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白龍さんがお家のドアを開けてすぐ、いつもより急かすように私を中にひき入れるから、何かと思えば。玄関の動きを察知して勝手についた照明の下、白龍さんは靴も脱がないまま私を玄関扉に押し付けました。直接手で押さえるまでもなく、少し距離を詰められただけで私の体はぴったりとドアにへばりつき、頭の上に肘ごと腕をつかれ、上からのぞき込まれただけで、身動きが取れなくなってしまいました。なんだかうっとり顔で観察されています。獲物を狙う人みたいな目をしています。ぶるり。少し緊張しながら、白龍さんの横髪が顔に触れたのを手で避けると、彼はチャンスとばかりに顔を近づけついに唇を合わせました。やっぱりされると思いました。今日だけで何回やってるんですかという感じです。でも今回は少し様子が違うようです。すぐ離れるかと思ったのに、今までとは違っていつまでたっても離れる様子がありません。それは長い長いキスでした。
「ん、……ぅ……」
最初は触れるだけだったのが、徐々に深くなっていき、初めてこんなことをされる私の唇は抵抗の術も知らず、白龍さんの舌に簡単にこじ開けられてしまいました。息をするついでに大きく口を塞ぐように、頭を少し傾けながら、二枚の舌が音を立てて絡み合います。飲んだことないお酒の味。白龍さんの、唾液が流れ込んでくるこの感じ。すぐ近くで息遣いが聞こえてくるこの感じ。だんだん体が熱くなって、頭がぼやぼやしてきました。ぎゅうと目を閉じながら、必死に彼の服を掴んでそれが終わるのを待ちました。だんだんと腰がひけていくのを、やっぱり彼は見逃してくれず、それはそれは優しい力で腰を抱きしめられました。しばらく同じ体勢でいたからか、照明が切れて真っ暗闇に包まれてしまいました。それでも白龍さんはやめる気配がありません。
「は、はくりゅ、さ……」
口の中をとろとろにされて、力が抜けて、とうとう膝が折れてしまいました。白龍さんは咄嗟に私の体を支えてくれます。よくやく離れたのはいいんだけど、彼はわざと見せつけるように舌を突き出し、私の口からこぼれた唾液を舐めて掬いあげました。舌なめずりも忘れずに。
「な、なに……」
「……可愛い声、出すんですね」
「……」
恥ずかしさのあまり目の前の胸板をボカボカ叩いたら、再びパッと照明がつきました。……目が慣れるまでもなく、扇情的な目がそこに。アリババさんのお店を出て、当たり前のように運転席に乗り込もうとした白龍さんを慌てて止めようとした時、もう酔いは醒めましたって、言ってませんでしたっけ。その言葉通り、安全運転で無事に帰ってきたはずなのに、白龍さんはお店にいた時よりも頬を紅くして私を見下ろしていました。ごくり、音を立てながら口内を満たした液体が喉を通っていきました。
「あなたはすぐ林檎みたいになりますね。煽りがいがあるというか……」
「……自分のこと言えません」
「ふふ。中、入りましょう」
そう言われてようやく靴を脱ぐと、まずは手を洗わなきゃいけないのに、白龍さんは私の手を引いたままリビングの方に直行していきます。使用人も誰もいない真っ暗な部屋が一つずつ明るくなっていく様子に、いつも通り目を奪われていると、リビングの大きな大きな窓の前でぎゅううと抱きしめられました。抵抗しました。
「……も、もう今日は、」
「おとなしくしてください」
「ぐぇ」
押さえ込まれました。圧迫死してしまいます。白龍さんは暴れる私をたったの数秒強く抱きしめるだけで完全に押さえ込んでしまいました。力の差は歴然です。なんだか額に頬をすりすりされているような感覚がします。絶対酔ってるこのひと。しょうがないから抵抗するのをやめて深呼吸のために息を吸い込んだ途端、白龍さんのにおいに包まれていることに脳が驚いて頭がくらくらしました。殺し屋さん兼お料理担当として匂いが邪魔なようで普段は完全無臭なのに、ぴったりくっつくと、こんなに、こんななんだ。白龍さんのにおいを認識するのは初めてです。……なんだか嫌いじゃないです。
今日はプロポーズされたり、色んな人に初めて会ったり、たくさんのことをお話しました。私を助手席に乗せるのも、お家に入れるのも、玄関であんなことをするのも、今こうして抱きしめるのも、白龍さんは私だけに……と言いました。正直、あまり実感が湧きません。
「……かわいいあなたが、好きです」
彼のこんなに優しくて甘い声を聞くのも、本当に私だけなのでしょうか。何も言わない私に、白龍さんは少し拘束を緩めて、様子を伺うように私と目を合わせました。
「赤琉、夕食はどうします?」
「……少しだけ食べたいです」
「アリババ殿のカップケーキしか食べてませんもんね。俺も小腹が空きました」
「……あれ、おいしかったです。白龍さんのもおいしいけど。また食べたいです」
「そうですね。結局あの人最後まで起きなかったし、また近いうちに行ってあげないと」
アラジンさんに飲み負かされ潰れたアリババさんは、しばらくして現れた美人な女の子に担がれて退場しました。どうやらあの人がアリババさんが口ごもっていたモルジアナさん、という方みたいです。今日はお休みの日だったけど、普段はあそこで働いていて、もう使いものにならないアリババさんの代わりにお店の締め作業を進めていました。彼はあんなので情報屋なんて務まってるのかな……。

夕食を食べました。お風呂に入ろうとしたところ、彼に呼び止められました。
「今日、一緒に寝てもいいですか」
「……」!?
思わぬお誘いをうけ、思わず何も言わずにその場から全力で逃げ出してしまいました。今日はもうあれで勘弁してくれると思ったのに。これ以上は心臓が持ちません。全速力で脱衣場に入って扉をしめて洗面台に手を付きながら、胸を押さえ深呼吸する私。
……今、一緒に寝ようって言いました?白龍さんと?私が?一緒に?どこで?そんなの無理に決まっています。私はさっきみたいに抱きしめられるだけでもどきどきが止まらなくて動けなくなってしまうのに、同じ布団に入るとか無理です。不可能です。少なくともあと十年くらいは無理です。はあはあ言いながら鏡を見上げたら、背後に白龍さんが立っていました。
「ぎゃあ」
「ぎゃあって……あなたね」
おばけ!!!ちゃんと扉は閉めていたはずなのに、なんで中に入ってきているのか意味が分かりません。振り返って後ずさる私。白龍さんは腕を組んで不満そうな顔をしています。
「なに逃げてるんですか。傷つくでしょう」
「だって、いきなり変なこと言うから……」
「変なこと?」
「い、一緒に、寝るとか……」
「言葉通りの意味ですよ。やましい意味ではありません。一緒に、同じベッドで、寝るだけです」
それがむりなんです。まだ私には早いです。時期尚早です。
「なんで、いきなり」
「昨日深夜に泣きつかれた時から思ってましたよ。夜眠れなくて俺が付き添ってあげたでしょう?」
そうでした。昨日は白龍さんと観た映画にとんでもないバケモノが出てきたせいで、目を閉じたらその光景がフラッシュバックして、とても一人では寝られなくて、彼に付き添ってもらったのでした。
「それがどうして一緒に寝ることに……」
「はい?そんな疑問に思うことじゃないと思いますけど……付き添うくらいなら一緒に寝た方が話が早いじゃないですか」
「べ、べつにはやくないと思います。むしろはやすぎです」
そうです早すぎです。時期尚早です。
「早すぎも何も、俺たちは今日正式に婚約した仲じゃないですか。本来ならもっと……いえ、あなたにもあなたのペースがありますからね」
なんだか意味深なことを言いかける白龍さん。なんだか顎を手で触りながらむつかしい顔をしています。この、未だに見蕩れてしまうくらい綺麗な装飾の竜宮城(脱衣場周り)でそんなことをされるとなんだかいやです。温かみのある照明が、こうして見るとなんだか色っぽくて、その照明にあやかっているのか白龍さんの色っぽさもましましになって、なんだかなんだか。
でもおっしゃる通り私にも私のペースがあるのです。きっと白龍さんは、その、その、そういうことを考えているのかもしれませんけど、私のペースがあるんです。なのに白龍さんはまるで関係ないみたいな顔をしてにっこり笑うのでした。なんかやだ。
「もうつべこべ言わずに一緒に寝ましょうよ。そうしない理由がありません」
「……」ないことないです。
「それにあなた、一人で寝られるんですか?昨日の今日で」
「……あぅ」
弱いところをつかれる……。
「まだ一緒に風呂に入ろうと言わないだけマシでしょう?」
「うえっ」
「これでもしっかり段階を踏んであなたとお近付きになりたいと、俺なりに考えているわけですよ。さあ一緒に寝るか、付き添いなしで一人で寝るか、二つにひとつです」
白龍さんの寝たがり!むしゃくしゃして心の中でそう叫びました。私ったらどうして毎度彼に言い負かされてしまうのでしょう。いつか白龍さんを言い負かしてやりたいです。心に決めました。

最悪です。白龍さんがバケモノの話を思い出させてくれたせいで、シャワー中全然目が閉じれなくて痛くて苦労しました。目を閉じてしまったらすぐ後ろにあのバケモノが立っているのを想像してしまうような気がして、とにかくガンギマリみたいに目をかっぴらいて周囲の警戒を怠りませんでした。
白龍さんちのお風呂場は特に波や波紋といった模様が直接描かれているわけではないのに、エメラルドグリーン系の色使いのおかげで水の中のお城にいるような感覚になります。なんせ、お風呂場自体が私の前の家より広いくらいなので、初日は落ち着かなすぎて探索してしまったくらい。小学校の頃に学校の遠足で一度行ったきりの水族館がこんな感じだったかな……私は少し暗めのあの雰囲気が好きなのでいつもはついつい長風呂をしてしまう私だけれど、今日はそんなことも言ってられませんでした。そういえばお風呂もひとりきりじゃん……そんな当たり前のことに気づいてしまって、とにかく急いで出ようと髪を乾かすのも後回しにして白龍さんのもとへ向かいました。
白龍さんは自分のお部屋にいるようです。用がある時は扉をノックしてくださいね、とは言われているけれど、実は私はこれまでに一度もノックをしたことがありません。それは訪ねたことがないという意味ではなく、私がノックをする前にいつも白龍さんの方から扉を開けてしまうのです。気配を察しているのかよく分からないけど、正直怖いです。彼はいったい何者なのでしょう。正解は、殺し屋さんです。

「赤琉。もうあがったんですね。髪、濡れたままじゃないですか。乾かしますよ」
今日もまたノックをする前に顔を出した白龍さん。いつもはきちんと自分で乾かすのに、この時はびしょ濡れのまま廊下に出てきた私に少し驚いたみたいです。絶対にバケモノが怖くて早くあがったことは教えてあげません。でも、悔しいけど白龍さんの顔を見た途端に安心してしまいました。悔しいけど。
「だ、大丈夫です」
「俺も風呂に入るので、そのついでですよ。遠慮なさらず」
白龍さんは、こんなふうに積極的に私のお世話をしてくれるようになりました。髪を乾かすだけじゃなくて、他にもわりと色んなことをしてくれます。思えば最初から面倒見は良い方だったような。今でこそ喜んでやりますよっていう感じのノリで私の遠慮など聞かずに強行してしまうけれど、最初はもっと面倒くさそうな顔をしながらも嫌々面倒をみてくれていました。初めからちゃんとしたところの出ならこんなにお世話する必要も無いのに、わざわざ私を選ぶなんてやっぱり物好きな人です。やっぱり。

先述の通り、扉から中の様子は見たことがあるけれど、あんまり入ったことはない白龍さんのお部屋。他の場所と同様それほど物は置いていなくてすっきりしているのに、よく数えてみるとお花やインテリアはそれなりに飾られているから白龍さんは部屋を模様替えするのが大得意なのだと思います。そんな大人可愛い感じもある彼のお部屋で、私はほんの少しどきどきしながら端っこの椅子に座っていました。白龍さんがお風呂から上がってくるのを待っているのです。そうです、自室に帰ろうとした私を、彼は見逃してくれませんでした。
「俺が戻るまでこの部屋で大人しく待っていてくださいね。さもないと……ね?」
さもないとの次の言葉は怖くて聞き返せませんでした。言われた通り大人しく待つことにしました。さっき乾かしてもらったばかりの髪の毛の指でくるくるといじったり、床に両足を交互に滑らせてみたり……リビングのソファーや自室のベッドにはもう平常心のまま座っていられるようになったのに、ここにはあまり入ったことがないし、白龍さんのお部屋だということを考えるとやっぱりどきどきしてしまいます。それに、お部屋の向こうの方にあるベッド……私の部屋にあるのよりは派手じゃないけど、白龍さんらしいシックな天蓋つきの大きなベッドがどうしても視界に入ってしまって、なんだかいても立ってもいられません。わたし、これからあそこでねるの?……ほんとうに?
少しして、白龍さんはお風呂からあがってきました。もう髪は乾かし終わってすっかり寝る準備おっけーみたいな感じでお部屋に入ってきました。私はいすの上で膝を抱えて寝たふりをすることにしました。でもそんなことはバレバレだったみたいで、彼はくすくす柔らかい笑みをこぼし、優しく手を取りました。
「おいで」
ゆっくり顔をあげると、髪をおろした女神さまみたいな美貌の白龍さんが私を見下ろしていました。初めて見た時から思っていたけど、こうして見るとやっぱり白瑛さんにそっくりです。一旦二人とも髪をおろした状態で並んでみて欲しいです。手を握られたまま無言でそんなことを考えていたら、よっこいしょと問答無用で抱き抱えられ、あっという間にベッドに放り込まれてしまいました。あれ。抵抗する暇もなかった。
「あ、あ……」
「さあ寝ましょう。約束通り」
心の準備をする間もなく白龍さんのベッドの上に運ばれて慌てふためく私。もうちょっとくらい寝る寝ないの交渉が出来ないかと頭の中でシュミレーションしていたのに、無駄無駄と言わんばかりの手腕でベッドに座らされてしまいました。一連の流れに理解が追いつかずおりようとすることも出来ず、戸惑っている間にすぐさま私の足を伸ばして上からふとんをかけてくる白龍さん。当然、彼も同じ布団に入ってくるから私は身動きが取れずに膝を伸ばしたまま固まってしまいました。
「……は、白龍さん」
「明日は学校でしょう?早く寝ましょう。寝坊したくなければ」
「……」
それはお寝坊常習犯の私によく効く脅し文句でした。……私にも分かっています。ここまで来たらどれだけ抵抗しても無駄だっていうことなんて。白龍さんの言うことは絶対なのです。でもやっぱり不満なきもちは飲み下しきれないので、言い返せないなりにぷくぅと頬を膨らませたら「可愛い」と笑われながら片手で潰されました。やな感じ。
白龍さんのベッドはたぶん私のと同じマットレスなのに、シーツの色が違うからか大分印象が違います。ふかふか加減はいつも通りだけど、真隣に白龍さんがいるからか緊張してリラックスするどころではありません。彼はさっそくふとんに潜って、片肘をついて私のことを見上げています。何をしているんですか?と言いたげな目線を送られたので、意を決して口を開きました。
「……あの、白龍さんに一個、おねがいがあります」
「なんです?」
私は、ベッドの中央を縦で割るように、私と白龍さんの間のところを手の側面でびいぃっと線を引きました。
「……ここからこっちに来ちゃダメです」
「……」
「……おやすみなさい」
それだけ言って、白龍さんに背を向けてふとんにもぐりました。途端に彼の匂い?かよく分かんないけどいつもと違う布の匂いに襲われてどきどきどきどきしてしまったけど、とりあえずベッドから落ちそうなギリギリのところで落ち着きました。これならまだ一人で寝てる感じで寝られるような気がします。
でも白龍さんは思いっきり線を越えて私の体を抱き寄せました。……そう来ると思いました。
「嫌ですよそんなの」
「嫌じゃ、ないです!」
「嫌です」
「だ、駄々こねないでください」
「こっちのセリフですが」
白龍さんの腕の中で暴れる私はまるで網に捕らえられたお魚さんのようです。彼の手にかかれば抵抗も虚しく、あっという間にベッドの中央部分まで引き戻されて、またしても力強いハグで押さえ込まれてしまいました。いくら手を振りほどこうと思ってもビクともしないのです。白龍さんは実は百キロくらい体重があるのかもしれません。こんなに細いのに質量がでかいなんて白龍さんはブラックホール予備軍です。自分でも何を言っているのか分からなくなってしまいました。もうやだ。
「……」
「そんな不満そうな顔しないでくださいよ。俺はあなたをこうして抱きしめながら寝るのを夢見てたんですから」
「……」
夢を見るほどのことじゃないと思います。
「ねえ、俺と同じ石鹸の匂いがしますね」
「……」
「はあ、今、とても幸せです。あなたが世界一愛おしい……」
「……」
白龍さんは抵抗し疲れてぐったりした私をこれでもかというほど抱きしめています。さっきの攻防の間にどさくさに紛れて体の向きを変えられて、私の顔面が白龍さんの分厚い胸板にぐりぐりと押し付けられているから返事をすることもできません。窒息死させるつもりなのでしょうか。ていうか、さっきから表現が誇張されすぎていませんか。今日の白龍さん、プロポーズしたのを皮切りに、あまりにも立て続けにそういうことを言うから、ボケているのかそうじゃないのかよく分かりません。ようやく満足してくれたのか、ほんの少しだけ腕を緩めてくれたので息継ぎがてら呟きました。
「……白龍さんはいつも大げさに言うので、よく分かりません。私を安心させるために、わざとそう言ってるんですか?」
「大げさ、ですか。そう聞こえるんですか」
「……?」
私の視界には白龍さんの胸板しか写っていなかったので、この時白龍さんが物悲しそうな顔をしていたことに気づけませんでした。代わりにもっともっと強い力で抱きしめられたので、そろそろ命の危険を感じました。
「……苦しいです。息ができません。私が死んでもいいんですか」
「本当は今すぐにでも殺したいくらいです」
「え」
「冗談です。……ふふ」
冗談には聞こえませんでした。なんかやけに取り繕ったような笑い声をしています。彼は私の前でこんなふうに笑う人だったでしょうか。もう何がなんだか分かりません。
布団の中で、白龍さんの手が私の左手を握ったり指を絡めたりしています。さっき髪を乾かされている間もずっと左手を握られていたっけ。同じ型の指輪がぶつかり合うのを、白龍さんは嬉しそうに見ていました。だらしなく破顔していたあの表情が、演技だなんて私には思えません。白龍さんはきっと本当に私のことが……なのだと、思います。なのに、どうして私の心の中には不安が残ってしまうのでしょうか。
白龍さんのことは好き。たぶん、大好き。だから、白龍さんの言葉も行動も、信じていないわけがないんです。だけど、なんというか。
「なんていうか、白龍さんの言うこと、信じてるのに信じられないんです」
「……どういう意味ですか?」
「どうもこうもありません」
今私が伝えようとしたことは、今の私の語彙力ではうまく説明できることではありませんでした。でも説明しないことには伝わらないので、困りました。色々考え込むうちに眠くなってしまいました。さんざん抵抗していたけど、結局眠気には勝てない私でした。まどろみの中、子どもを寝かしつけるみたいに背中を優しく撫でる白龍さんの手を感じながら目を閉じました。
「……少なくともこの一週間ほどは、あなたに対して嘘を付いたりしたことなんて一度もないのに。相当疑り深いんですね」
たしかな、疑り深いのかな、私。
「でも、俺は赤琉のそういうところを嫌だなんて思いませんよ。俺はありのままのあなたを愛したい。だから今は分からずとも良いんです。あなたが分かってくれるまで、俺がこの気持ちを伝え続ければいいだけなんだから、それで良いんですよ。……赤琉、愛しています」
後から考えれば、私が白龍さんの言葉に感じていた不安の正体なんて、そんなに難しい話ではなかったのに。白龍さんの愛情がどれほどのものなのか、私がそもそも理解しきれていなかっただけなんだから。


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