私の彼氏はヒーロー



「おい、名前に何手ェ出してんだ…」

 男たちは体育館へと乗り込んだ。
 彼らのしたことは酷いものだった。土足で体育館に上がり込んでバスケットボールにタバコを押し付け、このバスケ部を完全に侮辱している。三井という人が主犯のようだが、彼のターゲットはどうやらリョータ先輩らしい。リョータ先輩が入院していた理由を聞いてはいたけど、なんだか私には違和感だった。果たしてここまで、するものなんだろうか…。
 同じく体育館に何故か一緒に連れてこられた私は、三井という人に今もガッシリと腕を掴まれている。それに気づいた花道は完全にキレていて、最近拉致られてもスルーされていたから少しだけ感動しちゃったり。

「花道おすわり!」

 必死に磨いた床にタバコの灰を落とされた事と重なって更に怒る花道は、闘牛の如く殴りかかりそうな勢いだった。でも、それはやってはいけないこと。今、公式戦を控えているバスケ部がこんな所で暴力沙汰になんてなってしまったら……私でも想像がつく。咄嗟に私は花道にそう言い放った。周りは少しポカンーーと。

「彼女は関係ないだろ、離してくれ…三井さん」
「ああそうだな、俺らと遊んでくれるなら離してもいいぜ」
「ッ…!」

 今にも噛み付きそうな花道を抑えるリョータ先輩。どうしよう、私のせいで事態が少し悪化している気がする…。花道のせっかく見つけた青春を、花道が頑張っているバスケットボールを、私が壊してどうするんだ。これは、覚悟を決めなきゃ…

「その手、離せよ」

 もうこの際自分に危害とか本当どうでもいいので、いつもの様に意を決して戦おうとした時、バスケットボールが隣の男めがけて飛んできた。ハっと飛んできた方を見ると、酷く鋭い目つきで睨みつける流川くんが居た。それをキッカケに、男達はリョータ先輩へと攻撃を開始した。
 私の手は三井という人から知らないザコ男に渡り、これは…チャンスかもしれない。とりあえず様子を見ることにし、私は目の前で繰り広げられる無残な情景を目にした。

「廃部だぞ!!」
「うるせーそんなもん!!ゴマカす!!
「もみ消す!」

 モップの先でリョータ先輩に殴りかかろうとする三井という人に、花道と流川くんが掴んで止めた。ここで乱闘をすればどうなるのかと脅迫されるが、返ってきたのは2人らしい意見。花道は分かるが、流川くんも結構すぐキレるタイプみたいで何だかんだ似たものコンビだ。だがそんな2人を止めたのは、バスケ部の安田さんだった。安田さんの必死な”廃部にしたくない”という思いが2人にも伝わり少し大人しくなるのだが、その後安田さんは殴られてしまう。

「あーもう、コレは…覚悟決めるしかない」
「あ?何言ってんだテメー…ごふっ!?

 幸いなことに、私の腕を掴んでいるのはザコで、私を見くびっているようなので片腕だけ、そして何より、この男の身長がそこまで高くない。ふわっと腕を軽く持ち上げるようにして、私は肘ですぐ隣の男の顎を突いた。その瞬間腕が開放されてもう一発、後ろ向きのまま手を上げるようにして拳を作って関節で思いきり鼻を殴る。男は見事に鼻血を出した。ザマーミロ。

「女!何してやがる!!」

 ちょっと派手にやりすぎてしまい、三井という人にバレてしまった。キレたその人は私の方へと殴りかかって来るのだが、私の方はもう対策がない。私の場合は相手が油断してるからこそ出来る技なので、真っ当から来られたらただのか弱い女の子だ。ここ笑わないところ。

「やっ!」
「!!」

 バチッ!と音がし、バスケットボールがその彼へと叩きつけるように飛んできた。先ほどと同じこの展開に、視線を向けるとやはり流川くんが酷く彼を睨んでいた。これは、もう…終わりかも知れない。

「許さん」
「あ?」

 流川くんが三井という人を睨みながらそう言い、また冷たい空気が流れる。けれどその直後、背後からモップで流川くんの後頭部を誰かが思い切り殴った。さっき竜と呼ばれていた男の人だ。大量に血を流した流川くんは冷静で、静かに竜という人を見つめた後……殴ってしまった。
 ついに手を出してしまったバスケ部は、そこから乱闘が始まる。流川くんを彩子さんが止めるも、彩子さんが男に殴られたことによってリョータ先輩が手をだし、酷い状況に。

「やばいっ…!!隠さなきゃ!!」

 こんな状況、先生達に見つかってしまったら終わりだ。開放された私は急いで体育館中を走り回り、ドアというドアに鍵をかけてカーテンも全て閉じた。

「おい女、テメー度胸あるじゃねーか…見くびってたぜ」
「そ、それはどーも…」

 なんとか他の目は隠せたと安心していた矢先、いつの間にかドアを閉めていた私の背後にロン毛タンクトップ…確か鉄男と呼ばれていた男が立っていた。あーもう、またヤバイ状況になってしまった…せっかく逃げたのに。

「ガキくせーが気に入ったぜ、遊んでやるよ」
「え、遠慮しまーす…」
「名前ちゃんに手出すな!!」
「リョータ先輩…っ」

 こんなトキメキもない壁ドン絶対いらないと絶望的になっていると、血だらけになって床に這いつくばりリョータ先輩は叫んだ。もういい加減私を巻き込むのはやめて頂きたい。手を出してしまったという事実は今更変えられないので、私は息を吸い込んだ。
 スーーー…………

「花道!コイツやっつけなさい!」
「任せろ!!!!!」


 ごめんね花道。でも、バスケ部を廃部になんてさせないし出場停止にだってさせない。私がなんとか考えるから…もう、今はコイツ等やっつけちゃってください。

「はいやーーーーー!!」

 だが相手は卑怯者の中の卑怯者で、5人で花道を囲んだ。その時、上空からそんな声が聞こえてきて…勢いよくこちらに近づいて………花道の上にダイブした。

「たかみん!!」

 どこから取り出して設置したのかは分からないが、高宮ことたかみんがロープにぶら下がってまるで某ジャングルの人のように飛びかかってきた。着地を失敗して花道の上に乗っかるという何ともマヌケな登場シーンに、一同唖然。更に上を見ると、そこには呆れた顔で笑う洋平達が居た。「正義の味方参上!」なんてカッコつけて。

「キャァアアアアーーー!洋平かっこいーーー!!こっち向いてー!」
「名前ちゃん……」
「あ、すいませんっ!つい…」

 あまりのカッコ良さにアイドルファン並に叫ぶと、彩子さんにジト目で見られた。
 こうして桜木軍団が揃い、一気に勝機が見えた。けれども同時に先生が体育館前へと駆けつけてしまい、ドンドンとドアを叩いて何をしていると叫んでいる。これは早くなんとかしなくてはと、洋平達は一気に殴りかかった。

「逃げんなよ主犯、おめーの相手は俺だ」
「あ?」
「よくも俺の女に手ぇ出してくれたな…タダじゃ済まさねーぜ」
「チッ…小僧、死にてーらしいな…」

 それぞれが1対1で殴り合いをする中、洋平の相手は三井という人だった。私が捕まった張本人でもあるので洋平は酷く怒っていて、それはもうかっこよすぎて直視出来ないほど。三井という人は洋平に睨みをきかせ殴りかかると、ものの一瞬でぶん殴られてしまった。やだ、かっこよすぎる…。

「っと、洋平に見とれてる場合じゃなかった!流川くん!止血するね!!」
「アンタって子は……それより名前ちゃん、止血って…」
「あ、常備してる救急道具があるので!まかせてください!」

 こんなこともあろうかと、救急道具はしっかり常備している。流川くんの出血は以前と比べ物にならないくらいの量で、死なないとは思うけど結構危ない。うつ伏せで倒れている流川くんをなんとか仰向けにして頭を膝の上に乗せた。

「流川くん、助けてくれてありがとね」
「………別に」






 

hanamichi


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