サイエンスソング

サブストーリー/気球計画中





「No where to turn…No where to hide…♪」

船の動力となる石油を見つける為に気球で空を飛ぶ計画が始まり、気球の球体部分となる布を繋ぎ合わせる作業を皆で行っていた。縫物は中学の時に杠先生による教えを受けたので私もそれなりに得意で、ちまちまととんでもなく大きい布を皆で縫い合わせていく。

「名前が歌ってるのって、れこーど?で聴いたあの歌なんだよ!?」
「名前!あんたリリアンの歌が歌えるのかい!?」
「えっ、あ…うん、リリアンの歌は私も大好きだったから…てか、無意識に歌っちゃってた…!ニッキーちゃん大ファンなんだよね、ごめんね…」
「なに言ってんだい!名前のリリアンの歌が聴けるなんて最高だよ…!良かったら今から歌ってくれないかい?」

こういった作業中は口元がお暇になるので私はつい無意識で歌を口ずさんでいたらしい。それを聴いたスイカちゃんが知っている!と嬉しそうに反応し、すぐ近くに居たニッキーちゃんにもバッチリ聴かれていた。

「え、ええー…作業の邪魔にならない?」
「むしろ逆さ!黙々と作業しててつまらなかったからさ、名前の歌を聴いたら作業が捗るよ、ねえみんな!」

ニッキーちゃんが大きな声で皆に投げかけるように問えば、全方向から「是非歌って!」「名前ちゃんの歌とかありがてぇ!」など後押しする声が降りかかってくる。ニッキーちゃんは大のリリアン・ワインバーグのファンで一時期それで苦戦したくらいなので、なんだかそんな人の前で歌うのは気が引けた。でもこんなに観客を目の前にすると、私の役者魂というのに火が付くもので…。

「では一曲、歌わせていただきます…!」

ヒューヒュー!わー!と皆が盛り上げてくれて、私は静かにリリアンの歌を歌い始めた。



「名前ちゃんってば、ミュージカル経験もあるからジーマーでバイヤーの歌唱力なんだよねぇ」



「名前の歌、とても綺麗なんだよ…!」



「ええ、名前さんの歌もなんて素敵なんでしょう…!」



私が初めて彼女の曲を聴いたとき、こんなにも心を動かす歌をうたう人がいるのかと衝撃と感動を覚えた。ミュージカルの仕事が決まった時に通ったボイストレーニングでは彼女の歌を練習にさせてもらったりもしたけど、彼女のように歌うことは叶わなかった。圧倒的な実力の差だと壁にぶち当たって落ち込んだりして、あの時は千空に泣きついたりしたっけ。石化前の私はそれがコンプレックスとなってしまいずっと悩んでいた。でも今、このストーンワールドで過ごしてやっと気づけた気がする。



「はっはー!素晴らしい歌だ!100万ドラゴやろう!」



「ああ、リリアンの歌だけど違う、これは名前の歌だ…!」



「あいつ、ちゃんと歌えるようになってんじゃねぇか…クク」



歌をうたうというのは、そういうことではないのだと。







歌は大絶賛された。
結局歌ったあと皆からスタンディングオベーション並の評価を受け、本来の目的である縫い作業の手を止めてしまう事になってしまった。私が申し訳なく思っていると千空から「まあそういう時間も大事だろ」とフォローを受ける。ニッキーちゃんには大感動されて涙を流され、他のリリアンの曲も歌ってほしいとモーレツにお願いされたのであの後何曲か歌わせてもらった。

「ねえ千空、私の歌どうだった?」
「おー、なかなか良かったんじゃねえの」

その日の夜、たまたま一人で居た千空に声をかけて今日の歌についての評価を尋ねてみる。今まで私は千空に自分の役者としての評価なんてものを聞いたことはなかった。それは私が彼の評価を気にしていなかったからだ。正直今も気にはしていないのだが、私は千空に伝えたいことがあった。

「千空って白夜みたいに素直に褒めてくれないよねー」
「おーなんだぁ?白夜みてえにぐしゃぐしゃに撫でまわされてーのか名前チャンは?」
「んー、それもいいかも」
「バカ、んなキメェことするわけねーだろ俺が」

ですよねー。
別に千空は褒めてくれないわけでは無いけど、その褒め方はどこか捻くれているというか素直でないというか、特に彼の父親の白夜と比べると余計差が出る。白夜は私が出演した作品をわざわざ見てくれて「名前ちゃんは天才だなぁ!さすが!よっ!日本一いや世界一!」なんて大袈裟すぎるほど褒めてくしゃくしゃに撫でてくれた。まあオーバーリアクションすぎてちょっと信じていいのか考えることもあるけど、多分白夜は本当にそう思ってくれてる。ふと出した名前につい昔のことを思い出して少しだけ悲しくなってしまった。そうだ、白夜はもういないのだ。

「なーに辛気臭せぇ顔してんだよ、女優はどこいった」

つい悲しい顔をしてしまった私に、千空はそう言ってガシガシと頭を撫でた。ちょっと乱暴だけどそこが千空だ。言葉も悪いし回りくどいことは無しで直球だしデリカシーの欠片もないけど、誰よりも優しいのを知っている。

「今日の歌は、千空のおかげ」
「俺は歌の講師なんかした覚えねーぞ」
「そういうことじゃないよ、分かってて言ってるでしょ」

千空はありがとうなんて言っても素直に受け取ってくれないんだろう。皮肉とかそういうのではなく、彼はそう言われたくてやってるわけではないから。感謝されたいから何かするのではない、そうしたいから彼はするのだ。それでも私は、

「別に千空が歌を上手くする何かを作ってくれたわけでもなんでもないんだけどさ、この世界で千空のこと見ててやっと分かったの。どうやって歌えばいいのかって」
「そりゃテメーの考え方の問題だろ」
「そう、そうなんだよ!面白いよね、私のやってることって科学とは関係ないんだよ。でも千空はひたすら科学でドンチャンやってて、結果それが私の歌に繋がってるなんて…面白いよね!」
「いやなに言ってんのかさっぱりわかんねぇ」
「うん!わたしも分からない!」
「お前はどこぞのデカブツか」

自分でも言ってて分からないのだから千空にはもっと分からないだろう。私みたいな役者は特に非合理的な感情論で生きているから、感覚だけで喋ってる時があった。

「とりま千空スゲー!ヤベェー!ってこと」
「お前はどこぞのクロムだ」
「あはは!」
「ハァーー、お前と喋ってっと疲れるわ」
「癒されるの間違いじゃない?」
「チョーシ乗んな」
「あたっ」

コツンと眉間に小突かれても私は笑った。千空も呆れるようにしてフンと鼻で笑う。なんだか最近忙しなく日々が過ぎていたから、こうやって千空とゆっくり話すのは久しく感じる。特に千空はいつも皆の中心にいる人物だから、2人きりになること自体が珍しかった。

「ああそうだ名前、数日ちょっと待ってろ、いいモンやるよ」
「え、なになに?」
「そりゃできてからのお楽しみだ」

ニヤリと笑う千空の顔があまりにゲスかったので、私は期待しないで待つことにした。



▼△▼




数日後の夜、千空に呼ばれて久々に石神村へと訪れた。
ここ最近は気球作りもあったので村の方にはなかなか行けておらず変に懐かしみを感じる。村へ向かうつり橋を渡ろうとした手前で急に視界が暗くなり何事かと思ったけど、どうやらコハクちゃんが布で私の目を塞いだらしい。そして誘導されるままある位置にまで辿りつくと、目隠しを取っていいぞと言う千空の声がした。

「わっ…!眩し…!」

目隠しを取った瞬間にパッと眩い光が差し込み一瞬目がチカチカしたのだけど、次第に見えてきたものに私は止まってしまった。

「………え、これって…」
「名前、お前のステージだ」

石神村突如と現れたその建物は――、小さいが立派な舞台の形をしていた。主役を輝かせるライトが眩いまでにステージを照らしている。

「名前おねえちゃん!歌ってー!」
「名前おねーちゃんの歌聴きたいー!」

村の子たちがわっと近寄ってきて私に言う。ゲンくんに「ほらこれマイクだよ」と手渡された、私の知っているマイクとは少しだけ違う形をしたマイク。千空に視線を向ければ優しく微笑んで、ほら行け、と言わんばかりにステージを見る。

「ありがとう、千空!」

3700年後のストーンワールドに来て、文明は全て滅んでしまった。だからあの時のような舞台に立つことはもうできないのだと諦めていた。でも千空が生きていると知って、人類を復活させるのだと聞いて、もしかしたら――と思うようになったのだ。それがこんなに早く叶うなんて…思いもしなかったのだけど。科学ってすごい。千空って、凄い。

「クククッ、これで劇場千空の出来上がりだぁ!拝観料頂いてがっぽがっぽ稼ぐぜぇ…!!」

あれ、これ私の為…だよね?







 

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