休日出勤出玉良好



「よし、メイクばっちり!」

 花道が部活を頑張っている中、私たちにも頑張ることがあった。鏡で自分の顔を見つめ、満足げに口角を上げてニヤリ。いつもの髪型と違って緩くウェーブのかかったロングヘアに、前髪は左から右へ流れるようにして大人の女性を演出。目元のメイクはあまり塗らないでマスカラと薄いシャドウでシンプルかつ大胆にし、口元の紅はしっかりと真っ赤に塗った。服装も大人すぎず子供すぎず、あと少しラフな感じにして、背が低いのはヒールでカバー。

「どう見ても20歳は超えた!!」
「よっ!名前の姉御!」

 対してコイツ等はというと、柄シャツにテキトーなズボンで完璧にチンピラだ。そんな男どもを後ろに連れて歩く私は宛ら女将とでもいうのか。まあ高校生には見えないので良しとして、私たちはその場所へと足を踏み入れた。

「回しまくるわよ!!」
「「「「「おう!!!!」」」」

 そう、パチ屋へ。
 桜木軍団はこの風貌もあって中学からパチ屋へ行っても未成年とバレず、よく入店していた。私はあまり興味無かったので行って無かったのだが、ちょっと代打ちをしてくれと頼まれたのでやってみたら……回るわ回るわ当たるわ当たるわでその日は勝利に終わった。代打ちなので私にはあまりお金は入ってこなかったのだが、大勝利を得たので数割は頂く。
 次に自分のお金で打ってみたら、負けるわ負けるわ回らん大惨敗。そしてまた代打ちをしたら大勝利…つまり、私は自分のお金では儲けられないのだと分かった。まあヤツ等からしたら勝利の女神みたいなもので、よく代打ちを頼まれるのでした。けど私の風貌は年相応なので、こうやってメイクで老けさせてから入店している。

「名前、付き合わせてわりーな」
「ぜんぜん!私打つの結構好きだから!あ、でも洋平が隣にいなきゃヤだよ」
「あたりめーだろ、こんな美人ほっとくかっての」

 ガチャガチャと煩いこの音も結構慣れたもので、少し声を張り上げるか耳元でお互い喋り合う。なんていう接近イベントがあるから私はパチ屋は結構好きだった。
 洋平によさげな台を見つけてもらって、それが面白そうな台ならそこへ座る。その隣に洋平も座って、私は今日もらった軍資金をその機械へと突っ込むのだった。こんなオモチャみたいなのでお金が減ったり増えたり家庭が無くなったり救われたりするのだから、世話ないよほんと。

「洋平はこういうメイク好き?」
「んー、名前はなにしても可愛いからな、なんでも好きだぜ」
「〜〜〜!私もどんな洋平でも大好きだよ!」

 他人から見れば本当にバカップル。恥ずかしげもなくこんな会話が出来るのは、世界のどこ探したって洋平だけだよ。

「あ、さっそく金色きた」
「お前ほんと凄いよ」

 人の金でしか当たりませんけどね。
 こうしてさっそくも当たりのチャンスが来た私に、洋平はヘラっと笑った。赤文字の熱い演出も始まり、一回目のボタン押しで目の前の台は盛大に光って大当たりとなる。ここから何連出来るかが問題なのでまだ勝ったわけではないが、当たりが早すぎたので一週目でプラスにはなりました。当たりに気づいたたかみん達が私の周りに寄ってきて「よ!女神様!」なんてはやし立て、目立つのでしっしと追い払う。
 その後、かなり回してかなりの額を儲けた私にやっと終止符がうたれた。これだけ稼げばヤツ等も満足だろう。

「あ、洋平当たった?」
「おう、今更な…まあでも熱いからしばらく元取りに打つわ、タイミング悪いな」
「ううん、じゃあ私換金して隣の喫茶店で待ってるね」
「おう、気をつけてな」

 隣を見れば洋平の台が丁度当たったところだった。今更当たるなんてタイミング悪すぎだが、これもパチの運なので仕方ない。大漁の玉を店員に数えてもらってあーだこーだうんたらかんたらとやり、私は店を出た。大楠達もまだ終わってないみたいなので、私は隣にある喫茶店へと向かう…のだが、

「お姉さん可愛いね」
「昼間っからパチンコ?やるねぇー」
「俺らと遊ばない?」

 ガラの悪い男3人に捕まってしまった。
 洋平たちより断然弱そうな輩に話しかけられ、私はどうしてこうもこんな奴らにばかりナンパされるのかと小さくため息を吐いた。そんなことも気にしない男たちに詰め寄られ、どうしようかと彼らを見上げる。戦ってもいいけどヒールだから逃げる時手こずりそうだ。

「オイオイ無視かよオネーチャン」

 無視をしてそのまま喫茶店に入ろうと男たちをすり抜けるが、文句を言って手を掴まれた。釣れないと放ってくれればいいのだけど、どうもこの人たちも前のように面倒くさいタイプらしい。「やめてください」と言ってもやっぱり離してくれず、ちょっとイライラし始めちゃった私はその手を、

「オイ、嫌がってるんだからやめろよ」

 と、私の知らない誰かの声がそう言って動きが止まる。パっとそちらを見れば、ツーブロック型の下は刈り上げて上はパーマのかかったなかなかに特徴のある髪型をした男が立っていた。やっぱり、知らない人だ。

「アァ?なんだよテメー」
「その人嫌がってるだろ、離せよ」
「あンだとコラ」

 どうしよう、私の目の前で乱闘が起こりそうな空気だ。声をかけてきた人は見た目は結構ガラ悪いけど、助けてくれてるので良い人っぽい。全員がその人へと視線が行き、その瞬間私は「あ」と思いついてしまった。

「隙あり!」
「え?どわっ!?」

 ドンッと鈍い音をたて、私の手を掴んでいた男は目の前でひっくり返っている。お得意の痴漢撃退法を使ってちょっとの力で男を倒すことができた。もちろん視線はまた私に元通りとなってしまう。声をかけてくれた男の人も目をぱちぱちとさせて驚いていた。

「この女、何しやがんだ!!」
「ヤバイ!逃げろ!」

 キレた男に手を上げられそうになった瞬間、声をかけてくれた方の彼が私の手を取り走り出した。ヒールでおぼつかない足取りな私を必死に引っ張って逃げ出し、ガラの悪い男たちも追いかけようと走り出す。とんだイベントが起こってしまったと苦い顔をし、私とその男はただ走った。

「ハァ…ハァ…ここまで来ればもう大丈夫だろう…」
「そう…ですね……はぁ…」

 入り組んだ場所を通ったりと街を走り回り、とある小さな公園へとたどり着いた。追いかけてきた男たちも諦めたのかもう追ってこないし、私とその彼は息を切らしながらベンチへと座った。

「アンタ、無茶するぜ…男3人に立ち向かうなんて」
「いやぁ…まあ、慣れてるので…あはは」
「そりゃアンタみたいな美人なら苦労も多いだろうなぁ」

 美人なんて言われてちょっと嬉しくなった私だったけど、そうだ今は特殊メイク中なのだった。顔自体はあまり変わっていないけど、大人っぽく偽っているのは本当なのでそのまま鵜呑みにすることは出来なかった。

「助けてくれてありがとうございました」
「いや、俺は何もしてねーよ…てかアンタの方が度胸あって強かったし」
「お兄さんも、あんな状況で声かけてくれるなんて度胸ありますよ?」

 見た目は結構怖いけど、やっぱりこの人は良い人だ。私はペコリと頭を下げた。

「それにお兄さんなんてよ、」
「だって私、多分アナタより年下ですし」
「そっか年下か!……え?」
「私、高校1年生です」

 ええーー!?と、これほどないまでのオーバーリアクションありがとうございます。思ったよりも驚かれてしまい、なんだか申し訳ない気分になった。まあ確かに、20歳超えメイクでがんばってますから。

「大人っぽいからつい年上かと思っちまったぜ…」
「まあこれは、ワケあって…普段はもっと子供顔ですよ?」
「そっかそうなのか…俺の1コ下だ」
「そうなんですね!わ、一気に親近感!」

 パチンコに行ってたところはどうやら見られていなかったみたいでホっと安心し、黙っておくことにした。そして彼も1つ上で高校2年生だということが分かり、少しだけ肩の力が抜ける。確かに見た目からしてそこまで老けているわけではないので驚くことではなかった。

「アンタ…名前は?俺は宮城リョータ」
「私は…苗字名前です」
「そっか…名前ちゃん」

 そう言って宮城さんはちょっとだけ頬を赤くしているのが分かり、そんな名前を呼んで照れている年上を見て不覚にも可愛いなと思った。「宮城さん、」そのまま続いてありがとうございますと言って喫茶店へ戻ろうかと思ったのだけど、宮城さんに「リョータでいいよ」と遮られてしまう。リョータさん…なんかこの風貌でそれは変だ、リョータくん?いや馴れ馴れしいかな、リョータ…は違うな。

「じゃあ、リョータ先輩?」
「うーん、まあ、いっかな」

 一応年上だし、先輩って言っておけばなんか済まされる気がした緩い私でごめんなさい。

「そういえば学校は?」
「湘北高校です」
「本当か!?俺もだ!」
「じゃあますますリョータ先輩ですね」
「はは、そーだな!」
「学校で会えるの楽しみにしてます、ありがとうございました!」

 こうして再びお礼を言って、私はリョータ先輩に背を向けた。そうか、同じ湘北高校だったのか…。あんな目立つ頭してたら一度くらい気づいてもおかしくないけど、案外見つからないものなんだなぁ。
 その後喫茶店へ入ろうとしたら丁度洋平が店から出てきて合流することができた。さっきの騒動は言わないでもいいかなと思って黙ってることにして、私は洋平の腕にぎゅっと抱きついて帰ることに。

「勝った?」
「ちょいプラスって感じだな」

 ちなみにその他たちは負けたので私の勝ち分を換金してそのまま帰ったらしい。私はヤツ等の軍資金で稼いだちょっとばかりをもらったのでいいお小遣い稼ぎにはなった。二人きりにしてくれるなんてアイツ等もたまには気が利くね!

「じゃあパフェ食べて帰ろー!」
「おう」






 

hanamichi


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