきや、今日はそうではなかったようだ。赤琉はしばらく黙って撫でられたあと、意を決したように頭に乗っかった俺の手を両手で取って……そっと元の位置に戻した。
「あの、あの……」
「はい?」
「……も、もう、あんまり、そういうこと言わないでください」
赤琉は震えた声で、ぽつりと呟いた。
「そういうことって?」
「か、かわいいとか、あと、すき、とかも……そういうこと、言わないでください」
俯きながら、おそるおそる俺を見上げる赤琉。あっちこっちに目が泳いでいる。両手でそれぞれ自分の服を握りしめている。顔が真っ赤なのはいつものことだが、……やっぱり何か、今日は様子がおかしい。何か。
ひょっとして、まだ自信がどうとかいうつもりなのだろうか。俺が言うことをまだ信じられないのか?それにしても……褒め言葉を言って文句ありげな目で見られることはあるにしろ、こうあからさまにやめてくれと言われるのは初めてのことだった。やはり何かあったとしか。
「赤琉。そんなに不安がらずとも、俺は本心から思って言っているんです。嘘でもないし、誇張でもなんでもないんですよ」
「そ、そういうこと、じゃ、なくて」
そういうことじゃない?
「なら、どういう意味です?」
「わ、わかってます……。わたし、白龍さんの言うこと、信じてます……でもだからこそ、信じられなくて」
またその言葉。
「あ、“あの時の私は”、……だから、この前、プロポーズをされた日の私は、本当はまだ、白龍さんのこと、信じ切れていなくて……そのせいで、白龍さんに、たくさんひどいこと言っちゃいました。ごめ、ごめんなさい」
「……いえいえ、その件についてはもう、全然構わないですけれど……」
この流れで謝られるとは思わなかった。本当はまだ信じきれていなかった?確かに、あの時彼女が言った「信じています」はとても自信なさげで……でも、あれは彼女が精一杯頭で考えて出てきた言葉のように思えたから、俺もそれを信じた。だが、本当は信じきれていなかった、と?
「アリババさんのお店でお話した時、……それでわたし、浮気を疑う人みたいになっちゃったけど、でも、自分がどうしてこんなに困惑しているのか、も、もう分かりました」
「困惑?」
「わたし、わたしは、本当は恥ずかしくて、白龍さんの言うこと、まっすぐ受け止められないだけなんです」
恥ずかしくて、まっすぐ受け止められない?頭の中で復唱。恥ずかしくてまっすぐ受け止められない。……俺の言葉を?震えながら、一生懸命言葉を紡ぐ赤琉の告白。それは、俺には分かっていたようで、本当のところは分かっていなかったことなのかもしれない。
「は、白龍さんの言うこと、疑ってなんかいません。でも、あまりにもストレートにそういうこと言うから、白龍さんは、きっとてきとうに言ってるだけって思わずにいられなくて」
「そんなわけないでしょう……適当なんて」
「そう、ですよね。白龍さんはたぶん本心で言ってるってこと、もうわかりました。だって、ジュダルさんが言ってました」
「……は?」
「白龍さんは、嘘なんてつくようなひとじゃないって。言うこと全部、大げさでもなんでもないって……。だから、褒め言葉もきっとぜんぶ本気で、言葉通りの意味だって、聞きました。わたし、教えてもらいま、……した……っ」
今、聞こえてはいけない名前が聞こえたような気がしたが、それよりも。赤琉が前触れもなくぽろぽろと涙を流し始めたから、俺はすぐに両手で頬を包んで親指で涙を拭った。でも、無理やり顔をあげさせることはしなかった。今はそういう時ではないことは俺にも分かる。
「ま、まだ、私が自分に自信が持てないから、だから余計に、……え、遠慮とかしないで、回りくどい言い方とかもしないで、いっぱいいっぱい、褒めてくれるんだってことも、聞きました……っ」
「聞いたって、それは」
ジュダルにか?泣きながら、たくさん涙を流しながら、嗚咽を漏らしながらも、次へ次へと口を開く赤琉。こんなに感情をむき出しにするところも、こんなにたくさん言葉を並べて思いを伝えてくれるのも、初めて見た。
「だから、もう褒めなくていいです。私のことは……そうやって無理やり全部、伝えようとしなくていいです……ほんとのこと、言わなくていいです。持ち上げて、安心させようなんて思わなくていいです。白龍さんの言うことはいつも、恥ずかしくて……いっぱいいっぱいになって、他のこととか何も考えられなくなるし、白龍さんの言葉は大きくて、あたたかくて、私じゃ受け止めきれません。だから、だから……」
赤琉は俺の腕を弱々しく掴んで、言った。
「もう、そういうこと、言わないでください。そんな、本気ですき、とか、そんなこと言われたら、わたし、壊れちゃうから。おねがい、します」
俺の言うことが全て本気だと分かったから。「好き」も「可愛い」も「愛してる」も全て自分に対して真に向けられているものだと分かってしまったから、恥ずかしいって?恥ずかしくて聞いていられないって?そういうことを、今彼女が教えてくれた。
「ジュダルが、そう言っていたんですか?俺は嘘つかないって。それで、思い直してくれたんですか?」
「……そ、そんな感じです……」
「へえ?赤琉は俺の言うことより……他の男の言うことを信じるんですね」
わざと悲しむように言えば、途端に慌てて飛びついてきた。
「えっ、ち、ちが……っ」
「違うんですか?」
「ち、ちがいま、す!ちがうの、ちがう」
「そうですか。でもなんでもいいです。だってあなた、こんなに可愛いんだから。……はぁ可愛い」
飛びついてきたのをいいことに、俺は赤琉を真正面からぎゅううと抱きしめた。腕の中からうめき声が聞こえる。可愛いって言わないでって言いましたっけ?そんな不可能なお願いごとがありますか。だって今の発言の全てが可愛いのに、この子はどれだけ俺を翻弄すれば気が済むのだろう。もう殺してしまおうか。だめだめ。赤琉はさっき自分が泣きながら一生懸命説明したことが何も伝わっていないと気づいて、困惑しながら俺の服を引っ張ってくる。ああもう、可愛すぎて一生離せない。
「だ、だから……白龍さ、」
「なんです?赤琉、世界一可愛い。好きです。大好き。可愛い。愛してる……」
わざと、と言われたら聞こえが悪いけど、それでも俺はわざとまくし立てるように彼女の耳元で呟いた。はっきりとした口調で、はっきり彼女の鼓膜に届くように。いつも以上に暴れまくる赤琉を、いつものように抑え込む俺。落ち着かせるように続けた。
「あなたのお願いならなんでも聞いてあげたいですが、残念ながら俺は思ったことはすぐ言葉にするタチなんですよ。そのせいでたまに酷い言い方をしてしまうことあるのは自覚していますが……」
この前もそれで彼女の性格に対して口を挟んでしまって、申し訳なかった。ネガティブな発言に関しては、二度とないようにするから、それで許してほしい。
「でも、この癖はもう治せませんね。直す気もありません。少なくともあなたに対しては、傷つけようと思って言っているのではないんだから。持ち上げる?なんのことです?俺は可愛いと思うからそう言うんだし、好きだと思うからそう言うんです。無理やりにだなんて、そんなつもりもありませんよ」
ゆっくり、ゆっくり語りかけると、赤琉はだんだんと大人しくなってまたすすり泣きを始めてしまう。さっきは拒否されてしまったけれど、そんなことは関係なしに頭や背中を撫でに撫でた。
「俺の言葉が恥ずかしくて、受け止めきれないと言うのなら、それはあなたがなんとかしてください。俺の責任ではない。俺は責任転嫁は好きじゃありません。あなたの都合を俺に押し付けないでください」
「……う」
「ああ、責めているんじゃないんですよ。俺はただ、あなたと本心で会話をしようとしているだけなのに、それを嫌だと言われても納得できるわけないでしょう、ってことを言いたいだけなんです。……俺の言っていること、分かりますよね。それともあなたは上辺だけの関係でいたいとでも?」
「……う、う」
胸元に顔を押し付けながら、力なく首を振る。
「いいですよ、他のことなんて何も考えなくても。俺のことだけ考えていれば。他のことなんて考えられなくなればいい。ね、俺のことだけ考えて、赤琉」
可愛い赤琉。そんなになりながら自分の気持ちを話してくれて、嬉しい。一生愛すと決めた。
泣いて泣いて、たくさん泣いたから、疲れてしまったのだろう。頭も、前髪も、頬も、肩も、俺がどんなに好きなように触れても全く抵抗しないどころか、完全に無反応で差し出したティッシュを大量に消費している。鼻をかむところも可愛いって、この世のバグか?
「ねえ、赤琉?」
「……」
「そろそろ、ねだってもいいですか?あの時以来、あなたの口から、あの言葉を聞いていないんです」
「……」
「なんのことか、分かりますよね」
「わかりません」
「即答じゃないですか」
腫らした目を見られたくないのか、伸びた前髪をぐしゃぐしゃに掴んで俯く。しばらく静寂に包まれたあと、再度名前を呼んだら、赤琉は信じられないほど小さな声で「すき」と呟いた。
「わ、わたしも、……白龍さんのこと、好き、です。だ、だいすき。……は、白龍さんが言うのと同じくらい……たぶん」
それは、赤琉が言い切る前に俺の口の中に消えていく。