「あの、ジュダルさんは、どうして組織に入ったんですか?白龍さんと紅覇さんは練家のひとだけど、なんか繋がりとか……?」
「俺の家族、俺がガキの時にみーんなババアに殺られてさぁ、行く宛てねえから拾われてやったんだ。仕方なく」
「……?」
仲直りの意も兼ねて、ふと気になったことを尋ねてみたのにジュダルさんの答えは要領を得なくて困りました。驚くべきことに、既にN個目に達したデザートを未だもりもり食べ続けるジュダルさん。それ以外の私たちはもうご馳走様をして、お皿も片付けてもらって、休憩がてら雑談をしているところです。
度々ジュダルさんの口からばばあって言葉が出てくるのが気になってたけど、私はとうとう尋ねてみることにしました。
「ばばあさんってだれですか?」
「組織のボスだよ、ボス。白龍の母親な」
「……へえ」
つまり、ジュダルさんの家族は白龍さんのお母さまに殺されたみたいです。彼はだから白龍さんに突っかかってるのかな、なんて一瞬思ったけれど、ジュダルさんは恨みとか復讐とかいう感情を持たない人種っぽいので、普通に白龍さんのことが好きなだけみたいです。ていうか、白龍さんのお母さまって組織のボスなの……初耳です。
「じゃあ、ジュダルさんと私、お揃いですね」
「は?なんで?」
「私も組織の人にお母さんを殺されて、最終的に組織の仲間になったので……」
少し笑いながらジュダルさんをじっと見つめたら、彼はますます分からないというふうな顔をして首を傾げました。彼のキョトン顔は子供っぽくて、そのせいでもっと笑えてきてしまいました。それになんとなく勘づいてたけれど、ジュダルさんはやっぱり私のお母さんのことを気づいていないみたい。
「赤琉?あなた、俺の嫉妬心を煽ろうとしているでしょう。こいつと自分を“お揃い”だとか、そんな言葉でくくらないでくださいよ」
「……?ごめん、なさい?」
「あなたって、実は天然ですよね。知ってましたけど」
白龍さんがいきなりむすっとするから瞬きをしました。ただお揃いだと言っただけで嫉妬なんて、白龍さんは私が思うよりずっと嫉妬深いのかも。なんだか嬉しくなって顔をほころばせると、彼も仕方ないなと言うふうに私を抱き寄せて、二人が見ているのにも関わらずキスをしました。途端に白々しい目をする二人が視界の端に写ります。
「どゆこと?俺まだ何も分かってねえんだが。見せつけてんじゃねぇよバカップルが」
「白龍、本家のくせして散々遊び歩いてたからどうなることかと思ったけど、可愛い子見つけられてよかったねぇ」
「オイ紅覇ぁ〜。止めろよコレェ〜……どうすんだよ〜」
「ボクは身内がイチャイチャしてるところ見て楽しめるタイプだからどうとも思わないね。ジュダルくんも見習ったらどう?」
「へぇ、いい趣味してんなぁ」
「君に言われたくはないかな〜。ドM君」
さっきデザートにケーキを食べたからか、白龍さんのお口の中は甘々でした。でもでも、いつもの深いキスよりはあっさり終わったので助かりました。見られながらだと、これ以上長くされたら心臓が持ちません。白龍さんもその加減が分かっているのか「このくらいで勘弁して差し上げます。今はね」と言いました。あ、これは帰ったあとにツケがまわってくるやつです。
レストランに長居するのもあれなので、どこか別の場所に移動することになりました。ということで、私たちは今紅覇さんが所有しているというキラキラのリムジン車に乗っています。人生初リムジンです。あの縦長の車です。中は電車みたいに壁際に座席が伸びていて、真ん中にはお酒が置いてある収納スペースがあったりして、もちろんテーブルもあって、なんだか動くバーみたいな感じでとてもわくわくしてしまいます。いつも通り白龍さんに手を取られながら中に入って隣同士で座りました。紅覇さんの車なのに、ジュダルさんは慣れたものなのか一番奥のお誕生日席に寝っ転がって足をバタバタさせています。どこまでも子供っぽいジュダルさん。気を取り直して、話の続きをすることになりました。
「白龍さんによると、私のお母さんはジュダルさんに殺されたみたいです」
「あ、そうなのか?初耳〜」
初耳だなんて、面白いことを言う人です。
「正確にはジュダルさんは指示をしただけで、実行したのは、えっと、えっと、紅覇さんじゃなくて、」
人の名前を覚えられない私が一生懸命頭を捻っていたら、すぐに白龍さんが口を挟んでくれました。
「紅明殿です」
「あ、そうです。紅明さん、らしいです」
「明兄?なんで?」
一年前の夏休み、私の母親は組織への反逆罪でジュダルさんと紅明さんに殺されました。その一年後、つまり今年の夏休みに、私の父親は私に殺されました。身寄りのなくなった私は白龍さんに引き取られ、今に至ります。大まかにいうと私の人生はこんな感じです。
「あー、おまえの母親……『煌』の人間だったんだ。思い出した……“アレ”の娘か。だから謎に肝据わってんじゃんよ、納得。そうそう、アレは俺が紅明に言って始末したんだ。邪魔だったからな」
さっきあんなにたくさん食べていたのに、ジュダルさんは今はロリポップをぺろぺろ舐めています。彼は胃袋オバケです。
「じゃあ赤琉、俺のこと嫌いか?」
「え?べつに……」
「そう?母親のこと嫌いだったのか?俺が殺ったこと、何も思わないのか?」
「……?お母さんのことは好きでしたけど、それがどうかしたんですか?」
「ふぅん。変わったやつだな。俺と同じで」
「お前と同じかはさておき、俺は赤琉のそういうところ、好きなので」
なんかよく分からないけど、白龍さんにデレデレされました。相変わらず距離が近くて、さすがにもう突き放すのも嫌になってきてしまいました。慣れてきたから、いっそのこと私の方から密着することにしました。立ち上がって白龍さんの片膝の上に乗っかってみたら、白龍さんはやっぱり嬉しそうにして私のことを抱きしめます。見えないしっぽがブンブン振り回されています。白龍さんって一匹狼感あったけど、実はわんちゃん属性……?
「にしても“氷川”、ねぇ。まだ生き残りがいたんだ。ボクもちょっとは関わってたから知ってるよ」
「……紅覇さんもお母さんの知り合いだったんですか?」
「氷川町は『紅苑』の人間だったからね。ボクの部下だった時期もあったし」
「お母さんのこと、覚えてるんですか」
車の振動で落っこちないように白龍さんに抱きつきながら、尋ねてみます。
「まあね。でも話を聞くなら明兄がいいよ。明兄の記憶力が半端ないっていうのもあるけど、彼女は明兄の直近の部下だったから。一番の問題児だったから、『紅苑』の間では有名だったよ、そりゃ」
そうなんですか?と白龍さんに聞いてみると、そのようですね、と返ってきた。白龍さんの話だけじゃお母さんがマフィアの一員だったことに実感が湧かなかったけど、他の人からも話を聞くと現実味が増すというか。私はそのことに全く気づかなかったけれど、……お父さんはどうだったのかな。今となっては聞くことも出来ません。私が殺しちゃったから。
「色々あったんだねぇ、おまえ。まあ家族なんかいなくたって、白龍のお眼鏡に叶う時点で勝ち組なんだから安心しなよ。なんたって白龍は本家の人間なんだから」
「紅覇殿?」
白龍さんは、私を抱っこしながらやけに優しく落ち着いた声で名前を呼びました。
「なにさ?」
「ご自分を卑下なさらず」
「してないしてない。今のは言葉のあや。それに今、ボクわりと酔ってるから、いつもより饒舌なだけさ。気にしないでよね」
「そうですか?それは失礼を致しました」
「……?」
白龍さんは、本家のひと。今までにそんな話を聞いたことがあったっけ?私は練家のこと、まだ全然なにもわかってない。もっと知りたいのに、どこから聞けばいいのかも分からなくて困りました。
「ねぇ赤琉。練家以外の組織の人間はね、だいたい似たような経歴持ってるやつしかいないから、その中でも白龍に拾われるなんて凄いことだよ。知ってた?人生ってね、終わったあとが本番みたいなもんなんだ」
「……」
人生は、終わったあとが本番?そういえば、私は父を殺した時に人生を終えたはずでした。そこにたまたま白龍さんがやって来たから今の私があるわけで。……しかも今は婚約関係になっていて。……それって今考えたら、紅覇さんの言う通り、かなりの奇跡なんじゃ。
「ジュダルくんなんか、これでも幹部だしね」
「これでもってなんだよ。文句あっかよ」
「え?褒め言葉だよ。今のは」
「まじ?それほどでも〜」
「ジュダルくんってバカだねぇ、ほんと」
「あ!?」
紅覇さんの話を聞いて、少し白龍さんのことが尊くなったというか、なんかよく分からない気持ちが溢れかえってきたので、その気持ちに名前をつけるべく白龍さんのことを見つめてみたら、まあキスをされました。まったくもう。
+
「白龍さん。私、組織のこともっと知りたいです。あと練家のこととかも……」
「こいつ自分からあんま話さねぇよな。気になんなら教えてやるよ。白龍と紅覇が。俺はお菓子を食べるのに忙しいから〜」
「ええ?丸投げじゃん。太るよ?」
ジュダルさんは、きっと根はいい人。ノリが人とは違うだけ。あと面倒くさがりなのかな?距離感が掴めるようになったらきっともっと仲良く出来ると思います。白龍さんは嫉妬しちゃうかもだけど……。
高速道路を突き進む紅覇さんのリムジン車。運転者さんや付き添いの使用人さんもやはり紅覇さんの部下のひとらしく、彼はちょくちょく自分から部下全員にお菓子やお茶を配って回っていました。紅覇さんも、いいひと。
「赤琉、何から聞きたいですか?順序建てて話しましょう」
片膝に乗ってばっかだと白龍さんの足が疲れちゃうので、今は足の間に座らせてもらうことにしました。白龍さんのことはなんでも知りたいけれど、でもふとしたところで地雷を踏んでしまったらどうしよう。たとえば、火事のこととかはあんまり話題に出しちゃいけないワードです。そういうのが他にもあるのかも、と唐突に思いました。
「あの、私が聞いちゃいけないことって、あるんじゃ……」
「特に思い当たりませんね。気にしないでいいですよ、そういうのは。とりあえず気になったことから言ってみて」
そっか。それならよかったです。
「『煌樂白苑』と『煌樂紅苑』は、お料理屋さんなんですよね。でも殺し屋さんでもあるんですよね。この二つって何が違うんですか」
「運営元の序列が違います。料理店としても、殺し屋としてもね」
「序列?」
「あくまで本店は『白苑』の方で、『紅苑』は姉妹店なのさ。で、これは殺し屋稼業の時も同じ。二つは派閥が違うだけで結託関係にあるんだけど、やっぱり分家である『紅苑』の人間は本家の『白苑』の上には立てないよ」
いわく、本家本元である『煌樂白苑』のトップは白龍さんのお父さまで、分家の『煌樂紅苑』のトップは紅覇さんのお父さま。従兄弟だから当たり前だけど、二人のお父さまは兄弟関係にあり、兄夫婦の方が組織のボスで、弟夫婦の方は副ボス。同じ組織とはいえ、この派閥は内部ではわりとはっきり分かれていて、序列でいうと白龍さん側の『白苑』の方が上、と。
お金持ちの人の血縁関係は難しくて大変そう。政経の授業でやったけど、相続とか大変そう。ある意味貧乏人のほうが生きやすかったりするのかもしれません。なんちゃって。お金持ちの方が生きやすいに決まっています。話が逸れました。
「まあ序列とか……兄弟や従兄弟の中で一番年下の俺からすると、なんの関係もありませんけどね。年の功がなんとやら、って言いますし。俺は本家だなんだってよくはやし立てられますけれど、紅覇殿にも頭が上がりませんよ」
「ええ?明兄や炎兄なら分かるけど、それは言い過ぎ。それに白龍にも姪っ子や甥っ子がいるじゃんか。可愛いあの子らを差し置いて、練家の末っ子を名乗らないでよね。もう二十歳なんだろ?いい加減上に立つ者ヅラしたら?」
「はは。紅覇殿らしいお言葉ですね」
「僕はまだ遊んでられるけど、嫁をもらったからにはおまえにもじきに子供が生まれるんだから、ね」
「白龍さんの、こども?」
思わず目をぱちくりさせたら、白龍さんが上から顔を覗き込んできました。こどもってどうやってできるのか、私よくわかりません。ここぞとばかりに私のお腹に手を回してぎゅっと抱きしめてくる白龍さん。さらに頭の上に顎をのっけてくるから、重くてたまりません。
「そうですね。少なくとも赤琉が高校を出るまでは待つつもりですけど、俺は」
「へえ〜いいやつじゃん。元遊び人の言う台詞とは思えないね」
「紅覇殿。それ以上は慎んでください」
「はいはい。おまえの嫁、今の会話だけで真っ白ってこと分かっちゃった。なるほどねぇ、大事にしなね、白龍」
「?」
真っ白って、アラジンさんにも言われたっけ。今の私の服は真っ黒なのに、変なの。
「殺し屋さんって、具体的になにをするんですか?」
「そりゃ人を殺すんだよ」
「……」
分かりやすくて何も分かりませんでした。いつの間にかぐうすか寝息を立てているジュダルさんに薄めの布団を掛けながら、紅覇さんは教えてくれます。やっぱり彼は面倒見がいい。私は私で白龍さん専用のクッションにされてしまいました。いつものことだけど。飽きずに後ろから抱きしめながら、今度こそ分かりやすい補足をする白龍さん。
「正確には、俺ら暗殺担当は依頼があって初めて動きます。それ以外にも組織に害をなすものを始末する場合もありますが、基本は依頼人からの依頼を遂行するだけです」
「白龍、今一番稼いでるんだっけ。月に何人くらい殺ってんの?」
「さあ?数なんていちいち覚えていませんよ。それに、収入源は他にもありますから」
「そうなんだっけ?」
白龍さんの他の収入源?ってなんだろう。
「何かやってるんですか?」
「カジノの運営を、少しね。興味があるなら今度連れて行ってあげますよ」
「……」
予想外の単語に何も言えなくなってしまいました。カジノってあれ?ギャンブルのやつ?白龍さんったらそんなこともしてたなんて、……そういえば子供の頃にお兄さまやお姉さまに賭場に連れて行ってもらった、みたいなこと言っていたような。へえ、どんなところなのか想像もつきません。白龍さんって殺し屋だし料理できるしカジノやってるし何者なんだろ。
「副業ってやつだよ。ボクもこれでもデザイナーなんだ。自分のブランドも持ってる。最近は服だけじゃなくてコスメの展開にも力入れてるし、そっちでもかなり稼いでるんだよ」
「紅玉殿も、庭園を初めとしていくつか娯楽施設を持っていらっしゃいますね」
「へえ……わたし、紅覇さんのブランド興味あります」
「なら今度招待してあげる。新作出るからその時おいでよ」
わくわくしながら白龍さんを振り返ったら、もちろん行きましょうと頷いてくれました。やったー。
「ちなみに練家の人って、みんな暗殺に関わっているんですか?その、全員が全員、殺し屋さんなんですか?」
「全員がそうじゃないよ?もち。こいつとこいつはかなりそっち系の仕事を回されることが多いけど、ボクはあんまり殺しはしない方だね。少なくとも仕事としては」
「そうなんですか?」
「ボク、暗殺って性にあわないんだよねぇ。銃とかも苦手。だってすぐ死んじゃったらつまんないじゃない。それにさぁ」
お酒片手にべえと舌を出す紅覇さん。たぶん自分の顔がいいことを分かってやっています。
「人は殺すものじゃなくて、いじめるものでしょ?」
「……ほあ」
すごいことを言う人です。
「でも、いじめなんて、先生に怒られちゃいます」
「はぁ?カワイイこというんだねぇ、おまえ。学校のソレと同じなわけないでしょ?僕が任されてんのは捕虜の拷問さ。よそで捕まえてきた人間をいたぶって、なぶって、色んな情報を吐かせるのさ。分かる?僕の言ってること。お前にも分かりやすく言ってみたんだけど」
「……ご、ごうもん」
思わず白龍さんを振り返ったら、怖がる私が面白く写ったのか普通に笑われました。
「あなたがいたぶられるわけじゃあないんですから」
とかいうけど、怖いものは怖いの!痛いのは嫌いなの。紅覇さんのことはたぶん怒らせない方がいいです。肝に銘じました。
「あ。せっかくなら見学してけば?丁度このあと予定あんだよねぇ」
「予定って……?」
「拷問の予定だよ」
パワーワードすぎる。
「ジュダルくんも今夜は別件でオールらしいけど、白龍は今日は暇みたいだし?なぁ、同伴ならいいでしょ?ボクの家来なよ。ついでに寸法とか測らせてよ」
「暇は暇ですけど……」
白龍さんは微妙な顔をしています。拷問するところを私に見せたくないのかな?でも、せっかくのお誘いを断りきれないという顔もしています。一番年下だから、いろいろ面子のことも考えなきゃいけないから大変なんだなあ。白龍さんはすごいひとです。
「紅覇さん。あの、私が、そんな大事なお仕事を見学してもいいんですか?今日いきなり会ったのに……」
「いいけど?お前、白龍に話を聞いた時から結構センスありそうって思ってたんだよ、ボク」
私に、センスがある?
「だって拷問ってのは、お前が父親に対してやったことを……だから、殺すのとミンチにするのを順番逆にすればいいだけなんだから」