「風きもちーーー!」 春の海風は気持ちがいい。 特に今日は天気も晴れで日焼け止めが要りそうなほどお日さまが照っている。こんな気持ちのいい日に外に出ないだなんてもったいない。早起きした私は、すぐ隣の花道の部屋に勝手に合鍵で入って、グースカと眠っている花道を叩き起こした。聞けば休日の今日は学校の都合で午後からの練習になるらしい。となればもうやることは1つで、私は花道に身支度をさせて外へと放り出した。 「ほら花道遅いよ!早くしないと並ばなきゃいけなくなるでしょ!」 「あ、オイ!!クッソーー!何でお前だけ自転車なんだよ!ズリーぞ!!」 私たちは湘南の海岸を、走っていた。もちろん花道は足で私は自転車に乗って。向かう先は逗子にある定食屋。そこはよく子供の頃から行っている定食屋で、味はもちろん安い値段でかなりのボリュームがあり、大食いの花道を満足させるには最適な場所だった。 ここら辺は観光地になっていて周辺のレストランは観光用の値段設定なので結構高めなのだが、その定食屋は少し裏道を入った所にあって地元民の客がほとんど。というわけで、せっかくなので花道の朝練も兼ねて走って逗子まで行くことにした。 「刺身定食が食べたくないのかーー!!」 「食いてぇーーーーー!!!」 本当は洋平も誘ったのだが、生憎今日はフルでバイトを入れているらしく断られてしまった。最近は花道も部活三昧でなかなか2人で出かけることは無かったから、実はちょっと楽しかったりする。洋平には悪いけど、私花道のこと大好きだから。 「お!花道あともうちょっとだよ!」 「うおおおおおおおおお!!」 「きゃーーー!アハハ!!」 丁度トンネルを潜った時、花道は自転車の荷台を持って思い切り後ろから押し上げるように全速力で走った。漕がなくても一気に速度が増して、それが面白くて思わずジェットコースターに乗った時のような声が出る。ああなにこれ、超たのしい。 「到着!!!」 「おつかれさまー」 観光ホテル街を抜けて裏道を入れば、そこはもう定食屋だった。潮風がほんのり香る海辺の住宅街。時間もお昼ご飯にするには少し早いくらいだけど、朝ごはんを食べてない私たちからすればベストタイミングだ。 「お!名前ちゃんに花道、いらっしゃい!」 「おじさんちょっと久しぶり!食べにきたよー」 「おうオヤジ!刺身定食ごはん大盛りで頼む!」 まだ席の空いてる定食屋に入れば、顔なじみのおじさんが気前良く迎え入れてくれる。いつもの席に座って、私たちは注文した定食を待った。 「へい、刺身定食ごはん大盛りにマグロのから揚げ定食ね」 さすが定食屋、数分待てばすぐに大きな膳に乗った定食が目の前へドンと置かれた。花道はヨダレを垂らしてそれはもう勢いよく定食を食べ始める。自転車ながらに私も結構な距離を走ったので、負けじと食べ始めた。 「んまい!!うまいぞオヤジ!!」 「あたりめーだ!」 「あはは、……あ、花道ご飯粒ついてるよ」 「む?どこだ?」 「ここだってば、じっとしてなさい」 「うむ」 むしゃむしゃと食べる花道は宛ら犬のようだ。そして頬にご飯粒が付いていたので少し体を乗り出して取ってやり、その米をそのまま花道の口へ突っ込んだ。お米はちゃんと1粒残さず食べなきゃね。 「お前らほんと仲良いなぁ!で、いつ結婚すんだ?」 「なにッ!?」 「もうおじさん変なこと言わないでよ…前も言ったけど、私には洋平っていうそれはそれは花道なんて比べ物にならないくらいの素晴らしいダーリンが居るんだから!」 「おおそうだったな!悪りィ悪りィ、お前ら見てっとついな」 おじさんは小さい頃から私たちを見ているから、花道と私はずっとセットにされていた。年齢を重ねるにつれ私と花道の関係は変わる……ことはないのだが、周りから見ればそういう風に見られるのは当たり前なのかもしれない。それでも私たちは、ずっと変わらず大切な関係で居たいと思う。 「そうだ!俺にだってハルコさんという心に決めた人が居るんだ…」 「そのハルコちゃんの好きな人は流川くんだけどね」 「ヌグゥウウ〜〜!」 頭突きされるんじゃないかと思ったけど、そこは理解してるみたいなので思い切り悔しがっていた。まあ頑張れ、花道。 こうして定食を完食した私たちは、来た道を戻るため自転車に乗った。 「フンフンフンッ!」 「ひゃーーー!早い早い!!」 シャーーーーッと、行きの自転車とは比べ物にならない位の速度でペダルを漕ぐ…花道。さすがにお腹いっぱいになってすぐに走るのは辛いとのことで、花道は半ば無理やり私の自転車を奪った。私はその荷台に乗って、この海風を大いに感じている。 「ねーーはなみちーーー!」 「なんだーーー!?」 海岸沿いなこともあって波の音と風の音が強く、声を張り上げなければこんなに近くても届かない。 「はなみち昔、私にプロポーズしたよねーーー!」 「…………しらーーーん!!」 うそばっか。 まだ幼稚園の時、一度だけ花道に「おおきくなったらおれのヨメにしてやる!」なんて男前な台詞を言われた。子供の頃によくある、真実味のないプロポーズ。 「あのとき私、なんて返したんだっけーー!?忘れちゃったんだよねーーー!」 「だから!ンなもん!覚えてねーーー!!」 花道に言われたことだけは覚えているのだけど、自分の返事がどうも思い出せなかった。後ろから花道を見ると、耳が髪の毛と同じくらい真っ赤になっているのが分かる。私は一体、なんて言ったんだろう? 「おおきくなったらおれのヨメにしてやる!」 「タイプじゃないからやだ」 「ズッコーーーン!!!」 |