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「てかさぁ、おまえってなんで白龍と知り合ったの?普通のJKっぽいのに白龍と一緒に住んでよぉ、家族とかいねえの?」
ステーキをもぐもぐ美味しそうに頬張りながらフォークを手先でぶん回すジュダルさん。変なことを聞く人だと思いました。
「確かにそれ気になる。ボク、君たちの詳しい馴れ初めまでは聞いてないんだよねぇ。教えてよ。酒の肴に」
こっちでは、紅覇さんが真昼間だというにお酒を嗜んでいます。やっぱり大人のひとなんだ、と思わずにはいられません。練家にはこんなに可愛い大人のおとこのひとが存在するという事実に打ちのめされながら、お返事を考えます。何から答えればいいのかよく分からないけど、とりあえず出会い?から言えばいいかな。
「えっと……夏休みに白龍さんがお家にきて、私をお嫁さんにしてくれました。そのときに私のお家は白龍さんに燃やされちゃったので、住む場所がなくて、それで……白龍さんのお家に住まわせてもらってます」
「いやアバウトすぎね?説明下手かよ。白龍の行動謎すぎんだけど」
「あーね?ボクはまあ、ちょっとなら知ってるよ。蓮兄ぃが白龍に指示してた……ほら、ジュダルくんも覚えてるでしょ?こないだ組織の情報をもち出されたアレね、忙しいのに炎兄がわざわざ動いて関わったやつ全員ぶっ殺したんだから。あの主犯格、赤琉の父親だったんだよ。白龍はそっちの処理を任されて……」
「そんなことあったっけ?」
「ああ、ジュダルくんは記憶力ゴミだもんね」
「ゴミって言うな!」
目の前の二人の会話を素知らぬ顔をしながら聞き流す白龍さん。彼はお食事中は誰よりも礼儀正しいのです。たぶん、コックさんへの感謝の気持ちから……私は食べるのが遅いから彼を見習って一生懸命ステーキをギコギコしました。いつも私が食べる量より多いことを心配してくれたのか「食べきれなかったら俺にください」と言ってくれました。優しい白龍さん、好き。
「……で、口封じに白龍がソイツの家に向かったら、その娘が……つまり赤琉が代わりに殺してたって話。蓮兄から聞いたもん」
「あー、それは俺も聞いたような?」
「君たち、その現場で初めてご対面したらしいじゃん。蓮兄は父親と一緒に娘の後始末も頼んだつもりだったけど、いつの間にか嫁になってたんだって。……は?謎すぎ」
「マジで謎すぎ。じゃあおまえ、なんでその時白龍に殺されなかったの?しぶとく生き残りやがって。おかげで俺はおまえに興味津々だよ」
「なんでって言われても……」
なんで?隣の白龍さんに目線をよこすと、彼は地味に話を聞いていたみたいで、紙ナプキンで口元を隠しながら言いました。
「一目惚れです」
「……」
ヒトメボレ?予想だにしない白龍さんの返答にぽかんと口を開く私。今、なんか言った?ジュダルさんと紅覇さんも驚いたみたいで、全く同じ顔をして、というか私以上に両目と口をガン開きにしてテーブルを乗り出しました。
「マジで!?初耳なんだが!?マジで!?一目惚れ!?白龍が!?可愛い〜!!」
「へえ〜〜〜〜!!!良いこと聞いちゃった!ボク、白龍がそんな純情少年だとは思わなかったなぁ〜!びっくりぃ〜」
「びっくりどころじゃねぇだろ!おい、今の誰か録音したやついねぇの!?ババアに聞かせてやりたいぜ!泣いて喜ぶだろ反抗期息子がデレて可愛い〜ってよ!」
「やめてください!そんなに騒ぎ立てるならこの話は終わりにします!」
思った以上の反応だったらしく、白龍さんのお顔が真っ赤になってて私は今度こそびっくりしました。それを隠すように肘をついて額まで手で覆う白龍さん。「言わなきゃよかった」なんてもう遅いです。手を取り合いながら大騒ぎする二人をさておいて、気になることを尋ねてみます。
「白龍さん、最初は利用するためだって、言ってましたよね……?」
「言いました。言いましたけど、でも今だからこそ分かります。最初からあなたに好意を持っていないと、家に住まわせるなんて考えもしませんよ」
「それは、……まあ?」
「自覚したのはもっと最近のことですが……あの日、血だらけのあなたを見た瞬間からあなたに興味を持ったのは事実です。あの時の俺の感情に名前を付けるとしたら、まあ、“そう”なのでしょう」
白龍さんは二人の視線から逃れるように頭を抱えてテーブルに突っ伏したのに、私にだけは見られてもいいのか頭を少し動かして私を見上げてきました。見間違いとかじゃなくてやっぱりお顔が赤くて、なんだかなんだか。今の白龍さんは、あの日血だらけだった私より赤いかもしれません。なんちゃって。白龍さんはいけめんだから、頬を赤らめるだけで色っぽくなるんだから、その顔でこっちを見るのはやめて欲しいです。それに、今は私の方こそアツアツのステーキみたいに全身が熱くてやってられません。
「あっそう〜。一目惚れねえ、ならその場で連れ帰っても不思議じゃないや。殺さなくても不思議じゃないかも」
「んだよ……まあ確かに白龍ってマジの本命には即堕ちしそうだもんな。今までそういうのに出会わなかったってだけの話か」
妙に納得する二人。いくら白龍さんとの会話を思い出してみても、一目惚れなんて聞いたのは今が初めてのことです。なんだかいてもたってもいられなくて……かといって何か言うこともできなくて……ステーキをもぐもぐするしかできません。やっと起き上がった白龍さんは、もともと近くに座っていたのをもっと距離を詰めてきました。近。
「……つまりですね、俺があなたに惚れ込むのは時間の問題でした。ていうか、以前もこんな話をしませんでしたっけ?もう勘弁してくださいよ、恥ずかしい」
白龍さんが恥ずかしがるところを見るのは新鮮で私の方が恥ずかしくなってきました。もぐもぐしてたステーキ、減ってきたけどやっぱりそろそろ私のおなかでは入りきらなそうです。それなら白龍さんに食べてもらおうと思って、切り分けたサイコロ状のお肉をフォークに刺して白龍さんに向かって「あーん」ってしたら、彼は嬉しそうに恥ずかしそうに笑ってあむっとほおばってくれました。この間白龍さんと一緒に観た映画でカップルがやっていたのを覚えていたのです。食事中で、はしたないかなとも思ったけど、フォークをぶん回すジュダルさんよりはマシです。白龍さんは、二人が見ているのにもっとちょうだい、という目線を送ってきました。わかりやすすぎてかわいい白龍さんに顔を綻ばせていたら、ジュダルさんがじっとこちらに視線を送っているのに気づきました。
「なんだ、心配して損したぁ。おまえら、上手くいってねぇ感じだったから二人とも慰めてやったけど、十分アツアツじゃねえかよ」
「……」二人とも?
「アツすぎて火傷するかと思った。白龍みたいに!はは!」
白龍さんの手がピクリと動きました。今のってなんだか感じ悪いような。ジュダルさんはにこにこ楽しそうに笑ってて悪気があるようには見えなかったけれど、なんだか今のは……私でもひどい言い方だと思いました。白龍さんは火事のことをトラウマに思っているのです。ジュダルさんは練家の人と知り合いみたいだから、そのことは知っていると思うのに。白龍さん、せっかく機嫌がよくなっていたのに逆戻りです。張り付いた笑顔のままジュダルさんを振り返りました。さっきまでも散々からかわれていたからか既に相当キレているようだけど、でも、さっき許した手前もう乱暴なマネはしたくないのか「笑えないご冗談を」とだけ言いました。笑いながら。穏やかに、その場をやり過ごすように。
なんか、やだな。白龍さんのこと、傷つけるなんて。たとえ場を和ませようといつものノリで言った言葉だったとしても、今のは明らかに白龍さんを傷つけた。確かに私もさっきまで自分の立場を分かっていなかったけど、それとこれとは話が違います。やり返さなきゃ。だって今この場で動くべきなのは私。そのことに気づいた瞬間、このままやり過ごすという選択肢はなくなっていました。頭は冷静でした。ステーキ用のナイフを逆手に持って、白龍さんみたいにあくまでおしとやかに立ち上がりました。急に立つから一斉に視線が集まりました。
「……赤琉?」
みなさんに見守られながら、私はジュダルさんに追加で運ばれてきたアツアツのステーキのど真ん中にドカッと音を立てながらナイフを突き立てました。衝撃で肉汁がぶしゃあと飛び散りました。私の袖口はアツアツの油でギトギトになってしまったけれど、すぐ隣の紅覇さんはエプロンで守られたので良かったです。ジュダルさんは今日一番の大声で「お!?」と驚きながら目をまん丸にしてステーキに刺さったナイフを見つめています。私はがんばってお口を開いて叫びました。
「ジュダルさんの、ば、ばーか!」
なにかかっこいいセリフでぎゃふんと言わせたかったけど、悪口なんて言い慣れてない私にはこんな言葉しかでてきませんでした。
「な、なんだいきなり!俺の肉が……」
「いまのは、い、言い過ぎだとおもいます」
「……お、おう?」
「は、白龍さんのことそれ以上侮辱するなら、今この場でステーキにして食べちゃいます!」
キッと睨みつけるのを忘れずにジュダルさんを見下ろす私。彼はまさか私の方が怒り出すなんて思わなかったのか、めちゃくちゃ分の悪そうな顔で超高速瞬きを繰り返しています。ステーキ、だめにしちゃいました。でも白龍さんのことを一線越えて茶化したジュダルさんが悪いんです。もちろんコックさんにはあとでちゃんと謝ります。でも今はジュダルさんの謝罪を聞くのが先です。それなのに彼が固まったままでいるから、仕方なく右手はナイフを掴んだまま左手でフォークを手に取ってジュダルさんの喉元に差し向けようとしたところ、パシっとその手を取られました。
「赤琉。そこまでに」
……白龍さんでした。
「ありがとう。まさかあなたが怒ってくれるなんて、とっても嬉しいです。でももう大丈夫ですから」
「大丈夫じゃないです。私はこれからジュダルさんを解体してステーキにするんです」
「その必要はありません。この男には俺が後ほど制裁を加えておきますから」
「それは、私が、」
「そんなことであなたの手を煩わせたくないんです。いいから、座って」
「……」
白龍さんに言われたので、渋々座りました。
「火傷していませんか?もう、あなたは大胆なんだから。……服、汚れてしまいましたね。着替えをご用意しましょう」
紙のナプキンで私の手にこびりついた油を拭き取る白龍さん。さっきまでのイライラしていた感じは全くなくなって、今は私に対して困ったように笑顔を向けてくれています。お食事中に何も考えずにこんなことをしでかしてしまったけれど、きっと困らせてしまったよね。しゅんと落ち込んだ私に、すかさず白龍さんは安心させるように言いました。
「赤琉、俺のためを思ってくれたんですよね。今あなたがとても愛おしいです」
「……べつに、白龍さんのためじゃないです」
「ふふ。そんなこと言って」
一応ごまかしてみたけど、バレバレでした。騒ぎを聞きつけて現れたコックさんの前で土下座しようとしたら、それも止められてしまいました。言葉だけで十分ですと、コックさん本人も許してくださいました。……なんだか申し訳ないです。
「ねぇ、ジュダルくぅん。謝れば?ねぇねぇ、ジュダルくん。ねぇ。今そういう空気って分かんない?」
「う、うっせぇな……悪かったって」
「うわぁ!ジュダルくんが謝った!珍し〜」
「お前なんなんだよ!」
紅覇さんに言われてだけど、ジュダルさんはきちんと謝ってくれました。白龍さんがもう大丈夫と言うから私はもう何も言えないけれど、とりあえず悪い言い方をしたことは分かってくれたみたいです。
「……紅覇さんも、はしたないところをお見せしてしまって、ごめんなさい」
「いいよ。今のはジュダルくんが百悪いし。面白いもの見れてラッキーだったよ。この子ってホントいつまでもガキっぽいんだから〜」
「ガキっぽいはお前だろ……」
「ふーん。ボクが言ってるのは中身のハナシ!ボクは中身はもうオトナだから!そこんところよろしくぅ〜」
「ハァ……」
「ステーキさんは、本当は面白いことを言おうとしてくれたんですよね。言い方は最悪だったけど。だから、大丈夫です。ですよね、白龍さん」
「おい!誰がステーキさんだっ!」
「そうですね。この者にデリカシーがないのは昔からですから。赤琉も重く受け止めないで、さらっと水に流してください」
「は、はい」
白龍さん、落ち着いてくれてよかった。でも今度からはもっとやり方に気をつけなきゃいけません。
「まあ、ジュダルくんのは好きな子ほど嫌がらせしちゃうアレだから、あんまり気にしないであげてよ。ボクからも言っとく」
「……?はい、わかりました」
好きな子って誰のことかな。

私は白龍さんが有事のために持ってきていた私服に着替え、テーブルに戻ってきました。今日ジュダルさんとご飯を食べに行くことは白龍さんも知ってたから、何個か着替えを車に積んでいたみたいです。用意周到の白龍さん。ちなみに、汚したのは制服ではなく、こちらもただの私服です。もちろん汚れてしまったのは残念だけど、メニューがステーキということで事前に着替えていたから制服は無事でした。それについてはラッキーです。
「なぁ〜おまえって」
「……?なんですか、ステーキさん」
「だからステーキさんやめろよ!!!」
「ふふ、赤琉ちゃんに完全に舐められてんじゃんステーキくん」
「お前もか!」
ジュダルさんは戻ってくる頃には追加のステーキも平らげてしまっていて、またまた追加で桃のパフェを食べ始めていました。彼は他の人と胃袋のつくりが違うみたいです。目の前であまりにも美味しそうに食べるから、私もなにか甘いものを食べたくなってしまいました。でも、さっきお肉を食べきれなくて白龍さんにもちょっと食べてもらったのに、そんな分際でデザートも頼んじゃっていいのかな、なんて思っていたら白龍さんはにっこり笑顔で「好きなもの、食べていいですよ」と言ってくれたので、私は白龍さんのことがすきです。だいすき。
「聞くけど、白龍のどこが気に入ったんだ?おまえ」
「ちょっとぉ、ジュダルくんってば人の嫁値踏みすんのやめなよ。いくら自分が白龍第一だからってさ。とって食ったりしないでよね」
「べつに値踏みなんかしてねーし。それに俺は普通の女には興味ねーし。白龍以外は好きじゃねーし」
「白龍さんのこと、好きなんですか?」
「……赤琉、そこに興味を持たなくていいですから」
さっそく運ばれてきたデザートのミニケーキを白龍さんとシェアしながら、ジュダルさんのことを見つめてみます。
「白龍のことは世界一好きだぜ」
一度瞬きをしました。
「そ、そんなのだめです」
「あぁ?なにが」
「は、白龍さんのこと、とらないでください」
白龍さんにバッと抱きついて、小さく呟きました。白龍さんのことを好きだと言う人に会うのは初めてなので、少し不安になってしまったのです。紅覇さんの「あは、白龍すごい顔」という言葉に顔をあげると、彼はお酒なんて飲んでないのに、またほんのり顔を紅くして私を見下ろしていました。
「赤琉、あなた、そんな可愛いことを言って」
白龍さんって本当に、すぐ顔があかくなるんだなあ。かわいいな……。
「おまえ何言ってんだ?取るもなにも、白龍は元から俺のだしぃ」
「えっ、そ、そうなんですか」
「違います。こいつの言うことをいちいち真に受けないでください。俺は他でもないあなたのものです」
わたしのもの……わたしのもの……。白龍さんの言葉を頭の中で反芻させる私。たちまち自信が湧いてきました。
「は、白龍さんのこと、狙ってもむだです!白龍さんは、わ、わた、わたしの、なので」
「はぁ?ちげーし俺のだしぃ」
「それに、白龍さんのことが一番好きなのは、わ、わ、わたしなので……!」
「ちげーし俺だしぃ」
お互いむきになってヒートアップする私たち。でも白龍さんは嬉しそうに笑って、たくさんなでなでしてくれました。
「白龍、なんかこいつらのやり取りうざいから早く止めてくんない?」
「はぁ〜申し訳ありません義兄上、それは不可能です。赤琉、もっと言ってください。ああ、ジュダルは黙って」
「……へへーん」ドヤ顔をする私。
「くっそ腹立つ!こいついつか絞め殺す!」
パフェ用の長いスプーンを持ったままの手で中指を立てられました。これもこの前観た映画で学んだけれど、たしか手の甲を外側にして中指をビッと立てるのは“くたばれ”という意味だったっけ……?思い出すためにきょとんとしていたら、白龍さんがそれをやめさせる前に、意外なことに紅覇さんがその指を掴んでへし折りました。
「痛え!」
「ジュダルくぅん。女の子にソレはだめ!」
「はぁ?おまえこいつの味方すんの?」
「言ったじゃん?今日のボクはジュダルくんじゃなくて赤琉サイドって」
「白龍のことは言ってたけど赤琉のことは言ってなかっただろーが!」
「ここまで来たら白龍も赤琉も同意義だろ、もう。細かいこと気にしすぎぃ」
紅覇さんは女の子には優しいタイプなのかな。そんなことを考えていたら、白龍さんがさっきの続きを所望しているのかお口を少し開けて私を見つめてくるから、さっきみたいにミニケーキをあーんしてあげました。甘えた白龍さん、かわいい。
「でもこいつ……白龍に似てSっ気あるよなぁって、さっき気づいちゃった。あは」
心做しか頬が赤いジュダルさん。
「あ、やばこいつ。ジュダルくんって本当はドMなんだっけ。ボクの前ではガン攻めだから忘れてた。もしかしてさぁ……さっき目の前をナイフでぶっ刺されたのに欲情してんの?気持ち悪いぃ〜」
「気持ち悪いって言うな!」
「否定しないし。やっばぁ、白龍、嫁のことは全力で守らないといつか真面目に食われるよ」
「……」
「ボクやお前みたいに」
「……紅覇殿。その話は」
お前みたいに食われる?こそこそ声を立てて尋ねてみました。
「白龍さん、食べられたことあるんですか?」
「……えっとですね。赤琉。このことは、聞かないでもらえると助かります。後生ですから」
「?わかりました」
……よく分からないけど、ジュダルさんもカニバリズムのけがあるのかもしれません。


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