フジマセンパイ



 私と流川くんの噂はあっという間に消えた。
 きっと流川楓という人物に女の影があることを学校中に広めたくないのだろうと推測する。実際私の身も心も洋平オンリーなので嘘ではない。確かに流川くんとは少し他より仲がいいのかなとは思うけど、それまでだ。そう、それまで。
 そんなことはさておき、着々と勝ち進んでいた湘北高校は遂に大きな壁へとぶち当たる。というのも、次の対戦相手は今年のシード校である翔陽高校だからだ。私はよく知らないので、強い高校なんだろうなぁ…と軽率に思うだけだが、選手たちはそうもいかないだろう。なにせ、去年のインターハイ出場校と戦うということは、決勝戦を迎えるようなものなのだから。そして花道も花道で、毎試合ファウルだらけでまだ一度も最後まで試合に残れたことがなく、悩んでいるようだった。

「やっほー!来たよ!」

 そしてそして、私は何故かその翔陽高校へと来ている。というのも、中学の頃仲の良かった女友達のみっちゃんが翔陽高校に通っていて、丁度今日は翔陽高校毎年恒例の春の文化祭が開催だとか。で、せっかくなのでと入場チケットを貰った私は遊びに来ていた。

「わー名前久しぶりー!水戸くんとはうまくいってる?」
「当たり前!私たちの愛はそう簡単には廃れない!」
「あはは、相変わらずね本当」

 みっちゃんも相変わらず明るさ満天でこっちまで元気になる。本当は洋平も一緒にと思ったんだけど、生憎のバイトで泣く泣く一人で参加。花道はもちろんバスケだし、その他たちも打ちに行くとか言ってたし、私は寂しい女よ。

「私前半が休憩だから、いろいろ案内するね!」
「うんありがとう!よろしくおねがいしまっす!」

 まあ、たまにはこうやって女子だけで遊ぶってのもいいものよね。みっちゃんに連れられて、私は翔陽高校へと足を踏み入れた。

「そういえば今度バスケの対戦相手、翔陽高校なんだよー」
「え、そうなの?うち結構強豪校だから、大変だよ〜」
「らしいね、でもうちだって花道が頑張ってるし、結構強いんだから!」
「聞いたわよ、桜木くんバスケ始めたんだってね?まさかあの桜木くんがスポーツするなんて思ってもみなかったわ」

 みっちゃんは花道たちとは直接仲が良いわけではないけど、私の会話の内容が大体アイツ等のことなので結構理解してくれている。だから話の内容も自然と花道たちのことになり、私はなんだかそれが嬉しく感じた。あまりこうやって人にアイツ等の話をすることなんてないから。

「みっちゃんも応援行くの?」
「うん!藤真先輩の応援にね!」
「ふじませんぱい?」
「翔陽バスケ部のキャプテンでね、それがすんごいイケメンなのよ!ファンクラブもあるのよ!」
「へぇー、どこも似たようなモンなのね…」

 ひとチームに一人、みたいな感じで人気者はやっぱりいるんだなぁと思った。そのフジマセンパイって人がどんな人なのか分からないけど、強豪校のキャプテンでイケメンとあればそりゃ人気出るだろうなぁ。


▼△



 みっちゃんの案内で色々と翔陽高校の文化祭を楽しんでいるところで、タイムリミットとなってしまった。申し訳なさそうにするみっちゃんに気にしないでと笑顔で見送り、私はポツンと見知らぬ教室の前で一人となる。このまま帰ろうかとも思ったけど、せっかくなのでもう少し文化祭を楽しむことにした。他にも行ってない店とか色々あるし、他校に堂々と入れるのなんて中々ないんだから楽しまなくては。

「とは思ったものの…………、ここはどこでしょう」

 迷子になってしまった。
 まさかの、迷子。どうして、迷子。あんなに人で賑わっていたというのに、ここはどこ?見た所普通の教室と廊下だけど、人っこ一人いない。どうして?文化祭もう終わっちゃった?いやまさかそんなわけないでしょうよ。とりあえず誰か見つけて、助けてもらおう。

「………まあ、誰もいないんだけど」

 そうなんだよね、第一村人まったく見つからないんですけど。と、どうしようかと路頭に迷っていると、いつの間にやら体育館らしき場所へと到着した。けれどその体育館にもひとりとしておらず、なんだか妙だった。だって体育館といえば文化祭であれば一番賑わっている場所だ。だというのに誰もいないってことは…もしや、異世界に迷い込んでしまったのか!?…なんて、漫画の読みすぎだ。

「あ、バスケットボールあるー」

 コロンと体育館に転がっていた1つのバスケットボールを見つけた私は、引き寄せられるようにそのボールへと近づいていった。前までならバスケットボールなんてただのボールの1つでしかなかったけど、今ではとても身近に感じる。それもこれも、あの赤頭のせいだ。

「えーっと、こう持つんだっけ」

 いつも花道がやっているように、私も真似てボールを上にかざした。確か手はボールにべったりつけるのではなく、指でボールを支えるイメージで持って、肘は開すぎないで内側に収める。膝を曲げて重心を安定させて、そしてゴールに狙いを定めて…手首をスナップして勢い良く投げるっ!

シュッ

 放物線を描いたそのボールは…スポンっと、ゴールに綺麗に落ちていった。

「え、うそ、入った!わーい!」

 まさかの初シュートが初ゴールになった私は、嬉しさのあまり一人で大はしゃぎする。いやだって、今の見た?天才的なフォーム!花道じゃないけど、自分を天才だと言いたくなるよ。私の声は、誰もいない体育館にはそれはもう十分に広がった。

「ナイスシュート」

 その時――突然私の声とは別の、男性の声が体育館に響いた。誰もいないと思っていたのでその声に私は氷つき、すぐに声のする方へ顔をバッと向けた。
 体育館の、男子トイレのドアの前にその人は居た。

「今のフォーム、なかなかだったな」
「えっ…あっ……ありがとう、ございます?」
「アンタ、どこから入ってきたんだ?文化祭の一般客?ここは第2体育館で、今日は立入禁止のはずだぜ」
「す、すいません!迷っちゃって辿り着いたらここで…」
「なんだ迷子か、ていうかよくここに迷い込めたな」

 逆にすごいな。
 なんて言ってこちらへと近寄ってくる彼は、どうやらここの生徒らしい。翔陽の制服着てるし。それによく見るとかなり整った顔をしている人だ。綺麗…って言うのが正しいのかな。
 というか、ここは別の体育館で第1体育館からはかなり離れているのだとか。どうやってここまで来たのかと問われても、私もサッパリだ。

「それにしてもアンタ、バスケ経験者?」
「えっ、いや、違いますっ」
「だろうな」
「え?」
「だって、さっきのアンタのシュート、ありゃ男子のやり方だ」
「え、そうなんですか?ていうか、男子と女子で違うんだ…」

 その事実にただただ驚いていると、その男子生徒は軽くだが説明してくれた。なんでも、女子はシュートするときに掌が跳ね除けるように外側に向くらしく、それは男女の力の差が理由となっているらしい。そうやって飛ばすことで少ない力で遠く飛ばす事ができるのだとか。

「だから、さっきシュート決めたときに結構驚いたぜ。ちっさいのに意外とパワーあるんだなアンタ」
「あー…あはは、まあ…」

 そう笑って言われて、私は返す言葉なく苦笑いだった。なにせ、昔はよく喧嘩していて今もたまに絡まれると戦ったりしてます…だなんて言えない。まあ喧嘩してたのは小学生の頃だし、男に比べると力は弱い…。――と思ったけど、私の言う比べる男が花道や洋平だと気づいて、もしかしたら一般的な男子より私強いのでは?と今まさにハッとした。

「幼馴染が最近バスケはじめて、それでよく応援行ったりするんでマネしてみたんです。っていうか、勝手に使ってすいません!」
「ああ気にすんな、別にいいよ。ていうか迷子なんだろ?校舎まで送ってやるよ」
「ええ!い、いいんですか!?」
「ああ、ここに辿り着くくらいだ、言葉で言ってもまた迷いそうだしな」
「それは……否定できない」

 なんて親切な方なんだろう。私はお言葉に甘えて、この彼に文化祭の会場まで道案内してもらうことにした。そういえばバスケに詳しいみたいだけど、もしかしてバスケ部の方なのだろうか?

「そういや名前言ってなかったな、俺は3年の藤真健司」
「藤真先輩ですね!あ、私は1年の苗字名前って言います!」

 藤真先輩は軽くにっこり笑い、こっちだと言って前を歩き出した。見知らぬ学校で誰もいなくて不安だったけど、いい人に出会えて本当によかった。あれ、でも…

”フジマセンパイ“って、どこかで…?






 

hanamichi


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