| メインストーリー第3話/携帯製作期間中 村の巫女であるルリちゃんの病を千空の科学で無事治すことができ、そして氷月くんの襲撃をなんとか村人全員無傷で免れることに成功もした。更に私とゲンくんは司帝国の裏切者と認定され、科学王国の正式な住民となったのだ。そして千空先生の次なる課題はこの原始時代のストーンワールドで携帯電話を作ると言い出すのだから、私とゲンくんは正に開いた口が塞がらないのである。 「なに!?2人は付き合っていないのか!?」 「え、千空と私が?ただの幼馴染だよ?」 携帯造りが始まって今まで人力だったものが動力の時代へとあっという間に移り変わり、空いた時間を使って戦闘員は稽古に励み非戦闘員は村の冬備えに時間を割くようになった。私はというと氷月戦の時に科学の武器として使った日本刀の稽古を付けたことにより戦闘員に割り振られることとなる。これもまた過去の映画の撮影で女の刀使い役をやったお陰だ。ゲンくんには「名前ちゃん何でも経験してるね?バイヤーなんだけど」と言われた。なので同じ女性であるコハクちゃんとは意気投合して、短期間で結構打ち解けたと思う。 「そうだったのか、てっきり2人は恋仲なのかと…それに、千空の君に対する態度は今までの女子とはどこか特別なものに感じるぞ?」 「まあ幼いころから一緒だったしね」 「そ、そういうものなのか……?」 よく昔から千空と仲がいいことでそういった勘違いをされることが多かったが、ここでも同じのようだ。どうやら私と千空の再会シーンを見てから付き合っているのだと勝手に勘違いされていたらしく、コハクちゃんが休憩中に「君と千空はどうやって恋仲になったのだ?」と聞いてきたので「え、なんのはなし?」とポカン顔で聞き返してからの今の会話となる。 「そもそもコハクちゃん、千空が恋愛なんてすると思う?惚れた腫れただのはめんどくせえ、恋愛は非合理的だとかいう愛もへったくれもない男だよ?」 「た、確かに…すまない、私の早とちりであった」 コハクちゃんの反応を見るからに千空のことをある程度は理解しているらしい。そう、私は幼い頃から彼を見ているから知っている。石神千空という男は恋愛を非合理的なんていうような完全科学バカオタクなのだ。しいていうなら彼の恋人は科学だ。 「それに千空、今は既婚者でしょ?私と千空が付き合ってるなら不倫になっちゃうよあはは」 「え?名前、君もしかして知らないのか?」 「へ?」 「だって千空とルリ姉は―…」 「おい名前ー!手ぇ空いてんならちょっとこっち手伝ってくれー、お前の器用さなら杠の次には使えっからなぁ!」 「あ、千空が呼んでる…待って今行くー!ごめんコハクちゃん、行ってくるね!」 「え、あ!…ああっ」 コハクちゃんとの話の途中だったけれど一旦打ち切りとし、私は呼ばれたラボの方へと駆けて行った。昔から千空の実験にはそれなりに手を貸していたのでまあまあ慣れていて、戦闘稽古を手伝ったり科学の工作チームと何かを作ったり村の手伝いをしたりと、本当にここでは休む暇もない日々を送っている。でもそれが苦に感じないのは石化前でも散々なスケジュールで芸能活動をしていたお陰と、そしてなにより一からの科学というのがとんでもなく楽しいのだ。 「ほいほい、どんな御用ですかな?」 「このガラスの中に配線を入れてガラスの接着剤で固定する、お前ならできんだろ?」 「ひぇ〜こりゃまたバイヤーな作業ですねぇ」 「オイ、お前までゲンみたいな喋りすんなよ…」 「ゲンくんと居る時間長かったから移っちゃった、ほらそれに私もなんだかんだ業界人だから」 「あーはいはい仲のいいこって」 耳をほじりながらさほど興味なさそうに受け答えする千空に急にどうしてそんな不機嫌になるのかとムっとしながらも、私は言われた通りに球体ガラスの細い入口から鉄のお箸で金の配線をその中に入れ、ガラスを溶かした接着剤で両片方をとめていく。かなり繊細な作業すぎて、杠ちゃんとの手芸部の経験がなければかなり厳しかったかもしれない。そして今更だけどこれは電球というやつではと、またもやこの時代にはありえない物体にヒエッとなるのだった。 「おぉ〜!名前ちゃん凄いじゃないの!わしの助手にならない?」 「いやぁ職人に褒められると嬉しいなぁ」 「いやマジで!名前って何でもできてスゲーんだな!」 「そうそう!名前ちゃんってば俺たちの時代でも何でもこなす天才女優だって超絶人気だったんだから〜」 「んじゃあ”天才女優の名前ちゃん”、あとこれ数十個頼むな」 「えぇ!?」 ドンッ!と空の電球ガラスが入った箱を目の前に置かれ、出たよ千空先生の無茶ぶりと思いながらも手を進めるのだった。千空は配線が入った電球を完全なるものにする為の作業があるとかでラボの方に向かうのだが、なんだかさっきから千空の態度に違和感を覚える。 「なんだぁ千空のやつ?いつもより機嫌悪くねぇか?」 「あはは、千空ちゃんも案外分かりやすいんだねぇ…」 「オホー、若いっていいのう…」 「「??」」 クロムくんのいう通りなんだかいつもよりも態度に棘のある千空に、何故かゲンくんとカセキのおじいちゃんは和やかに笑っている。でも私とクロムくんはまったく意味が分からずにお互い顔を見合わせて首をかしげるのだった。とりあえずそんなことよりも、電球を作らなくては。 大量に作らされた電球は立派な大樹に飾られ、それはそれは美しい光のドレスを纏った姿へと大変身を遂げた。そして今日は12月25日、世間でいうクリスマスだった。千空大先生のそんな粋な計らいによって村人たちはその日、瞳を大きく見開いて輝かせ、満面の笑みを見せる。イルミネーションを見上げる千空の横顔を見て、ああだから私は離れていても…3700年経っても―、彼がいつまでも私の中にいるのだと思った。 「千空…千空っ」 「あ?なんだよ名前、んな声潜めて」 村の皆でイルミネーションを楽しんだ後、ぞろぞろと皆で村へと帰る途中に私は千空の隣へ行ってひそひそと声をかけた。皆はクリスマスの余韻に浸っていて最後尾にいる私と千空の話は聞いていないだろう。特に聞かれてはいけない人物に目を配らせた後、私はもう一度千空の耳元に口を寄せた。 「ルリちゃんにちゃんとプレゼント用意してる?」 「…………はぁ?なに言ってんだテメー?」 「お節介かもしれないけど、結婚してるんでしょ?形だけとは言えお嫁さんにはちゃんとプレゼントあげなきゃいけないよ!それが夫婦円満の秘訣って昔パパが言ってた!」 「あ"ーー……お前、なんかすっげーめんどくせぇ勘違いしてやがんな」 私がひそひそと話すものだから千空も途中までは真剣に話を聞いてくれていたのだけど、突然ぱったりと心底どうでもいいという表情になってしまった。そんな顔しなくてもいいじゃないかと思うのだけど、やっぱりこういった色付いた話に関しては千空は無関心が過ぎる。私がせっかく恋愛アドバイスというのをしてあげているというのに。同じくむくれた表情を見せると、千空はハァと大きくため息を吐いて歩くのをやめた。 「お前最後まで見てなかったろ?」 「へ?」 「あの後ソッコーで離婚したわ」 「……………え、そなの?」 ぽかーん、である。 いやまさかそんな前代未聞の結婚話があると思うわけないじゃん。そしてあまりの千空”らしさ”に、私は数秒固まったあと大笑いした。 「あは、あははは!私ずっと千空は結婚してるからって思って気を遣ってたのに!まさか離婚してたなんてっ…あはははっ」 「なんでテメーが気を遣う必要があんだよ」 「いやぁー芸能活動の名残で既婚者と成人男性とはあまり2人きりにならないようにって危険センサーが働いてて…」 「このストーンワールドで何の心配してんだバカ」 「あたっ」 確かにこの世界ではまったくもって必要のない心配なんだけれど、芸能活動においてスキャンダルはご法度なので変に身に染みてしまっていた。こうやって千空からのチョップを受けるのも久しぶりだなぁとふと懐かしく思う。 というか、そっか、千空は結婚してなかったんだ。その瞬間、自分の感情だというのに妙な違和感を覚えた。何故だか今私は、ほっとしたのだ。 「…てか、皆もう結構先まで行っちゃったね、早く帰ろう」 「ああ、でもその前に…これやるわ」 「え?」 先ほどまで賑やかだった辺りがしんと静かになり、気が付けば前を歩いていた皆の姿がぼんやりとした光だけしか見えなくなるほど遠くに行ってしまっていた。電球ができたお陰で真っ暗闇になることはなかったけれど、夜の森なので少人数でうろつくのはあまりよくない。けれど千空はそのまま追いかけようとする私の手を逆方向に引いて、ポイと何かを私に軽く投げる。布で包まれた少し重みのある小さな物体に首をかしげながらもその中身を見ると、平べったい小瓶に入ったクリームのような何かが入っていた。 「これって…?」 「ハンドクリームだよ、お前欲しがってただろ」 「え、なに…くれるの?」 「んだよ、いらねーなら返せよ」 「いやいやいる!いるよ!とっても欲しかった!わーうれしい!」 「クク、とんだ大女優の猿芝居だな」 「ちがうよ、嬉しすぎてよくわかんなくなってるだけ!」 冬に入って急激に寒くなり乾燥してきて手が荒れるのだとポツリと千空に小言を漏らしたのはいつだったか、もしかしてあの些細な言葉からわざわざ千空が手作りしてくれてたなんて。あまりの嬉しさにぎゅっとハンドクリームの瓶を握りしめると、「お前最近メスゴリラ2号になりかけてんだから割るなよ」ってムードも欠片もないこと言われた。とりあえず一発お見舞いしておいた。 「っていうかこれ、クリスマスプレゼント?」 「あ?あ"ーー…たまたまだ、たまたま」 「うっそ〜〜」 偶然でも必然でもなんでもいいや、千空がくれたものならどんなものでも嬉しい。 |