足が痛い。 っていうか痺れてる。春の暖かく湿った風がふわりと頬を撫で、浅いような深いような眠りについていた私の目を覚ました。そして最初に感じた、足の痛さと重み。何事かと思って下を向けば、そこには流川くんの頭があった…………は? 「ちょ、流川くん…?」 大きな体を横にして、その頭は私の膝…というか太ももの上。外を向いているので顔は見えないけれど、きっと気持ちよさそうに寝てるんだろうなと見ないでも分かった。というかこの状況がまず驚きで、ボーっとしていた頭が一気に冴える。これは俗に言う“膝枕”というやつではないか。 「てか、今何時…」 もうチャイムは鳴った?鳴ってない?鳴っていたとしたらこの状況はヤバイかもしれない。女子に見られでもしたら……今日が私の命日だ。そう思うとサーっと血の気が引いていくのが分かり、私は流川くんの肩に手をかけた。 「流川くん、起きて、朝ですよーーー」 「……ん……」 そんな色気ある声出されたってお母さん許しませんからね。肩をゆるゆると揺らしながら、流川くんを起こす。しばらくそれを続けていると、流川くんがやっと目を覚ましてくれた。 「流川くん、足痛いんだけど…」 「…………おやすみ」 「いや!寝ないで!!!痺れてほんとヤバイから!!」 「……はぁ」 なんでそんな残念そうな顔なの。仕方なさそうに起き上がる流川くんには、小さいけど寝癖がついていた。対して私の太ももには流川くんのヨダレが垂れていた。オイ!! その後すぐにチャイムが鳴って、ああ今授業が終わったんだなと理解する。 「流川くん、次の授業はちゃんと出るんだよ?」 「……ああ、」 立ち上がって座っている流川くんを見下ろすと、流川くんは眠気まなこでそう返事をした。最初は会話出来るのかすら不安だった流川くんだが、今ではなんとか会話は出来るようになった…気がする。 「膝枕代、ちゃんと払ってよね」 高く付きますわよ。 その後、当然かのように私は体育館裏に呼び出された。もちろん、流川親衛隊の女の子5人くらいに。勘弁してよ。 チャイムが鳴って教室に戻った時から女子たちの視線が焼けるほど痛く、これは私の幸せな高校ライフが潰れていく気がしてならなかった。流川くんを怒る気にもなれず(だって流川くんは悪くない。本人の行動など自由だ)、私は小さくため息を吐く。 そしてお昼休みに入った時、洋平の所へ行こうとした私に5人ほどの女子が囲んだ。そして今に至る。 「アナタ、流川くんに近づきすぎなんじゃないの?」 「今日の2限目なんなの!?流川くんと手をつなぐなんて甚だしい!!」 ほら来た。てか今時の女子高校生が甚だしいって…。女の嫉妬は男よりも怖いというけど、まさにそれだと思う。どれだけイカつい男たちに囲まれるよりも、今この蛇のように恐ろしい目で睨みつけてくる女子たちのほうが断然怖かった。私はもう、 「ごめんなさい!!謝ります!!!」 ズサーーーっと、その場に土下座する勢いで頭を下げた。 「えっ……そ、そんなので許されると思ってるの!?」 「そ、そうよそうよ!」 私の謝罪の早さに少したじろぐ流川親衛隊の女子達だったけれど、これだけではやっぱり許してはもらえなさそうだ。私は更に腰を低くした。 「私と流川くんに何かある?まさかそんな!流川くんみたいな上流階級な人が私みたいな平凡女子をどうこう思うと思います??きっと流川くん的にはそこらへんのカエルに話しかけたも同然なんですよ!たまたま私が彼の要件に合致しただけで、次はあなたたちが呼ばれるかも!」 「いやカエルに用がある流川くんって何」 こういうのは下手に反発しない方が良い。というわけで自分でも何言ってるか途中から分かって無いけどノリとテンションでそれらしく弁解してみた。 「そもそも!私には愛するダーリンが居るんで流川くんとどうにかなろうなんてこれっぽっちも思ってないですよ!大体、流川くんより私の洋平の方が断然カッコイイから!!」 「はぁ!?流川くんがカッコイイに決まってるでしょ!」 「そうよそうよー!」 あ、余計なことを言ってしまった。けれど彼女たちの反発に私の何かがプチっと切れてしまい、私は大きく息を吸い込む。 「いやいや洋平の方がかっこいいに決まってるでしょ!あのね、洋平がかっこいいのはなにも顔だけじゃないのよ、性格だってパーフェクトなんだから!」 「え、あの…」 「ちょっと今から洋平の素晴らしいところを隅から隅まで教えてあげるからそこに正座しなさい!!」 「ええっ!?ちょっ――」 「待った待った」 下手に反発しない精神は一瞬で覆り、いつの間にか立場は逆転。一歩引く彼女たちに詰め寄る私の肩を、誰かが制止するようにポンと叩いた。その声は―― 「よ、洋平!?」 「お前一体なに言うつもりだよ…ったく」 「ハッ!私は一体なにを…!」 大変苦い笑みをして私を見つめる洋平が背後に立っていた。そんな顔もまたカッコイイよ洋平…! 「あ、アナタ達付き合ってるんでしょ!?だったらこの女、私たちの流川くんに手出したのよ!いいの!?」 「ちょ、手出したって…」 洋平の登場だけで場が収まるわけもなく、さっきまで私に圧倒されていた女子たちが声を荒らげてきた。しかも、私と洋平の仲まで裂こうとしている。やっぱ一回シメとくか…。 「はぁ?俺の女が、俺以外の男に引っかかるわけねーだろ?」 「えっ!?」 「流川とはなんかあったにしても、名前は俺しか見えてねーから大丈夫だっつの」 「〜〜〜!!!」 グっと肩を寄せられ、ニヤリと笑った洋平の台詞に女子たちは赤面した。もちろん、私だって。 「つーわけで、コイツ返してもらっから」 「きゃー!洋平あいしてるー!」 「知ってんよ」 ほら見たか。私と洋平の仲は誰がなんといおうと固く結ばれてるんだから。ぎゅっと洋平の手に抱きつき、私たちは体育館を後にした。 「……胸当たってる」 「当ててる!」 私たちの愛はそう簡単に引き離せない。 |