「だーもう!まだかよ陵南は!全然進んでねーぞさっきから!!」 今日はなにやら花道が他校でバスケの練習試合をするらしい。 それを聞きつけた洋平とその他たちは、当然こんな面白い話はないと会場である陵南高校へと向かっていた。洋平の原付に全員乗って。もちろん私は乗ってない、てか乗れない。 体格の良すぎる男子高校生4人が乗った原付はそれはそれは恐ろしいほど遅く、逆の制限速度違反になりそうだ。というかさっきから隣で歩いている私と同じ速度ってどういうことなの。本当、君たち仲良いよね…微笑ましいよ。 「もう諦めて電車で行ったら?」 「そーだお前ら降りろ!俺と名前で先行くからよ!」 さっさと降りろという洋平の言葉なんてまったく聞く耳持たないバカ達は結局ずっと降りてくれなかった。挙句は三輪車にまで追い越される始末。そして結局諦めて電車に乗り込み、私たちは陵南高校へと向かった。 到着した陵南高校の体育館は練習試合だというのに観客で賑わっていた。上の階に晴子ちゃんたちが居るのが見えて、丁度晴子ちゃんも私たちを見つけて大きく手を振ってくれる。私はすぐ彼女たちの方へと向かうと、その隣にはもう一組……なんか変な子たちがいた。 「ああ、あれは流川親衛隊よ」 「え、なにそれ!」 「信じられないわよね、恥ずかしい…」 チアガールのような格好をした女子3人組は、どうやら新しく結成された流川くん親衛隊らしい。単純に怖い。藤井さんと松井さんに説明されて、私は「へぇ…」と苦笑ぎみに彼女たちを横目で見る。 「あ、出てきた」 今日はいい天気だねとかどうでもいい会話もして待っていると、体育館に湘北のメンバーが入ってきたのが見えた。花道は一応、ちゃんとユニフォームを着ていた。おお、サマになってんじゃん。 「きゃー!流川くーん!!」 「こっち向いてーー!!」 「今日もかっこいいーー!」 さっそく流川親衛隊の熱烈な声がけが飛び、私だけでなく周りのみんなも圧倒されている。そんな彼女たちの声を浴びて流川くんはどうなんだろうと見てみると、まったくもっての無反応でこっちもこっちで凄いと尊敬する。 どうやら晴子ちゃんは品が無いと言って流川親衛隊にぷりぷり怒っているようだけど、気持ち的には近いものがあるのでいつか入ってしまわないかと藤井さんたちは心配していた。いやいやまさか。 「きゃっ」 そんな可愛い晴子ちゃんを眺めていると、コートを上から見下ろした瞬間に突然女の子らしい声を上げて頬を赤める。一体なにかと思って同じ方向を見れば、流川くんがこちらを見上げていたのだ。 そんな見上げてくる流川くんの目の先には晴子ちゃん率いる女子グループ、つまり私もいる。そんな流川くんとバッチリと目が合っているような気がするのだが……前見たいに晴子ちゃんを見ているっていう勘違いが無きにしもあらずなので、とりあえず軽く彼女たちの後ろで小さく手を振ってみた。勿論流川くんが手を振り返してくれるわけもなく、気づけば目線は外されてそのままコートの中へと入って行った。 「ちわーっす!」 花道の方は相変わらずぎゃーぎゃーと騒いでいるなぁと動物園の猿を見るような気持ちで眺めていると、緩い雰囲気で挨拶をする声が体育館に響いた。一瞬で体育館内の視線がその一点に集まり、その人物を見た瞬間に更に注目が集まる。体育館の入口には、一人の男子高校生が居た。 「あ」 あまりにも記憶に新しいツンツン頭に、私は口をだらしなく開けた。 「ちわーっす!仙道さん!」 仙道彰。いつぞやに大変お世話になった魚のお兄さんだ。 そういえばあの時“陵南高校”とか言ってたようなそうでないような、あの時は練習試合の先が陵南とかまでは聞いていなかったので記憶が薄い。まさかここの生徒でしかもバスケ部員だったなんて。こんな偶然もあるもんなんですね。 仙道さんからはこちらには気づいていないので特に声はかけなかったけれど、後でお礼はした方がいいかもしれない。なにか飲み物でも買った方がいいだろうか。 彼が来たことで何だか陵南の空気が変わり、あの人の良さからムードメーカーなことは何となく察した。そして、とりあえず花道、うるさい。 メンバーが全員揃ったということで、ゲームは始まった。花道はスタメンではないらしくベンチで野次を飛ばすだけの完全に恥ずかしいモブポジションになってしまっている。 ゲームは陵南がまずリード、湘北も頑張って食らい付いてはいるものの、仙道さんのプレイが特に群を抜いていた。堤防で会った温厚な彼とはまるで別人だ。 「仙道さんって、凄いんだねー」 「天才って呼ばれてるらしいわよ」 「へぇ〜〜〜」 凡人の私からしたら、その凄すぎるプレイは逆に意味わからないくらいだった。完璧に押されてしまっている湘北は19対0という圧倒的差をつけられて気を落としていたのだが、それは部長赤木さんの動きで変わっていく。 最初の得点を入れた湘北に波ができる。その次に流川くんの得点で湘北は8点差まで追い込んだ。流川親衛隊は恐ろしく踊るわ、晴子ちゃんもメロメロになってるわ、洋平たちもよくわからない動きで応援しているわで、観客も一気に湧き上がっていた。そして前半が終了し、彼らは一旦ベンチへと腰を下ろす。 「あれ、名前ちゃん?」 「えっ」 あ、見つかった。 仙道さんが椅子に座って顔を上げたその時、彼の目線にバッチリと私が居た。向かい側にいるので見えにくいかと思ったけど、よく疑いもなく私だと気付いたなぁと関心する。それよりも仙道さんのわりと大きめなその一言で、完璧に周囲の目が私の方へと集中した。 「おい仙道!お前なぜ名前を知っている!」 「ちょ、花道…!?」 「え?」 そして空気を読まない花道の乱入に、更に周囲の目がこちらに集まる。ああもうやめて、何で君はそういつも喧嘩腰なんだ!帰ったらお説教です! 「名前ちゃんって桜木の知り合いだったのか!世界は狭いね〜」 この人はこの人でマイペースすぎて胃が痛い。ヘラヘラと笑って勝手に納得する仙道さんに、花道は「名前に馴れ馴れしいぞキサマー!」などと噛みつきまくっていてまたも胃が痛い。私はハァとため息を吐いた。 「仙道さんうちの子がすいませんー!気にしないでくださーい!」 「なッ!名前!俺を裏切るのか!?」 「もう黙れ花道ー!!」 帰ったらマジでお説教です。 その後の試合は、練習試合とは思えないほどの白熱したバトルだった。結果は1点差で湘北の負けとなり、悔しい思いをする湘北チーム。けれども強豪である陵南高校に、まだ出来立てのチームメンバーで挑んで接戦の1点差というのはかなり大きかった。特に、花道の後半の参加は最初害のようにも思えたが、いつの間にか必要不可欠の存在となる。そんな花道の活躍がうれしくて、それはそれはもう沢山応援した。お母さん感動して涙でそうだったよ…。 「名前ちゃん!」 「あ、仙道さん」 試合が終了して帰ろうと洋平たちと歩いていた時、後ろから私の名を呼ぶ声が聞こえた。振り向けばそこには仙道さんが居て、試合後だというのにさわやかな笑みを向けて駆け寄ってくる。 「今日はお疲れ様です」 「ありがとう、まさか君が湘北の生徒で桜木の知り合いだったとはね」 「私もびっくりですよ!まさか仙道さんがあんな凄い選手だったなんて」 「ははは、…この前の、ちゃんと食べれた?」 「はい!塩焼きにしたり煮つけにしたり…もう大助かりです!本当にありがとうございました!」 「そっか、そりゃ良かった!たまにあそこ居るからまたおいでよ、君にあげるからさ」 「え、いいんですか?嬉しい!」 「うん、じゃあまたね、名前ちゃん」 「また!」 仙道さんってなんていい人なんだろう。特にあのクソガキ花道と一緒に居ると、いかに仙道さんが大人で良い人なのかということを実感する。ただ、しっかりとしたお礼ができなかったので、近々なにか差し入れとかしたいなと思った。 「みーちゃったみーちゃった」 「こりゃ浮気現場ってヤツですか〜?」 「旦那の前で大胆だねー名前チャン」 「はぁーーーーーーー???」 にこやかに仙道さんに手を振って彼の背中を見送っていると、背後からエトセトラの声が聞こえてきた。当然意味が分からないので眉を寄せてヤツ等を睨むと、「ごめんごめん」と焦って謝りだす。そんな気まったくなさ過ぎて普通にイラっとしてしまった。 「こいつらのことは気にすんな名前、行こうぜ」 「うん、その他はほっとこう!」 メラメラと怒りの炎が燃えがっている私の肩にポンと洋平の手が回されて、私の炎は一瞬で消えた。まったく、この洋平ラブな私が浮気なんてするわけないだろう。見よ、私と洋平のラブラブっぷりを! 「そういや仙道と知り合いだったのか?」 「あ、うん!この前二人で釣り行ったでしょ?あの時に沢山お魚くれたのが仙道さんなの!」 「あー、あの魚…そうだったのか」 「偶然ってあるんだねー、仙道さんほんと良い人!」 そういえばあの時、洋平には仙道さんの名前までは教えていなかった。あの日の魚は全部料理して花道と洋平に振舞ったから、洋平のお腹には仙道さんの優しさが入ってるってわけだ。そう思うとちゃんとした接点のない二人なのにと、何だか面白い。 「まあでも、要注意だなアイツは…」 「ん?なんか言った洋平?」 「いんや、俺の女はいい女だなーと思ってよ」 「もー洋平だいすきー!」 私が洋平以外好きになるなんてありえないよ? |