居眠り運転ダメゼッタイ



 今日は珍しく遅刻をした。
 珍しく花道に叩き起こされて何事かと思えば、なにやら今日から秘密の特訓をするとか張り切っていた。私が叩き起こされた理由は勿論、その特訓に付き合う!…ではなく、朝飯作ってくれ!の方。仕方ないなぁと花道の為に朝ごはんを作ってやり、特訓後にも食べれるようにとおにぎりをいくつか持たせてやる。そして花道は意気揚々と出かけていった。
 勿論まだ学校までは時間がありまくるので二度寝をキメ込んだ私は、目が覚めると登校時間ギリギリ手前の時刻だった。今更急いでも遅刻は遅刻なのでもうどうにでもなれと、私はマイペースに歩いて学校へと向かう。
 その登校中、前方に自転車にまたがり顔を伏せて止まっている男子高校生が……一人?一体なにをしているのかと疑問に思い、近づいた時に不思議に彼を見つめた。

「あのー…大丈夫、ですか?」

 自転車のハンドルに、まるで机で眠るかのようにして顔を伏せている。どこか体調でも悪いのかと心配になって声をかけるも、ビクともしなかった。

「なんか、見たことあるなぁ…」

 そう、なんか見たことあるこの感じ。髪は真っ黒で結構背が大きくて体もしっかりしていて、それでいつも頭を伏せていて、よく隣で……、

「ハッ!もしや!!」

 気づいた時には私はその場にしゃがみ込んで、その真下から顔をのぞき見た。

「やっぱり、流川くん…!」

 こんな道端で自転車の上で…流川楓はまさかの大爆睡していた。「流川くん!流川くん!」と呼びかけるも、まったくもって反応なし。よく見ると耳にはイヤホンがはめ込まれている。きっと音楽を聴いていて私の声は聞こえないのだろう。そうと分かればイヤホンを外し、もう一度耳元で「流川くん!」と呼びかけた。

「…………ん…」
「はぁ、やっと起きた…」
「なんぴとたりとも、おれのねむりをさまた………あ、」
「おはよう流川くん」

 完全に寝起き状態の流川くんに、私は何とも言えない笑みでそう言った。流川くんもどうやら私に気づいたようで、ボーっと私の顔を見て静止している。

「せめて寝るのは学校についてからにしましょうね」

 まだボーっと私の顔を見つめる流川くんの視線は、自転車で前のめりになっているのもあってほぼ同じ高さ。間近で見る流川くんの顔に、寝ぼけててもイケメンはイケメンなんだなぁと何故か関心する。

「遅刻するよ、流川くん自転車だし飛ばせば間に合うよきっと」
「…お前は、」
「私は歩きだから遅刻確定かな」
「ふーん…じゃあ俺も、遅刻」
「え、なんで!?」

 今ならダッシュで漕げば間に合うかもしれない、そう言ったのに…流川くんは自転車を降りて手押しで歩き始めた。その意味不明摩訶不思議な行動に驚くも、ゆったりとした足取りで隣を歩く流川くん。いや、君のその立派な走るのに特化した自転車は是非とも乗って性能を発揮させなくてはいけないでしょう。でも私の疑問にまったく答える感じのない流川くんに、小さくため息を吐いてそのまま歩くことにした。

「あ、そういえば…」
「?」
「流川くん、プリンス好きなの?」
「、……何で、」
「さっきイヤホン外した時に聴こえたから…、実は私もプリンス結構好きなんだよね」

 さっき流川くんを起こすために彼の耳から外したイヤホンから、かすかにだがプリンスの『ビートに抱かれて』が流れていたのが聴こえた。流川くんという人物の情報が少なすぎて洋楽を聴くと思っていなかったので少し驚き、そして自分も好きなアーティストなのでつい話題を振ってしまった。そんな私に、流川くんは珍しく細い目を見開いていた。

「…アルバム、全部持ってる」
「そうなの?えーいいなぁ!私半分くらいしか持ってないよ」
「……貸してやってもいい」
「ほんとに!?わーうれしい!」

 珍しく長い台詞を言っているものだから驚いていたが、流川くんがプリンスを結構好きだということがよく分かった。流川楓という人物の嗜好的なものを初めて知ることができた私は、なんだかよく分からないが嬉しかった。最初はこんな会話すると思っていなかったけど、案外流川くんって優しくて良い人なのかもしれない。
 なんだろう、野良猫が徐々に懐いてくる…そんな嬉しさ。

「…で、何で自転車乗らないの?」
「…………」

 あ、無視された。






 

hanamichi


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