| メインストーリー第2話/石化後(z=26以降) 「やっと起きた!おはよう世界!!」 ある日突如目の前が光に包まれたかと思ったら、そのまま体が動かなくなってしまい五感全てを失ってしまった。一体全体何が起こったのか分からなかったけれど、”考える”ことは出来たのでその間に色々と考えた。丁度映画の撮影中でカメラが回ってすぐ、友達役の子が私に駆け寄ってくるシーンだった。けれどその子の遥か後ろからこの世を包み込むような光が見え、さすがの私もそれには演技を忘れて唖然としてしまう。光は迫りくるようにこちらへと向かってきて、同じく私に向かってきた友達役の子の足がピタリと止まり…いや、アレは固まったのだ。みるみる内に石造のように全ての色を失う。そう思った瞬間には、もう既に私からも色が消えていた。なるほど、よくわからないけどきっとあの光によって私はあの友達役の子のように石造?になってしまったのだと考えた。 そこからはもう絶望的な時間となってしまい、待てど待てど体が自由を取り戻すことはない。こんなに暇になるのはいつぶりだろうか、子役としてデビューして仕事が無かったあの頃だろうか。今の今まで高校生活もロクに送れないまま芸能活動を続けてきてやっとの暇の時間がまさかこんなことになるなんて。だけど逆に考えれば、私は今から何を考えてもいいのだ。だったらやりたいと思っていたことを今から沢山考えて、動けたときに全て実行できるように組み立てておこうと思った。生きていて時間が足りないとは思っていたから丁度いい機会だ。体が動かないのはちょっと困るけど、お腹も減らないし眠くもならないのならそれはそれで最強の人間になれた気もする。そう思って私は、ずっとずっとずっと考えた。 やりたい物語を全て復唱した。演じたい役の台詞を全部頭の中で唱えた。演じているうちに自分で物語を作りたくなった。アクションシーンなんかも入れてみたい。いつか主演女優賞を取りたい。日本だけじゃない、世界で演技をしたい。歌も歌いたい。まだまだやりたいことは沢山ある。だから、目覚めるまで、私は考えた。 「目覚め開口一番がソレって、名前ちゃん意識あったの!?」 「あ、ゲンくんだ、久しぶりだね、そしておはようございます」 「あ、おはようござい…って普通に業界挨拶かましてるけど、名前ちゃんどんだけの時間経ったか分かってる!?」 「え、わかんないけどめちゃくちゃいっぱいな気がする」 3700年だよ!!! 目覚めたらそこは一面の大自然だった。長い間固まっていたとは思っていたけれど、まさか3700年も経っていたなんて。時間なんて数えていなかったので体内時計は完全に狂っていた。そもそも途中で意識も途切れたり起きたりとを繰り返していたので時間なんて分かるわけがない。しかも目覚めて早々に目の前に見えたのは何故かあさぎりゲンくんで、私の芸能友達の一人である。そしてその隣にいるのは私でも知っている、霊長類最強の高校生という肩書を持つ獅子王司くんだった。 「ゲンの言う通り、なかなかの優秀な人材のようだね、うん」 「いや、名前ちゃんがバイヤーってことは知ってたけど、まさかここまでとは思ってなかったよ俺も…」 「え、褒められてる?とりあえずありがとう!」 とにかく今は目覚められたことが嬉しくて3700年分の想いが爆発しそうだった。だけど、この状況を見る限りそうでもないらしい。とりあえず話を聞くことにした私は、彼らからこの世界がどうなってしまったのかを初めて耳にする。 人類は3700年前に突如謎の光に包まれて70億人全てが石化してしまった。それによって文明は滅び、完全に原始の世界と化してしまったここはストーンワールド。だが復活液という魔法の液体を固まった人々にかけると、再び人類は目覚めるというのだ。そして今現在、彼”獅子王司”が築き上げる王国で若く才能のある人材を目覚めさせ、新たな人間世界を造ろうとしている…とのこと。どうやらその選別に私も選ばれたらしく、推してくれたのはメンタリストのあさぎりゲンくん。確かに友達ではあるけどそこまで推してもらうほど仲が良かったっけなと疑問に思いながらも、目覚めさせてもらったのだから頑張って生きるしかない。そう、私はあの時言ったのだ。 どんな絶望的なことがあっても、立ち上がると。 「じゃあ案内はゲンに任せようかな、うん」 「おーけーおーけー任せてよ!ほら名前ちゃんこっちおいで〜!」 「え、あ、うんっ」 案内役となったゲンくんに手を引かれて私はこの司帝国を案内された。3700年の間に出来た地形を利用して住居を確保しているらしく、まるで旧石器時代にタイムスリップしたかのような光景だった。そこには既に目覚めている人たちが数十人といて、私を見る度に皆驚いた顔をしてから握手を求められる。3700年経っても彼らの記憶の中には女優の私が残っていて、もうテレビも何もかもが無いっていうのに、なんだか変な感じだ。 「杠ちゃん…?」 「名前ちゃん!」 ここが裁縫スペースだよと言われて訪れた所には、まさかの中学時代の友人がいた。小川杠ちゃんとは中学が同じで学年は1つ違ったけど、あるドラマの役で手芸をするシーンがありその役作りで手芸部にお邪魔していたことがあった。元々杠ちゃんは愛嬌のある優しい子だったし、それに千空の実験にも協力してたりと仲良くなるのはほぼ必然だろう。そんな杠ちゃんが石化の復活者としてこの司帝国に居て、私はある疑問を持ったのだ。 「ねぇ杠ちゃん、せんく―…」 「名前ちゃんすとっぷ!」 「へっ?」 「ごめんね、ちゃんと話すから今はその名前は言わないで…!あと、私とも友達なことは他の人には言わないでほしいの!」 「あ〜それなら俺が名前ちゃんに話すから、杠ちゃんは大樹くんの口をちゃんと縛っておいてくれるかな?」 「そうだね、うん!」 「???」 ゲンくんと杠ちゃんの言っている意味がさっぱり分からなくて、とりあえずストップと言われたので私は言いかけていたその名を口にしなかった。それに”大樹”という名がゲンくんから出てきて、どうやら大樹くんも目覚めているらしい。私はゲンくんほど心理学に詳しいわけでは無いけれど仕事柄、人の顔色や様子から状況を把握するのは得意だった。だから2人の表情がどこか真剣な眼差しで、特に周りを気にしていたのであまり大きな声で言っていいことではないのだと察知する。どうやら私が固まっている間、先に目覚めた人たちで何かがあったらしい。そしてそれは、千空にも関係がある。 「ここまで来たらまあ大丈夫かな、羽京ちゃんの耳にも届かないだろうし」 「ねえゲンくん、千空に…なにかあったの?」 「うん、まあ…ちょっと長くなるけどいいかな?」 ゲンくんは全てを話してくれた。 この石化した世界、ストーンワールドで最初に目覚めたのは千空だったこと。そしてその千空は獅子王司くんと敵対して、一度は司くんに殺されてしまったこと。その話を聞いた時点で言葉を失ったが、すぐにゲンくんが続きの話をしてくれた。けれど千空は生きていて、今はある村で科学王国を築いている。そして杠ちゃんと大樹くんはその時が来るまでスパイとして司帝国に居ること。そしてゲンくんがどうして私を目覚めさせたのか… 「千空ちゃんがさ、聞いたんだよね…”司帝国に苗字名前という女はいるか”…って」 「え、」 「どうして千空ちゃんが名前ちゃんを知ってるのかなーって最初は疑問だったけど、だって千空ちゃんって芸能人とか興味あるような人じゃないでしょ?俺的にはすんごい気になっちゃってさぁ〜…んで杠ちゃんたちに探り入れてみたらビンゴ!2人が幼馴染だって知ったんだ」 「千空が……そっか」 杠ちゃんがどうして私と友人関係にあることを隠そうとしたのかも、ゲンくんの提案らしい。私がもし杠ちゃんや大樹くんと知り合いだと司くんに知られたら、私が千空と知り合いだということも彼ならきっと感付く。そしたら私への監視も強まってしまうから今は内緒にしておいたほうが得策なのだという。 そしてゲンくんは元々司帝国派だったけれど、千空が生きているのかを確認するために偵察に行って、そこで見た科学王国に圧倒されて千空側に付くと決めたらしい。 「まあ別に千空ちゃんが名前ちゃんを復活させて〜ってお願いしてきたわけでもないんだけどね!そもそも復活させた本当の理由は、名前ちゃんがそれだけの才能を持ってるからだよ」 「私が?ただの役者だよ?」 「いんや、俺が知ってる役者の中で名前ちゃんは群を抜いてるよ!ジーマーで!だから復活させても絶対司ちゃんも納得いくって思ってたし、それに名前ちゃんと俺って結構相性いいんだよねぇ」 基本的にゲンくんの言うことは薄っぺらくて褒められてもあまり鵜呑みにしない事の方が多いのだけど、なんだか今のは純粋に褒められた気がして照れてしまう。いや、さすがのメンタリストなのかもしれないけど…今はその誉め言葉も素直に受け取っておこう。 そしてそんな話を聞いて私はもう、このストーンワールドで生きる未来を見つけてしまった。 「ねぇゲンくん、千空の力になるにはどうしたらいいかな?」 「そう言うと思ってたよ、俺にいい考えがある」 千空、君に会いたいよ。 ゲンくんの教え――”まずは敵陣に馴れろ!” 司くんはまだ千空が生きていることを知らない。だから下手に動いて千空が生きていることをバラしてはいけないのだ。それにまずはこの司帝国がどんなものなのかを把握するためにも、私はここでしばらく過ごすことにした。演技は大得意中の得意なので杠ちゃんとは面識が無いように最初は振る舞い、次第に仲良くなるというストーリーを作った。でも大樹くんに関してはちょっと正直が過ぎるのでボロが出かねないと思い、申し訳ないけど大樹くんとはあまり関わらないように過ごす。他にも武力が必要だという司くんの希望を叶えるために戦闘の稽古を付けてもらったりと、私も私でここでの生活を充実させる為に己のスキルアップに励んだ。まさかこんなところで戦闘シーンのある役で戦った経験が活かされるなんて思ってもみなかった。千空のような豊富な知識はないけれど、私は今までに頂いた様々な役を通して色んな知識と経験を得た。そしてそれが、千空の役に立つのであれば…私は全力で頑張ろうと思う。 だって今はテレビもお芝居も何もない世界だけれど、きっといつか…千空が作ってくれるんだって信じてるから。 「戦闘員が揃った、そろそろ出陣だ」 私を目覚めさせる前にゲンくんは千空が生きているかの偵察に向かい、そして千空は生きていないと嘘の報告をした。だけど司くんはそれを完全に信じることはせず、もし万が一に千空が生きていたらという仮説をたてて可能性である村を制圧すると言う。そして遂に復活液による戦闘員復活が…揃ってしまったのだ。 「なら俺が先に潜入して手引きするよ〜!あ、ちなみに名前ちゃんも連れて行っていい?女の子が居た方が怪しまれないし、なんたって名前ちゃんは大女優様だからねぇ〜!」 「……うん、確かに、君たち二人のコンビは陽動には向いているね…それに名前は戦闘員としても優秀だ、いいよ」 この時私は、ゲンくんと相性がいいという理由がやっと理解できた。確かにメンタリストであるゲンくんの言葉は巧みで相手との交渉が上手い。そして私は演技という、言い方は悪いけれどある意味人を騙すことに長けている。そうすればそういった陽動作戦の要員には最適だ。ゲンくんが言ってたここで馴染むことも、戦闘を学ぶことも、そしてこの役者というスキルを活かして、自然に私を千空の元へ連れて行こうと考えていたのだ。 こうして私とゲンくんは一足先に千空の居るという村へ向かうことになった。 千空に、会える。 「じゃあするわ、結婚」 とんでもないシーンに出くわしてしまった。 やっと千空の居るという村にまでやってきたのだけれど、なにやら今日は御前試合というイベント事があるとかで住民たちは村の奥に集まっていた。普段は居るという門番も居ないのでゲンくんと近くまで行って様子を見ていたのだけれど、ゲンくんは途中でその試合に加勢するべく手品のように消えてしまった。一応ここに来るまでに千空と愉快な仲間たちについての説明と、今何をやっているのかなど聞いてある程度は把握しているけど、この台詞は予想外だった。どうやら御前試合の優勝者は村の長になることができ、更に巫女との結婚が決まるのだとか。そして第一候補である村の少年が破れ、残るは千空だけになってしまい…とのこと。けれど本来の目的である村を手に入れてついでに結婚しなければいけないのだとあればと、千空はなんとも軽快に軽率に結婚を承諾した。 「名前ちゃん……えと、大丈夫?」 「ねぇゲンくん、結婚ってもっとロマンチックなものだよね!?いいのあれで!?巫女様可哀想だよ!!」 「え!そっち!?」 なにがそっちなのか分からないけれど、あれでは巫女様が可哀想すぎる。昔からデリカシーというものが欠片も無いと思っていたけれど、あそこまで合理的な男だったとはと私はゲンくんに同意を求めた。 「とにかくラボで待ってようか、せっかくだし千空ちゃんびっくりさせようよ」 「?」 どうやら村の外に千空が現在拠点としているラボがあるらしい。今なら誰もいないから先回りして千空を驚かしてやろうと言われた。でも驚かすといっても私の登場だけで千空は驚いてくれるだろうか?正直言って私と千空はただの幼馴染で、高校に入ってからはまだ一度も会っていなかった。思った以上に芸能活動が忙しくなってしまい、家族に会うのも難しくてどちらかというと親が私に会いにきてくれてた位だ。たまに実家に帰ってもタイミング悪く千空は家に居なかったり、すれ違いが生じていた。だからさっき遠目だけど久しぶりに千空の姿を見て、中学の頃よりも成長していてびっくりしたのだ。 ゲンくんに案内されて科学王国とされる所に来た私は、そのあまりの発展に驚いた。話では聞いていたけど実際に目の当たりにするとその感動は何倍も…千空の言葉を借りるなら100億倍だ。こんな何もない原始の世界からここまで造り上げた千空に、やっぱりいつまでたっても私の憧れなのだと心から嬉しく思う。 「名前ちゃんはここで待ってて、んで俺の合図で出てきてね?」 「え…う、うん、わかった!」 ゲンくんに言われた通り茂みの影に隠れて息をひそめる。すると村の方から騒がしい声が聞こえてきた。どうやら千空たちが帰って来たらしい。というか一体ゲンくんはなにをしようというのだろうか。色々と分からないことが多かったけれど、合図すると言っていたしその時に出ればいいのだろう。そう思って待っていたら… 『やっほ〜〜!千空ぅ〜〜!!待ってたよぉ〜〜〜!!』 「ア"ァ"!?」 !!??! 明るく甲高い声で千空を呼ぶその声は、なんとなくだが私の声に似ていた。そしてその声を発したのはまごう事なきあさぎりゲンくんで、彼の特技の声帯模写らしい。男の人だけでなく女の子もいけるなんて、ゲンくん怖ろしい子。まあ男性の時よりは若干劣るけれど。 「おいメンタリスト、ンだよその声は…!」 『あっれぇ〜〜聞き覚えないかなぁ?そろそろ私の声が恋しくなる頃だと思ったんだけど〜〜?』 「若干似てるのが腹立つんだよ!マジやめろ…」 いや私そんな間延びした喋り方しないよ!と声を出して言いたくなったけど、まだゲンくんからの合図が来ていないのでじっと待つ。するとゲンくんがチラリとこちらに視線を向けたのを、私は確認した。 「あ〜〜そうだよねぇ、やっぱモノホン聞きたいよねぇ?そんなに言うなら村長千空ちゃんを記念して特別サービスしちゃうよ〜!ねぇ〜〜?」 「は?」 「やっほ〜千空〜〜!3700年ぶりぃー!」 そんな演出掛けられるとは思ってもなかったけど、ここが合図で間違いないと理解した私はもう思い切って出ていくことにした。そんな私を、千空は目を見開いて見ている。あれもしかして私スベった?なんて思いながら千空を見ると、少しの間の後にゆっくりと表情が変わっていった。ああ、千空だ。数年会えなくても、3700年会っていなかったとしても、私の今目の前に居る人物が千空なのだと――ハッキリと分かった。 「千空だ……千空がいる…」 「…よお、元気そうじゃねえか」 「千空……っ、会いたかった…!」 本当に世界は文明が終わってしまったのだ。そんな世界でもまだ私たちは生きている。そして千空が生きている。この70億人といる人間の中で、今ここで立ち上がっているのはほんの1以下の%にすぎない。なのにこうして私の特別である彼に出会えていることがこんなにも嬉しいことだなんて。 千空に駆け寄り、彼にぎゅっと抱き着いた。いつの間にか身長も伸びて、ヒョロガリだった体も微かだけど逞しくなって、ボロボロになった手で温かく私の体を包み込む。そしてあの声で優しく私の名を呼ぶのだ。 「名前…」 「うん、」 「いい加減離れてくんねぇとこの視線まじでキチィわ」 「うお!?」 バッと両肩を持って離され、私はすっかり周りが見えてなかったのでそちらに視線を寄こした。すると完全に注目の的となっていて、特に大量のツボを持った女の子と白ヒゲを蓄えたお爺さんに、金髪の超絶美少女…と思ったら凄い顔して見てる子。とゲンくん。 「千空、その子はもしや…君の彼女か!?」 「千空にまさか恋人がいたなんて!?なんだよ!!」 「オホー!なかなか可愛い子じゃないの!主も隅におけんのぅ!」 「あ"ーほらテメーが抱き着きなんかするからめんどくせぇことになった」 「あー…あはは、なんかごめんね?」 どうやら科学王国の住民たちはとても愉快そうな人たちばかりだ。 私はその後、大急ぎで作るものがあるから手伝えと言われて早速科学王国のマンパワーの一員となった。3700年ぶりに会ったって言うのに変わらず人使いの荒い千空に、やっぱり千空だと私は笑ったのだった。 |